【音楽ギョーカイ片隅コラム】Vo.10「グラスト、今年も12万枚完売

ポスト

例年この時期になると、来年開催されるかどうかをチケット完売ニュースで知るフェスティバルがあります。その名は“グラストンベリー・フェスティバル”です。

◆グラストンベリー・フェスティバル画像


通称・グラストは、イギリスのブリストルから少し下ったサマセット州にある小さな街、グラストンベリーに隣接した広大な牧場で豪快に開催されているイギリスの音楽フェスの元祖です。近年では旅行会社独自のツアーが組まれるなどで日本からも比較的参加しやすくなってはきましたが、チケットの争奪戦は避けられません。数日前に来年のチケットが販売され、去年の「12万枚を26分で完売した記録」には及ばなかったものの、チケットは30分で完売したというニュースを目にした方も多いのではないでしょうか。


チケット購入に至るまで、かなり高いハードルがあるグラスト。まず、翌年6月に開催されるフェスなのに前年の秋にはチケットを購入しなければならないこと、チケットを購入したい場合にはチケット発売日以前に顔写真を添えた個人情報登録をしておかないと購入すらできないこと、更に、チケット発売時点では誰が出演するか一切わからないこと、そして、手ぶら滞在できるティピなどもあるけれど、とにかく全員キャンプであること。ハードル、高っ!

それにもかかわらず、12万枚ものチケットを毎回たった30分で完売させられるのには、ラインナップが絶対ゴージャスであり、他では味わえない魅力があるからでしょう。

グラストの歴史は古く、ジミー・ヘンドリックスが天国へ旅立った1970年に第1回が開催され、休耕年を挟みながら45年に渡って継続されてきました。ところで「休耕年」とは耳馴染みのない言葉ですよね。グラストの会場の本来の姿は牧場です。土地を休ませる期間を設けるため、2〜3年に一度、休耕が入りますので毎年開催ではないのです。


会場となる牧場までの移動手段は、ロンドンから最寄り駅まで電車で4時間弱。そこからローカルバスに乗り換えて、グラスト専用シャトルバスのコレクトポイントを目指します。そこでシャトルバスに乗り換えて、ようやく会場へ入ることができます。

グラスト開催期間中は、会場である牧場を中心として街全体に車両規制がかかり、シャトルバスでしか会場へ辿り着くことができなくなります。駐車場も利用可能ですが入口近くに駐車できる可能性はほんの僅かです。日本の便利さに慣れてしまっているので、参戦当時は面倒だなと思いましたけれど、バスにのんびり揺られながら、のどかな風景の中にある民家を目にしたとき、当然のことながらそこには人が暮らしているわけで、その人たちの生活を邪魔して楽しませてもらうことをじわじわ実感しながら、ゴミは捨てちゃいけないよなとか、5日間は会場から出られないのだから怪我しないようにじっくり楽しもうなどの心構えを再度するいい時間となりましたし、何より、主催者側の街と住人を守る潔さを感じました。


私が参戦した年も歴史的な大雨のせいで牧場は沼と化し、テントは雨に潰され、広すぎて全周することができず、ステージからステージまでの距離があまりに遠くて観たかったエイミーワインハウスを見逃すなど、なかなか痺れる状況下ではありましたが、どんなに酷い環境であっても、あの時あの場所で感じた開放感と自由さ、そして音楽とグラストを愛するじーさんばーさんがたまらなくいい顔をしているのを見て、あぁ、ばーさんになってからもここに来ていいんだ! 老後も楽しめるんだ!と思えただけでオール・オーケーでしたし、また絶対来る!と心に誓ったものでした。

フジロックが富士山で産声を上げた時、19歳の学生だった自分は現在アラフォーなわけで、
それすなわち、日本で音楽フェスが開始されてから彼此20年近くになり、グラストとの年齢差は約25歳ということになります。

日本では、いまだに若い人向けのように見られがちな音楽フェスも、日本のフェスを体感してきたど真ん中世代である私たちのジェネレーションが還暦を迎える20年後くらいには、日本各地の音楽フェスがそれぞれの土地に深く根付いて文化となり、3世代が共に楽しめるような音楽フェスへと変貌を遂げる、そんなグラストのような現象が起きて欲しいと密かに願うのであります。


その願いが現実となるまでには、主催者側もオーディエンス側も、変わらなければならないことと、変わらず継続するべきことの両方があるでしょう。根本的な違いとして、イギリスの場合は世界的ヒットを飛ばすミュージシャンも多い上、音楽が文化としてしっかり根付いているため、世代が違っても音楽好きであれば共通の話題が持てる雰囲気がありましたが、世代を超えて大合唱させてくれる日本人ミュージシャンの出現も必要ですよね。

3世代へと一足飛びはできないので、次回は2世代が楽しむことができた日本の音楽フェスについて綴ります。

◆早乙女“ドラミ”ゆうこの【音楽ギョーカイ片隅コラム】
この記事をポスト

この記事の関連情報