【BARKS編集部レビュー】SHURE SE846の偽らざる真の姿を紐解く

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SHURE SE846が遂に発売された。SE535が牽引してきた3年間に及ぶフラッグシップの交代劇であり、市場価格99,800円という注目の超高級イヤホンの登場だ。SHURE JAPANによると入荷数が少なく予約数に届かないため、発売日を迎えたもののまだ入手できていない人も相当多いとのこと。とはいえ、ネット上にはレビュー記事や購入レポートなどが続々とアップされていくことだろう。

◆SHURE SE846画像

▲SHUREから登場した新フラッグシップモデルSE846。現時点ではクリスタルクリアーのみでカラーバリエーションは発表されていない。

▲4つの各ドライバーにはナンバリングと対応帯域が表記され、モデル名も内部パーツに刻印されている。

▲赤いパーツの有無が左右の判別に大きく役立ってくれる。赤い方が右耳用。

▲付属品。SHUREお馴染みの内容となっているが、ステンレスノズルを外すための交換ツールが付いてくる。

▲左がこれまでのフラッグシップSE535、右がSE846。大きくなり丸みを帯びた形状であることがわかる。ノズルの角度も変更になったようでSE530の形状に近い気がする。

▲ステンレスノズルを外したところ。白いプラスティックパーツが交換式ノズルインサート。白色は最も高域が出る「Bright(ブライト)」。

▲ピンボケご容赦。これがローパスフィルターの現物

画期的なローパスフィルターや話題となったノズルインサート交換機能など、詳細を伝えるスペック記事は既に世に氾濫しているので、私はいつもの通り、ひたすら聴き込んでの素朴な感想を粛々と述べていくこととしたい。

と言いながら、いきなりノズルインサートの話なのだけど、そもそも「Balanced(バランス)」「Bright(ブライト)」「Warm(ウォーム)」を交換できるようにしたのは、高域許容量に対する個人差があまりに大きいことへの積極的な対応策だという。当初は「3種類あれば気分や音楽によって付け替えるのも楽しいだろうな」とも思ったが、実際にサウンドを耳にすると、自分が最も心地よいと思うフィルターに固定され、とても付け替える気にはなれない。イマイチなバランスにわざわざ交換する理由が見当たらないのだ。当然ながらこの交換機能は「サウンドの変化を楽しんでね!」ではなく、「あなたのベストを選んでくれ」なのだ。

でも、この機能たったひとつで、私のSE846に対する評価は最上クラスに飛び込んだ。デフォルトの「Balanced」ではうーむ…だったが、「Bright」にしたことでひゃっほー!である。私はBright固定一択だ。これでぱーっと視界が開け、低域、中域、高域どの音域に関しても魅力あふれる完璧なバランスになり、文句なしの状態になる。ちょうど過ごしやすい季節から、日差しがさらに強くなって暑さと共に開放的な気持ちになったような感覚だろうか。やんちゃで派手な鳴りも持ち合わせ、非常にクリアな中域の透明感がより一層引き立つ、素晴らしいバランスとなった。

低域は芳醇な量感も魅力だが、特筆すべき本質はそのトーンで、大げさに言えばこれまでのBAサウンドの常識を打ち破るような上質な沈み込む音色を持っている。バランスド・アーマチュアでもこういう低音を出せるのは一部のカスタムIEMでも確かめることはできるが、多くのイヤホンでは低域から中域にかかるあたり…おそらく250Hzあたりの不要な響きが、クリアでスピード感のある低域を阻害しているのではないかと思わせる説得力がある。ローパスフィルターの効能は、低域のクリア感を取り戻すことと、中域の透明感の創出に大きく寄与しているように聞こえる。

ただし、トータルのサウンドは一聴してテンション沸騰するような派手なチューニングは施されていない。むしろSHUREらしく質実剛健さは健在で、つかみの良いキャッチーなサウンドは期待しないほうがいい。当然、第一印象が良くても長く愛用できないのはSHUREの本意ではないのだろう。高額なフラッグシップだけに、本質だけをとことん追求したかのバランスが堪能できる。

「本質を追及したバランス」とはどういうことか。ロックからクラシック、アニソンからアイドルまで、いろんなタイプの音楽をSH846で聴いてみると、自分が注力したいパートや帯域に意識が向くと、そのサウンドを高解像度に明瞭クリアに届けてくれる抜群の器用さを持ち合わせていることに気付く。もちろんこれはリスナー側の意識の問題なのだけど、どんなアンサンブルでもどんな音像でも、注力した時点でディテールを完璧に伝え渡すのは、そもそもの分解能の優秀さと、ノイズや歪みを徹底排除したピュアなサウンドが全帯域に積み重なっていることの証だと思う。逆に言えば、抜き打ちでどんな音をリクエストしても、必ず満足した表現力を見せてくれる桁違いの余力を持っているとも言える。不得意分野がないというのはとんでもなく凄いことで、これこそがフラッグシップたるSE846の凄みでもあり、実勢価格99,800円の価値だとも思う。

多分、この凄さは試聴程度の短時間では伝わり切らないような気がする。第一印象で「うわー凄い音」とは思えないのではないか。「んー、こんなもんか」という煮え切らない感想が関の山で、ましてやフィルターが好みと合っていなければ、その時点で残念でしたという印象で終わってしまう危険性大だ。

何でもないバランスの凄さという点ではWestone4も高く評価するところだが、SE846も自身の色をいたずらに主張しないという点では、似たような美意識を有している。ゼンハイザーIE800や音茶楽Flat4なども素晴らしいサウンドを奏でるが、これらは一聴してエンドルフィンを分泌させる前のめりの全帯域イケイケなド派手サウンドを身上とするタイプで、性格がずいぶん違う印象だ。IE800やFlat4はオフェンス系、Westone4やSE846はディフェンス系といったところか。いや、SE846は礼儀正しく几帳面、でもちょっとした刺激で(ちょっとボリュームを上げるだけで)、いきなり熱き血潮が吹き荒れる感覚もあるので、ミッドフィールダーあたり…なのか。

さて、かつてのフラッグシップSE535と比べれば、SE535特有の中域に残っていた独特なピークを綺麗に抑え、超低域から超高域まで周波数帯域をぐーっと広げたサウンドという感じだ。SE535に対し、ボーカルの近さにも寄与していたと思われる中域の特性に違和感を感じていたり、高域の伸びが足りないと感じていたりする人であれば、SE846のバランスは、おそらくパーフェクトに響くことだろう。

ちなみにハウジング自体はSE535よりも大きくなっている。シェル内はBAドライバーと音響パーツで隙間なくぎっしり詰め込まれている。極限までコンパクト化した苦労が見て取れるが、大きさも厚みもSE535よりも大きく、筐体には丸みが付けられたので、付け心地はSE535よりもかつてのSE530の印象に近い。私の場合はフィット感はSE535の方が上だが、こればかりは耳の形状…特に耳穴の方向(角度)に大きく依存するので、是非試聴時に装着感もチェックいただきたいところだ。

低域から高域までバランスのよい広帯域にわたる周波数特性は、4ドライバーならではの優位性だが、一方で多ドライバーに見受けられる「むちむちみっちりとしたおしくらまんじゅうのような濃さ」はSE846には一切見受けられない。むしろトーンの傾向としては、UE 5PROに代表される2ドライバーのカスタムIEMのような、クリアで贅肉のないタイトで引き締まったサウンドの方に近い。言ってみれば、4ドライバーとは思えないキレ味の良さと多ドライバーにしか成し得ない広帯域を両立させている驚くべきモデルとも言える。いったいこれはどういうことか。

思うに、やはりキーとなるのは、かのローパスフィルターだ。実質的に音楽の根幹を担う中域から高域を担当しているのは中域用×1、高域用×1の2つのドライバーであり、その構成であれば濃さよりもタイトさが前面に出るのも当然のこと。そして残りの低域用×2のドライバーは、75Hz以下の低域のみを担当することで、中高域のクリアさをスポイルすることなく、重低音の再生領域のみをカバーし、再生周波数帯域の拡大に寄与している。

無駄なく綺麗に再生する2ドライバー・サウンドを核に、低音専用ウーファーを追加搭載する…そんなコンセプトと考えれば、出てくるサウンドにも合点がいくし、そもそも設計として無理がない。無理がないというのは理想的なサウンドが必ずや設計できるということでもあろう。

設計コンセプトは極めてシンプルでベーシック。技術は極めて革新的で独創的。それがSHURE SE846の偽らざる真の姿だと思う。次代を牽引する誇り高き新フラッグシップとして、世を席巻するにふさわしい名機と明言できる完成度だ。

text by BARKS編集長 烏丸

●SHURE SE846
・スピーカータイプ:本物のサブウーハーのレスポンスを提供する4基の高精度MicroDriver
・感度 (1 kHz):114dB SPL/mW
・インピーダンス:9Ω
・再生周波数帯域:15Hz - 20kHz
・ケーブルの長さ:162cmのワイヤーフォームフィット機能搭載の着脱式ケーブル、別途付属ケーブル114 cm
・色:クリスタルクリアー

◆SHURE SE846オフィシャルサイト

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
■オーリソニックスASG-2 with BassPort(2013-07-28)

■Hippo ProOne(2013-07-21)
◆カナルワークス CW-L51a(2013-07-13)
■EXS X10(2013-06-24)
■音茶楽Flat4シリーズ粋、楓、玄(2013-06-17)
◆LEAR LCM-1F(2013-06-10)

◇Ultimate Ears UEブーム(2013-05-28)
◇Stage93 93PC(2013-05-20)
●Meze Headphones(2013-05-08)
●Fischer Audio Jubilate(2013-04-29)
◇ORB JADE casa(2013-04-21)

◆lime ears LE3(2013-04-14)
◇雑誌「DigiFi 第10号」付録(2013-04-06)
●Ultimate Ears UE 9000、UE 6000、UE 4000(2013-04-01)
■開放型インナーイヤーイヤホンおススメ5モデル(2013-03-19)
◆LEAR LCM-5(2013-03-16)

●フィリップスFidelio L1(2013-02-25)
○スマホが与えた音楽リスニングのモラル変革(2013-02-17)
■Klipsch Image X7i(2013-02-04)
◆LEAR(2013-01-27)
◆カナルワークスCW-L05QD(2013-01-13)

◆earmo(2013-01-02)
◆Westone AC2(2012-12-25)
◇Stage93 93SPEC(2012-12-16)
●California Headphone Silverado、Laredo(2012-12-09)
■音茶楽Flat4-楓(2012-12-03)

◆Stage93 Stage 6(2012-11-26)
●GRADO SR60i(2012-11-19)
◇Astell&Kern AK100-32GB-BLK(2012-11-15)
●オーディオテクニカ ATH-WS99(2012-11-10)
■アトミック フロイドPowerJax+Remote(2012-10-29)

◇VORZUGE VorzAMPduo(2012-10-26)
●ファイナルオーディオデザイン heaven VI(2012-10-16)
●beyerdynamic T 90(2012-10-08)
●GRADO GS1000i(2012-09-30)
●SENNHEISER HD 700(2012-09-16)

◆ACS T1 Live!(2012-09-11)
●オーディオテクニカ ATH-AD2000 ATH-AD1000(2012-09-03)
●GRADO RS1i、SR325is、PS500(2012-08-20)
◆FitEar MH335DW(2012-08-15)
●DIESEL VEKTR(2012-08-07)

◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)

●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
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■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
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◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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