アンドリューW.K.、鼻血ジャケの衝撃から丸10年

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あの鼻血写真がアルバム・カヴァーにあしらわれた『アイ・ゲット・ウェット~パーティー・一直線!』で、アンドリューW.K.が音楽ファンの前に登場してから10年と少々。もちろんその視覚的インパクトだけではなく、掟破りともいうべき轟音ポップ・チューンの豪快な魅力や、音楽的資質の高さ、そしてあの兄貴キャラが長きにわたり支持を集めてきたわけだが、その彼が去る5月下旬、同作品のリリース10周年を記念してのジャパン・ツアーを行なった。相変わらずパワー全開のそのステージは、観る者すべてに対して、無条件に活力を与えるもの。しかし同時に、ステージ上のアンドリューと仲間たちにエネルギーを吸い取られるようなところもあり、僕自身、ツアー初日となった5月23日の東京・恵比寿リキッドルーム公演の帰路では、“爽快でありつつも、ヘトヘト”というありさまだった。そしてこのインタビューは、その2日前に行なわれたもの。10年前の秘話から現状、そして“次”に関することまで、彼は力いっぱい喋りまくってくれた。

◆アンドリューW.K.画像

――『アイ・ゲット・ウェット』の発売10周年を記念しての今回のツアー。来日前には欧米各地を巡演してきたそうですけど、手応えはどんな感じでしたか?

アンドリューW.K.:過去最大にして最高のツアーだった。正直、そこまでの好反応が得られることになるとは期待してなかったんだ。かといって最悪の状況を想定してたわけでもないけど(笑)。ただ、少なくともイギリスでの反響には目を見張るものがあったし、アメリカでもいくつかの都市ではすごいことになった。というのも、いわゆるヘッドライナーとしてのワールド・ツアーというのは2004年とか2005年あたりからやっていなかったし、土地によっては2003年以来のライヴだったりもしたし。そんなに長いこと時間が経っているなんて、自覚してなかったんだ。だけど今は、ツアーをすること自体が楽しいんだってことを思い出したような感覚だね。まるで蝶がさなぎに戻って、さらに強力な蝶になって舞い出てきたみたいな感じというか。

――わかるようなわからないような比喩ですけど(笑)、久々のワールド・ツアーがこうしたアニバーサリー的なものになるというのは意外でもありました。

アンドリューW.K.:まあね。何人かに同じことを言われたよ。だけどこのアルバムは全体を通じてプレイするには好都合な作品だし、そういうライヴをやるというコンセプト自体がなかなかいいと思ってさ。実はね、半年ほど前にマネージャーに指摘されたんだ。あのアルバムがアメリカで発売されて、ちょうど10年になるってことをね。日本では11年になるのかもしれないけど…とりあえず細かいことは抜きにして(笑)。

――正確には北米でのリリースが2002年3月で、日本がその少し前の同年2月。ただしイギリスではひと足早く2001年のうちに発売されていたようです。

アンドリューW.K.:そうなんだ? とにかく10周年というのは悪くないと思ったし、同時に、久々にワールド・ツアーをやろうってときに、過去にやったことのないタイプのショウをやるのはいいんじゃないか、と。正直、2005年から2010年にかけては複雑な時期だった。個人的にもビジネス的にもね。そこから脱して、またエキサイティングな狂気の沙汰に戻れるってことになったとき、その喜びを体現することと10周年を祝うことは、完全に合致するんじゃないかと思えたし。なにしろこのアルバムは、プレイしてて楽しいんだ。しかも曲順通りにやるのがね。アルバム1枚が、まるで1曲みたいに感じられるとでも言ったらいいのかな。だから、まあ、お祝いの曲をお祝いのためにやるライヴというか。それが楽しくないはずないだろ?

――ええ。とはいえ実のところ、あなた自身が10年前のアルバムに触れる機会自体、減ってきていたはずだと思うんです。改めて毎晩のようにあの作品の曲たちを演奏する日々のなかで再発見できたことというのは何かありますか?

アンドリューW.K.:何かが当時と違って感じられるということもないし、俺自身が違うパフォーマンスをするってわけでもない。この音楽は、いわば俺のロゴみたいなもんだと思う。マクドナルドだって新メニューを考案したり新しいスローガンで宣伝したりするけど、ロゴを変えたりはしないだろ? あのロゴがそこにあるだけで、みんな、そこに何を期待できるかがわかるんだ。もちろん俺の音楽だって、ある種の変化は経てきているだろうとは思う。だけどあの曲たちを演奏することは、昔も今も単純に楽しいことでしかないし、俺にとっては“過去を振り返る”みたいな感覚じゃないんだ。しかもなんか、過去10年間の冒険をこうして人前で披露できることで、独特の高揚感が得られるというか。まあ、確かになかにはいるよ。「なんで10年前のアルバム・カヴァーの写真をいまだにTシャツやステッカーのデザインに使ってるわけ?」みたいなこと言ってくるやつも。

――ああ、確かにそういう声もあるでしょうね。

アンドリューW.K.:だけどさ、俺にとってはあの写真自体が、それこそローリング・ストーンズにとっての舌マークみたいなものなんだ。あれ自体が俺たちが何を持ってるか、俺たちがステージ上で何をやるかを示してるわけだよ。俺は、自分のままであろうとすることを諦めてないんだ。アーティストのなかには最新曲をやることにこだわる人たちもいるだろうし、過去の特定の曲をやらない人たちもいる。人それぞれにやり方がある。それが、そのアーティスト自身にとっての方法論というか方程式というか。で、俺はこういうやり方が好きだし、しかも今のほうがずっと音楽を楽しめている。そのうえこんなにも好反応を得られるとくれば、そういった現実そのものに自分自身が勇気づけられることにもなるしね。

――それは素敵なことですね。

アンドリューW.K.:うん。だからみんなにはすごく感謝してるし、この現実は自分にとっても驚きなんだ。個人的にも、バンドとしてもね。あのアルバム発表から10年を経て、今になってすべてを理解できたのかなという気もする。

――写真自体がロゴ、という言葉はすごく頷けます。僕自身も実際、10年ちょっと前に“ジャケ買い”したくちなんですけど。

アンドリューW.K.:わあ、それは嬉しいな。

――あのジャケット写真について、今でも後悔はないんですか?

アンドリューW.K.:まったくないね。いまだに俺自身が同じような服で同じ見てくれをしてるのと同じ理由でね。俺は常に俺。いつでもだいたい同じなんだ(笑)。

――ただ、ああいう写真は悪趣味だと言われればそれまでだろうし、それが理由であの作品自体を聴こうとしない人もいたはずだと思うんですよ。

アンドリューW.K.:だろうね。ああいうのが好きじゃない人がいることはわかっている。でも俺は、やりたいと思えばやる。たぶん人間が鼻血を垂れ流すのは、迂闊に鼻をほじくり過ぎたときだと思うんだ(笑)。おそらくあの写真は、暴力的とか野蛮というよりも、そういったアホなイメージで捉えられてるんじゃないかと思う。でもまあ、標識というかネオンサインというか、あのアルバムが置いてある場所を表示するためのものとしては有効だったはずだと思う。鼻血の男を探せばこの音と出会える、みたいな(笑)。

――今さらですけど、なんでああいう写真を撮りたいと思ったんです?

アンドリューW.K.:いい質問だな。というのも当時から現在に至るまで、いまだに“何故か?”という質問に対する正解というのが俺のなかにはないんだ。理由を並べていくとすれば、まず第一に、強烈であるってこと。そして二番目には、誰も過去に使ったことのないイメージだってことがあるはずだ。でも、結果的にどうしてあの写真になったかというのは俺にもわからないというか、説明しようがない。だけど、なんかミステリアスでいいじゃん(笑)。インスピレーションとしか言いようがないんだよ。

――アートワークについてもうひとつだけ訊かせてください。あの写真を撮るために自分からわざと鼻をぶつけて出血させ、それでも足りなかったから豚の血を使ったというのは本当の話なんですか?

アンドリューW.K.:うん(即答/笑)。まあ、今の俺に言えるのは、あれは痛みを伴う経験だったということ(笑)。ここ4年ほどは、その件について話すことは止めてたんだ。子供たちが真似をすると困るし、親たちがうるさいからね。ちなみに俺自身はあれ以降、ステージ上で鼻血を流したことが3回ある。他のメンバーに頭をぶつけたりとかしてね。ただ、思いっきりハイキックをしたときに、自分の膝で鼻を直撃した瞬間がいちばん痛かったな(笑)。でもまあ、1枚の最高の写真のために伴う苦痛なんて一瞬のものだし、たいしたことないさ。

――余談ながら僕には高校時代、体育の授業で柔道の乱取り中に鼻を蹴られて大量出血した経験があります。

アンドリューW.K.:そうそう! 顔面ってちょっとしたことで大流血するんだ。脚とか腕に比べてね。血は、流すよりも、できるだけ体内に留めておいたほうがいい(笑)。

――というわけで、血の話はここまで(笑)。この10年、あなたの音楽自体はどんなふうに進化を遂げてきたと考えていますか?

アンドリューW.K.:おお、すごく大事な質問(笑)。まず、楽器演奏の面でいえば間違いなくベターなプレイヤーに成長できていると思う。あと、日本側からさまざまなプロジェクトを持ち掛けてもらえたことについても感謝してるんだ。一連のカヴァー企画とかね。ああいったチャレンジの機会を与えてもらえたことの意味も大きかった。その曲を自分なりに表現しようって考えたとき、頭のなかに浮かぶものを具現化しようとしながらプレイする。そうやってカヴァー曲を形にしていく作業は、俺にとって挑戦でもあったし、そこで得られた経験自体が報酬だったと思っているんだ。俺自身、未知の表現をすることについて勇気も持てるようになったしね。だから実際、どういった進化を遂げてきたかを説明するのは難しいけど、音楽が自分自身の望む形に近付いてきたことは確かだと思うな。たとえば成長期の子供って、ちょっと大き過ぎるズボンや靴を履かされるじゃないか。それでだんだんと身体が大きくなっていって、それが結果的にぴったりのサイズになっていく。そういうことだったんじゃないかと思うんだ。その都度、自分のサイズに合ったものに着替えていくんじゃなくて、自分が着たいものが似合うようになってきたというか。まあ実際にこうして着てるものについては、昔も今も変わりゃしないけど(笑)。

――ところで、あなたとは切り離せない関係にある言葉のひとつに“パーティー”というのがありますよね?

アンドリューW.K.:その通り! 嬉しい意見だね(笑)。

――で、あなた自身、最近ではニューヨークでクラブ経営に乗り出したりもしてるそうじゃないですか。パーティーが本当に、仕事になってきているというか。

アンドリューW.K.:正確に言うと、設立者の1人ということなんだけどね。サントス・パーティー・ハウス(http://www.santospartyhouse.com/)っていう、とてもスペシャルなナイト・クラブで、同時にコンサート・ホールでもある。新しく作られたクラブなんだよ。それこそ煉瓦のひとつから自分たちで選んでさ。ニューヨークでは古いクラブを改装して違う名前でリニューアルしたりするケースが多いんだけど、これはマンハッタンのダウンタウンでは20年ぶりにオープンした真新しいクラブなんだ。

――聞いたことのない名前のクラブだなと思って出かけてみると、「ああ、以前は××だった場所か」みたいなことが、確かによくありますよね。

アンドリューW.K.:そうそう。俺にもそういう経験が多々あって。そうやって伝説的な歴史あるクラブを受け継いでいくのも素晴らしいことだと思うよ。だけど俺とパートナーは、まったく新しい店を始めてみたかった。実際、大変だったよ。あの街で完全に新しいクラブを始めるのはすごく骨の折れることでね。街が、俺たちをテストするわけなんだ。ちゃんと長年にわたって経営していくだけの力があるかどうかをね。だから、店をオープンさせるためだけに3年間もかかった。でも、こうして実際に始められたことについては誇りに思ってるし、いつか東京にも同じようにオープンできたらいいなと思っている。ニューヨーク以外のどこかで開店するとなれば、やっぱり俺にとって東京はその最初の候補地だ!

――いつかそれが実現するのを楽しみにしています。そしてもうひとつ待ち遠しいのが、ニュー・アルバムなんですが。

アンドリューW.K.:そう言ってもらえて嬉しいよ。しばらく制作を続けてきたんだけど、ちょっと今は長めのブレイクに入っている感じで。俺ってさ、“5日間働いて、他の2日は違うことをする”というのが苦手なんだ。一度何かを始めたら、ずっとそれに集中したいタイプ。特にレコーディングのときは、他のことは何もしたくなくなる。忙しいのは大歓迎だけど、今回のツアーみたいな楽しい話が持ち上がれば、俺は「NO」とは言えない男だし(笑)。だけどこの夏は、しっかりと時間を確保して、新しいロックンロール・パーティー・アルバムを作るのには最適なタイミングだと思う。なにしろこのツアーで得たインスピレーションをそこに反映できるわけだからね。それでアルバムが完成したなら、またツアーをやればいい。その繰り返しさ。だから俺自身、次のアルバムを作ること自体について、これまで以上にエキサイトしてるし、それをみんなの手元に届けられる日が来るのを楽しみにしてるよ。だからみんなも楽しみにしてて欲しい。ドウモアリガトウ!

文/写真:増田勇一
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