初代カシオトーンやカシオミニ、G-SHOCKなどカシオの歴史的製品に出会える「樫尾俊雄発明記念館」

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電卓や腕時計、デジタルカメラなどエポックメイキングな製品を次々と送り出してきたカシオの創業者であり発明家でもある樫尾俊雄氏の自宅を改装し公開されている「樫尾俊雄発明記念館」が展示内容を拡充。新たに時計、電子楽器の展示を開始した。カシオは「カシオトーン」をはじめとした電子楽器のメーカーとしても知られる。BARKSではさっそく取材を申し込み、その歴史的な製品の数々に触れてきた。

「樫尾俊雄発明記念館」は、元カシオ計算機会長の樫尾俊雄氏(2012年5月に逝去)が残した発明品を展示・公開している施設。兄弟とともに世界初の小型純電気式計算機「14-A」を発明し、日本のエレクトロニクス産業の発展に貢献した発明家である氏の功績を後世に伝えるために、数多くの発明を生み出した自宅を改装し2013年5月に設立。同年6月から一般公開されている。見学は完全予約制で、ウェブサイトで予約を受け付けている。


同施設の一般公開は、カシオ計算機の最初の製品である世界初の小型純電気式計算機「14-A」や、世界初のパーソナル電卓「カシオミニ」などの代表的な計算機の展示からスタート。2014年6月より新たに時計、電子楽器と事務用情報処理装置「ADPS(アドプス)」の展示が始まっている。これらは、いずれも計算機の技術を応用して樫尾俊雄氏が開拓した事業分野だ。

展示は「発明の部屋」「数の部屋」「音の部屋」「時の部屋」「創造の部屋」の5つのテーマに沿って行われている。時代を作った歴史的な製品の数々を見ることができ、どの部屋でも「これ使ってた!」「懐かしい!」と取材陣は大興奮。本レポートでは、各部屋の展示内容の一部をお届けする。

■世界初の小型純電気式計算機がある「発明の部屋」

各部屋は順路に従って案内される。最初は世界初の小型純電気式計算機「14-A」を展示した「発明の部屋」。「14-A」は、樫尾俊雄氏が1957年に341個のリレーを使って発明した世界初の小型純電気式計算機。価格は当時の車1台分の485,000円。おもにオフィスや官公庁で使用され、トランジスタ式に取って代わられてリレー式が廃れるまで数千台を販売したという。事務机並みの大きさに現代の私達は驚かされるが、当時としては非常に小型だったという。実際に動作する様子を見せてもらうことができた。テンキーや1ウィンドウのディスプレイ構成もこれが最初。現在の電卓とはキーを押す順番が違ったり、ディスプレイが液晶でないのはもちろん、アクリル板上の数字が裏面のランプで照らされて表示するなど、初めて知ることばかり。


▲歴史的な計算機「14-A」(1957年)。ディスプレイは各桁ごとに列があり、上より0から9までの数字が並び、該当する値が光る仕組み。当時は歯車を使った機械式の計算機が主流で、「14-A」の群を抜く機能・演算速度・静かさは機械式を圧倒し、高い評価を得たという。国立科学博物館、米スミソニアン博物館にも収蔵されている。


▲「14-A」の裏面には341個のリレーが並び、入力内容に沿ってこれらが動き結果を導き出す(左)。計算中、電磁石で素子がON/OFFされることで出るカシャカシャという音も新鮮。リレー素子単体の展示(中)や、自身が最も機器を知っているという樫尾俊雄氏が実際に言い回しを考えたというマニュアルのコピーの展示も(右)。その説明は「ゴリゴリの技術屋が書いた文章」だとのこと。


▲こちらは科学技術用計算機の元祖「AL-1」(1962年)。プログラミングできることが画期的だったという。6ビット×58ステップの命令を6枚の歯車で発生させる。オルゴールのような仕組みと説明された。当時の価格は995,000円!


■懐かしの電卓が揃う「数の部屋」

続く「数の部屋」は樫尾俊雄氏の開発思想を受け継ぎ、後継者たちが進化させた電卓を展示。「14-A」から比べると驚くほど小さくなっていることがわかる。


▲左から2番めが「電子式卓上計算機」、のちに「電卓」と呼ばれることになる「001」(1965年)。電卓ではじめて記憶装置を備え、7桁の定数をダイヤルセットしておくことができた点が独創的であったという。その左はプログラムをソフトウェア化した「AL-1000」(1967年)。写真右はぐっと小さくなった世界初のパーソナル電卓「カシオミニ」。「一課に一台」が、「一家に一台」「一人に一台」の時代へ。発売後10ヶ月で100万台、シリーズ累計600万台を売り上げた大ヒット商品。


▲写真左は「でんクロ」の愛称で人気を博したパーソナル電子デジタルクロック「CQ-1」(1976年)。世界で初めて時刻表示、アラーム、ストップウォッチ、計算の4つの機能を搭載した電子クロック。写真右は名刺サイズの電卓「カシオミニカード LC-78」(1972年)。LSIを完全1チップ化&薄型キーボード採用で3.9mmの薄さを実現。携帯性、操作性を追求した91×55mm。


▲「とかくこの世は計算さ~」というCMソングが流れるCM映像も見ることができた(写真左)。右はさらに小さく薄くなったフィルムカード電卓「SL-800」(1983年)。85×54mmの名刺サイズで厚さはわずか0.8mmに。国立科学博物館主催の2013年度重要科学技術資料(未来技術遺産)に登録されている。使い勝手の面から小型化はここまでだったとか。


■カシオトーンやデジタルホーンなど電子楽器が揃う「音の部屋」

取材班が一番楽しみにしていたのがこの「音の部屋」。樫尾俊雄氏自身は楽器を弾くことはできなかったが、だれもがいろいろな楽器の音色でさまざまな音楽の演奏を楽しめることを願っていたという。「デジタルの力で、あらゆる楽器での表現を思いのままにできるようにしたい」という発想から独自に音源を開発し、初心者にも楽しめるリズムマシンや伴奏機能を搭載したカシオトーンをはじめとしたこれまでにない電子楽器を生み出した。その歴代のラインナップは今見ても非常にユニーク。


▲左から、電子キーボード「カシオトーン701」(1981年)、デジタルシンセサイザー1号機「CZ-101」(1984年)、驚きの低価格で登場したサンプリングキーボード「SK-1」(1986年)、16ビットの高音質サンプリングシンセサイザー「FZ-1」(1987年)。壁の年表も必見! 写真右はバーコードを読み取って演奏を記憶、LEDで弾く鍵盤を教える電子キーボード「カシオトーン701」(1981年)。


▲こちらも「カシオトーン701」。リズムマシン機能も内蔵、手前の金属プレートを触るとフィルインが鳴る(左)。MELODY GUIDEというLEDを鍵盤奥に用意、光って弾く鍵盤を教えてくれる(左)。右は写真読み取りに使うバーコードリーダー。


▲写真左は正弦波を歪ませて多彩な波形を生み出す独自開発のP.D.音源採用のデジタルシンセサイザー1号機「CZ-101」(1984年)。P.D.音源で作り出した8種類の基本波形を組み合わせて33種類の波形を合成。金属的な音もカンタンに出せるのが特徴。右のサンプリングキーボード「SK-1」(1986年)は、電子楽器としてはまれな100万台を超えるヒット商品。サンプリングした音やプリセット音は、4音同時発音が可能。立ち上がりや減衰の仕方を変えることも出来た。当時の価格は16,000円。


▲左の写真2点は、弦ではなく指板上のセンサーが押さえた場所を検出して音程を決定、弦をはじくと別のセンサーが振動を検知して発音するデジタルギター「DG-10」(1987年)。ジャズオルガンやトランペットなどの音色も内蔵。写真右、音源とスピーカーを内蔵した「デジタルホーン」も当時人気を博したシリーズ。吹き込む息の強さで音色と音量が変化、指使いはリコーダーとほぼ同じで、手軽にリアルな管楽器の音が楽しめた。写真のモデルはサックス、トランペット、シンセリードなど6音色を内蔵した初代デジタルホーン「DH-100」(1988年)。価格は33,000円、MIDI出力搭載も便利だった。


▲カシオ最初の電子楽器「カシオトーン201」(1980年)はなんと木製ボディで、スピーカーも内蔵。今回は特別に、そのリアルな楽器音を聴くことができた。電子楽器特有の電子的な音ではなく、チェンバロやバイオリン、フルートなどの美しい音を再現するため、独自の音源「子音・母音システム」を開発。樫尾俊雄は立ち上がり部分=子音、持続・減衰部分=母音の2つに分けて考えたという。わかりやすい解説が書かれたパネルもぜひチェックを。


▲「シンフォニートロン8000」(1983年)は複数のユニットを組み合わせて使うコンポーネントタイプの電子楽器(写真左)。2台のキーボードユニット、足鍵盤ユニット、演奏を記憶するメモリーユニット、伴奏ユニットなどで構成され、組み合わせ価格は587,500円。キーボードユニットは49音色(2台共通)、足鍵盤は18音色を内蔵。1人でオーケストラのように豊かで厚みのある演奏ができる。キーボードユニットは単体でも演奏できるので、最初にこれだけを買ってあとからユニットを追加していくこともできた。室内のテーブルには当時のCZのムック本も(右)。


▲樫尾俊雄氏の楽器にかける思いがわかる資料の展示も。写真左は浜松市楽器博物館の取材を受けた時のもの。右はNHK交響楽団の機関誌「フィルハーモニー」に寄稿したもの。電子楽器の開発について「すべて自分自身が欲求した製品ばかりだったと思います」という文が印象的。


■歴史的&ユニークな時計が勢揃い「時の部屋」

「時の部屋」には、耐衝撃腕時計として人気を集めているG-SHOCKをはじめとした時計がずらり。カシオの時計1号機「カシオトロン」や、データバンク機能搭載モデル、リモコンやMP3プレイヤーを搭載したモデル、電波ソーラーウォッチの1号機や、GPS機能を世界で初めて内蔵したモデルなど、歴史的な機種が多数。時計ファン必見のラインナップが揃う。また、「ADPS(アドプス)」というコンピュータも展示されている。時計も楽器もすべてのカシオ製品にはコンピュータ=計算機が入っていることから、カシオ計算機の英文社名は「CASIO COMPUTER CO.,LTD.」であるという話も聞くことができた。


▲写真左からカシオの時計1号機「カシオトロン」(1974年)は、大の月、小の月を自動で判別して常に正しい日付を表示するオートカレンダー機能を搭載。腕時計を「時を知る道具」から「身に付ける情報機器」へ進化せさたデータバンク機能搭載モデル、電話番号と名前を最大10組記憶できる「CD-401」(1984年)、手書き文字入力ができる「DB-1000」(1984年)、英和和英辞書機能搭載の「T-1500」(1982年)。耐衝撃腕時計「G-SHOCK」1号機「DW-5000C」(1983年)、バンドとケースを一体化した超薄型・軽量モデル「FS-10(PELA)」(1985年)も。


▲G-SHOCKシリーズからは、アナログモデルやフルメタル仕様の1号機なども。気圧/高度・方位・温度が計測できるモデルや1/1000秒が計測できるストップウォッチを搭載したスポーツ向けモデル、腕時計型血圧計1号機、赤外線リモコン搭載モデルなど(写真左)。GPS搭載モデルやデジタルカメラ搭載モデル、腕時計型MP3プレイヤーなど世界初のモデルがずらり。電波ソーラーウォッチの1号機、フルメタルケース採用のソーラー電波ウォッチ1号機、Bluetoothによる通信機能を世界で初めて搭載したモデルも(右)。


▲「ADPS(アドプス)」は、コンピュータの専門知識を学ばなくても経営資料を自由に出力できる事務用データ処理装置。樫尾俊雄氏は、専門知識を必要としない理想の情報処理装置を追求し、経営データに関する「アドプス理論」を確立。1号機の「ADPS R1/130」は1989年に登場、本体は3,350,000円。液晶ページプリンタや日本語プリンタ、専用デスクをあわせた標準構成では4,850,000円。キーボードは左側に子音、右側に母音を中心に配置した独自配列。ここで培われた技術は、形は違うが現在もパッケージソフトとして使われているという。こうしたオフィス向けのシステムは計算機に次いで歴史が長い分野だとか。


■書斎を「創造の部屋」
樫尾俊雄氏の書斎をそのまま残したのが「創造の部屋」。発明のために寝食を忘れてこもったこの部屋には、氏の創造の源を垣間見ることができるメモなども残されている。カシオ計算機が立ち上げられる前に発明された「指輪パイプ」の展示も。


▲社員を前に「いい音は何か?」など、現在作っている製品のアイディアなどが語られた書斎には、東京電機大学の名誉博士号第1号として送られたアカデミックガウン、米コンシューマーエレクトロニクスショーで米国家電協会より受賞した生涯業績賞をはじめとした楯なども多数展示。


▲カシオ計算機創立前、長男の忠雄氏の営む「樫尾製作所」で働いていた時に作られた「指輪パイプ」。当時貴重だったタバコを根本まで吸えるようにと考案され、大ヒット。その資金がその後7年に渡る計算機開発の費用に当てられたという。


今回紹介した製品のほかにも多数の歴史的かつ興味深い製品、展示が揃う樫尾俊雄発明記念館。「すでにあるものを改良するのではなく、どこにもなかったものを新しく創造する」、「『0から1』を生み出す」ことが発明哲学であり、誇りであったという氏の考えの一端に触れられる。楽器好きはもちろん、時計好き、コンピューター好き、そしてものづくりを志す人なら、ぜひ訪れてほしい。


▲エントランスをはじめ施設内には、「0から1を生み出す」「発明は必要の母」など、樫尾俊雄氏の言葉も数多く掲げられている。


<樫尾俊雄発明記念館 概要>
開館時間:9時30分~16時30分
休館日:土日祝日・年末年始・夏季休暇等
見学申込:完全予約制(1時間あたり上限10名を目安に受け付け)
入館料:無料
住所:〒157-0066 東京都世田谷区成城4-19-10
アクセス:
●徒歩
小田急小田原線「成城学園前」駅下車 西口より徒歩約15分
●バス
「成城学園前」駅西口 バス乗り場(1)(2)より小田急バス
(1)のりば:調布駅南口行き、狛江営業所行き、狛江駅北口行き
(2)のりば:神代団地行き「成城三番」バス停下車徒歩約5分

◆樫尾俊雄発明記念館
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