【インタビュー】大沢伸一プロデュースのMUSIC BARが銀座にオープン。「時間旅行と世界旅行が瞬時にできるのは音楽だけ」

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── そこから聴こえる音源は、基本的にアナログレコードなんですよね?

大沢伸一:ええ。でも、何が何でもアナログじゃなきゃということじゃなく、CDでしか音源がない場合もあるので、そういうときはCDも流しますよ。

── アナログレコードならではの魅力はどんなところにあるのでしょう?

大沢伸一:なんでしょうねぇ……ノイズが好きなのかな(笑)。環境によって微妙に変化することや不便さも含めて、音楽にきちんとコミットする感じが他では得られない魅力かもしれません。

── CDで聴く音とアナログで聴くときの感覚は明らかに違うと?

大沢伸一:違いますね。少し前にWebのニュースでたまたま目にしたんですが、CD音源には人間が心地よいと感じる大事な帯域の一部がカットされているんだそうです。だからその穴埋めじゃないけど、近頃はハイレゾ音源が出てきてるんじゃないでしょうか、実はアナログに対するアジャストメントだったりするかも知れませんね。(【参考】大事なものが抜けていた…CDサウンドのどでかい落とし穴 https://www.barks.jp/news/?id=1000104767 )。

── なるほど! CDでさえそうなら、データ配信の音源はもっと隙間がある?

大沢伸一:すべてがそうとは思わないですが……、ノイズがないだけで画像で言えば解像度の低いモザイク状のものを聴いてる可能性はあるでしょうね。レコードのノイズを嫌がる人もいますが、段々となじむとノイズだけ聴いても心地よく思えてきますよ(笑)。

── それはかなり上級者の楽しみ方かと(笑)。最初はCDやデータとの違いが分からなくても、聴いていけば違いは一般の人も感じられるものでしょうか?

大沢伸一:個人差はあるにせよ、1時間も聴けばたいていの方は違いを感じると思います。音の広がりというよりは、絶妙にコンプレッションされた感覚というかしっとり感というか。たまたまハイレゾの音源とデータ音源をスイッチひとつで聴き比べれる装置で聴いてみたんですが、これがまた面白かった。

── イメージ的には、圧倒的にハイレゾの勝利に思えますが。

大沢伸一:ご想像どおり、ハイレゾは解像度がむちゃくちゃ高いから非常に音がクリアです。ただ、MP3の音源の方が一聴した印象では、迫力があったりするんです。なぜそうなるかというと、多くの情報を割愛すると同時に圧縮もしているので、音楽の種類にもよりますが、多くの場合は一塊になっているほうが迫力が出るという効果が働くんです。アナログにもそれに似たようなことが起きていている場合もあって、CDやハイレゾのように解像度が高くて広がる音楽とは違った、塊で聴く心地よさが感じられるんです。とはいえ、レコードもデータもハイレゾもそれぞれ音楽との相性などで激変しますね、そこがまた面白いところです。

── レコードで聴くことがすごく楽しみになってきました! アナログレコードを集めるのは、ご苦労も多いそうですね?

大沢伸一:この1ヶ月くらいは夢にまで見るほど、めちゃくちゃ大変です(笑)。なかなか見つからない、見つからなかったらどうしようという恐怖と闘ってますね(苦笑)。今はdiscogs(http://www.discogs.com/)を介して世界中と取引してます。世界最大級の音楽データベースで、数年からマーケットプレイスを併設してるんです。音楽版Wikipedia的な詳細なデータと連動して、世界中の個人が、「◯◯を持ってます」「△△ならあるよ」と登録していて、自由に取引できるので非常に便利なんですが、そこにすら無いと「あぁ~、どうしよう」と落胆しますね(苦笑)。

── 今の大沢さんにとって、最後の砦のような存在?

大沢伸一:ですね(笑)。ただ、1枚5ユーロ程度のレコードだったとしても、ヨーロッパからだと送料に2000円くらいかかったりして。そこも(店を運営する側としては)悩ましいところで(笑)。そんな感じで、ようやく200枚くらい集めましたが、まだまだ集めますよ。

── Webと同時に、実際に足を運んで探してもいるんですよね?

大沢伸一:これがまた過酷で(笑)。お店の方も頑張ってるとは思うんですが、「もっとちゃんと分類しろ!」って内心毒づきたくなることも(笑)。地方の街でDJした次の日に探しに行ったりもしてるので、二日酔いとの闘いもあったりで(笑)。僕をはじめスタッフは今、精神的に満身創痍ですが、オープンの日を想像し、それを力に頑張ってます。

── プレイヤーやクリエイターでもある大沢さんは、表舞台で活躍する楽しさを十分にご存知のはず。レコードを集めることひとつ取っても、見えない苦労が多いプロデュースという裏方の仕事に携わり続けるのはなぜですか?

大沢伸一:シンガーのプロデュースなどを多く手がけていたときに、取材などで「自分の作品と誰かをプロデュースする違いは?」とよく尋ねらて答えに困りました。僕にとって誰かに楽曲を提供したり、プロデュースすることはとてもパーソナルなことで、自身の作品の延長線上にあるんです。作品やアーティストに寄り添うのが僕のやり方。海外のダンスミュージックのプロデューサーには、テンプレートを用いて一度にたくさん手がける人もいるようですね。テンプレートを使ってる時点でクリエイションやアートの間逆にあるものだと思うから、正直、僕は理解できないなぁって(笑)。

── 音楽の延長線として店舗プロデュースを手がけてみて、何か気付きや新たな発見はありましたか?

大沢伸一:もともと音楽に関わることは僕にとってシームレスなものですが、どこか無意識に線を引いていた部分があったのかなと思いました。店舗のプロデュースに関わるようになって、そこに人が集まってひとつの有機体のように変化していくことを目の当たりにしました。だからもっと別のことにもチャレンジしたいと思うようになりました。これを機に、他にもいろいろできることがあるんじゃないかと勘違いしてしまいそうなくらい、今のところはいい感じでやれてるってことなんですけどね(笑)。

── このまま行くと、「プロデュース」の概念も変えてくれそうだなと期待が膨らみます!

大沢伸一:こんなことを言うといろんな人に怒られるかもしれないけど(笑)、圧倒的な経済的成功を収めることと、クリエイションは別にイコールじゃないですよね。僕にとってのプロデュースとクリエイションはとても近いところにあるものだから、乱暴な良い方をすれば、経済的な成功を度外視したところでのプロデュースというのがあってもいいと思うんですよ。映画業界などはプロデューサーはお金を集めたり、経済的な成功へと導く役割で、それができないと失敗という認識ですよね。けど、そこの関係性を一度壊さないと、音楽に限らず、より良いものは生まれにくいんじゃないかと。個人の話になりますが、実はある音楽にまつわるプロデュースの依頼をいただきました。予算内でやりたいようにやって良いという話しなのですが、僕がやりたい事をすべて実現すれば、僕、個人の利益は望めないでしょう。でもきっと、僕はそれを受けると思います。なぜならすごく素敵な話で、やったらきっと面白いとわかっているから。単体では利益が生まれなくても、それを成功させたことで別の展開が生まれるような流れになれば、プロデュースってもっともっと面白いものになると思うんですよね。

── 今までと違う方法論で築いた場所だからこそ、「Music Bar」に人は惹き付けられるのしょうね。最後に改めて伺いますが、銀座店はどんな場所になりそうですか?

大沢伸一:人に迷惑をかけない範囲で、最大級の自由な遊び方ができる空間ですね。“Bar”と聞くとある一定のイメージを思い浮かべてしまう方もいるでしょうが、音楽と美味しいお酒がくっついて楽しくないわけがないし、既成概念を一度取り払って遊びにきて欲しいです。音楽もジャンルや年代に限定されず、例えば18世紀のクラシック音楽から昨日今日録音されたばかりエレクトリックミュージックまで何でもありです。いわゆる名盤と呼ばれるものを当たり前にコレクションしてるわけではありません。僕らが自信を持って「好きだ」と言える音楽を、いい環境で聴かせる。それだけです。時間旅行と世界旅行が瞬時にできるのは音楽だけですから、自由な時間を心ゆくまで楽しんでいただきたいですね。

text by 橘川有子

【店舗情報】
GINZA MUSIC BAR
東京都中央区銀座7-8-13 ブラウンプレイス 4F(1FにTORIBA COFFEE 銀座本店)



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