先日ゼンハイザーのHD 700がロックンロールなヘッドホンだと鼻孔広げて息巻いたばっかりなのだけど、偶然か必然かあるいはトレンドの風向きか、単に私の耳が残念に傾いちゃっているだけなのか…、ベイヤーダイナミックの新製品T 90がどう聞いてもはっちゃけたロックンロール・ヘッドホンだったので、ニヤケながらのご紹介である。

◆beyerdynamic T 90画像

▲1テスラを超える磁束密度を持つテスラドライバーを搭載した初のオープン型として登場したべイヤーダイナミック T 90。非常にワイドレンジなサウンド特性を持ち、キラキラと乱反射するような高域が心地よい。

▲イヤーパッドはきめの細かいサラサラした質感で、頬ずりしたくなるような心地よさ。適切な側圧で耳をすっぽりと覆ってくれるため、装着感はトップクラス。ストレスや不快感は皆無だ。

▲左がべイヤーダイナミック T 90(市場価格5~6万円)、右がゼンハーザー HD 700(市場価格8~9万円)。どちらも2013年秋に日本上陸したばかりの新製品だが、どちらも現代的なロックサウンドからオーセンティックなオーケストラ・アンアンブルまで広く対応する実力を誇る。

▲専用キャリングケース、6.3mm ステレオ標準プラグアダプターが付属する。

ただ、このT 90はおそらく人によって感想は様々でその振れ幅は非常に大きいのではないかと感じている。つまりはT 90を何と比較し、そもそも比較対象モデルにどのような印象を抱いているのかによって、感想が簡単に割れると容易に想像できるからだ。同社T 70ユーザーからすればスッキリとした高域寄りのサウンドとさらに広がる音場に耳を奪われ、開放型らしい抜けの良さが光るクラシックやアンビエント系にぴったりという意見が出そうだし、一方でフラッグシップのT 1に勝るとも劣らないクリアさと制動感あるキレの良さは、タイトなビートを心地よくドライブしてくれる最高の環境を提示してくれるため、その引き締まった音像に一番の魅力を感じれば、ライトミュージック全般…重低音を内包する打ち込みも含めた、POPSからROCKまでいわゆるバンドサウンドこそが真骨頂と感じることだろう。

もちろん、本質的に評価がどちらにぶれても間違いではない。逆に言えばこのまちまちな評価こそ非常に高次元にバランスが取れている証とも言えそうだ。理系なのか?文系か?…いやいや、T 90はどっちも好成績なぶち切れデキル君なのだ。

T 90のサウンドはきっちりフラット、低域の不足感もなし、中域で最も重要なキレとアタック感を十二分に押し出してくれるが、もたれる感覚や生ぬるさがなく中域過多による暑苦しさもない。高域のクリアさは格別で、シンバルやライドなどのシズル感は最高レベルだ。ゼンハイザーHD 700に肉薄するほどの瞬発力を持ち、暗さや曇りは皆無である。ストレスなく伸びる高域は遠慮なくビビッドで、ともすれば派手で刺激的すぎると思う人もいるかもしれないが、個人差こそあれこのキレッキレのはじけっぷりは、ロックで楽しまないで何で味わおうというのか。

遠慮のない高域の鳴り方はHD700よりも過激だ。輪郭がはっきりしており、よどみなく澄んで見通しが良い。付帯音がなく1KHz~4KHzあたりが非常に整然としているのが、明瞭度の高さとシャープさを生み出している最大の特筆点だと思う。一般的なライトミュージックの音源において、音の要素が最も詰め込まれている音領域であり、性能の低いヘッドホンは、ここがぐしゃっとダンゴになってしまいがちになる。このクリアさは、T 90の分解能がずば抜けて高いことを裏付ける証でもあるだろう。ドンシャリ設計でもなく演出した音作りでもないにもかかわらず、POPSからROCK…ともするとバンドサウンドに良いと思えるのは、この帯域の表現のクリアさが別格だからだ。

もちろん魅力は他にもある。超低域はともかく、低~中域のキックの音圧が心地よく前面に抜けて来るのもポイントだ。前述の特性がビーターのアタックをひっぱたくように低域と共に耳に飛び込ませてくれるので、硬質なドンシャリっぽい印象を持たせる要因となっている。500Hz~800Hzという中音域のアタックが適切に制御されているようで、ここのバランスの妙こそがT 90の最大の着目点だとも思う。もっさりしないこと、中域から高域にかけて透明度が高く聞こえること、ドンシャリっぽい若々しさを感じさせながら迫るように前に出るボーカルを聞かせてくれるのも、この中域の絶品チューニングに起因している。

価格差こそあるものの、最大の好敵手はやはりゼンハイザーHD 700か。キメの細かい分析能力や定位の良さはHD 700の独壇場だが、分離良く各音のパーツに焦点を当てるような分析的な聴こえ方は求めていない人や、その分離の良さがノリをスポイルすると感じる人であれば、T 90が叩き出す音世界は、完璧なものに響くのではないか。ボーカルの適度な近さによる迫力などは、他ではなかなか得られない心地よさだ。

聴感上の周波数特性で比べれば、HD 700の方が800Hzあたりの量感が多く、中域の厚さを感じさせてくれる。一方でT 90のほうがシズル感を演出する6~8KHzあたりの量感が大きい点が、硬質でシャープさを演出する大きな要素となっている。キラキラと乱反射するような高域がT 90の大きな魅力で、いたずらに強めると歯擦音に悩まされるわけだが、ギリギリ寸止めの刺激として受け売れられるかどうかが、分水嶺となる最大のポイントと思われる。評価が割れるとするならば、外耳道の太さや長さといった個人差による気柱共鳴ピーク発生の差異が要因なのだろう。

実は振り切れた個性を持つわけではないのだけれど、おおむね広くロック~ポップスファンから高評価を受けることのできる素性をもったモデルがT 90と言える。聞けば聞くほどギリギリまで追い込んだと思しきチューニングなだけに、世情の評価が安定するには多少時間がかかる気もするけれど、「迷ったらT 90いっとけ」と言われるような、ブランドを牽引するであろう「力強い清涼感」を持ったニューヒーローの登場だと思う。

基本設計はべイヤーダイナミック共通のデザインだが、適度な側圧にしっかり高さのあるパッドが組み合わされ、装着感は非常に軽快でストレスは全く感じない。私の場合、耳介(耳殻)も一切触れないので痛みや不快感はゼロ。何時間でもつけていられる快適さだ。

そして、その緻密さや定位のしっかりしたサウンドは、「実はロックじゃなくてレンジの広いオーケストラにもいいじゃねえか」と、オールラウンドに使えることに気付くというのが、T 90に惚れ込むとどめの一撃となる。「思い切って高級ヘッドホンを買いたいが、一生その1本で済ませたい」という人に薦めるのであれば、迷わずT 90がいい。

text by BARKS編集長 烏丸

●beyerdynamic T 90
オープンプライス(実勢価格5~6万円程度)
形式:オープン型
周波数特性:5-40,000Hz
感度(SPL):102dB
インピーダンス:250Ω
歪率:0.05% 以下
ヘッドバンド側圧:2.8N
ケーブル:3m / ストレート
プラグ:3.5mm ステレオミニプラグ
6.3mm:ステレオ標準プラグアダプター
質量:430g(ケーブル含む) / 350g(ケーブル含まず)
付属品:キャリングケース

◆ベイヤーダイナミックT 90オフィシャルサイト

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
●GRADO GS1000i(2012-09-30)
●SENNHEISER HD 700(2012-09-16)

◆ACS T1 Live!(2012-09-11)
●オーディオテクニカ ATH-AD2000 ATH-AD1000(2012-09-03)
●GRADO RS1i、SR325is、PS500(2012-08-20)
◆FitEar MH335DW(2012-08-15)
●DIESEL VEKTR(2012-08-07)

◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)

●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)