【インタビュー】ザ・ブラック・キーズ、パットが語るカバーアルバム「魅力はコラボによる即興アート」

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ザ・ブラック・キーズが5月26日、通算10枚目となるスタジオアルバム『Delta Kream』(日本盤CD)をリリースする。アルバムタイトルはジャケットに採用されたミシシッピを象徴する写真に由来するものであり、撮影したのは1998年に写真界のノーベル賞ともいわれるハッセルブラッド賞を受賞したウィリアム・エグルストンだ。

◆The Black Keys 画像 / 動画

『Delta Kream』には彼らのルーツとなる“ミシシッピ・ヒル・カントリー・ブルース”のスタンダードナンバーのカバーを収録。USミシシッピ州北部の丘陵地帯“ヒル・カントリー”に出現した“ミシシッピ・ヒル・カントリー・ブルースは、“ヒプノティック(催眠性)“と評されるギターリフの反復とドラムによって引き起こされるグルーヴが特徴的だ。R. L. バーンサイドやジュニア・キンブロウのナンバーをはじめ、ザ・ブラック・キーズ結成前の10代の頃から愛してきた楽曲カバー11曲を収録している。

レコーディングはナッシュビルにあるダン・オーバック(Vo&G)所有のイージー・アイ・サウンド・スタジオにて行われ、ブルース・レジェンドのバンドで長年活躍してきたミュージシャンのケニー・ブラウン(G)とエリック・ディートン(B)が参加。ダンはアルバムについて、こう語っている。

「このセッションはレコーディングの数日前に計画されて、リハーサルとかは何もしてないんだ。前アルバムツアー<Let's Rock>の終わりに、午後2日間、約10時間でアルバム全曲をレコーディングしたんだ。僕らが最初に影響を受けたミシシッピのヒルカントリー・ブルースの伝統に敬意を表す為にこのレコードを作った。これらの曲は、パット(パトリック・カーニー / Dr)と僕が楽器を手にし、一緒にプレイしはじめた最初の日と同じように、今日でも僕たちにとって重要な曲たちなんだ。僕とパット、ケニー・ブラウン、エリック・ディートンがぐるっと輪になってプレイしたんだけど、とても刺激的なセッションだった。とても自然な感じだったよ」──ダン・オーバック(Vo&G)

これまでにグラミー賞を6回、BRITを1回受賞したほか、北米、南米、メキシコ、オーストラリア、ヨーロッパのフェスティバルでヘッドライナーを務めるザ・ブラック・キーズの最新作について、メンバーふたりそれぞれに訊いたパーソナルインタビューより、パトリック・カーニー編をお届けしたい。

   ◆   ◆   ◆

■俺たちのキャリアで初めて
■ベースと一緒にレコーディングした

──まずはコロナ禍の1年、どんな生活をしていましたか?

パトリック:元気でやってたよ。心配しなきゃならないことがいろいろとある状況だけど、他の多くのミュージシャン達が大変な思いをしてるのを知ってるからね。この間、アリス・クーパーと話したんだけど、「50年間で初めてツアーがない年だった」と言ってたよ。ミュージシャンの友人たちも、仕事がなくなってお金が必要になってて、彼らの話を聞くと胸が痛い。でも、もうすぐノーマルな状況に戻れるって信じて、前向きでいるようにしてる。俺たちはツアーをキャンセルしたけど、家族を優先する時間が持てて、幸運だったと思ってるよ。

▲The Black Keys

──リリースされる『デルタ・クリーム』は、聴いている間、凄くリラックスできて、別世界に連れて行かれるような気分を堪能できるカバーアルバムでした。世界がこんな状況だからこそ、多くの人たちに聴いて欲しいと思いました。

パトリック:ありがとう。うん、このアルバムはリスナーを別世界に連れていく力を持ってると思う。聴いているだけで、まるで南部にいるような気分になれるんだよ。

──そうですね。ザ・ブラック・キーズが影響を受けたミシシッピ・ヒル・カントリー・ブルースのアーティストたちである、ジョン・リー・フッカー、フレッド・マクダウェル、R.L.バーンサイド、ラニー・バーネット、デイヴィッド・キンブロウ・ジュニア、ジョセフ・リー・ウィリアムズの楽曲カバーが収録されていますが、いつどのようにレコーディングしたのかを教えてください。

パトリック:2019年の12月に、ナッシュヴィルにあるダン(・オーバック)のイージー・アイ・スタジオで作ったんだよ。<レッツ・ロック・ツアー>で全米を回って家に戻ってから、3週間後ぐらいのことだった。その時、ダンはスタジオでロバート・フィンリー(ダンのレーベル“イージー・アイ・サウンド”の所属アーティスト)のアルバムを制作していて、ケニー・ブラウン(G)とエリック・ディートン(B)をバックバンドのメンバーとしてスタジオに呼んでいたんだ。彼らは2日間でアルバムのレコーディングを終えたんだけど、ダンが俺に電話をくれたんだ、「一緒にジャムしないか」って。それでスタジオに行って少しリハーサルをして、レコーディングしたんだよ。午後に2日間レコーディングするという、すごく短時間で完成させたアルバムが『デルタ・クリーム』でね。

──その時、アルバムとして発表するつもりでレコーディングしたんですか?

パトリック:いや、「ただジャムって楽しもう。それで、どうなるか見てみよう」っていうレコーディングだった。。でも初日に9曲レコーディングして、“もしかしたらアルバムになるんじゃないか”って気はしてたよ。それで、アルバムにするなら11曲は必要だから、翌日に2曲録ったんだ。でも、アルバムとして発表することに決めたのは、去年の秋だったよ。

──R.L.バーンサイドのバンドで演奏していたケニー・ブラウン(G)とエリック・ディートン(B)とのレコーディングということで、何かこれまでとは違う演奏方法などもありましたか?

パトリック:“俺たちはこれまでずっと必要以上に難しいことをやってたんだ”って気づいた。他のバンドには、大抵ベーシストがいるし、もう一人ギタリストがいる場合もあるからね。今回は、俺たちのキャリアで初めて、ベーシストと他のギタリストと一緒にレコーディングしたんだよ。実際に演奏してみると、“4〜5人編成のバンドなら、25分もあれば1曲完成させられるんだ”って思った。俺たちは通常、2人でレコーディングした後にベースとか他の楽器演奏を加えなきゃならないからね。だから、他のバンドたちがやってるようにできて、すごく良かったし、クールだったよ。

▲カバーアルバム『Delta Kream』

──ブラック・キーズの2人が多大な影響を受けた音楽だけに、“カバーを良いものに仕上げなければいけない”というプレッシャーもありましたか?

パトリック:それよりも、“他の人たちのプレイをきちんと聴きながら一緒になってプレイすれば、良いサウンドが出てくる。そういう音楽なんだ”ってことに気づいたよ。だから、俺個人の演奏はさほど重要じゃない。例えば、“ケニーのギター演奏に俺がどう合わせるか”ってことが大事だった。即興のパフォーマンスなんだ。このアルバムの魅力は、コラボレーションによる本物の即興アートという点にある。だからアルバムを聴き返して思ったのは、“お互いの演奏を聴いてそれに合わせてプレイしているから、ライブの感触がある。それがクールだな”ってことなんだ。

──普段の演奏中はダンだけに集中しているわけですよね。それが3人とか4人になれば注意を向ける人が増えるわけで、それによる難しさもあったんじゃないですか?

パトリック:いや。全員がお互いの演奏をよく聴いてたし、曲中のスペースが減るから、あまり気にすることがなくなるんだよ。だからより楽だったし、凄く自然に感じられた。だからこそ、短時間で完成したんだよ。

──なるほど。この上なくオーガニックなサウンドが収録されたアルバムになりましたね。レコーディングで自分たちのルーツに立ち返ってみて、20年前にバンドを始めた頃を思い返したりしましたか?

パトリック:俺たちがこういう音楽を演奏したのは、とても久しぶりでね。“俺たちにとってこの音楽が本当に重要だったんだ”って改めて考えてたし、そこで何度も思ったのは“この音楽がなかったら、ザ・ブラック・キーズは存在しなかった”ってこと。この音楽こそ、ダンと俺が最初に結束した理由だったからね。当時の俺はモデスト・マウスとかニルヴァーナとかを聴いてて、ダンはジュニア・キンブロウにハマっていた。それから俺がR.L.バーンサイドを聴くようになってダンと意気投合したんだよ。俺たちが前進するきっかけになった音楽だし、だからこそ、俺たちにとってクールなんだよ。子供の頃からの友達と、自分たちのヒーローと一緒にそういう音楽を演奏することで、“俺たちは20年間、大好きなことを続けてきたんだな”って実感できた。シュールでクレイジーな体験だったよ。

──最高ですね。ザ・ブラック・キーズのデビューアルバム『ザ・ビッグ・カム・アップ』ではジュニア・キンブロウの「ドゥ・ザ・ロンプ」をカバーしています。今回のカバーアルバムには全く新しいバージョンが収録されていますが、なぜ改めてカバーしてみようと?

パトリック:“新バージョンをやりたい”という俺の意見が反映されて、「ドゥ・ザ・ロンプ」を再びカバーしたんだ。どちらが優れているとかではなくて、20年前のバージョンと単純に比べてみたかった。最初のバージョンはかなり即時的なものだったんだよ。思い返せば、俺の家の地下室でダンと一緒に演奏をしてたんだけど、俺はドラマーなのにドラムの演奏方法が分かってなかったんだ。ドラムのレッスンは一度も受けたことがなかったし、本当に自分がちゃんと演奏できてるか分からなかったんだよ。

──え!? そうだったんですか?

パトリック:うん、その前はギタリストだったからね。バンドでドラムは一度もプレイしたことがなかったけど、ドラムセットは持ってたから、少しは演奏したことがあって。そういうこともあって最初のバージョンは、特に思い入れ深いレコーディングなんだよ。それに、自分がプレイをあまり分かってなかったドラムを、創意工夫して叩いてたこともみえる。誇りに思ってるんだよね。

──デビュー作はすごく生々しいサウンドでしたが、ほとんど初ドラムだったとは思いもしませんでした。

パトリック:あのレコーディングの数週間前に本格的に始めたんだよ。

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