【インタビュー】Negative Campaign、目指すは「肉たっぷりのハンバーグ」

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■俺はハンバーグになりたいんだ!

──Twitterによると、『Negative Campaign II』は、伊藤さんが15歳から30歳の間に作った曲だそうですね。

伊藤:前作はライブでやっている曲を中心に収録したんですけど、今回は無限にあるストックのなかから、1枚にコンパイルするうえで親和性の高い曲を集めた結果こうなりました。「グッバイ、かにみそデイズ」や「ねぇ」という曲は勇人のリクエストで、「ねぇ」がまさに15歳頃に作った曲なんです。作り手としては新曲を入れたいのが正直なところですけど、メンバーであると同時にリスナーでもある彼が“入れたい”と言ってくれているのであれば、僕がひとりでNegative Campaignをやっていた頃から知っている人も聴きたいと思ってくれているかもしれないなと。CDを買ってくれた人が“「ねぇ」が入っていてうれしい”とつぶやいたりしてくれてたので、入れて良かったなと思いましたね。

佐々木:素晴らしい!(と言って拍手をする)

伊藤:これをやったら売れそうだとか、こういうポップなことをしてみたらウケがいいんじゃないかとか、そういう基準では選んでないよね。

佐々木:うん。単純に自分たちの感性が反応するものだね。

──加えて、前作のアンサー的位置づけでもあるそうですが?

伊藤:今作に入っている「Empty Lamp」は前作の表題曲の「スーパーカブに乗って」のアンサーですね。歌詞の意味は違うけど、“からっぽ”というのは掛け合いになってます。普通はネガティブなものにポジティブなアンサーをつけるのが常套手段だと思うんですけど、1stでポジティブに進んでいこうとしていくところに2ndで“いやいやいや”と引きとめるような感じ。「Traveling Nowhere」では“どこにも行けないことを確かめるためにどこまでも行くんじゃないの?”と歌っていて、「スーパーカブに乗って」に感情移入してくれてる人が聴いたらイラッとするんじゃないかと思うようなことをしています(笑)。




──いやいや(笑)。後ろ向きで卑屈だとは感じなかったです。

伊藤:裏テーマとしてあるのは“今いる場所を好きになるために、いろんなところに行くんだろうな”ということですね。遠出するとどんなに楽しくても帰りたいって思うじゃないですか。それは自分がふだんいる場所に“ここにいたいな”と思って過ごしてるわけではないからだと思うんです。それを確かめるためにどこまでも行く。前作は現状に不満を持っていて、何かを変えてやりたいというのがテーマになっているんですけど、今作はそこから成長した視点になったかなと思いますね。

──「Empty Lamp」の間奏はASIAN KUNG-FU GENERATIONの「君の街まで」っぽい匂いがしましたが。

伊藤:コードが同じです(笑)。前作で“ASIAN KUNG-FU GENERATIONっぽいね”と言われることがあって。僕らとしては全然意図してなかったから、じゃあ思い切って寄せて作ったらどうなるかな?と思って試したのが「Empty Lamp」です。転調はくるりの影響ですね。

佐々木:あの転調がいいですよね。意外だけどしっくりくる。


──オマージュを多数組み込むのは、サンプリング的な感覚でしょうか?

伊藤:僕はヒップホップを通ってないので、Corneliusの影響が大きいですね。子どもの頃に聴いている時は元ネタがわからないままにかっこいい!と思ってたけど、大人になっていろんな音楽を聴くようになって、50〜60年代のガレージロックを聴き漁ってたら“あれ!? これ聞き覚えあるぞ!”と思って振り返ってみたらCorneliusだったんです。最初は“盗作じゃね?”と思ったけど(笑)、どうやら1フレーズくらい引用するのはいいらしいと。Hi-STANDARDもいろんな元ネタが散りばめられてるし、コードは違うけどバッキングの仕方がアイアン・メイデンと一緒だったりとか──それを“影響を受けた”と言っていいんだな、と知ってから、その名目のもといろいろ元ネタを仕込んでます(笑)。

佐々木:映画と同じだよね。“このシーン、あの映画と同じ角度だ”とか、“全然違う映画だけど同じ役者が同じ役で出てる”とか。

伊藤:そうだね。勇人はSFとか宇宙みたいな規模が好きなんですけど、俺は“今この瞬間、隣の部屋ではどんなことが起こってるんだろう?”みたいなことが気になるんです。隣の部屋を歌うにしても、窓から見るのと、音だけ聴くのでは受ける印象も全然違うから、それでまた全然違う曲が生まれていく。同じ事柄を違う視点で歌ったりしているのは、そういうところも出てますね。

佐々木:わかる〜!

伊藤:……今ので急に空気がポップになったね。(レディオヘッドの)「Creep」のジョニー・グリーンウッドのギターが入るからこそロックになるのと同じだね(笑)。あと、曲は3分以内に収めたいから、“あ、こんなにいろいろやってるんだ!”と思わせたい気持ちが大きかったり。


佐々木:でもそれに無理がないから、自然に聴こえるよね。

──いろんなものを組み合わせることで自分の表現を作るということ?

伊藤:というよりは、自分の表現したいことにぴったり合うものがあれば、面白いからそれを入れちゃうって感じです。自分だけで作ったのっぺりしたものだと寂しいけれど、そのテーマに合った──たとえば「サンドウィッチガール」は表現したいことがまさにJ・ガイルズ・バンドの「堕ちた天使」だったので、それを引用しています。「Azumication」も露骨ですね(笑)。

──レッド・ツェッペリンの「Communication Breakdown」ですね(笑)。

伊藤:スイカに塩を入れるようなことができたらなと思うんですよね。ポップソングなら多少ネガティブなことを歌っても受け入れてもらいやすいし、そのギャップが面白いし。ネガティブなワードが入るとポジティブなワードも際立ちますしね。「スイカ」は『すいか』(2003年放送)というドラマが好きなことから作ったんですけど、僕、あのドラマを冬に観るのが好きなんですよ。

──夏が舞台のドラマでしたよね。それもまたギャップのあることです。

伊藤:あのポップで明るい雰囲気なのに、なんだか抉られるものが潜んでいる、なんとも言えない陰鬱な空気感がある。『セクシーボイスアンドロボ』(2007年放送)とかもそうですよね。なんでそんなこと言っちゃうの? なんでゴールデンタイムにこういう作品が放送されてるんだろう? みたいな世界が表現できたと思っています。やっぱりひねくれ者だから、まっすぐにポップだと面白くないなと思っちゃうんです。どこか引っかかるポイントが欲しい。ザ・ビートルズの「She Loves You」とか、“彼女を語ってるお前は誰なんだ?”って感じがするじゃないですか。

佐々木:クセがあるものって、考えさせてくれるものだよね。だから面白い。

伊藤:だから自分も“ん? どういうこと?”と思わせたい。「Azumication」とか、“あずみって誰だよ!”って感じですよね(笑)。

──あずみちゃん間違いなくヤンキーですね(笑)。

伊藤:髪の毛はプリンですね(笑)。

佐々木:いいメロディだなと思って聴いてたら歌詞見て驚愕しました(笑)。だって主人公はあずみちゃんと話したことないんだもんね?

伊藤:<僕の名前を君は知らないよ/しゃべったこともない>からね(笑)。そういうやつが主人公だから<ねぇ、あずみ愛してるよ>という普遍的なワードを入れられるんですよね。

──うんうん。違和感のバランスが絶妙で。

佐々木:バランスがいいんですよ! 素晴らしいバランス!

伊藤:やっぱりそのミックス感は90年代の影響なのかな。80年代は独特な文化が生まれた時代だけど、90年代って50〜70年代の歴史を持ち寄って作られたものが多い気がするんです。Hi-STANDARDには影響を受けてるけど、ストレートにパンクをするわけではない。その結果どこにも属せない音楽にはなっているんですけど(笑)。ひねくれすぎてどこにも行けない(笑)。


──「Traveling Nowhere」のとおり、どこにも行けないからどこまでも行くしかないですね(笑)。

伊藤:ストックがとにかくたくさんあるので、まだ出したい、まだ出したいという欲がありますね。ありがたいことにCDを出させてもらって、ネットで見つけた聴いてくれた人の感想を読んで、“僕のように鬱々とした思春期を送っていた人に聴いてほしい”という僕の夢はひとつ叶ってるんです。そこでひとつの終着点に到達させてもらったんですよね。そうすると夢叶えたあるあるで、また新しい夢が生まれてくる。自分の夢を叶えてくれた人に恩返しがしたいと思っているんです。……ちょっとクサいんですけど。

──クサいだなんて。とても素敵だと思います。

伊藤:1stアルバムを出して、ツアーで受け入れてくれたライブハウス、すごくいいねと言ってくれた人たちに恩返しがしたい。ライブハウスにお客さんをたくさん呼びたい。でもその夢は、どこのシーンにも属せない、理解してもらうのに少し時間がかかる音楽をやっている僕らには本当に途方もないことで。自分たちとしてはめちゃくちゃポップなものをやっているつもりではあるんですけどね(笑)。多くの人がライブハウスに足を運ぶきっかけの作品になってほしいです。

──今作をリリースする前から、もう3rdフルアルバムの制作に入っているそうですが、そちらの作風はどうなりそうでしょうか。

伊藤:今作がザ・ビートルズの『Revolver』なら、次回作は『Rubber Soul』みたいな感じにしていきたいなと思っていて。いきなり『White Album』(アルバム『The Beatles』の通称)になるようなことはないです(笑)。ほかの例えにすると、サバの干物からホッケの干物になる感じかな? 世代問わず楽しめて、違和感を残しつつポップに磨きを掛けたいなと思います。

──いろんな感情を味わえるのも、Negative Campaignのいいところということで。

伊藤:友人に“Negative Canpaignはホヤみたいなバンド”と言われたことがあるんですよ。すべての味覚を同時に味わえる。でも俺はホヤが大嫌いなんです! 俺はハンバーグになりたいんだ! いろいろ喋りましたが、“みんな大好きハンバーグ”なロックバンドになりたいです(笑)。

佐々木:肉たっぷりのハンバーグがいいね!(笑)

取材・文◎沖 さやこ

▲Negative Campaign/『Negative Campaign II』

2nd Full Album『Negative Campaign II』

2019年11月6日(水)発売
PADF-010
¥2,300(+tax)
レーベル:Paddy field
流通:PCI MUSIC

1.Primitive
2.Empty Lamp
3.ストーリーテラー
4.スイカ
5.Azumication
6.グッバイ、かにみそデイズ
7.ねぇ
8.サンドウィッチガール
9.Destroy The Moon
10.I don’t wanna waste my time
11.セミロング〜純情編〜
12.Traveling Nowhere
13.ヘイトスピーチ

<Negative Campaign “Traveling Nowhere TOUR 2019”>

2019年
11月30日(土)東京・府中Flight
12月1日(日)大阪・福島2nd Line
12月8日(日)愛知・栄R.A.D
12月15日(日)岩手・盛岡the five morioka
12月17日(火)宮城・仙台enn 3rd
12月19日(木)東京・下北沢SHELTER

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