【BARKS編集部レビュー】HE-400は、HiFiMANスパイラルへの第一歩

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HiFiMANと聞けば、主力モデルであるハイエンド・デジタルオーディオプレイヤーを思い浮かべる人が多いと思われるが、一方でHiFiMANは、平面駆動型のヘッドホンを牽引する世界有数のメーカーとして、目利き耳利きの凄腕連中から高い評価を受けているブランドでもある。

◆HiFiMAN HE-400画像

▲HE-400、推奨販売価格¥39,900(税込)。HiFiMANファミリーの中でも、このHE-400だけに与えられたメタリック・ダークブルー・カラーが大きな特徴。カラーバリエーションはなく、これ一色のみ。深みと艶やかさが絶妙にバランスされたいい色だ。

▲ケーブル端子は非常に頑強で、付属ケーブルの脱着もしっかりした構造のため不安感は一切なし。ケーブルも非常に高品質だ。ちなみにOFC(無酸素銅)ケーブルは日本製。

▲各可動部も遊びが非常に少なく、かっちりと位置が決まると全くブレないので、心地よい使用感がいつまでも継続する。このあたりの質実剛健さは、アメリカ生まれ&中国製造というより、どちらかというとジャーマンなイメージ。

▲アームとヘッドバンドの接続部に記されたモデル名と、ハウジングの色意外は、他モデルと全く同じルックスとなっている。

▲開放型のためハウジング背面は金属製のパンチグリルとなっているが、ここを掌で塞ぐように覆うとサウンドががらりと変化してしまう。音場を形成する重要な役目を果たしているようだ。

▲これが平面駆動型ドライバー。マグネット、振動板、ダンパーといったパーツが通常のダイナミック・ドライバーとは全く異なる構造で配置されている。

▲左がパッケージ。高品質なケーブル、標準プラグ・アダプター、保存袋、保証書が付属する。

素晴らしいサウンドを叩き出すにもかかわらず、HiFiMANのヘッドホンが市場を席巻しないのには明確な理由がある。いかんせん高額なのだ。長男モデルHE-6は119,800円、次男坊HE500でも89,900円と、おいそれと手の出る価格ではない。しかも能率が低く、存分に威力を発揮させるにはパワフルなヘッドホンアンプが必要との噂もまことしやかに流れ、我々一般庶民からはさらに敷居の高いハイエンド・ブランドとして崇められていた。「平面駆動型って憧れるぅ」と羨望の眼差しをただただ送るだけという残念な構図のまま、時だけが流れてきたという感じであろうか。

そんな状況にありながらも、やはり技術革新は我々にうれしいサプライズを提供してくれる。新製品HE-400が、39900円という魅惑の価格をひっさげて2012年6月1日に颯爽と登場したのだ。これなら頑張れば何とか射程内、私も晴れて平面駆動型ヘッドホン・オーナーだと、気分上々↑↑(C)mihimaru GTというわけだ。

音質の面で理想的構造とされながらも、製造原価の大きさから高額にならざるを得ない宿命の平面駆動型だが、HE-400は中国での製造技術革新により製造コストが大幅に圧縮できたことによる低価格化の成功と聞く。つまりコスト削減=サウンド品質低下を伴っての価格抑制ではなく、2012年の新基準として誕生したのが新星HE-400というわけだ。

早速手に入れ使い始めてかれこれ2週間が過ぎ、噂に違わぬ実力をもつHE-400は、使えば使うほどじわじわとサウンドに磨きがかかり、共に過ごす時間のなかでじっくりと熟成していくようなかわいらしいヘッドホンだった。音量を上げても重低音から超広域まできっちりと制動が効いており、無駄なだぶつきがなくタイトさが気持ちいい。メタルにも最高の相性だが、ストイックでバキバキの筋肉質なサウンドかと言えばそうではなく、基本は柔らかくて無駄な刺激は発しない。一方で金物の響きは極上で、デヴィッド・ゲッタなどを聞くと煌めく音の粒は100万ドルの夜景のごとし。この音のキメの細かさと透明度の高さは、なかなか経験できない極上の音空間を体感させてくれる。

とはいえ第一印象は非常に地味で、主張の薄い、よく言えば奥ゆかしい悪く言えばつまらない音と感じ、「うわ、やっちまったか」と思ったのも事実。当初から見事なフラットな特性を聞かせてくれたが、どうにもうつむき気味な覇気のない音で、籠ってこそいないものの元気のない暗い音に聞こえた。しばらくの間はそのままおとなしい子ね…というイメージだったが、引っ込み思案の子が少しずつ打ち溶けていくように、少しずつ高域が、中域が、低域が開発され、じわじわと熱を帯びた音に変化していく様子がたまらなく楽しいのだ。

制動が心地よく決まり、しっかりとしたタイトな鳴りになるまでは、それ相応の聞き込みが必要と思われるため、店頭試聴の判断・評価だけではHE-400の実力はほとんど伝わらないのではないか。

また、使い込んだことで気付いた点もある。側圧がそれなりに強く耳へのホールド感が強いので、音楽への集中には好都合ではあるものの、日常の生活で長時間つけられるような気軽なモデルではないようだ。いかんせん重く、HE-400は実測値475gもの重量があるのだ。

ハウジングは大型で耳介には当たらず、耳の周りをすっぽりと覆う形状のため、痛みや不快感を生じることはない。クッションも適度な反発力と非常に柔らかいレザーが肌に心地よく、その質感の上質さは満足度の高いものだ。ただし、非常にしっかりとした側圧でまるで密閉型のような密度で側頭に密着するために「付けているのを忘れるような…」という装着感とは真逆で、「さあ、音楽を聴きますよ、準備はいいですか?気合は入っていますか?」と問われているかの本気感が満載なのだ。これが密閉型であればかなりの遮音性能がありそうな付け心地だが、いかんせん背面は完全なるオープンバック構造なので、実際のところ音はダダ漏れである。

当然、この執拗な側圧は、重量のあるハウジングをしっかりと安定させるためであり、少しでも不快感を回避しようとするのが上質なクッション構造なのだろう。そのおかげもあり、結果として基本的な装着感は悪くない。しかしそうまでしてこだわるこの重厚なハウジングにこそ、実はHiFiMANのサウンドの秘密が隠されているのではないかと思わせる節もある。

先日紹介したGRADOと同様に、HiFiMANのヘッドホンもハウジングを軽く手で覆うだけで音質を豹変させてしまうデリケートさを抱えている。手をかざしただけで水中に潜ったかのようなトーン変化と広がりの喪失が起きることを考えると、このナチュラルなサウンドには、極めて緻密な設計によるハウジング構造の妙があるのは間違いない。平面駆動型のサウンドの素直さに感銘を受けるその前提には、ハウジングによる絶妙なサウンドチューニングが敷かれていたわけで、HiFiMANサウンドの秘訣とハイエンドブランドの神髄はこんなところにも潜んでいたというわけだ。

HiFiMANには現在、HE-6/HE-500/HE-5LE/HE-400/HE-300と全5モデルがあるが、119,800円から29,900円という4倍もの価格差があるにもかかわらず、ハウジングはすべて共通のものが使用されていることがわかった。カラーリングこそ違えどモデルの違いはドライバーのみで、ヘッドバンドからコネクターまで他の要素は全て全ラインナップ共通という、実に潔いシンプルな構成になっているのである。

▲上からHE-6、HE-500、HE-5LE、HE-400、HE-300。119,800円から29,900円まで価格差は大きいが、ドライバー以外の基本設計はすべて共通。

ドライバーの違いだけでこれだけの価格差が出るのか?と逆に驚きを隠せないが、平面駆動型の場合、出てくるサウンド品質と価格(モデル)はリニアに比例するというのが代理店の見解だ。その性能差はドライバーに使用されるレアメタル素材に依存するところが大きく、このレアメタルの原価がそのまま販売価格を突き上げてしまうのだという。同時にHiFiMANの場合は、価格が高価になるにつれ、能率は悪くなり音量が取れにくくなる傾向にある。音質を向上させる為に採用した技術が製造コストを急激に引き上げ、さらに能率を悪くするという皮肉な結果となり、一般コンシューマをさらに遠ざけ熱狂的なマニアを求引する構図を生み出しているのだ。

だからこそ、普通のオーディオプレイヤーで十分に鳴らすことができるロー・インピーダンス&高能率仕様で登場したHE-400は、新たなファン層を広い裾野から巻き込んでいく潜在パワーにみなぎる、平面駆動型ヘッドホンの理想的なエントリーモデルとして輝いている。

価格的にはずいぶんと高額な入門機HE-400だが、要注意点は「このモデルでこの音なのならば、上位モデルはどれだけすごい音が出るのだろう…」と、次なる煩悩を早々に湧き上がらせてしまうところだ。平面駆動型の神髄を見せるハイエンドモデルまで手を出せるかどうかは、予算という現実問題が立ちはだかるけれど、素晴らしきオーディオ桃源郷がその先に広がっていることを容易に匂わしてくれる罪なモデルがHE-400だ。

そしてまた、HE-300という29,900円の末っ子モデルが、気になって気になって仕方なくなったのもHE-400を手にした副作用だ。

HE-300はHiFiMANの最安価モデルで、いわゆる普通のダイナミック・ドライバーを搭載したモデルなのだが、「平面駆動型じゃなければHiFiMANの意味がない」と、これまでは全く興味を持てなかったモデルだった。でもHiFiMANのハウジングの素晴らしさを知ってしまった今は、「ここにダイナミック・ドライバーが搭載されたら、それはそれでさぞかしいい音が出るに違いない!」と、妄想アンテナがバリ3で立ちまくっている。それがすでにショップで手招きしているんだから、もう辛抱たまらん。

HE-400を手にすると、きっと多くのヘッドホン・ジャンキーがHE-500、HE-5LE、HE-6…、そしてHE-300に対しても猛烈な所有欲求を刺激されることだろう。新製品HE-400は、中国の最新技術をまとった「HiFiMANスパイラル魔境の入り口」だったというのが、私の率直な感想だ。わたしゃ、次はHE-300へダイブします。ヤバイ連中でっせ、こいつらは。

text by BARKS編集長 烏丸

●HiFiMAN HM-400
標準価格:オープン ※推奨販売価格¥39,900(税込)
・ドライバー:Planar Magnetic driver(平面駆動型磁気ドライバー)
・周波数特性:20Hz~35KHz
・能率:92.5dB 1mW未満
・インピーダンス:35Ω
・ハウジング:プラスティック(メタリック・ダークブルー)
・イヤーパッド:人工レザー仕上げ(ブラック)※取り外し、交換可能

◆HiFiMAN HM-400オフィシャルサイト

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(音茶楽2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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