【BARKS編集部レビュー】なんとマイク搭載、フルシリコンACS T1 Live!の摩訶不思議ワールド

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ここのところアメリカやアジア圏はもとより、ヨーロッパからもカスタムIEMのブランドが次々と登場してきており、これ気になるあれ気になる…と欲しいフラグがぴょんぴょんと立ちまくる状況にある。先立つものには限界があるけれど、物欲に限界はない。だーがしかし、物欲というとダメ人間の悪癖に感じるけれど、「これは知識欲なのだ」と我に聞かせれば「善しそれは仕方なし。どんどん購入しなさい」と、心軽やかに一歩を踏み出せる自分に気が付いた。なるほどこれはいい。私はダメ人間ではないのだ。

◆ACS T1 Live!画像

▲ACS T1 Live!。通常のカスタムIEMとは素材はもちろん、その造形もずいぶん違い、つぶれた異形に見える。ケーブルは脱着式だが、オリジナルの端子でほかのカスタムIEMとは全く互換性がない。多くのカスタムIEM用ケーブルが編み込み状であることに対し、ACSは一般的なイヤホンのようなシンプルなケーブルだ。

知識欲のために今回手に入れたのは、ACS T1 Live!である。このモデルに手を伸ばしたのは知識欲を満たす志のためだが(←もういい)、ACSはイギリスのカスタムブランドで、シリコンを用いたソフトシェルを作る最大手のメーカーであり、他ブランドのフルシリコン・カスタムIEMを数多くOEM製作しているブランドでもある。UKを中心に海外アーティストでのACS愛用者は多く、ざっと挙げてもU2、レディオヘッド、ミューズ、ブラック・サバス、ファット・ボーイ・スリム、カサビアン、カイザー・チーフス、リリー・アレン、LMFAO、マニック・ストリート・プリーチャーズ、フィル・コリンズ、ピンク・フロイド、スリップノット、ステレオフォニックス、プロディジー、ワン・ダイレクション、トラヴィス、ジェシーJ、ペンディラム、アッシュ…、まさに枚挙に暇がない。

ACSの最大の特徴は、一切のアクリルを使用しない全シリコン製であることだ。シリコン素材を使ったカスタムIEMとしては、耳穴に突っ込むノズル部分がシリコンでできているウエストンES5を所有しているが、私にとってこれがすこぶる使い心地が良い。詳細はレビュー記事(◆【BARKS編集部レビュー】Westone ES5は、カスタムIEM界のF1マシン)をご参照いただくとして、なにより抜群の装着感と究極の遮音性は通常のアクリル製のシェルとは比較にならない高性能を誇るため、いずれフルシリコンのカスタムIEMを作ってみたいと思っていたところだった。

今回手にしたのはACS T1 Live!というモデルで、現ACSのフラッグシップに当たるモデルとなる。3ドライバーというスペックは今どきのカスタムIEMとしてはむしろ見劣りするような設計だが、実際手にしてわかったことは、素晴らしい完成度を放ち、他のカスタムでは代用が利かない特筆すべき機能をいくつも有しているという事実だった。特に別次元ともいえる重要ポイントは3つ、(1)フルシリコンの素晴らしい使用感、(2)完璧な遮音性と外音との見事な共存、(3)素晴らしい音質、である。

(1)使用感は極上だ。ウエストンES5のノズル部分は柔軟性がありつつも硬質な質感で、あんみつに入っている求肥(ぎゅうひ)のような感触だが、ACS T1 Live!はちょっと硬めのグミ状態。表面もつるつるのぷにぷになのである。まだ手に入れてから半年ほどしか経っていないものの、懸念されがちな経年変化による素材の劣化に関しては、不安は全く感じない。数年~十数年レベルでは弾性劣化は起こらないとのことで、医療グレードを保証する品質は並ではないようだ。

ただし、装着にはコツが必要で、これほどに手間のかかるカスタムIEMもない。普通のカスタムIEMはノズルを外耳にはめダイアルを回すようにくるりと回転させればスポッと簡単に装着できるわけだが、ACS T1 Live!はぷにぷにと変形するのみならず、コンチャ(耳のへこみ部分)を完全に覆い尽くすように接触面積が非常に大きく作られている。なまじ柔らかいだけに遊びが生まれてしまうことが装着の難易度を上げてしまうのだ。正しい位置にしっかりと装着するには付属のコンフォートクリームを使ってぐぬぐぬヌルッと装着させる必要がある。そしてもっと大変なのが外す時で、耳と完全に一体化したように装着されているので、がっちりはまってどこから攻めてもなかなか取れないほどだ。

▲写真フェイスプレート下部に見える丸い金属が、超小型マイク。これの性能が驚くほど高い。

▲ケーブルは着脱可能で、メンテナンス性も向上した。

▲左からACS T1 Live!、Unique Melody Mage、カナルワークス CW-L01、CW-L51。ACS T1 Live!の高域の伸びの心地よさは、MageやCW-L01よりも上で、CW-L51には及ばないといったところ。

▲がACS T1 Live!、右がウエストンES5。一言でシリコンといえど、両者の質感は全く別物。T1 Live!は表面がつるつるしておりES5は擦りガラスのようにマットな仕上げになっている。

▲付属品としてはコンパクトなハードケース(フライトケース)、ソフトポーチ、リーフレット、コンフォート・クリーム、クリーニングツール、ジャックアダプタ。

しかしきちんと装着できた時に現れるのが、感動的な(2)完璧な音楽再生環境である。フルシリコンのシェルは完璧な遮音により素晴らしい静寂性を確保しているのだが、なんとACS T1 Live!にはマイクが仕込まれており、外音を拾って内部ネットワークを通しバランスドアーマチュアから常時再生するという、奇異な仕事をしている。そんなまさかの設計から、経験したことのない摩訶不思議な素晴らしいリスニング環境が出来上がっているから、驚きを超えて感動を覚える。

フェイスプレートに当たる部分に頭を出している丸い金属パーツがマイクだ。これが超小型にもかかわらず、ものすごく音が良い。何度聞いてもマイクで拾っている音とは思えず、普段聞いている外音と音質は全く変わらない。音量も完璧で、外音がごくごく当たり前のように聞こえるそのさまは、まるで耳に何もつけていない時と同レベル。そんな状況で、鼓膜の近くで音楽が再生されるとどうなるか。なんと外音(環境ノイズ)に邪魔されず音楽はそのまましっかりと耳に届くという、不思議すぎるミラクルな音環境が出来上がるのである。

外音にマスキングされないので音楽はそのままストレスなく聞けるのに、外の音もしっかり知覚できるというこの感覚は、開放型のイヤホン/ヘッドホンとは全く違うもの。開放型のヘッドホンの場合、外音がうるさいと音楽の音量を上げて蹴散らかすしかないが、ACS T1 Live!は両者を完全に同居させ、どちらも知覚させてくれる。さすがに電車内のように騒音レベルが極端に大きいと、マスキングがゼロとは言わないが、それでもごく小さな音のまま騒音に埋もれてしまうことはない。

はたしてこれは、どういうことなのか。

耳はフルシリコンですっかり塞がれているので、外から音が外耳へ飛び込んでくることはない。つまり外耳道の開管共振による3kHz、9kHzあたりの物理共振ピークの発生はなくなっている。同時にマイクから集音された外音には、コンチャ(耳穴の入り口の凹み部分)で反射した複数の音によって発生するピーク&ディップを利用した空間知覚のための位相差情報が欠落しており、「自分の身の回りに発生している自然界の音であると脳が知覚判断するには不十分な情報である」と想像できる。同時に外耳道の中ほどまでノズルが挿入されているために、外耳内で響くサウンドは閉管共振を起こし6kHz~8kHzあたりのピークを発生させている可能性がある。音響フィルターでこの歯擦音の増幅を抑えている可能性は十分に考えられるが、いわゆる典型的なカナル型イヤホンの音特性であることを、脳は関知していると考えられる。

つまりは、音楽と同様に耳に届けられた外音も自然界の環境音とは明らかに異質なものととらえ、全てのサウンドは、イヤホンの解像度と分解能に依存された状態で、音楽も外音も脳にとって同じ特性を持って平等に鳴り響いているのではないか。マスキングされずに共存するのは、イヤホンとしての基本性能の高さによって担保されているもので、いわば外音を音楽と同じレイヤーへ押し下げた設計がこのモニタリンク環境を作り上げる肝となっている。

開放型のヘッドホン同様に外音をキャッチしながらも、音楽に集中でいる環境。そして聞いている音楽はどれほど音量を上げようとも外へ洩れることはない。言葉で説明するのは簡単だが、これはすごい世界…私には想像もしていなかった未体験ゾーンだった。いやはや世界は広い。ひとりでも多くの人にこのミラクルな世界観を体験して欲しいなぁ。

実はこのマイクは、アーティストがライブなどで会場の音をモニタリングするために用意された機能で、ACS製のアンビエントサウンドプロセッサを通し、マイクで拾った外音をモニタリング音にミキシングするというのがその目的である。

長くなってしまったが、最後に(3)サウンドを。ACS T1 Live!のトーンは、それまでのACSの音色とは変わり、高域の抜けに最大の魅力を持ったシャープでタイトなサウンドである。高域の瑞々しさとしてはUnique MelodyのMAGEも魅力だが、さらに帯域をワイドに伸ばし高域の頭打ち感を取り除いたような抜けの良さを持っている。その分低域の押しは弱く、各帯域のバランスとしてはエティモティック・リサーチのER-4Sと似たところがある。カスタムIEMでいえば、カナルワークスCW-L01をリッチにしたサウンドで、CW-L51から艶を削ったようなトーンであろうか。誤解を恐れずヘッドホンで例えれば、オーディオテクニカ ATH-A2000Xのサウンドを彷彿とさせる感じだ。

エロさや濃密さを期待してはいけないが、切れ味よくタイトに鳴らし、透明感に心地よさを感じさせてくれる清潔感のあるサウンドは非常に魅力的で、街をぶらついたり自然の中を散歩するにも、欠かせない相棒になってくれる。ケーブルも取り外し可能で、実用性も高い。私が現役のミュージシャンだったとしたら、ステージに立つときは、間違いなくACS T1 Live!を選ぶだろう。そして、普段の生活の中でも、生活音に高品質な音楽を乗せてくれるACS T1 Live!は、他のどのカスタムIEMにも真似できない特別なオーディオリスニング環境を作り出してくれるのである。

イレギュラーだらけゆえに、初めてのカスタムIEMとしてはとてもおすすめできないが、既に複数のカスタムIEMを所有しているファンキーな知識欲男子であれば、ACS T1 Live!は、またひとつ目からうろこを落としてくれるであろうとっておきのアイテムだ。さすがホスピタル・グレード「ヘッドホン・ジャンキーからやさしく笑顔を引き出してくれる処方箋」といったところか。

text by BARKS編集長 烏丸

●ACS T1 Live!
699ポンド
・Frequency Response:16Hz~20kHz
・Impedance:40Ohms
・Isolation:27dB
・500Hz Sensitivity:119dB/0.1v RMS(118dB/mW)
・Weight:24g Net | 243g Gross | Average weight will vary according to ear size
・Build Material:40 Shore Medical Grade Silicone
・Mould Type:Full Concha
・Standard Colour:Clear with Black Cable
・Included Accessories:Instruction Leaflet, Step-Up Adaptor, Wax Pick, Comfort Cream, Carry Pouch, Flight Case, Cable
・Optional Accessories:Extension Cable, Spare Cable
・Package Dimensions:147mm x 50mm x 100mm
・Warranty Period:1 Year against manufacturing and component failure

◆ACS T1 Live!オフィシャルサイト

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
●オーディオテクニカ ATH-AD2000 ATH-AD1000(2012-09-03)
●GRADO RS1i、SR325is、PS500(2012-08-20)
◆FitEar MH335DW(2012-08-15)
●DIESEL VEKTR(2012-08-07)

◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)

●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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