【インタビュー】VALSHE、近現代文学がテーマの作品に「痛烈な問いかけがある」

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VALSHEが6月24日、芥川龍之介の『蜘蛛の糸』をはじめとする日本の近現代文学にインスパイアされて書きおろした曲たちを収録したコンセプチュアルミニアルバム『ジツロク・クモノイト』をリリースする。『名探偵コナン』のエンディングテーマとしてもヒットを記録した「君への嘘」に続いて、VALSHEが提示するのは想像力次第でどこまでものめりこめる深遠な世界だ。過去最高速のナンバーに仕上がったという「ジツロク・クモノイト」では人間の愚かさ、浅はかさを攻撃的な表現で暴き出し、「暗い夜の行き路」では出口の見えない迷路で苦悩する人生を切なくもロマンティックに歌いあげている。

◆「ジツロク・クモノイト」クロスフェード 動画

その表現力は音楽的にも多彩だ。EDMやラテン、ハードロックの要素を採り入れたサウンドは斬新に響き、楽曲ごとに異なるボーカルスタイルは驚異的とさえ思える。しかし、それらが決して散漫な印象を与えないのは、ブレることのないアルバムコンセプトによるものだ。結果、サウンド世界はどこまでも広がり、物語を情緒豊かに彩ることに成功。楽曲へ惹きつけられると同時に時代を超えて読み継がれてきた名作のページを開きたくなるアルバムに仕上がった。なお、「ジツロク・クモノイト」ミュージックビデオでは高さ20メートルの梯子に登り、傷だらけになりながら小説で有名なシーンを熱演するなど、作品に賭けた熱い想いをたっぷり語ってもらった。

   ◆   ◆   ◆

■今までは言いたいことを比喩表現を用いて例えてたりしていたので
■ここまで赤裸々な表現はしていない

▲『ジツロク・クモノイト』初回限定盤

──ミニアルバム『ジツロク・クモノイト』には芥川龍之介の「蜘蛛の糸」や太宰治の「人間失格」など日本の近現代文学にインスパイアされた曲が収録されていますが、まずは、こういう作品を作ろうと思ったいきさつを教えてください。

VALSHE:いつも作品ごとにコンセプトを立てて作っているのですが、“文学作品”はサウンドプロデューサーのminatoにとってもVALSHEにとっても共有できるテーマで。最初は「蜘蛛の糸」を題材に楽曲にしてみたら面白いんじゃないかというところから発展して、だったら近現代文学から着想を得た作品を5曲用意してミニアルバムを作ろうということになりました。

──ということは、いつか文学作品をモチーフに曲を作ってみたかったんですか?

VALSHE:楽曲に落としてみたいと具体的に考えていたわけではないのですが、ヴィジュアルのコンセプトとして取り入れたり、なにか別の形で表現してみたいという気持ちは漠然とはありました。

──日本文学に昔から興味が?

VALSHE:読書は大好きですが、主に海外の文学を読むことが多かったんです。日本文学は難しいという印象があって手を伸ばしそこねていて、今回の作品に収録されている曲のモチーフになった本で元々読んでいたのは「蜘蛛の糸」と「注文の多い料理店」(宮沢賢治)の2冊でした。それ以外の3曲は、島崎藤村氏の「破戒」、太宰治氏の「人間失格」、志賀直哉氏の「暗夜行路」に着想を得ていますが、聴き手の方が作者やタイトルを知っていたり、読んだことがある小説でなおかつ自分が書いてみたいと思った曲を選びました。

──1曲1曲の個性が強く聴きごたえのある作品に仕上がっていますね。「ジツロク・クモノイト」はいちばんロック色が強い攻撃的なナンバーですが。

VALSHE:この曲はVALSHE王道のデジタルロックサウンドですが、今までと明らかに違うのはBPMが200弱の過去最速の曲に仕上がっていることです。ベースソロから始まるゴリゴリ感、ドラムの手数の多さ、歌詞もあいまっての攻撃的なボーカルが特徴だと思います。
──歌い方もシャウト気味ですよね。

VALSHE:はい。今までより荒々しいですね。「ジツロク・クモノイト」は「蜘蛛の糸」という下敷きがあった上で人間のあさましさや愚かさを言葉を濁さずにストレートに描いているんです。対人間であったり対社会というテーマは過去の曲でも取りあげることが多かったんですが、今までは言いたいことを比喩表現を用いて例えていたり、別の言葉に置き換えていたので、ここまで赤裸々な表現はしていないですね。文学作品がとてもリアルなので抽象的に書くと本質から離れていく気がしたんです。

──歌っていてもスッキリするのでは?

VALSHE:そうですね。“ハッキリ言えばこうなんです”という言葉が詰まっているので1行1行に共感しながら歌いました。

──“顔色、雰囲気、人柄、待遇それ次第 上っ面でモノを見てんだろう?”って、のっけから攻撃的ですよね。

VALSHE:社会では上司、部下、先輩、後輩といろいろな立場や人柄で判断して、それぞれの処遇を決めて生きている。誰かにとって自分もそうだろうし、自分も誰かに対して不平、不満を吐いているけれど、結局のところはみんな同じで“明日は我が身だ”っていう。そういうメッセージをミュージックビデオでも表現しています。これまでは聴く人に解釈を委ねてきましたが、今回は明確に答えを提示しているので、そういう意味でも新しいですね。

──すでに公開されているミュージックビデオは強烈なインパクトがあります。

VALSHE:「蜘蛛の糸」を実写として隅々まで具現化した映像になっていて、自分が思い描いていた以上にリアリティのある作品に仕上がりました。これまででいちばん手応えを感じているミュージックビデオかもしれないですね。

──特にお気に入りのシーンは?

VALSHE:梯子を登っていく場面です。原作では地獄に堕ちたカンダタという男が極楽から垂れてきた蜘蛛の糸につかまって、下から続いて登ってくる人間たちを蹴り落とすんですが、そのシーンを再現したんです。実際に自分が命綱をつけて高さ20メートルの梯子を登ったんですが。

──20メートル! それって相当高いですよね。

VALSHE:マンションで言うと8階ぐらいの高さですね。でも、撮っているときは本気なので下から登ってくる人を落とすことしか考えてなかったですね。撮影が終わった後、モニターで自分の表情を見たら小説の場面と重なるものがあった。傷だらけになって挑んだミュージックビデオです。

──終わったら、身体がアザだらけだったとか?

VALSHE:はい。「こんなでした」ってお見せするのもためらわれるような状態でした。

──まさに体当たり。足をつかまれるんですもんね。

VALSHE:梯子が鉄製で冷たく、寒かったというのもあって、足が肌色じゃなくなってました。撮影現場ではスタッフの方もすごく心配してくださったんですが、その結果とてもリアルな表情が詰まっていると思います。VALSHEが蹴落とす瞬間をぜひ見てください(笑)。

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