【製品レビュー】ヤマハ、リアルなオルガンが魅力の「YC61」は操作性も抜群、高品位なピアノやFM音源搭載のライブ向けステージキーボード

ツイート

70~80年代にかけて、世界を席巻したのがヤマハのコンボオルガン「YC」シリーズ。その「YC」をモデル名に冠した「YC61」は、ドローバーによるオルガンらしい音作りができるのが魅力の製品だ。

同社独自のモデリング技術であるVCMを採用し、ビンテージオルガンや、オルガンに欠かせないロータリースピーカーを細部まで解析して、リアルなオルガンサウンドを再現している。それだけではなく、世界に誇るピアノメーカーであるヤマハならではの高品位なピアノのAWM2音源や、同社が80年代のDX7以来培ってきたFM音源も内蔵。まさにヤマハのおいしいところが詰め込まれている。そしてそれがライブ向きの製品として仕上げられているのも大きな特徴。すべての操作が確実に素早くできるよう工夫されているほか、61鍵のコンパクトなボディは持ち運びもしやすいし、ほかのキーボードとの組み合わせでも使いやすい。まさに“ステージキーボード”と呼ぶにふさわしい製品だ。



■確実にすばやく操作できるパネル

「YC61」をちょっとさわってみただけでもわかるのが、抜群の操作性の良さだ。パネル上にはつまみやスイッチがたくさん並べられているが、これはほとんどの操作をパネル上のスイッチ類で直接行えるようにデザインされているから。メニューから階層をたどって項目を探す、というような操作が必要ないから、初心者でもすぐに理解できるはずだ。音色のプリセットを選んだり、各音色の詳細なエディットを行ったりする場合には、中央のセクションでダイヤルやボタンを使うことになるが、その場合でも2階層くらいですべての項目にアクセスできる。すべてシンプルで素早く操作できるようになっているから、ライブ中でも迷わず使える。


パネル上には、オルガン、AとBの2音色使えるシンセ、エフェクト、ロータリースピーカーなど、「YC61」のすべての要素がセクションごとにまとめられている。そして各セクションにはオン/オフのスイッチがあって、出したい音、使いたい機能のセクションだけをオンにする、という構成もシンプルでわかりやすい。このスイッチの使い勝手もライブ向きだ。形状こそレトロっぽいスイッチだが、適度なクリック感があってボタンより確実に操作できるし、鍵盤から届きやすい位置にあるので、払うように指をひっかけるだけでも簡単に切り替えられた。これなら演奏中でも無理なく操作できるだろう。また、つまみの位置がLEDで表示されるのも、暗いステージなどで設定を確認するときに便利だ。

■超リアルなVCMオルガン


▲オルガン部

サウンドの面で最大の特徴となるのが、VCMによるオルガンサウンドだ。ビンテージのトーンホイール式オルガンの電気回路や構造などを徹底的に解析してモデリングしたもので、真空管プリアンプの歪みやマトリクス回路の影響による和音を弾いたときの独特のハーモニー、トーンホイールから電気回路へ漏れるリーク音など、細部まで忠実に再現しているので、リアルなオルガンを鳴らすことができるのだ。

VCMのオルガンの音色は、オールラウンドに使えるスタンダードなタイプ、ハードロックなどに向いた太い音のパワフルなタイプ、そして速いフレーズが引き立ちそうなパーカッシブなアタックを持ったタイプの3タイプあるが、どれも存在感のあるオルガンらしいサウンドだ。


そして音作りにドローバーを使えるのもオルガンらしいところ。9本のドローバーがそれぞれ倍音を受け持っていて、引き出す長さで倍音構成を簡単に変えられる。操作は簡単だし、見た目でも倍音構成がわかるから、思い通りに音作りができる。アタックの表情をつけるパーカッションは、強さや減衰のスピード、音程などをスイッチで切り替えられるし、ビブラートとコーラスもそれぞれ3タイプ使える。これらの組み合わせによって、トロンとしたメロウなサウンドから、切り裂くような鋭い音まで、幅広いオルガンサウンドを作ることができる。このほか、前述のリーク音や、鍵盤を弾いたときに鳴るキークリック音の音量といった細かいところまで設定できる。だから、いかにもビンテージオルガンらしいリアルな音が鳴らせるのだ。

ビンテージオルガンにないけれど「YC61」にあるのが、ドローバーの直下にある、ドローバーの位置を示すLED表示だ。ドローバーのつまみの部分はシースルーになっているので、どの位置にあってもドローバーに隠れることなくLEDで設定状態を確認することができる。これがもっとも役立つのは、異なるドローバー設定の音色に切り替えたときだ。こういったときは、物理的なドローバーの位置と現在の設定が異なることになるが、その場合でも、LEDの表示で実際の設定の位置を確認することができるのだ。


▲ドローバーの位置を示す6色のLED表示

鍵盤は、オルガンの奏法に最適なセミウェイテッド・ウォーターフォール鍵盤を採用していて、音だけでなく弾き心地もよかった。鍵盤のタッチの重さが違うと、自然に出てくるフレーズも違ってくるものだが、この鍵盤は自然にオルガンらしい演奏ができる重さだと感じた。そして各鍵盤がわずかに丸みを帯びた形状になっているのもポイント。指をなめらかにすべらせることができるので、オルガンならではのグリッサンドを気持ちよく決められる。


■ロータリースピーカーも細部まで再現

オルガンに欠かせないのが、回転する2つのスピーカーによるドップラー効果でうねりを付け足すロータリースピーカーだ。「YC61」ではこれもVCMで再現していて、これぞオルガン、というリアルなサウンドになる。スピーカーが回っている音がリアルなのはもちろん、回転し始めるときの徐々に回っていくところや、高速と低速を切り替えてスピードが変わるときなどの雰囲気も、エフェクターではなかなか味わえないリアルさで、弾いていてとても楽しくなってくる。


▲エフェクト、ロータリースピーカー部

ロータリースピーカーの歪みもコントロールできる。ロータリースピーカーは2タイプ用意されているが、スタンダードなタイプでも、DRIVEのつまみで心地よい歪みが得られるし、もう1つの歪みの強いタイプなら、つぶれたような強烈な歪みも作ることができる。歪みについてはこのほかに、ロータリースピーカーの代わりにギターアンプを選ぶこともできるし、オルガンセクションでプリアンプの歪みを調整することもできるので、きめ細かく歪みをコントロールすることができる。

ロータリースピーカーでも、さらに細部の設定ができる。高域側と低域側のスピーカーそれぞれの回転数や音量はもちろん、それぞれの加減速の具合やノイズの音量、つまり、このスピーカーがどれくらい経年変化でヘタッているかまで設定できる。さらに面白いのは、鍵盤を弾いていないときにも“シュワシュワ”とか“クーワクーワ”といった音がかすかに聞こえてくること。弾いていなくてもスピーカーを回転させていれば音がするわけで、こんなところまでリアルに再現されているのには驚いた。

■そのほかライブで使いやすい音色を幅広く搭載

オルガンについては、いわゆるコンボオルガンの音色も使える。これはFM合成の音色で、シンプルなサイン波を発音するタイプや、イタリアやイギリスのトランジスターオルガンを再現するタイプ、合計3タイプが用意されている。トーンホイールではなく、ややチープなコンボオルガンの音を出したいときには、オルガンセクションでこちらを選べばよい。


▲ピアノ・シンセサイザー部

このほか、高品位なピアノ音色や、FM音源の音色が多数搭載されているのもヤマハらしいところだ。たとえばアコースティックピアノなら、低音のパワーが圧倒的なフルコンサートグランドのCFXもあるし、世界中で使われている、アップライトらしい響きのU1もある。エレピなら、同社の名機CP80や、金属的な響きのリードタイプのエレピなども使える。さらに、抜けのよい金属音や鋭いリードサウンド、独特の厚みのあるブラスサウンドなど、FM音源のシンセサウンドも搭載する。これらの音色にもロータリースピーカーやドライブのエフェクトを使えるし、エフェクトも多数内蔵しているから、ライブで使いそうな音はこれ1台でほとんどカバーできるといってもいいだろう。また、オルガンと2つのシンセ、合計3音色を同時に鳴らせるのも、ライブ派にうれしいところだ。


とにかくオルガンがリアルで、細部までこだわった音作りにも対応するのが「YC61」の魅力。持ち運びしやすいサイズなので、ライブやスタジオに持っていくのにも最適だ。スタジオやライブ会場にある88鍵のピアノに、オルガン中心で多彩な音を出せる「YC61」を追加すれば、シンプルで最強の布陣になるはずだ。操作がわかりやすく音作りも簡単、使える音色もたくさん搭載されているから、ライブ派の2台めとしてはもちろん、メインキーボードとして、あるいは初心者の1台めとしても十分おすすめできる製品だ。



製品情報

◆YC61
価格:オープン(市場想定売価 20~21万円前後 税別)
発売日:2020年5月
この記事をツイート

この記事の関連情報

*

TREND BOX

編集部おすすめ

ARTIST RANKING

アーティストランキング

FEATURE / SERVICE

特集・サービス