【インタビュー】ACIDMAN、大木伸夫が語る新曲「灰色の街」と現在「世界は歌に成っていく」

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■言葉とメロディで目前の人の心を動かしたい
■という欲望がめちゃくちゃ強いんです

──一聴するとシンプルに聴こえますが、細部にこだわりが宿っている楽曲ですよね。聴くたびに新たな発見がある。ただ、それらアレンジのすべてが、歌を引き立てていますが、ギターのイメージは大木さん自身、どのようなものを思い描いていたんですか?

大木:よく使うコードというか僕の手グセのようなコード感で、まさに今回は歌に徹しました。あくまで歌を聴かせるためのバッキングギターですね。アコースティックギターでも弾けるような、そういう曲にしたいというのはありました。

──歌に徹するというのは、この曲でより強く感じたことですか?

大木:それはこの曲に限らず、“バンドとは?音楽とは?”という根本的なところで、いつも考えているんです。でも、僕はギタリストでもあるから、エゴが出てきてしまうところもあるんですけどね。音楽を聴いて、“このベースいいね、このギターいいね、このドラムいいね”っていう聴き方をする人ってほぼいないと思うんですよ。音楽好きの一部の人とか、バンドマンとか、音楽の仕事をしている人たち以外は、主に言葉とメロディを聴いている。だからって、ギターをないがしろにしているわけではなくて、まず言葉とメロディがよく聴こえるためのギターであれば、どんなにシンプルであろうが、逆に難しくあろうが、ギタリストとしてなんでもやれるようでなければいけないと思っているんです。

──そういう思考は最近のことですか?

大木:5年から10年くらい前からですかね、ギタリストである一方、ボーカリストでもあるから、ヴォーカリストの欲として“ちゃんと歌をうたいたい”と。勢いでドーンというバンドの良さもあるんですけど、僕らはもうそれを経ているので、そういう時代は終わっているんです。そこは若い人たちに任せたほうがいい(笑)。今、僕たちはなんのために歌っているのかというと、決してギターフレーズで感動してもらいたいわけではない。やっぱり言葉とメロディで目の前の人の心を動かしたいという欲望がめちゃくちゃ強いんです。

──ここ数年はROCKIN' QUARTETをはじめ、いろいろなところにゲストボーカルとして参加しているじゃないですか。いちボーカリストとしての活動が増えているところも何か影響はありますか?

大木:関係しているかもしれないですね。何年も前ですけど、小林武史さんから呼んでいただいたのが最初なのかな(InterFM897開局イベント<897 sessions> / 2015年開催)。“なんで俺?”と思ったんですよ。俺は歌がうまいとは思っていなくて、「バンドのギター&ボーカルだ」って言っていたので。だけど、小林さんのような一流の方が、日本ロックバンドシーンのボーカルから俺を選んで、「何かやろう」と言ってくれたんです。「何で俺なんですか?」って聞いたら、「お前の歌はいい」と。ってことは俺、歌がうまいということでいいのかなって(笑)。努力してみようかなっていうのは、小林さんがきっかけでもあったんですよね。


──シングルのジャケットは、キングコングの西野亮廣さんの絵本『えんとつ町のプペル』の新作イラストとのコラボレーションです。西野さんにお願いしたのは、どんな経緯からで、どの段階でこのイメージやアートワークでいこうと?

大木:レコーディング段階で、「ジャケットはどうしようか?」という打ち合わせをしていたんです。いつもは僕がデザインしているんだけど、そのときに、手書きの緻密な絵を描く作家さんはいないかな?と調べていたら、マネージャーが「西野さんはどうですか」と。僕は西野さんの絵本の大ファンだったから、“それはいい機会だ”と思ってダメ元で声をかけてみたんです。そうしたら、本当に忙しい中だったんですけど、シンクロニシティを感じてくれて、こちらのオファーを受けてくれたんです。

──数日前に西野さんが自身のブログで、今回のコラボレーションの背景を書いてましたが、もともと進めていた企画と、「灰色の街」とは創作のシンクロニシティがあったようですね。物を作っているもの同士、そういう一致があるものなんですね。

大木:そうなんですよね。もともと僕がどうして西野さんの絵本を買ったかというと、10年くらい前、元TBSのプロデューサーの方とお仕事をご一緒したときに、「大木くんの考え方とか発想とか雰囲気は、すごく西野くんと似ている。今度会わせたい」って言われたことがあったんですよ。そのまま、なかなか実現する機会はなかったんですけど、絵本を買ってみたら“ああ、似てるな”って僕自身も思ったんですよね。“これはいつか会うだろうな”と思っていたら、今回すごくいい形で。

──実際にお会いしましたか?

大木:まだ直接は会えていないんです。でも、作品としていちばん美しい形になっていると思いますね。

──西野さんのどんなところにいちばんシンパシーを覚えたんでしょう。

大木:さっきの西野さんのブログの話でいうと、目に見えない世界をちゃんと信じている人で。だけど、圧倒的なリアリストでもあり、戦略家でもある。そして、いろんな人にちゃんと幸せを届けることを目標としている人だなって思うんです。お金に関する考え方も、すごく鋭いですしね。決して自分がリッチになるためだけではなくて、人に幸せを与えるために、お金とうまく付き合えている人だから。すごくクレバーな人だなと思っていて……すなわち僕もクレバーだと言ってるんですけど(笑)。

▲シングル「灰色の街」

──そういうことですね(笑)。そういう感覚を、作品を通して分かち合ったというのはすごく大きいし、クリエイティヴなことですね。

大木:そうですね。まだお会いしてないからわからないですけど、きっと宇宙が好きで、ファンタジーが好きで。そういう人とは僕、つながれると思うんですよ。

──二人とも、宇宙であるとか壮大なスケールを持ったものが好きで、でも描いているものはとても人間くさいというのも面白い。

大木:そうそうそう。大きな差があるとすれば年収くらいじゃないですかね(笑)。

──ははは。宇宙というところでいうと、大木さんの描く歌詞は、抽象的だったり観念的だったものから、よりシンプルでわかりやすくなってきましたね。「灰色の街」は特にそうですが、ストーリーとして個人に落としこまれて個々の心で広げられる歌になっている。それは最近の作品からも感じられるところでもあります。

大木:そうですね。今回もそうだし、わかりやすくしていきたいというのは、ここ数年のテーマです。もちろん抽象的な表現のカッコよさというものも、まだ大事にはしているんです。ただ、そこはもうやってきたことであり……まぁなんでもいいんですけどね。要は、感動してもらいたいという欲望が強い。それは誰かに媚びているという意味ではなくて、感動してもらうためには明確にしたほうがみんなの明日への希望につながるということを肌でわかっているからで。だから、これからもわかりやすく明確にしていくと思う。でも、与えたい感動というのは並大抵の感動ではないんですよ。“わ〜、いい映画見たな”っていうものじゃなくて、“すごい映画見たな、これで人生変わったな”というものを共有できたらいい。“俺が作った世界でお前の世界を変えてやる”ではなくて、“これ、めちゃくちゃよくない?”から、つながりたいんです。

──物事の考え方もよりシンプルにもなっていますか?

大木:難しいと思うことがあまりなくなってきたというのはありますね。逆に難しいと思えば、めちゃくちゃ世界って難しくて。例えば僕が急に経営者会議や政治とかに参加することになって、その内容が聞いたこともない横文字ばかりのビジネスの会議だったとするじゃないですか。“インフレになって、これが何%になると円高になって……みたいなものは、たしかに難しくてわからない。でも、その人たちとちゃんと話して、「目標は、最高に楽しくなることですよね」って言えば、「そうだよ、それなんだよ」「じゃあ。そうしましょう」と。難しいことでも根本に立ち返って考えたら、誰だって楽しく豊かに生きたいっていう、それだけですよね。考え方はそういうふうになっていますね。

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