【インタビュー】レルエ「聴かれないと意味がない」、大衆性を重視する理由

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2020年3月4日に、メジャー移籍第1弾作品となる1st EP『Eureka』をリリースしたレルエ。3人にとって初のアニメタイアップ曲である、アニメ『モンスターストライク』最終章となる『エンド・オブ・ザ・ワールド』の書き下ろし主題歌「キミソラ」を含む全5曲が収録された同作は、ダンスミュージックを基盤に多彩なアプローチを実現させた洗練の1作となった。今回のインタビューでは、リリースからしばらく経ったことで彼らが感じる発見や、次回作に向けた想いを訊くだけでなく、彼らの軸となるポップスやダンスミュージック、情景という概念をあらためて探った。メジャーシーンへと飛び立った彼らは今なにを思う?

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■聴かれないと意味がない

──レルエはメンバー3人に謎めいている印象があって。メンバーの人間性や精神性以上に、楽曲の世界観が矢面に立っている。90年代や00年代初頭のアーティスト像に通ずるものがある気がしたんですよね。

櫻井健太郎(Vo&G/以下、櫻井):やっぱり、自分がそういうアーティストを聴いて育っているので、そういう謎めいた存在には憧れますね。

saya(Vn&Syn&Cho):情報やメンバーの人間性はうまいバランスで発信したいと思っています。例えばラジオを聞いている人だけが、そのアーティストの深い部分を知っている、という感覚に近いかもしれないですね。レルエの原点や核になっているのは楽曲なので、すべて楽曲の世界観を大事にしたい気持ちからこういうスタンスを取っています。本当のものでないとリスナーの方々には届かないと思うので。

──では、Twitterで投稿されていた、エンドウさんがホワイトデーのお返しに生ハムを贈ったお話も本当なんですか?(笑)。


エンドウリョウ(B/以下、エンドウ):ホワイトデーに何を返そうか悩んだ結果、生ハムしか思い浮かばなくて(笑)。美味しい生ハムのお店があったんですよね。

saya:ホワイトデーに返したもの、生ハムしか覚えてなかったらしいんです。

櫻井:お返しに生ハム渡されて、相手はびっくりしなかったの?

エンドウ:びっくりはしてたけど、そんなに悪いリアクションではなかったよ(笑)。

──(笑)。そういう流れもあって、レルエはトレンド以上に、自分たちのポリシーを大事にしているバンドなのかなと思ったんですよね。楽曲にも少し懐かしいアプローチも多いので。

櫻井:最新の音楽の要素と、自分たちの育ってきた音楽の要素をどれだけ近付けて大衆性に持ってこれるかを課題にしてますね。日本でJ-POPをやっていくうえで“大衆性”はすごく重要だと思うんです。マイノリティな要素を使ってどうやって表現していくかは、毎回葛藤してますね。

──なぜそこまで大衆性が重要なのでしょう?

櫻井:たくさんの人に聴いてほしい、ということに尽きますね。ひとりでも多くの人に僕の作った作品を見てほしい、聴いてほしい。そのうえでなにかを感じ取ってほしい──どんなことを感じ取ってくれてもいいんです。音楽は芸術だと思っているので、僕は自分の気持ちを曲に強く込めるとか、自分の音楽で誰かを救いたいという気持ちは一切ないし、“この曲はこういうふうに受け取ってもらいたい”という僕の意向を発信するのは違うなと思う。僕がもし怒りの曲を書いたとしても、聴いてくれた人が楽しい曲、喜びの曲と受け取ってくれても全然いいし、レルエを聴いて救われるのも素敵なことだと思うんです。レルエの音楽を聴いてもらうのは、美術館に来てもらうのと同じ感覚ですね。

saya:流行のスピードはどんどん上がっている気がするので、それだけを追いかけていくと自分たちがなくなっていく──というか振り回されてしまう。でもそれを無視するのも違うと思うんです。なぜ流行が生まれるかというと、それを求めている人が多いからですよね。

──たしかに、流行は大衆性の象徴だと思います。

saya:音楽は聴かれないと意味がない。わたしはバンドをやる前にクラシックをやっていて、審査員の人の前でしか演奏をしてこなかったんです。聴いてくれる人がいないと、どれだけ表現をしても気持ちが浮かばれないし、聴いてくれる人がいるからこそ音楽は成長するものだと思うんです。自分たちが思ってもみない受け取られ方をするかもしれないし、聴いてくれた人が新しい音楽を始めるかもしれない。外に向けた発信をすると、新しい可能性が増えていきますよね。

──聴いてくれる人が増えれば増えるほど、新しいものが派生していくということですね。

saya:それと同じように、過去のそれぞれの時代のテイストを今の流行に組み込んだら、また新しいものが生まれると思うんです。もし過去のテイストのものでも、今聴いたら新しさを感じることもあるじゃないですか? だから過去のいいものを、今蘇らせたいというよりは、新しいものを作りたいんですよね。レルエというバンドは新しいものが生まれることに、楽しみを見出しているんだと思います。

──なるほど。自分たちの好きなものを使って、新しい可能性という枝葉をつけられる作品を生み出していくということですね。

エンドウ:自分が感銘を受けた音楽を自分でも表現したいと思ったことが、音楽を始めたきっかけでもあるし、少しずつ自分なりの表現に落とし込むことができるようにもなってきた感覚があって。もしかしたら将来、レルエを聴いた人が新しく音楽を始めてくれたら、その影響が自分たちに返ってくるかもしれない。そういうことも楽しみにしながら音楽をやっているところはありますね。3人それぞれが影響を受けたものが集まってできたものがレルエなので、この先もどんどん成長していくと思います。

──レルエの音楽はポップスのなかでも、ダンスミュージックですよね。なぜここを着地点になさっているのでしょう?

櫻井:僕が静かなバラードをそれほど聴かないのもあって、音楽は身体を揺らして楽しむものという認識があるんです。それをわかりやすく示すのに、ダンスミュージックは適してると思うんですよね。音楽は深く考えて聴くものではないし、自然と身体が踊り出すのはダンスミュージックだし、自分から発信されるものとしてとてもナチュラルなものなんです。土台はとてもロジカルに考えるんですけど、アウトプットする際は感情や衝動、勢いなど感覚的に発信してますね。その曲の主人公によって曲調を決めるので、ロックの要素が必要な時はそれを入れるって感じです。RPGで装備がいっぱい増えていく感じやパズルに近いかも。

──装備が増えたからこそ『Eureka』は方向性の異なる5曲による多彩な作品になったということですね。作品を出すたびに音が洗練されている印象があります。

saya:ありがとうございます。出来ることが増えていることが関係していると思いますね。彼(櫻井)が設計図のようなデモを作ってくるので、私たちふたりはそこに飾りつけをしていく。お互いの武器を持ち寄って、豪華な模型を作っている感じかも。


櫻井:7年近く一緒にバンドをやっているので、ふたりのことはすごく信頼していて。僕は“この人が弾くならこういうフレーズを入れておこう”や“こういうフレーズを入れたらいい感じに料理してくれるんじゃないかな”みたいに、演者の人間性や特徴でデモを作っていくんです。だから演者としての信頼のうえで曲作りをしていくんですよね。どんなものを求めるのかは曲によってばらばらで。柔軟に対応してくれるので、とても助かってます。

エンドウ:僕はけっこうベースフレーズを詰めていくので、完成に近づけるのはそのフレーズを一つひとつ精査していく感じなんですよね。そのへんはスムーズに進んでます。

saya:自分のやれることが広がれば広がるほど、アプローチに関していろんな提案ができるので、飽きることがないですね。つねに実験的なことができる環境なんです。

──特に今作は楽器のフレーズが効果的に響くアレンジが多い印象がありました。

櫻井:「キミソラ」以外の4曲は、デモを作る段階からギターに関して自分のイメージがしっかり固まっていたので、もう自分だけで弾いちゃおうと思って。シンプルなアウトプットがしたかったんです。レルエ自体をもっとソリッドなものにしたかった。自分たちだけで完成させている楽曲もこれだけあるぞ、と示したかったのかな。それは本当に、自分の思いつきみたいな感じなんですけど。



saya:楽曲によってトラック数の差が大きいのも、レルエの特徴ですね。「キミソラ」はタイアップ曲なぶん豪華なイメージがあったけれど、それ以外の4曲はデモの段階からシンプルなイメージがあって。じゃあどこに重きを置いたサウンドメイクをするか?と考えて作っていってます。

──シンプルでソリッドというのが影響しているのかもしれないですけど、プレイヤーのフィジカルなニュアンスがフィーチャーされている印象はあって。

櫻井:ああ、たしかに。わかります。

──昔はもうちょっと楽曲の世界観が前面にあったような気もするんですよね。でも今回は3人のプレイが際立っている。

櫻井:潜在的にレルエをそういう方向に進ませていきたいと思っていたので、そう言っていただけるとうれしいですね。それは次の課題でもあるんです。その方向性を洗練させたいと思っているので、『Eureka』はその足掛かりにはなった気がしています。

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