【対談連載】ASH DA HEROの“TALKING BLUES” 第3回ゲスト:松岡充 [MICHAEL / SOPHIA]

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■ボーカリストって俳優みたいなもの
■芝居ができる俳優は自己表現がちゃんとしてる──松岡充

──“演じる”というのは、同じ舞台であっても音楽とは全く別モノだと思うんです。自分の中で振り切ってるからOKとはいえ、最初は、いわゆるネガティヴ要素が自分の中で渦巻くことはなかったですか?

松岡:現実的に舞台に立つときはビビリまくってますよ。だけど、これ以上ビビってもしょうがねえな、と自分で思えるぐらいの準備はします。俳優活動をやり始めた頃、錚々たるメンツの俳優さん達と顔合わせして、本読み(台本の通し読み)をするとき、僕は俳優として最初から出遅れているから、この人達よりもスタートを早く切らないといけないと思って、本読みで台本を全て覚えていったんです。それがあまりないことだから、まず“なんだ、コイツ!?”と思われたみたいで(笑)。やってできること、準備できることは、ギリギリまでやっていく。最初は緊張もするし、もちろんボロも出る。だけど、そういうことをやっていると、意外とやる気があるんだなって思ってもらえる。泉ピン子さんに“コイツ、スゲーな”って言われたんだけど、才能や実績よりも、この人はこっちを向いてくれていると思って嬉しかったな(笑)。たぶん、そうやって採用してくれる人の枠に、僕は今までハマってきているんですよ。

──ギリギリまで諦めないというのは、最後の2音までこだわる作詞の姿勢に通じる話ですね。

ASH:ストイックという言葉は、僕はあまり好きではないんで、使わないようにしているんですけど、そういう姿勢ですよね。

松岡:なんで、ストイックって言葉が嫌いなの?

ASH:“ASHくんはストイックだよね”とか言われると、途端にバカにされたなと思うんですよね。

松岡:そうなんだ。自分をストイックだと思う?

ASH:全く思わないです。ストイック=禁欲的ってことじゃないですか。そんなお坊さんみたいな生活は、自分は無理だって(笑)。煩悩の塊みたいなロックンロールをこっちはやってるんだからさ、と思っちゃうわけです。だからストイックと言われると、バカにされてるなって。

松岡:いや、バカにはしてなくて、この人はちゃんと考えて努力をしてるんだな、という意味だと思う。ただ、俺もストイックという言葉は好きじゃないかな。我慢しているよね、無理してるよねって意味と同じだと思っちゃうから。べつに無理してねえし、楽しいからやってるだけなのにって(笑)。

ASH:松岡さんは求道的なんだなって思う。これをやると決めたら100%やるのが普通だけど、松岡さんは、その100%のゲージをどこまでも伸ばしていくという感じがしますよ。役者としての側面、ミュージカル俳優としての側面、シンガーとしての側面、ロッカーとしての側面、実は全て同じことなんですよね。表現の仕方が違うだけで。松岡充でしか表現できないことを、全部でやっていると思うんですね。だから何をやってもハマるに決まっている。そう思うんです。僕は俳優じゃないから、あまり多くを語れないけど…。

松岡:やればいいのに。ASHくんの表現の枠の中に、芝居も全然ありだと思う。やっぱボーカリストって俳優みたいなもんなんですよ。本当に芝居ができる俳優は、自己表現がちゃんとしてる。そうじゃないと絶対にできないし。

ASH:俳優は、僕には無理かと(笑)。僕はテレビドラマ『人にやさしく』を観て、松岡さんがやらなきゃ、あの太朗くん(同ドラマで松岡が演じた山田太朗)にはならないはずだって思ったんですよ。松岡さんが太朗ちゃんを作り上げちゃうというか。太朗くんのモデルは、もともと松岡さんだったんだろうなって、そう思ったんですよ。松岡充というジャンルを改めて認識しましたもん。お芝居を演じているというよりは、表現していることの種類が違うだけで、すごく一貫しているんだろうなと。

松岡:理解者がここにいた(微笑)。こんなに僕の活動を深読みしてくれる人、あんまりいないからね(笑)。

ASH:松岡さんはマルチタスク脳の方なんだなって思うんですよ。こうしながら、実はこっちにいる人のことも感じられるという脳の使い方を、ずっとされている方なんだって。

松岡:ASHくん、人を見ようとするんだね、しかも小中学生の頃から(笑)。

ASH:イジメられていたというのが大きいんです。圧倒的な疎外感の中に立たされると、人って無になるんですよ。イジメられて悲しいとか、この世界が憎いとか、誰からも求められてないとか、その極限まで行ったこともあるんです。そこを超えると、無になる。そうなると全てが滑稽に思えてくる。あの人は嘘ついてるなとか、勝手に見えるようになって。だからテレビを通して観ていても、この人はいなくなるなとか、この人はどんどん売れていくだろうなとか、何となく分かる。人の細部まで観たくなる欲求も強くなっていったんです。だから今は、イジめてくれてありがとう、ぐらいに思いますよ(笑)。そういえば、松岡さん主演映画『TOKYOデシベル』が5月公開されるんですよね?

松岡:2年前に撮り終えたのが、この5月から公開されることが決まって。SUGIZOさんが音楽監督で、辻仁成さんが脚本、監督、演出。

ASH:松岡さんに、ぜひ主演してくださいってことで?

松岡:前に辻さんの朗読劇に出たことがあったんだけど、その後、MICHAELの1stアルバムのジャケット写真をパリに撮りに行って。“MICHAELだからミカエル山=モン・サン・ミッシェルに行こうぜ”って(笑)。そのときのコーディネイターさんがたまたま辻さんの知り合いで、“今、パリに来てる”って辻さんに伝えてくれたみたいでね。わざわざ辻さんが連絡をくれて、家に招いてくれた。そうしたら、いきなり台本がボーンと出てきて。“一応、読んでくれ”と。その後、“主演をお願いします”と。“この作品で世界に打って出るつもりだから、その相棒になってくれ”って。“分かりました、その夢に乗ります”って。辻さん、SUGIZOさん、俺が三角形でいることによって、普通の役者ではできないもの、音楽や音が聴こえるものを作ろうってところから始まった作品でもあって。作品のストーリーもすごくおもしろいんだよ。俺は音を集めて録って、音で東京の地図を作るという教授の役。

ASH:テーマがおもしろそう。東京中の音を集めて、音の地図を作るっていう。

松岡:映画の中で使う機材もちゃんと使えるものにしてくれって頼んで、ホントに俺がガンマイクで東京の音を録ったんだよね。撮影はすごくおもしろかった。でも映画という作品にはめ込むのは、すごく挑戦だと思う。辻さんは世界基準の人だなと思った。

ASH:辻さんの作品は僕もすごく好きで。既成概念をブッ壊していく方ですよね。それにストーリーの行く末が気になる。公開前に言っちゃダメなんでしょうけど(笑)。

松岡:安倍なつみちゃんと安達祐実ちゃんが、相手役なんですよ。僕演じる教授の恋人が安達祐実ちゃん演じるピアノ調律師、そこに突然現われる謎の女が安倍なつみちゃん演じる盗聴の女(笑)。だから全員、音で繋がっていて、そこで揺れ動く人間模様とか。

ASH:メッチャおもしろそうですね。

松岡:あと、観る人の脳を演出に使っているんだよね。辻さんは、観る人の脳をひとつの舞台として、それを使うことを計算に入れながら作ってるんだと思う。

ASH:イマジネーションの中から見えてくるものがあるという。“このことがあれと繋がって、こういうことだったんだ!”とか。

松岡:考えながら観る人にとっては永遠に広がっていく。ASHくんは絶対に好きなやつじゃないかな(笑)。

ASH:そういう作品は大好きなので(笑)、絶対に映画館に観に行きます!

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