【インタビュー】大塚紗英の本音

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■とにかく結果を出したかった

──収録されている楽曲は共通ということですが、3ヶ月で100曲作ったという話も伺っていたので、よく絞れたなというのが率直な感想でした。最終的にこの6曲にした決め手みたいなものはあったんですか?

大塚紗英:まずどうして3ヶ月で100曲も書いたかという話なんですが、大体30数曲ずつ作って、スタッフさんとの試聴会に出していたんですね。そのたびに、こういうアルバムにしようというテーマも違ったんです。

──なるほど。では順番に聞かせてください。

大塚紗英:最初はコロナ真っ只中。緊急事態宣言もあって、世の中が最も暗い時期だったんです。だから、そういった世の中の鬱憤やフラストレーションに対して寄り添うものがヒットしていたんですね。長く私を見てくれていた周りの人の声としても「そういうテーマが合うんじゃないか」ということだったから、そういうものを書き始めました。世界規模で問題になっていることなどについて書いたんですが、やっぱり聴いた人によってすごく意見が分かれました。クオリティーとしても音楽性としてもすごく高いから、わからない人にはわからないだろうなと思っていたけど、結局それが大衆の評価でもあるわけで。今の私がやるのはこれではないんだなという考え方で、一旦置いておくことにしました。

──その次の期間はどんな曲を?

大塚紗英:シンプルに、自分がやりたいことを書いてみました。前作の『アバンタイトル』に近い作り方なんですが、「仕事、夢、音楽」という自分の柱に対して書いている曲がほとんどでしたね。その中の「夢」には炎のような激しさや儚さがあるなと思っていた時期は、炎というテーマで10曲くらい作りました。その中の1曲「ホタルビ」が、今回のFC限定の3形態同時購入特典CDとなるんですけどね。すごく満足いく曲もあったし、結構いいと思ったのは何曲か試聴会に出したんですが、今これをやったとて、ファンの人は喜んでくれるかもしれないけど、自己満足なのかなって思ったんですよね。今は自分のことをもっと世の中の人に知ってほしいという時期なのに、自分の人生観を歌ってもなって急に思って、満足してしまったんです。これは今じゃないなって。

──そしていよいよ、最後の期間ですね。

大塚紗英:最後が、『スター街道』の形に近い曲をいっぱい作った時期です。最後はいろいろやってみて、「私がやりたいことって何だっけ?」って考えたんですよ。音楽的なことではなく、自分の活動の芯として私が人に届けたいことは何だっけって。その時に、メロディーが音楽性として素晴らしいとか、歌詞が文学として素晴らしいとか、歌が上手く聴こえるようなメロディーだとか、そういうことではないなと。もちろん、こんなに難しい曲を歌っているのになぜ評価されないんだろうとかはたまにあるんですね。でも、それは別に今いらないなと思って、全部捨てたんです。

──もっと根本的なところを見つめるために。

大塚紗英:いろんなジャンルの曲を書くことが私はすごく得意だし、人からもそう言われるからそれが自分の長所だってずっと思っていたんですが、「あれ? 私はいろんなジャンルをやりたいんだっけ?」と。それも別にいらないなってそぎ落としていった結果、エンタメとしてすごく楽しい、面白い、そしてそれを聴いた世の中がハッピーになる!暗いムードのヒットチャートを塗り替えたい!って思っちゃったんです。暗い曲が悪いとは思いませんが、何となく紺色や青色、緑や深緑みたいなイメージのヒットチャートの中に、私の蛍光イエローがバーン!と入っていったらいいなって思ったんですよ。そういうものがやりたい!って。

──3ヶ月で100作った意味もわかりましたし、今作がこの形になったこともよくわかりました。納得です。

大塚紗英:とにかく結果を出したかったんです。真価が問われる2作目で、どうしてもヒットしたくて。最近『バンドリ!』とか、声優やギターを持っての活動を全く知らずに出会う方がすごく増えたんですよ。その時に、当たり前ですがいちシンガーソングライターの女の子として見られ、デビューをして2作目という、まだ始まったばかりのようなフレッシュなイメージで来られることが多いんですね。でも私としては、15歳からの下積み活動があって、思うようにいかなかった期間を経た上で『バンドリ!』に入って、声優という形でデビューをして7年。そんなふうにして約10年経って、10年を経た今だからこそ、そして将来のこととかも考えていくと、やっぱり今だなと思ったんですよ。人はまだまだだと言うかもしれないけど。


──ヒットとか、世の中に認識されるのは今であると。

大塚紗英:そうです。何でヒットしたいかというと、自分の思い=正義感だと思うんですが、世の中にその正義感を知ってもらうことによって、その正義を重んじるという共通項を持つ人と知り合い、最終的にはそういうコミュニティーを作りたいんですよ。またそれとは別に、すごくクオリティーの高い作品を作りたいというのが単純にあるんですが、これに関しては自分1人の力ではどうにもならないんですね。やりたいことをやるためにも、やれるようになるための作品を作らなきゃいけないなと思ったんです。

──夢を叶えていくために。

大塚紗英:実は今回どうしてもここに入らなくて、外した1曲があるんです。すごく前衛的で、たぶん売れるというか世の中に残るだろうなっていう確信のある曲。絶対にフルオーケストラでやりたいし、歌ももっともっと上手くなって、表現力もあるけど人間としても深みがもっとできて、知能とかももっと高くなって、人間とAIの真ん中で「さあどちらを選ぶ?」っていう時にこそ歌うタイミングだろうなって思えるような曲なんです。

──壮大!

大塚紗英:今話をしながら思ったんですが、よく「目標はありますか?」と聞かれて、大きい会場でライブがしたいとか、このフェスに出たいとか、その気持ちもあるからそう答えてきたんですが、たぶんそういうことではないんですよね。私には、一生作れないし誰にも作れない大きな作品を一つ残したいというのがあって、それこそがこれじゃないかな?というのが出来ちゃったんですよ。

──今回入れなかった1曲のことですね。

大塚紗英:そんな1曲がこの『スター街道』の制作期間にできたんですが、それを形にするには何もかもが足りない。というか、まだ何も持ってないんですよね。だから、まずは人に分かってもらえる形にしなきゃいけなかったし、たくさんの人に楽しんでもらわなきゃなっていうのがあって。そう考えた時に、今のこの年齢感や今の私のビジュアルイメージでしかできないこともあるわけで、それが「田中さん」だったなって思うんです。今できることは全部やったし、しかも楽しくやりきれたなと感じています。

──「田中さん」で表現されたあのキャッチーな狂気って、大塚紗英ならではの作風ですよね。

大塚紗英:嬉しいです(笑)。

──今回聴いていて確信したんですが、紗英さんの書く歌詞はみんなが感じる共感のもう一歩先、もう一段階奥まで掘り下げた本音を歌ってますよね。「田中さん」も“ただあなたが好きなの”で終わらず、純粋な思いはストーカーと紙一重だってところまで描いている。



大塚紗英:なるほど、なるほど。

──顕著だなと思ったのは「檸檬サワー」でした。「帰ろうって言わないで」っていうのはラブソングでよくある表現ですが、ここでは「色めいた口実がここにはあるけど」と、本来なら飲み込みそうな本音まで歌詞にしている。

大塚紗英:なんか恥ずかしい(笑)。そんなことは何も考えてなかったから。

──そうやって自然に一歩先まで本音の部分が言えてるから、きっとみんな深く共感できると思うんですよね。見せ方とかアレンジという包み紙はいろんな色や大きさになっていると思いますが、中にあるのは常に本音。最初の話じゃないですが、まさに嘘のないものだと思うんです。

大塚紗英:その「帰らないで」の言葉の先が分岐点だとするならば、「帰らないで」までは100人中99人が共感できるとしますよね。でもそこからもっと掘り下げた時に、下手したら50人しか共感できないかもしれない。だけど私、その50人に愛された時ってものすごいパワーがある気がするんです。たぶんそこをすごく大事にしているんですよね。包みとしてキャッチーなものはパーッと流行るかもしれないけど、その中にある、例えばハンバーグそのものの美味しさを知っている人は絶対にまた足を運ぶと思うし、そこにはリスペクトの気持ちがあると思うんです。

──お互いに飾ることなく向き合っているから、揺るぎないですよね。

大塚紗英:売れたい、結果を残したい。その上で愛されたいってすごい傲慢かもしれないですけど(笑)。

──でもそれこそ人間の本音じゃないですか(笑)。

大塚紗英:どっちかを選んでってよく言うけど、実は私「これ、選ぶ必要あるのかな?」って思ったりもしてます。頑張ればどっちもできると思うんですよ。まぁ、シンプルに人の2倍頑張らなきゃいけないから結構難しいんですけど(笑)。

──たしかに(笑)。ちょっと歌詞の話に戻るんですが、今回は特に「田中さん」や「檸檬サワー」、「37兆2000億」など、具体的なワードで聴き手との距離感をぐっと縮めている点も印象的でした。

大塚紗英:そこは結構意図的にやっています。今回の作品って、リリックの中で“文章”を書いてないんですよ。私が書く日本語の文章って論文とか教科書に近くなっちゃうので、前作では割とわかりやすく書いたつもりだったんですが、正直、こんなにも人に伝わらないものなのかって思ったりもしたんです。世の中にはいろんな環境で育ったいろんな人がいるから、単純に能力とかだけじゃなく、その世界線に触れていない人はわかんないよねということも込みで、なるほど伝わらないのかって。だから今回は、完全に話し言葉の口語なんですよ。物事を人に伝える時って、論理的に物事を語る人がよくやる手法なんですが、例え話をするじゃないですか。その例えばの中に、具体名をたくさん使う。これって確か面接とかでも受かりやすくなるって、そういう本に書いてあったんですよ。


──就活の本みたいなものですか?

大塚紗英:はい。私は15歳の時に、オーディションをたくさん受けようと思って、就活の本を買って授業中にずっと読んでいたんです。その時のノウハウが生きてますね(笑)。具体例を挙げると、単純にみんなハッとする、幼稚園児にでも伝わる、それってすごく大事なんですよ。馬鹿にしているわけじゃなく、誰にでもわかること、わかる言葉を引っ張ってくる事はすごく大事。ただ感情の部分で嘘はつきたくないから、強烈な表現で人のイマジネーションを叩き起こすようなワードを選んだりするんですけどね。たとえ伝わらなかったとしても、そのパワーは響くと思うから。今はサブスクで流し聴きする人も多いと思うので、耳にも心にも残らず通り過ぎて行かないように、フックをたくさん作ることも意識しています。

──そんな風にソングライターとして試行錯誤し、ライブやレコーディングとなるとシンガーとして試行錯誤する。それが合わさった時に音楽家・大塚紗英になるわけで、でもそれは1人で作っているものではないから嘘はつけない、というわけですね。

大塚紗英:はい、今日はいろいろお話しできてよかったです。すみません(笑)。

──アルバム『スター街道』を聴き込んでいただいて、次はぜひライブにも足を運んでいただきたいですね。ちなみにライブで披露するのが楽しみなのはどの曲ですか?

大塚紗英:もちろんどの曲も楽しみなんですけど、あえて言うなら「疲れました、こんな会社」かな。今はまだみんなとコール&レスポンスはできない状況ですが、みんなが歌いやすいところも作っているし、何よりもこんなタイトルの曲でみんなが暴れ狂っているところをめっちゃ見たいんですよね(笑)。この先いろいろ告知されることもあると思うので、ぜひ楽しみに待っていてほしいです!

取材・文◎山田邦子
撮影◎いわなびとん

2nd Mini Album『スター街道』

2021年7月14日(水)発売

【ライブ盤】AVCD-96721/B(ミニAL+Blu-ray+PHOTOBOOK)
価格:6,050円(税込)
[CD]
M1.僕がキスしたらスタンガン
M2.37兆2000億個の細胞全てが叫んでる
M3.田中さん
M4.檸檬サワー
M5.キミをペットにして飼いたい
M6.疲れました、こんな会社
[Blu-ray]
大塚紗英ワンマンライブ『SAE Vo.yage! vol.0 ~出航!~』
[PHOTOBOOK]
豪華36ページフォトブック

【MV盤】AVCD-96722/B(ミニAL+Blu-ray)
価格:3,850円(税込)
[CD]
M1.僕がキスしたらスタンガン
M2.37兆2000億個の細胞全てが叫んでる
M3.田中さん
M4.檸檬サワー
M5.キミをペットにして飼いたい
M6.疲れました、こんな会社
[Blu-ray]
田中さん -Music Video-
田中さん -Making of Music Video-

【通常盤】AVCD-96723(ミニALのみ)
価格:2,750円(税込)
[CD]
M1.僕がキスしたらスタンガン
M2.37兆2000億個の細胞全てが叫んでる
M3.田中さん
M4.檸檬サワー
M5.キミをペットにして飼いたい
M6.疲れました、こんな会社

アルバム詳細:https://avex.jp/saeotsuka/starkaidou/

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