【インタビュー】Tetsu [D'ERLANGER]、「作りものじゃなくて、リアルに感じられるもの」

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■当時の名盤とかに匹敵する音……そういうものの良さを
■伝えきれるバンドって、D'ERLANGERだけなんじゃないかって

──D’ERLANGERのキャリアについてもよく知っている人たちからすれば、遠慮するつもりはなくても、なかなかズバズバとは言いにくいかもしれません。

Tetsu:そうみたいだね(笑)。でも、コリンの場合はまだ若いんだけど、俺たちのことを知らないことが好都合でもあったわけですよ。しかも英語ってのは便利なもんで、敬語がないから。乱暴に聞こえる部分もあるけど、向こうも「俺はこうだと思う」というのをストレートに言うしかない。でもね、「Tetsuさん、ここはもしかしたらこうじゃないでしょうか?」って言われるよりも、「Tetsu、ここはこうだと俺は思う」と言われた方が、俺は、やりやすい。「ああ、そうなんだ?」って普通に答えられるんです。実際、スタジオだってそんなにすごいところだったわけではなくて……。もちろん酷いところではない。さっきの話じゃないけど、最初にスタジオの候補を挙げてもらった段階でSTEAKHOUSE STUDIOって名前が出てきた時は、正直、俺も「なんだ、そのデタラメな名前は!」と思った(笑)。

──でも、調べてみると結構すごい人たちが使ってるんですよね。MARS VOLTAからPINKとかに至るまで。

Tetsu:うん。俺たちが行った時は「ちょうど先週までINCUBUSが居たよ」って言われてね。俺、鳥肌立っちゃって(笑)。

──スティーヴ・ヴァイ、スティーヴ・ルカサーあたりも使っているみたいですね。

Tetsu:うん。スタジオの名前だけ聞いた時、一気に不安になって(笑)、実はチャド・スミス(RED HOT CHILI PEPPERS)にメールしたんですよ。その前に、毎年会ってるから「今年もNAMMショウに行くんだけど会えるかな?」というメールをしていて。そこで「今年は、実はレコーディングもするんだ」って伝えたら、彼がすごく喰いついてきてさ。「どこでやるんだ?」って訊いてきたから、教えたら何かいいことあるのかもなと思って(笑)、スタジオの名前を伝えたら、「あそこはすごくいいぞ!」と言ってきて。彼はルカサーに頼まれて何かやったこととかが2回ほどあったらしいんですよ。正直、その話を事前に聞いていたから安心できたんです。結果、チャドとも会いはしたんだけども、レコーディング中はちょうど向こうもレッチリの何かが始まっていたみたいで、タイミングが合わなくて……。でも今回は、スタジオには来てもらわなくて良かったかもしれない。あの雰囲気のなかでチャドまでそこに現れたら、俺、舞い上がってたかもしれないから(笑)。でも、次にまた機会があった時は来て欲しいけどね(笑)。

──L.A.レコーディングでの収穫の大きさについてはよくわかったんですけど、同時に、アルバム全体を聴いた時に、向こうで録られた3曲が全然浮いていないというのがすごいと思うんですよ。

Tetsu:そこはね、今までのD’ERLANGERにないミックスの仕方をした、というのもあって。アメリカ人がミックスやマスタリングするというだけなら、最近はいろんな人たちがやってることじゃないですか。ニューヨークのテッド・ジェンセンを使うことが多いと思うんだけど……。まあ俺たちも今回は、彼にやってもらってるんだけどね(笑)。その彼の作業を経たうえで完成されてるからスッキリとして聴こえる、というのもあるのかもしれない。でもね、そういったこと以上に、やっぱり今回は向こうで実際に“録った”ということが大きかったと思う。俺たちはずっと日本でやってきたけど、アメリカ人のエンジニアにすべて委ねてやってみた時に、やっぱり“音を置くところ”が違うなと思った。ヴォーカルの置き場所も違う。日本だと、とにかく歌がちゃんと聴こえないと駄目というのがあるわけですよ。それは本来、世界中どこでも一緒なはずではある。だけど向こうだと、そのために他の楽器を小さくするという考え方ではなくて、たとえばマイケル・ジャクソンを聴いててもドラムはデカいわけですよ。マドンナでも同じこと。日本でもね、変な話、昔のユーミンとかを聴いてみるとそうなんですよね。なのにいつのまにか、カラオケが定着したせいなのかなんなのかわからないけど、そういう音が基準になってしまったというか……。たとえばQUEENを聴いてたって、全部がちゃんと聴こえるわけですよ。音がいいとか悪いとかじゃなくて、QUEENならではの色付けと共に、音の全景が見えるというか。そこもまたバンドの力だと俺は思うんです。だけどミックスという作業は、それを手掛ける人のセンスや技量に左右されるものじゃないですか。俺たちの手から離れた部分というか。でもね、昔の人たちは、今みたいに整った部屋じゃないところで、「ここで録れるの?」っていうようなギリギリの場所ですごいものを作ってたわけですよ。

──それこそデジタルなものなんて、皆無だったわけですからね。

Tetsu:うん。だから本当は、当時の名盤とかに匹敵する音というのを、今の時代に作れなきゃおかしいと思うわけですよ。なんか……俺もおじさんになったのかもしれないけど(笑)、昔のほうが、作りものじゃなくて、リアルに感じられるものをみんな作ってたと思う。そういうものの良さを最後まで伝えきれるバンドって、もしかしたらD'ERLANGERだけなんじゃないかって、実は自負してるところがあるんです。そこは大事にしていきたい。流行りの音ってものに、まず俺たちは飛び付こうとはしないから。最近こういうのが流行ってるから自分たちもそうしてみようとか、そういうことは一切ない。もしかしたら偶然重なることはあるかもしれないけどね。実はね、これまで日本でやってきたアルバム制作でも、大先生と呼ばれるような方にミックスをお願いしたことというのは無くて。あくまでも相性のいい人にお願いしてきたんですね。まあそこは、冒険してこなかったということになるのかもしれないけども。でも今回、コリンとやってきたことというのは、バンドにとっての初めての冒険だったともいえるはずで。もちろん結果としていいことばかりじゃなく、反省点もあるわけですけど。

──それは具体的にはどういうことです?

Tetsu:単純にもうちょっと時間があったら、もっとコミュニケーションがとれて、その場でさらに煮詰めることができたんじゃないかと思う。でも、どちらにせよ今のD'ERLANGERにとってはプラスになったと思うし、「今度はこうしよう」って考え方に繋がってもくるし。次にまたこういう機会があれば、もっといい音で録れる自信がある。いい音っていうか、もっとD'ERLANGERらしい音でね。今回の場合……たとえば変な話、「増田さん、『#Sixx』よりいい音で録れたから絶対聴いてください!」という感覚ではないんです。なんかね、自分でもわかんないんですよ。これをいい音というのか、みんながどう思うのかが。


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