【コラム】「バーチャル渋谷」以後の音楽フェスティバルを考える

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5月19日(火)、渋谷区公認の配信プラットフォーム「バーチャル渋谷」がオープンした。オープニングイベントとして、<#渋谷攻殻 NIGHT by au 5G>と題した、生粋の攻殻機動隊ファンによるライブトークイベントが実施された。

◆「バーチャル渋谷」 関連動画&画像

登壇者は渋谷未来デザイン フューチャーデザイナーの若槻千夏、SEKAI NO OWARIのDJ LOVE、S/U/P/E/R DOMMUNE代表の宇川直宏、にじさんじに所属するバーチャルライバーのアンジュ・カトリーナ。本イベントのミソは、プロトタイプでありながらも、ユーザーは、ほぼ完璧に再現された渋谷のスクランブル交差点付近を、POV視点で回遊できるのであった。このイベントの様子はYouTube上でもライブ配信されていたので、こちらからご確認いただきたい(以下の動画は、公式ゆえにPOVでなく第三者視点)。


5Gテクノロジーが音楽シーンでどのように使われるのか、昨年あたりから本格的に議論がなされているが、このイベントでも多くの示唆があった。それは現在のコロナ禍によって一斉にスタートしたストリーミング配信や、これからの音楽フェスティバルやライブ事情を考える上でも非常に重要なヒントとなっているように感じる。この記事では、「バーチャル渋谷」以後のフェスの未来について想像力を働かせたい。

■「攻殻」よりも「ソードアート・オンライン」や「.hack」の世界観に近い
■MMORPGのマナーとルールが重要

今回のイベントの根幹にあったのは、先述の通り『攻殻機動隊』シリーズである。同シリーズには、AIや光学迷彩、電脳・義体化などが主なモチーフとして登場する。けれども、「バーチャル渋谷」の世界観はMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)的なマナーとルールによって成り立っていた。つまり、同じアニメシリーズでも『ソードアートオンライン』や『.hack』を例に出したほうが、この空間を理解する上では適切だろう。

渋谷109の前からQFRONT(TSUTAYAが入っているビル)を通って、高架下付近まで。「#渋谷攻殻 NIGHT by au 5G」において実装されたバーチャルな渋谷は、大体この辺までだ。その範囲内で、ユーザーは自由に行動できた。チャットや簡単なスタンプ(ジェスチャー)も用意されており、相互のコミュニケーションも可能である。このコミュニケーションの幅が重要で、極めて多次元的であったのだ。

近年のエンターテイメントの有様を振り返ると、ネットミーム的なコミュニケーションが重要であることが窺える。その好例がLil Nas Xだ。2018年12月にリリースされた「Old Town Road」は、ミームの大増殖と共に雪だるま式にセールスと認知度を上げていった。このミームのあり方を考えてみると、根源的な部分でMMORPGのマナーと重なるように思われる。そこではつまり、アーティストとユーザーを繋ぐコミュニケーションラインだけでなく、ユーザー同士のやり取りも重要なのである。



■日増しに“再現度”を高めてゆく
■『Fortnite』

ここで、現在のストリーミング配信を振り返ってみる。コロナ禍において一気に供給が加速した、国内音楽シーンの配信コンテンツ。筆者もいくつかの配信に関わっているが、今改めて感じているのは、“ストリーミングは現場の体験の代替品にはなり得ない”こと。上の話と通じるのだが、あなたがフェスやライブ、あるいはクラブに行くときの目的は本当に音楽を聴きに行くことだろうか? もちろん最たる理由は好きなアーティストの音楽を聴くためなのだが、その下には副次的な要素がいくつもぶら下がっている。

あなたがフェスに行くときのことを想像してほしい。タイムテーブルを眺め、1日のプランを決め、グッズの購入に精を出す。そしてその隣には、自分以外の他者の存在があるはずだ。少し早めに行ってステージの最前を確保するのだって、友達や恋人と一緒ならばそれほど苦ではないかもしれない。むしろ、本編が音楽からコミュニケーションに移ることもしばしばである。ライブそっちのけで、キャンプサイトでワイワイやることに熱中してしまうことは間々あることだ。

このコミュニケーションが、現在は多くのストリーミングでは実現できていないのだ。そんな中、アメリカのEpic Gamesが開発したオンラインゲーム『Fortnite』が、その夢を叶えつつある。2019年の2月、同ゲーム内で人気DJ / プロデューサーのマシュメロが自身のギグを披露した。10分足らずのイベントではあったが、この時の同時接続数は1000万を超えたという。そしてコロナ禍の真っ只中にある今年4月24日、ラッパーのトラヴィス・スコットが凄まじい凄まじいスケール感で登場した。この時の同時接続数、1230万人。パフォーマンス時間はマシュメロと同じく10分程度であった。


マシュメロ以降も間欠的に音楽イベントは開催されていたが、この数字は『Fortnite』における同時接続数のトップだ。その後の4月29日、『Fortnite』がV12.50にアップデートされ、「パーティーロイヤル」というモードが実装された。これは『Fortnite』本来の主戦場であるシューティングバトルを忘れ、ミニゲームやフレンドと遊ぶことを目的としたモードである。更に5月9日、そのパーティーロイヤル内でプレミアムショーが開催された。そこにラインナップされていたのは、デッドマウス、スティーヴ・アオキ、ディロン・フランシスだ。超ド級のメンツである。そして尺もこれまでと比較して長く、3人合わせて1時間弱。リレー形式で繋がれていくDJは、ディロン・フランシス、スティーヴ・アオキと来て、デッドマウスがトリを飾った。

この体験、フェスの再現なのである。友達とパソコンの前に待ち合わせ、ライブが始まるまでステージの前や他のアトラクションでダラダラ遊ぶ。現段階では、このゲーム内で可能なコミュニケーションは簡素なもの(ダンスジェスチャーなど)に限るが、他の連絡ツールを使えば何も問題はなかった。


で、ここまで書いてきたが、あることに思い当たらないだろうか? 多デバイス同時接続……まさしくこれは、5Gが本領としていることに他ならない。冒頭で書いたように、「#渋谷攻殻 NIGHT by au 5G」は5G時代に向けたプロトタイプ的側面が強かった。しかしこの技術が本格化し、一般に5G端末が流通するようになったとき、『Fortnite』的仮想空間は加速度的に進化するだろう。

■フェスにMMORPG的世界観が応用されたとき、私たちは…?
■メリット・デメリット

あらゆるフェスの開催中止が決定している今、『Fortnite』的仮想空間はヒントになりうるのではなかろうか。というより、現在進行形でストリーミングに四苦八苦している身として、筆者が大いに参考にしている。最後に、MMORPGのマナーやルールをフェスに転用した場合に生じる利点と問題点を、思いつく限り書いて記事を終えよう。

まずは距離の無効化だ。県境をいくつも超えて野外フェスティバルに行く。それはそれでひとつの楽しみであるが、経済的に独立していない中高生もネットに繋がってさえいれば参加できるのは、フェアで良い。フェスにもよるが、複数日にフルで参加すれば10万円をたやすく超える。仮想空間へのアクセスにいくらか発生したところで、金額的なハードルはだいぶ下がるはずだ。

そしてコミュニケーションに関して。吃音やチック症など、対面よりもテキストベースのコミュケーションのほうがベターなケースも存在する。単純に文章のやり取りのほうが得意な人もいるだろう。余談だが、筆者も「文章“では”面白いね」と言われたことがある。しかしそれらの利点は、そのまま問題点に直結してしまう。ディスクレシア(読み書きに著しい困難がある)を抱えている人もいるだろう。対面がテキストに、テキストが対面に変わるだけでコミュニケーションの難易度が変わってしまう。

一例として挙げたが、そんな表裏一体な問題が数えきれないほど存在しているだろう。そして問題点をもうひとつ。セキュリティの安全性が不透明である点だ。体験が人間の身体でなく、データのやり取りになった場合、それに対するリスクマネージメントはあまり議論されていない印象がある。Anonymous級の凄腕ハッカー集団が悪意を持って攻撃してきたとき、果たしてそれに耐えられるのだろうか。…まぁ、この懸念に関しては、それこそ「攻殻機動隊」がヒントになるのかもしれないが。

取材・文:Yuki Kawasaki

(C)KDDI・au5G / 渋谷5Gエンターテイメントプロジェクト

◆渋谷5Gエンターテイメントプロジェクトオフィシャルサイト
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