【インタビュー】寺岡呼人「オリジナル・アルバムはワールドカップごとにという感じなんです(笑)」

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2013年、ソロデビューから20周年を迎えた寺岡呼人が4年振りのアルバム『Baton』を完成させた。収録された11曲は、彼の持ち味であるエバーグリーンな魅力に溢れた楽曲ばかり。作詞にMr.Childrenの桜井和寿が参加し、ドラムは鈴木英哉(Mr.Children)が担当した「バトン」、SING LIKE TALKINGの佐藤竹善が作曲したAORテイスト満載の「Departure」など、他のアーティストとの化学変化も楽しめる一枚だ。

■色んな人たちの中で、一つの作品を見つめるということは大事なんじゃないかと思って
■シンガーソングライター寺岡呼人がやるなら、こう!”というのを今作でやってみたんです


 ▲『Baton』初回限定盤
 ▲『Baton』通常盤
──『Baton』は4年振りのオリジナル・アルバムということで。前作『独立猿人』も4年振りでしたから、オリンピックごとにアルバムが出るというようなペースになっていますが(笑)。

寺岡呼人(以下、寺岡):ははは……ワールドカップごとにという感じなんですけどね(笑)。

──今作に関しての呼人さんのコメントで「最近は常々“シンガーソングライターという言葉が嫌”と公言していて(笑)」とおっしゃっていますよね。まず、この言葉について伺いたいと思ったんですが。

寺岡:そうですね……例えば、昔は職業作曲家、職業作詞家、職業アレンジャーを壊すという意味でシンガーソングライターが出てきたわけじゃないですか。それは革新的だったと思うんですが、そこからずいぶん時間が経ちました。僕がいろんなプロデュースをしていても思うんですが、そこに関わるスタッフ達の姿勢も含めて、シンガーソングライターという肩書きに乗っかって、本当に伝たいことや、プロとして言葉を煮詰めて行くという作業を放棄しているような、軽くみているような風潮になってる気がしたんです。

──例えば?

寺岡:サウンドのレコーディングが終わって歌入れになったときに、歌詞がまだ出来ていなかったりするんです。それは、僕からすると本末転倒。日本語の音楽をやっている以上、歌入れに間に合わないと思うならば、周りにプロの人たちがいっぱいいるのに、なんでその人たちの手を借りないんだろうって思うんです。でも、スタッフたちも、「シンガーソングライターを名乗ってるんだから、一人で歌詞書いて」って丸投げするわけです。そういう状況を見ていると、最近は、“シンガーソングライター”っていう言葉が出てきた時とは、その言葉の意味合いがちょっと変わってきているのかなぁって。

──時間がないなかで作詞をすることになると、クオリティにも響きますしね。

寺岡:うん。もちろん、シンガーソングライターで希有な才能を持っている人は一部います。でも、みんなそうじゃないわけで。そうなると職業作家がいた頃の音楽のほうが、世の中に残ってるんじゃないか?って思ったんです。この先、50年、60年、みんなが口ずさめる曲って、プロの人が集まって作った曲なんじゃないかな?って。例えば、小説家だって、編集者と膝を突き合わせて一つの作品を書き上げるわけじゃないですか。映画監督の黒澤明が脚本を5人くらいで書いて、橋本忍さん(黒沢組の脚本家集団の一人)とか、いろんな人の意見を聞いて、最後は黒澤監督が決めるにしても、色んな人たちの中で、一つの作品を見つめるということは大事なんじゃないかと思っていたので、まず自分の作品でそれをやらなきゃと思って。自分のアルバムだったら、そういう遊びや実験もできるので。ということで、“シンガーソングライター寺岡呼人がやるなら、こう!”っていうのを今作でやってみたんです。

──作詞は主に山田ひろしさんとの作業だったわけですが。山田さんとは前作から共同作業をされていますね。作業はどんな風に進んで行くんですか?

寺岡:基本的には、曲も全部でき上がったあとに、100%歌詞を書いてもらう曲だったとしても、こういうコンセプトでっていうスケッチを渡す場合が多いです。あとはほとんどできているんだけど、もっと色んな角度から言葉を言うにはどうしたらいいかっていう助言的なところも含めて相談したりもします。

──煮詰めてより良い形にしていくっていう作業ですね。それをやっていたら、一曲ずつに対して結構時間もかかるんじゃないですか?

寺岡:そんなことはないです。今回、準備の時間に余裕もあったので、「Japan as No.1」を作曲した多保孝一くんにしろ、「Departure」を作曲した佐藤竹善さんにしても、早めにお願いしていました。

──唄いたいテーマも次々に湧いてきました?

寺岡:そこは瞬間芸というか(笑)。ある時にパッと思いついたら、これは唄いたいなぁってなりますし。前から煮詰めるというか、曲を書くモードに集中している時にでき上がったものが結果的に曲になるってこともあります。

──等身大という意味では、前作から続いていますよね。

寺岡:そこしかないのかなぁという気もしますしね。でも、常にいろんな人から影響を受けながらやっているので、また変わるかもしれないです。ついこの前も、クロマニヨンズの新譜を聴いていると、“こういうのもいいなぁ”って思ったりするんですよ(笑)。それは自分の中で移り変わっていくと思うんですが。ティーンエイジャーの時にティーンエイジャーのことを唄うのが、みずみずしいロックじゃないですか。つまり、今の自分のことを唄えば、ロックなんだろうなと。それはマインド的なことですけどね。今作もそういう感じですね。

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