【特集 インタビュー vol.2】植田真梨恵、音楽制作の源を語る「ひたすらたくさん曲が書きたい」

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■“いつの間にか遠くまで来たな”
■というところに集約されている

──「FAR」では思春期の植田さんの話が出てきますが、その時期ならではの、自分の内側で起こっている混沌とした思い、葛藤するような時間って、長くあったなと感じますか?

植田:うーん……思春期か。長かったと思いますね。ただ、全曲に言えるんですけど、自分に起きている現象を歌っているので、だからなに?っていう感じではあるんです。変わっていないつもりでも、変わっているし、変わることが悪いことじゃないし、なんとでも言えすぎて。例えば、「さなぎから蝶へ」でも歌っているんですけど、“いつの間にか遠くまで来たな”っていうところに集約されていると思うんです。意図せずになのか、がむしゃらになのか、無意識になのか、歩いていたらいつの間にかすごく遠いところまで来ている感じというか。ぼんやり海辺を歩いてたら、夕方になっていつの間にか波が高くなっていたりするような。それくらいの変化というか。それって自分ではあまり気づかない部分でもありますよね。逆に、“私ってすごく変わったなあと思うところに意識を持っていく”ことが、大人になったということなのではないかなと思っていて。それ自体は別に寂しくもないし、当然のことで。なので、「FAR」を作った時、実際に思春期だったと思うんですけど、今もまだ思春期かもしれないですしね(笑)。

──なるほど(笑)。

植田:わからないですけどね。その成長みたいなものが大切な要素なんだなと思って、この作品を作りました。

▲植田真梨恵 画像ページ【3】へ (※画像6点)

──曲に戻りますが、「プライベートタイム」は一転してゆったりとした空気があって、穏やかで贅沢なアンサンブルを楽しめる曲で。

植田:今回、気に入っている1曲です。

──“プライベート”というタイトル通り、半径が小さめで、その閉塞感がいいグルーヴを生んでいる曲ですね。サウンド的にどういうイメージを?

植田:これはミニ・アルバムに向けて曲を書いている中で、ぽろっと出来たんです。思いのほか寂しい曲が出来たというか……アルバム『ロンリーナイト マジックスペル』の「I was Dreamin’ C U Darlin’」を編曲していただいた廣瀬武雄さんに、なんとなくその感じが伝わるだろうなと思いながら、アレンジをお願いして。最初のデモでは、エレキギターが鍵盤の打ち込みで入っていたんですけど、その質感が絶妙に良くて。“これを実際にレコーディングで録り直して良くならなかったらどうしよう”っていうくらいデリケートで、空気の乗り方や音の運びが大切な曲だったんです。スタジオでそれ以上のものを録らねばと、本当にドキドキしながらレコーディングした曲で、その感じはミックスまでずっと続きました。何かの音量感が違うだけで、陽気な曲にもなるし、寂しくもなるんですよ。ここで音量が上がらなかったらスケールがもっと小さくなったとも思うし。そういう細かなところがとても大切な曲でした。今回は、どの曲もそうなんですけど、特に「プライベートタイム」はその要素が大きかったです。

──植田さんが原曲を書いたときから、音的な距離感とかのイメージがあった?

植田:懐かしい雰囲気というのは目指していましたね。ずっと同じレコーディングエンジニアさんとやっているんですけど、例えばマイク選びやコーラスを重ねる時にも、「ノラ・ジョーンズのこのアルバムのこの曲の感じにしたいんです」とか「ここはこのコーラスワークの雰囲気を出したいんです」とか、いろいろ話し合いながらここまで積み重ねてきたので。今回のアルバムに関しては、共有できる音楽的な要素がこれまでより大きかったということも、大きいですね。

──そして、先ほど話にあった「さなぎから蝶へ」もまた別の意味で新しい感じでした。このキラッと懐かしいシンセが効いたポップな感じって、今までやってこなかった部分だなと思ったんです。

植田:「さなぎから蝶へ」は楽しい曲にしたかったんです。『F.A.R.』に続けてリリースするミニ・アルバム『W.A.H.』のコンセプトは、“和”なんですね。それで、『F.A.R.』のほうは洋楽っぽいイメージで作っておきたいと思って。なので、「プライベートタイム」も「さなぎから蝶へ」もちょっと懐かしいポップな感じを作りたかったんです。“アイラブユーモア ラブユー”というサビの頭の部分も、かわいらしい女の人──女の子じゃなくて、女の人の歌ものという感じが出たらいいなって書いた曲でしたね。私、20代に入ってすぐくらいに、カフェでアルバイトをしていたんですけど。カフェで流す音楽って結構難しくて。最初から最後まで気持ちがいい音楽じゃないとかけられないんです。なので、私には難しいジャンルなんですけど(笑)。カフェでかけられるような1枚になったらいいなという思いも『F.A.R.』にはあるんです。「プライベートタイム」からはじまって、「さなぎから蝶へ」はちょっとネオアコみたいな雰囲気もあって。曲調の雰囲気としては、それを意識して作って行きました。

▲植田真梨恵 画像ページ【3】へ (※画像6点)

──そんな裏テーマ的なものもあったんですね。たしかにギターサウンドやアレンジにはネオアコが感じられます。

植田:編曲の岡崎健さんは「REVOLVER」のアレンジをしてくれた方で。最初にデモを聴いてくださったときに、電話でお話をしたら、「この曲、すごく寂しい感じなんだけど、どういう曲なの?」って、とてもデリケートに扱ってくださって。私もわりとそういう思いを込めた曲だったので、“その寂しさみたいなものを下地に敷いてアレンジしていけるなら、きっと大丈夫”と思いながらやりとりをしていきました。

──寂しさや切なさを前面にというよりは、さなぎから蝶へと変化をしたり、違う世界へという前向きさも感じさせるというか。

植田:「さなぎから蝶へ」というタイトル自体、いろんな捉え方をしてもらっていいんですけど、“死”みたいなものが含まれている曲でもあるんです。私にとってもそうですが、音楽家が亡くなって体を持たなくなったとき、決して悲しみばかりではなくて、さなぎから蝶になるようにヒラヒラ飛んでいって、音楽が残って。耳元で蝶に囁かれるような歌になればと。もちろん寂しいんですけど、また、そんなふうに音楽を感じられて、嬉しいみたいな歌にしたいなって思っていました。

──間奏の部分に、囁き声のようなフレーズがあるじゃないですか。あの部分は何を語っているんですか。

植田:実はこの曲は、亡くなってしまったシンガー・ソングライターの真友ジーン.ちゃんに宛てて書いた曲なんです。その部分では、彼女の曲の歌詞の一部をほんの少し喋っていて。イントロからシンセのメロディが鳴っているアレンジなんですけど、そのフレーズがいつの間にか違うメロディになっているような、ループしているようなイメージで。この声の部分も、周波数が合ったところだけ聞こえるような感じにしたかったんです。ラジオのチューニングが合って、“一瞬聞こえた?”みたいな異世界感にしたくて。

──細部にまでしっかり意味が込められた曲ですね。

植田:そうですね。これも好きな曲になりました。


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