【BARKS編集部レビュー】パイオニアの本気、SE-MJ591に見るポータブル用ヘッドホンの着地点

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特殊フィルムやアルミ合金製キャップといった、スピーカーユニットへの新素材投入を高らかに謳うヘッドホン好きをひきつける宣伝文句もさることながら、SE-MJ591の魅力は、何よりパイオニアが底力を見せた本気印丸出しの設計思想にある。「ポータブル用に徹底最適化されたハイエンドモデル」という、待ってましたのコンセプトなのだ。

◆パイオニアSE-MJ591画像

▲パイオニアSE-MJ591。ケーブルの長さは1.2mでちょうど良い使いやすさ。ゴムっぽい素材だけど、癖がつきにくく扱いやすい。

▲軽量で堅強。手にとれば高い質感がわかる。手抜きを感じさせない作り込みがうれしい。

▲折りたたんだ状態。この形ですっぽり入る型抜きされた専用キャリングケースが付属する。

▲ケーブルは片出しでL(左)側に接続する。R(右)のハンガー部分につけられた赤いアクセントは左右判別の一印。

モバイルをテーマにハイエンド・ヘッドホンを作ろうとすると、設計上妥協できない点があちらこちらでコンフリクトを起こし出口が見えなくなる…そんな難しさをうんざりするほど抱えたことだろう。堅牢性と軽量化の両立ひとつを見ても、金属とプラスチックのハイブリッド構造、肉抜きされたステンレス素材のスライダーなど、細かいところで試行錯誤の経過が見て取れる(※註:ハンガー部は軽量化と堅牢性を目的にメッキ処理をした樹脂素材を使用。スライダー部はステンレス素材、折りたたみ機構のヒンジ部は金属素材。2012年7月18日追記)。丈夫で軽い素材を起用すれば即解決だろうが、それは販売価格の高騰に直結してしまう。ハイエンドと言えど、モバイル用途というカテゴリー特化モデルでは価格も重要な評価ファクターであろうから、コストをかけずしてハイスペックを獲得しなくてはいけない無理難題が課せられる。

丈夫で軽くても可搬性が悪ければポータブル用としてはイマイチ。その点SE-MJ591は、ハウジング部分がヘッドバンド内部へすっぽりと折りたため非常にコンパクトになる。こういった機構は一方で耐久性や可動部分の劣化のリスクを背負い込むわけで、ここでもコストとの熾烈な闘いが繰り広げられるわけだ。

重箱の隅をつつくようにSE-MJ591を見ても、出来上がりには一切の隙がない。それこそ使い始めて未だ1ヵ月に満たないので耐久性への評価はできないのだけど、この高い完成度と全くブレのない極上の使い心地を見る限り、まず間違いなく堅牢性もトップクラスだろう。不安感はまるでなく、不具合が発生する気配も皆無。とにかく丈夫で手荒に扱ってもびくともしないのだ。ケーブルも使いやすい片出し仕様を採用しており、もちろん着脱も可能なので、断線トラブルからも解放されている。そして本体は実測値で170g、ケーブルを入れても180gに満たない軽さで、ストレスを与えない。使わないときに首にかけた状態では、ハウジングが回転しヘッドパッドが胸に触れる形でしっぽりと納まってくれる。ヘッドホンをおしゃれアイテムとして持ち出すつもりはないけれど、耳から外した時も無理なく首に掛けっぱなしでいられるのは、丁寧な設計思想あってのことだ。

そして、もうひとつ。高級ヘッドホンながらも、iPhoneやiPodなどごく普通のオーディオプレイヤーにそのままつなげるだけでOKという、気軽なポータビリティーが実現している点も特筆すべき点だ。要はポータブルアンプなどの追加機材を必要とせず、そのままで音量も音質も必要十分に確保できる設計となっている。

さて、肝心のサウンドだが、現代的なトレンドに乗ったヘッドホン・サウンドではないので、市場での評価は極端に振れる気がする。迫力の低域や突き抜けるような高域、あるいは一聴してわかる刺激的なドンシャリサウンドを放つモデルが目立つ中で、中域の密度に魅力を持つ言わば暑苦しい音が、どのように評価されるか興味深いところだ。

▲希望小売価格3万3000円(税込)。付属品はキャリングケースとケーブル。

▲左からパイオニアSE-MJ591、TAKSTAR ML 650、Fischer Audio OLDSKOOL 33 1/3、Klipsch Image ONE。最も安価なTAKSTAR ML 650はさすがにチープなサウンドだが、モバイル環境で使うには十分満足できるもの。高域の抜けは良いが低域不足が目立つ。Fischer Audio OLDSKOOL 33 1/3もサウンドの傾向は似ており、Fischer Audioらしい切れ味の鋭い高域表現とタイトで引き締まったローが小気味良い。それに比べるとKlipsch Image ONEは、定位もはっきりしボトムをしっかりと描いてくれるので、音楽そのものの表現力がぐんと向上したイメージだ。そしてSE-MJ591には、さらなるクリアさとキメの細やかさをアップさせた品質の高さがある。Klipschよりも低域の量は控えめだが、中域の張り出し方は群を抜いており、ボーカル域の表現力は他の追従を許さない。アルミ素材、ステンレス素材をふんだんに使った堅牢性は、圧倒的な完成度を持つ。

好意的に表現すれば、濃密で安定したサウンドで、出過ぎた演出は全くなく、ヒステリックさは皆無だ。中域が強いけれど、音楽の核をしっかりと前面に押し出すという意味では、無個性なほどに中庸でニュートラルなバランスともいえる。むしろその佇まいこそがもはや個性的なのだけど。中庸なバランスというのは往々にして無個性と評価されがちであるし、分かりやすいキャラでもないので、第一印象や偏見、風評がそのまままかり通るという宿命を背負いがちだ。

中域の充実度が特筆だと思うが、低音の質はいい。破綻しない常識的なバランスを高次元に達成しているという点で考えれば、カナル型イヤホン群におけるSHURE SE535の立ち位置とよく似ていると思う。しっかり中身が詰まった音で、うるち米ではなくもち米のような重さのあるサウンドは、刺激的なトーンではないけれど、安心して日常使いできる安定感がある。定価3.3万円は高額だが、優れたコストパフォーマンスを感じさせるフラッグシップ機という点もSE535と共通している。

とはいえ、こちらはイヤホンではなくあくまでヘッドホン。手厳しい評価をすれば、切れ味は弱く抜け切らない印象を持つ人もいるだろう。これは普段どんなモデルを愛用し、どういう傾向のサウンドを求めているかによるところだけれど、一般的に安定した実存感のある音よりも、キャッチーで刺激的なサウンドに好印象を受けがちなので、他のモデルと比較し「爽快感の欠如」「周波数特性の狭さ」「音場の狭さ」を強く受け取ってしまいがちな傾向にあると思う。全帯域がギュッと凝縮され、ひとつにまとまった高解像度のサウンドが耳の近くで凌ぎあうという濃い鳴り方をするので、かなり暑苦しい音に感じるはずだ。5分もすれば、脳ミソの方が最適化されて、理想的なバランスに落ち着くんだけど。実際のスペック値は、再生周波数帯域5Hz~40000Hzという超高性能だったりもする。

最後に装着感を。耳の大きさや耳介の張り出し方は十人十色だが、ハウジングがスイーベル(首振り)機構で100度に至る回転幅を持っているので、ハウジングが耳介に当たる角度を自分の耳に合わせることができる。任意の角度できっちり安定するので、セッティングが決まると装着感も軽く耳全体に均等に力を分散することができ、強めの側圧ながらも痛みの発生がぐっと少なくなる。私の場合、頭がでっかいこともあり、角度が合わないと1時間程度で耳介が痛くなってしまうほどの側圧があるけれど、耳の角度にしっかり合わせることを意識するだけで、数時間経っても痛みが発生しなくなる。その安定感も日本ブランドの品質基準の高さを感じさせるもので、もちろん遮音性、音漏れともに全く問題ない状況だ。

使ってみてこそ実感する剛性の高さ、日々愛用して初めて気づかされる軽さと強度の高次バランス…、高いサウンド性能と質実剛健な信頼性が確保されたこのヘッドホンが、実に高い志を貫き通した結果から誕生したものであることは、所有し日々愛用すればこそしみじみと実感するところだろう。

3.3万円という希望小売価格の範囲内で、どのポイントにプライオリティを置き、どのようなバランスで製品設計するのか、使えば使うほどにパイオニアの考えるポリシーと開発者のセンスがじんわりと伝わってくるという、意外にも人間味のあるヘッドホンだった。おそらくその裏に潜んでいる「ポータブルNo.1のポジション獲得!」という決死の思いが、毎日安定して使い続けられる安心として伝わってくるのだろう。お気に入りのサウンドを手に入れるというのがヘッドホン購入の原点だけど、音楽をどこでも楽しむツールとして感銘を提供するヘッドホンもあるんだなぁと、ちょっと視野が広がった気がした。

text by BARKS編集長 烏丸

Pioneer SE-MJ591
・希望小売価格3万3000円(税込)
・型式:密閉型ダイナミック
・再生周波数帯域:5Hz~40000Hz
・インピーダンス:32Ω
・最大入力(JEITA):1000mW
・出力音圧レベル:108dB
・使用ユニット:φ40mm
・プラグ(金メッキ):φ3.5mmステレオミニプラグ
・コード長:1.2m
・質量(コード除く):170g
・付属品:キャリングケース

◆SE-MJ591特設サイト
◆SE-MJ591オフィシャルサイト

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)

●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
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■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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