【ライブレポート】<VISUAL JAPAN SUMMIT 2016>3日目後編「またみんなと会えるよう、俺たちも頑張っていくから」

ツイート


いよいよクライマックスが近付いてきた。己龍の終演をもってVISUAL STAGE、JAPAN STAGE双方のすべての出演者の演奏が終了すると、残るはX JAPANと無敵バンドのみ。SUMMIT STAGEへと向けての民族大移動が進み、いつしか誰かが「We are…」と声をあげると「X!」という叫びが。それが延々と繰り返されていくなか、場内が最後の暗転を迎えたのは午後8時を15分ほど過ぎた頃のことだった。すると、いつも開演前に流れる各国のファンの熱狂を伝える映像が途中で、途切れてしまう。もしかしてスクリーンの故障? 結果、オープニング映像の肝心の部分については正常に流れたものの、あの一瞬の不穏な空気は心臓に良くなかった。

この日のX JAPANの演奏内容は、曲順なども含め、前2日とあからさまな差異はないものだった。変化があったとすれば、ポジティヴなことのみだ。たとえば僕は、第二夜にいつも以上にファルセットを使っていたToshl(Vo)の喉のコンディションを少しばかり心配していたのだが、その第二夜の対処のあり方が功を奏したのか、この夜は本来の唱法を貫き、「そこまで伸びるのか!」と言いたくなるほどのロング・トーンを存分に聴かせていた。YOSHIKI(Dr,Piano)と彼の言葉上のやり取りはいっそうくだけたものになり、YOSHIKIの発言が迷子になりそうになるとToshlがすかさず突っ込みを入れて軌道修正する、といった場面も。やはりこうした巨大イベントの代表者としての役割を果たすことについては、彼らのなかにも並大抵ではないプレッシャーがあったに違いない。それが、この最終局面においては解けてきつつあるのが伝わってくる。また、PATA(G)が療養後だということを忘れさせるほどに快調そうなのも嬉しかったし、HEATH(Ba)とSUGIZO(G)のコンスタントな安定ぶりも、このバンドのライヴを高次元で成立させるうえで大きな役割を果たしていることを改めて痛感させられた。

前述の通り、1曲目の「JADE」から本編最後の「X」、さらにはアンコール枠にあたる「ENDLESS RAIN」と「ART OF LIFE」に至るまで、演奏メニューに一切の変更はなく、観る側にとっては次にどの曲が飛び出してくるのかがあらかじめわかっているような状態でもあった。が、そうした予備知識が興奮の邪魔をしないのも、彼らのライヴのすごさのひとつだ。たとえ事前に決められた順番通りに演奏されていようと、その日の彼らには、やはりその日にしか会うことができない。もちろん大量のパイロや映像、照明効果などを伴った大掛かりなショウであるだけに、彼らにはある意味、巨大なマシーンの一部にならなければならないようなところもある。が、そこで完璧な演奏をしながらもかならず人間味を、感情の揺れや昂ぶりを感じさせてくれるのがこのバンドなのだ。

最後の最後、「ART OF LIFE」のクロージングの一節を歌い切ったToshlがその場にうずくまり、ほぼ同じ瞬間にYOSHIKIも仰向けに横たわる。そんなシーンを芝居がかり過ぎていると言う人たちもいるのかもしれない。が、すでにお決まりになっているそうしたシーンにすら感情移入したくなるのがこのバンドのライヴなのだ。それはあらゆる場面から、彼ら個々の本気が伝わってくるからこそだろう。

「またみんなと会えるよう、俺たちも頑張っていくから」
最後の「We are X!」の連呼の前に、YOSHIKIの口からはそんな言葉も聞こえてきた。次はもちろん、ニュー・アルバムを引っ提げてのライヴが観たい。その日の到来までに、こちらも自分のすべきことを頑張るしかない。あまり具体的な演奏内容についてこの場では触れずにきたが、それはまた別の機会に譲るとして、とにかくX JAPANがこの夜も深く記憶に残るライヴを完遂したことは、間違いない。

そしてVJSは、まだ終わらない。最後の仕上げは今夜も無敵バンドだ。その場で演奏されたのは、第二夜と同様にSEX PISTOLSのパンク・クラシック、「Anarchy In The UK」と「God Save the Queen」。もちろんステージ上に居並ぶミュージシャンたちの顔ぶれは違っている。そこで特筆すべきは、この日に出演していたわけではないGLAYの面々がこの場面のためだけに来場していた事実だろう。その場にX JAPANがいて、LUNA SEAとGLAYがいて、ゴールデンボンバーもいればcali≠gariもいる。YOSHIKIは3日間を通じてのすべての出演バンドの名前を読み上げて謝意を表し、読み忘れがないかどうかを気にしていたりもする。かと思えば、THE SLUT BANKSの名を呼んだ時には、そこにTUSKが居ることを思い出して「来年はZi:KILLよろしく!」などと声をかけてみたり。さらに付け加えておくと、前2日にはHIDEのギターを抱えてこの場に登場していたYOSHIKIは、この夜にはTAIJIのベースを弾いてみせたのだった。この賑やかでハチャメチャなセッションは、きっと彼ら二人の耳にも届いていたに違いない。


2曲のセッションを終え、記念撮影までを終了した頃には、すでに午後10時45分を過ぎていた。「電車、なくなっちゃう」と言いながら帰路を急ぐ人たちも少なくない。僕はといえば、結果的には無事に帰宅することができたものの、この時点ではどうやって帰るべきかを考えてもいなかった。結局、それくらい僕は楽しんでいたのだと思う。もちろん目に見えるところでもそうでないところでも問題は少なくなかったし、すべてを全面的に肯定することができるわけではない。また、VJSの持つ意義というのがいかなるものだったかをきちんと自分なりの文章にするためには、もう少し時間を要することになりそうだ。が、とにかくこの3日間を幕張メッセで過ごして良かったと思っている。なにしろこんな僕ですら「明日からまた頑張ろう」という気持ちになれたのだから。

取材・文◎増田勇一
写真:VISUAL JAPAN SUMMIT 2016 Powered by Rakuten

この記事をツイート

この記事の関連情報

*

TREND BOX

編集部おすすめ

ARTIST RANKING

アーティストランキング

FEATURE / SERVICE

特集・サービス