【インタビュー】AK-69、『The Race』に勝利と孤高「最高にカッコいい終わり方が自分の中で見えてる」

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AK-69が6月9日、Def Jam Recordingsから4枚目のアルバムをリリースした。前作からわずか10か月、最速で届いたアルバムの名は『The Race』。マイクを握って今年でちょうど25年、前作『LIVE : live』で自らの死生観にまで突っ込んだディープな世界を見せた彼が次に選んだテーマは、ヒップホップゲームという名のレースで先頭を駆け続ける男の自信、勝利、孤独、そして次なる夢だ。

◆AK-69 動画 / 画像

フィーチャリングに¥ellow Bucks、ANARCHY、ちゃんみな、RIEHATA、Bleecker Chrome、SALUといった面々が参加した同作には、全10曲を収録。CDのみの通常盤ほか、DVD付きの初回盤も用意されており、こちらには「I’m the shit feat. ¥ellow Bucks」や「B-Boy Stance feat. IO」などのミュージックビデオが収録される。

アルバムのテーマについて、新しいラップスタイルについて、若い世代の客演アーティストの積極起用について、さらに未来の展望についての衝撃発言も飛び出した注目のインタビュー。最後までじっくりと味わってほしい。

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■並んでるように見えるんだけど
■俺はそこからさらに一周先にいる

──1年ぶりですね。元気ですか?

AK-69:もう、元気しかないですよ。超絶元気です。

──そろそろ有観客ライブ、始まってるんですよね。

AK-69:まあ、そうですね。普通の主催ライブは相変わらずフルでは入れられないし、延期になってるところもあるんですけど。もともと俺たちはクラブでやるジャンルのアーティストなので、リアルなライブはクラブでやるって感じです。

──この1年、アルバム出してツアーをやって、最後はデカいハコでバチっと決めるというそれまでのサイクルが崩れてしまって。アーティスト活動のプランニングの見直しを考えた時期は、やっぱりありましたか。

AK-69:そこは悲観することなく、むしろいい機会になってますけどね。会社的にも立て直したり強化した部分もたくさんあるし、いわゆる俺の大きいライブも、この期間のせいでファンの見たい意欲を引き上げられてると思うし、細かい動きとしては、この前の渋谷ゲリラライブも俺にしかできないことだったと思うし。


──4月11日、渋谷109前で新曲「I’m the shit feat.¥ellow Bucks」をサプライズライブ披露しました。

AK-69:批判も多少はあったんですけど、そんなことよりも俺たちの使命があって。一番大事なことは、感染しないように最善を尽くすことよりも、みんなが生きる上で必要なもの、前に進む力を音楽で与えること。それが、綺麗事抜きで俺たちの使命なんで。一流アーティストたちって、気にしなくていいことにとらわれすぎて、手も足も出ないじゃないですか。規模が大きいと身動きできなくなる。叩かれないことが第一になるから。でも俺たちはいい意味でリブランディングできてるし、大きなアーティストが動けない間にその差をぐーっと詰める作業が着々とできてたんで。俺はいい期間だったなと思いますね。まあ失った利益や売り上げはもちろん大きいけど、そんなの別に。再開した時にどれだけスタートの準備ができてるかどうかで、全然取り返せることなんで。この期間は俺たちにとってはすごく良かったなと思ってますね。

──それ聞いて安心しました。そしてニューアルバム、良かったです。

AK-69:良かったですか? うれしいです。

──『The Race』というタイトルの通り、攻めた曲が多くて、しかも10曲30分で一気に駆け抜ける。

AK-69:今の時代にそれが合ってるかなと思うんですよね。無理くり2ヴァース歌ってブリッジ作ってとか、そういう形式にとらわれなくても、1ヴァースとサビで言いたいこと言えちゃったらそれでいい。今は海外でも2分いかない曲もたくさんあって、“もう一回聴きたい”ということで全然いいんじゃねぇかなと思って、結果的にこうなりました。このアルバムをトータルで『The Race』の世界観にしたいと思った時に、1曲目「Checkered flag」がレース場に車を乗りつけるシーンで、2曲目「Pit Road feat.ANARCHY」はピットロードで車を整備しながら今までのドラマを思い返して、スタート位置に着くまでの曲にしようとか、作りたい場面を全部提示できていたので、無理くりヴァースを作る必要もない。トータル30数分だから、たとえばフェスでもこのアルバムのセットが組めるんですよ。そういうことも含めて、今の時代に合ってるなというところですね。


──ここまでトータルでコンセプチュアルなアルバムは今までなかったし、そもそも“レース”というテーマにしようと思ったきっかけは?

AK-69:今後のプロジェクトのことを考えていた時に、『The Race』という世界観が出てきて、アルバム1枚通してそれを歌いたいなと思ったんです。それって言うのも、俺がいわゆるヒップホップのシーンで“売れた”ということになってから15年ぐらい経つんですよね。それで今のこの瞬間の速度で言うと、俺と並べる子たちは出てきたと思うんですよ。¥ellow Bucksしかり、BAD HOPしかり。だから並んでるように見えるんだけど、“俺はそこからさらに一周先にいるんだよ”と。俺にも彼らみたいに、売れ始めて本当に勢いしかない時期もあったわけで、その中で“もうダメかもしれない”って後退して、それでもまた加速して、ということをずーっとやってきて、勢いだけじゃ何ともならないフェイズもいろいろ経験した上で今ここにいる。“積んでるエンジンが違うんだよ”というところも含めて、自分の中にあふれ出る自信を歌いたい気持ちがあったのと、でも最後に「Victory Lap feat.SALU」で歌ってることは、今は勝利を噛みしめてビクトリーラップをしてるけど、結局“戦う相手は自分だった”ということなので。それをSALUと一緒に歌うことができたことも含めて、今が『The Race』というタイトルを掲げる自然なタイミングだったのかなと思いますね。それって本当に自信がなかったら、“この世界観でいこう”とは言えないと思うんで、いろいろ経てきたからこそ湧いている自信というものを表現したかったということはありますね。

──今だからこそできるアルバム。

AK-69:そうっすね。あとは、聴いてもらうとわかるんですけど、今までの俺のイメージとちょっと違うと思うんですよ。俺のコアなファンは“あれ?”ってなるかもしれない。ずっとラップで押してて、サビでもあんまり歌い上げていないし、メロディを使う曲は2曲ぐらいあるんですけど、声色も変えて、たとえばG-Unitとか50セントとかの良き時代を思わせるような感じに、発声の仕方自体を変えてみるとか。それは自分がやってて面白かったことで。今までのみんなのAK-69像に沿った曲もプリプロで何曲か作ってたんですけど、予定調和感がある曲ってワクワクしないんですよ。みんなはそれを待ってるかもしれないけど、俺は全然面白くない。このアルバムは2ヵ月という今までの最短期間で作り上げたんですけど、こんなタイトなスケジュールの中で“面白くねぇな”と思いながら作る曲なんて1曲もいらねぇと思って。自分が作ってて面白いという感覚だけを大事にしたら、こんな感じになりました。

▲アルバム『The Race』初回盤

──「Thirsty feat.RIEHATA」のラップとか、“おお!”と思いましたよ。あんなウィスパーみたいなラップ、聴いたことなかったんで。

AK-69:あれなんか、マイク持って猫背になってぼそぼそ歌ってる(笑)。やってて面白かったんですけど、でもね、実はこういうことを俺はずっと客演でやってたんですよ。あんまりスポット当たってないからみんな知らないだけで、でもお客さんによっては「客演の時のAK-69ってメッチャいいよね」みたいに言う人もいて、「そのモードで1枚アルバム作ったらいいのに」というコメントをもらったりしてて。それって俺のチーム的にもずっと言ってたことで。客演の時って気負いがないから、本当にやりたいことを気楽にやって試せるし、それが結果的にすげぇいいものになるから、「客演ワークみたいなことを自分のアルバムでやったら面白いね」というものを形にしたのがこれでした。

──納得です。

AK-69:今回のアルバムで、いわゆる今までの俺っぽい曲って「Pit Road feat.ANARCHY」ぐらいしかないんじゃないかな。あとは客演でやりそうな、今やりたいことをやりたい放題やってますね。

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