【インタビュー】テイラーギター創始者とマスター・ビルダーが語るギター作りにかける情熱と理念

ツイート

■私が貢献したことがあるとしたら弾きやすいギターを作ったということでしょうね
■そうかアコースティック・ギターというのは弾きにくいものだったのかと気づいたのです(笑)


――では、テイラーのギターの魅力について話をしましょう。まず、テイラーのギターは深みと煌びやかさを併せ持った素晴らしいトーンが特徴です。あの音色に辿り着くまで、時間は掛かりましたか?

ボブ・テイラー:ギターの音に関しては、私にとってはすごくシンプルなことでした。なぜなら、自分にとって好ましいと感じる音を出すだけでしたから。それが、30年から40年に亘ってテイラーを続けてくる中で生まれたのは、ある種のラッキーな偶然による産物だったのです。テイラーのネック・ジョイントがボルトオン構造になっているのは、偶然ではありませんけどね。それは間違いなく40年間掛けて、私が開発したものです。それに、テイラーが有名になったのはトーンよりも弾きやすさだったり、個体差が一切ないといったことが大きかった気がしています。ものすごく正確に作られているということが、私が一番強くフォーカスしたかったことなのです。アコースティック・ギターというのは、当たり外れが激しい。それを無くすということが根本的なコンセプトで、音に関しては二の次だったのです。音は、私が好きな音がするように作ったら、たまたまそれが多くの人に気に入ってもらうことができたという印象です。ただし、今のテイラーの音は全部アンディがデザインしているので、私が手掛けていた頃とはまた全然違うレベルで生まれています。彼は私よりもギターのことについて圧倒的に詳しいし、技術がありますから。

――アンディさんはテイラーのトーンを、どういうものと捉えていますか?

アンディ・パワーズ:僕がテイラーで働くようになった時点から、もう少し時間を巻き戻して話をしますね。僕はかなり長い間ギターのリペアワークをしたり、人のギターを調整したり、触ったりしてきたので、ほぼ全てのメーカーのほぼ全てのギターのことを把握しています。こういう音を出したいなら、こういうアプローチを採れば良いということが、僕の頭の中にデータバンクとしてある。なので、テイラーに入って、テイラーのギターを触り出した時は、“なるほど。こういう音がするのは、こういう理由だからか”ということも、すぐに分かりました。そうやって、テイラーの全部のモデルを見ていく中で、いわゆるテイラーのシグネチャー・サウンドというのはどういうものかを理解したんです。そのうえで、それぞれのモデルにもっと個性を持たせるために、それぞれのギターがどういう音を出したいと思っているのかということを意識して、トーン・チューニングに取り掛かりました。それは、今も変わることはなくて、テイラーの歴史的なシグネチャー・サウンドをリスペクトしながら、もっと表現するために、どうやってそれぞれのギターの個性を引き出すかということを考えています。


▲ボブ・テイラー

ボブ・テイラー:アンディが今のテイラーで手掛けていることは、プロダクト面を担っている私とは逆にトーンを形づくることです。彼の中には、このギターはこういう音にしたい、このギターはこういう音にしたい…という風に全部イメージがあって、それを形にするには何をすれば良いかということが完全に分かっている。つまり、元々の工業製品としての素晴らしさがあったところに、アンディが加わって上質なトーンを乗せられたことで、テイラーの新しい扉が開いたのです。彼は、テイラーのシグネチャー・サウンドと呼ばれるものの中で、良いところだけをさらに伸ばしてくれました。

アンディ・パワーズ:ボブの説明をさらに補足すると、ボブはすごくメカニカルなアプローチでギターを作ってきたんですよ。その中で、たまたま多くの人を魅了する音色が生まれてきた。逆に、僕はすごく音楽的なアプローチでギターを作っています。僕の中には出したいトーンが明確にあって、それをギターに反映させるという手法を採っているので。そういう2人がいて、その真ん中にあるのが今のテイラーです。

ボブ・テイラー:私が思う私自身の一番の才能は、テイラーのファクトリーを作ったことです。たとえば、テイラーのガットギター・スタイルのヘッドストックはとても美しいものですけれども、それを普通の人が作ることができる。マスター・ビルダーや熟練したクラフトマンなどではない、普通の技術しか持っていない人達が集団で工芸的な美しさを備えた楽器を作ることができるのです。そういう組織や仕組みを作ったことが、私の一番の才能だと思います。そのうえでアンディに話したのは、君は自分の心の中に生まれたものを形にする素晴らしい才能を持っているから、そういう君と私が組んだら凄いことができるんじゃないかなということでした。


▲アンディ・パワーズ

アンディ・パワーズ:僕達は2人ともギターが好きで、音楽が好きで、そんな僕達が作ったギターを世界中のアーティストやプレイヤーに届けることによって、もっと沢山の音楽が生まれると良いなと思っています。僕が考えているのは、本当にそれだけです。そういう意味では、僕のところにギターを作って欲しいといって来たお客さん一人一人ためにギターを作っていた頃と変わっていないんですよ。今でも自分でこういうギターを作りたいと思うと、最初の1本は手作りで作っていますから。

ボブ・テイラー:それを沢山作れるようにするのが私の役割なので、たとえばアンディが、このギターは、このパーツをこうしないとダメなんだと言えば、それが今までのプロダクトと全部違っていても受け入れています。テイラーには、アンディの言っている仕様を活かして形にするにはどうしたら良いかということを考えるエンジニア・チームがあるんです。そのうえで、全てのギターを同じクオリティーで大量生産するにはどうすれば良いかということは、私が世界で一番良く知っていますから。つまり、アンディがイメージしたものを、最良の形で製品化できるのです。だから、アンディが納得してパートナーシップを築ける人間は、他にはいないと思います。そうでなければ、彼はずっと1人でギターを作り続けていたでしょうね。

アンディ・パワーズ:それは間違いない。僕は1人の工房でも全然食べていけるくらいの利益をあげていたので、わざわざ大企業に勤めるという理由がひとつもなかったんです。そもそも僕は音楽的な要素を重視してギターを設計するので、人に理論的に説明できないんですよ。僕が一番困っていたのは、そこだったんです。一度、自分のやっていることを人に説明してギターを作ってもらおうとしたことがあるけど、うまくいかなかった。というのは、僕は足し算ではなくて、引き算でギターを作っていくから。大きな塊があって、これは要らない、これは要らないと省いていくと望んでいるギターになるというイメージなんです。それは、なかなか言葉では説明できないし、逆にギターはパーツを組み上げて作っていくものだと考えている人にとっては“何の話だ?”ということになる。それで、もう諦めかけていて、自分は一生1人で、工房でギターを作り続けるんだと思った時にボブと出会った。ボブと話をして、この人はわかってくれるということを確信したんです。なぜかというと、ボブは音楽を大事にするし、プレイヤーを大事にする人だから。僕が音楽のためにこういう仕様にしようと言うと、ボブは分かったと言ってプロダクトを整えてくれるんです。それこそ工場の中身をすべて変える必要があるような場合でも、ちゃんと実現してくれる。そんなパートナーは、他では絶対にありえませんよね。

ボブ・テイラー:たとえば、今回の800シリーズの塗装は、業界で最薄なんですよ。非常に薄い塗膜でいながらグロス・フィニッシュなので、今までなかったんですね。そういう圧倒的に薄い塗装にしたいとアンディが言いだして。その時は塗装を薄くする方法もアンディが考えたのですが、企業のオーナーとしてそれにゴーサインを出すか、出さないかが私の仕事なわけです。CEOという立場として、そんなことをしても儲からないからやめろと言うのか、好きだけやれと言うのか。私は、迷うことなくゴーサインを出しました。それくらい、彼のことを信頼しているのです。


▲800シリーズ

――テイラーのギターに触れるたびに、テイラーは自分達の都合をユーザーに押し付けないブランドだなということを感じます。

ボブ・テイラー:そう。テイラーは、工場の都合でギターを作ることはありません。ギターの都合で、工場を変えるのです(笑)。そういうことは、しょっちゅうですよ。アンディがこれをやりたいと言うと、私のチームが「うわっ! これは大変だぞ」といって頭を抱え込む。たとえば、新しい700シリーズのウッド・バインディングは、木材の年輪が模様として使われているんです。これはアメリカの伝統をリスペクトしたギターにしたいということで、アンディがこだわった部分なんです。それを1本物でやるのは難しいことではありませんが、テイラーは1日に750本のギターを作っていますから。かなりの難題でしたが、アンディにとって大事なことは私にとっても大事なことなので、大量生産する方法を見つけました。


▲700シリーズのウッド・バインディング

――お二人のギターに対する深い愛情を感じますし、楽器としての美しさもテイラーの大きな魅力になっています。先ほど少し話が出ましたが、テイラーのギターはボルトオン・ジョイントを採用していることも大きな特徴です。

ボブ・テイラー:アコースティック・ギターをボルトオン・ジョイントにしたのは革新的なことだとよく言われますが、私は最初の3本のギターを作った後、4本目からボルトオン・ジョイントにしたんです。なぜかというと、私はギターのことを全く知らなかったから(笑)。私は、ギターを手にすると一発コードを鳴らしたら弾くのをやめて、サウンド・ホールからギターの内側を覗き込むような少年でしたが、ギターの伝統的な作り方や構造などは全く知らなかったのです。4本目のギターをボルトオン・ジョイントにしたのは、私にはダブテイル・ジョイント(セットネック)のギターをちゃんと作ることが出来なかったからです。ダブテイル・ジョイントは面倒だし、それが大事なことだと分かっていなかった(笑)。ボルトオンのほうが簡単だし、見えないところだし…ということで始めたのです。

アンディ・パワーズ:僕は、ボルトオン・ジョイントというのは、すごくクールだなと思いました。なぜかというと、それがミュージシャンにとってどういう利点があるかが、瞬間的に分かりましたから。ダブテイル・ジョイントとボルトオン・ジョイントのどっちが優れているかということではなくて、どういう人のために、どういうギターを作りたいかによって選ぶべきことですよね。テイラーのアプローチというのは、長期的な視野に立ったものだと思います。何十年経ってもネックの角度を調整できるというのは、それまでのアコースティック・ギターにはなかった要素ですから。それができるということは、長い間ギターを弾いて欲しいという想いの現れですよね。それは、僕がテイラーに入る前に、テイラーのギターに触れた時から感じていたことです。

ボブ・テイラー:現在のテイラーのボルトオン・ジョイントは、バージョン3なんですよ。バージョン3になってから17~18年になるのですが、これほど精度の高いボルトオン・ジョイントは、人間の手作業では不可能です。高度な正確さを必要とするので、コンピュータで制御する最新のマシンを使って材を切り出さないと無理なんです。でも、逆にいうと、マシンの扱い方が分かれば誰でも作れるのです。熟練したクラフトマンが手掛けたベストな状態と同じものを、1日に750本作ることができる。それを実現させたことが、私自身が一番凄いと思うところです。

アンディ・パワーズ:最初にテイラーのギターを修理した時のことは、よく覚えています。テイラーのギターを分解してみて感じたのは、これは楽器を作る人の発想ではないなということでした。工業製品の分野の人が作ったギターみたいで、すごく精度が高くて、これは凄いなと思いましたね。たとえば名の通ったブランドのエレキギターを修理するためにボルトオン・ジョイントのネックを外すと、ネックの角度を微調整するためにビジネスカードの切れ端が挟んであったりするんです(笑)。僕は、リペアマンとして正確な仕事をしたくて、理想的なネック角にするための完璧なシムを沢山持っていたんです。だから、どれだけ正確なシムが入っているかといったことも、僕はすぐに分かる。でも、残念ながら有名なブランドのギターでもビジネスカードだったりするという(笑)。テイラーはそういうところが一切ないのが、素晴らしいと思います。

ボブ・テイラー:私は、誰でも上質な楽器を作ることが出来るシステムを作りたいと思っていただけです。ただ、私がアコースティック・ギター業界に一つだけ貢献したことがあるとしたら、弾きやすいギターを作ったということでしょうね。私は、そこはあまり気にしていなかったのですが、テイラーを弾いたプレイヤーがこぞって弾きやすくて良いと言うんですよ。そこで、気づいたのです。そうか、アコースティック・ギターというのは弾きにくいものだったのかと(笑)。

アンディ・パワーズ:アハハ!! その話も凄いな(笑)。

◆インタビュー(3)へ
◆インタビュー(1)へ戻る
この記事をツイート

この記事の関連情報

*

TREND BOX

編集部おすすめ

ARTIST RANKING

アーティストランキング

FEATURE / SERVICE

特集・サービス