【対談】DAISHI [Psycho le Cému] × RYUICHI [LUNA SEA]、「できないことをやろうとしている」

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■どこをどうやって届けるかっていうことを
■ヴォーカリストはいつも意識している

──RYUICHIさんがイヤモニを使用した時代もあったんでしょうか?

RYUICHI:ありますよ。ただ、ステージ全編でイヤモニしてたことはないんです。僕には全く合わないから。イヤモニって外の音が完全に遮断されるので、ファンの人たちが「ワーッ!」と言っても、ほとんど何も聞こえてないんです。比率で言うと約30分の1くらいしか外の音が聞こえない。たとえ客席を煽ったとしても、その反応が静かな映画館にいるみたいに全くの無音状態で。だけど、今、ファンの声とか外の音を耳に届けるバルブ的システムのイヤモニも開発されているみたいですね。

DAISHI:それ試してみたいです。

RYUICHI:ヴォーカリストには耳を壊している人が実は多いんですよ。ヘッドフォンすると分かると思うんだけど、鼓膜が張り付くような感じがするでしょ? 空気がキュッと吸われた状態になるから。一方で転がしのモニターは絶対にそうならないけど、音が回り込んで、キーが分からなくなったりする。イヤモニも転がしも、それぞれ良いところも悪いところもあって。ピッチとリズムを第一に考えるんだったら、イヤモニが無敵だと思いますけどね。

DAISHI:でも、イヤモニだとライヴが楽しくないんですよね。

RYUICHI:そうそう!

DAISHI:ヴィジュアル的にあまりよくないし、やっぱり転がしで歌っているほうが気持ちいいし、それって客席にも伝わると思うんですよ。イヤモニで歌うと音程を当てにいくというか、置きにいくというか、レコーディングっぽくなっちゃう。もちろん、ライヴでもしっかり歌いたいけど、心のどこかで“CDとは別”という気持ちもあって、ライヴ感を大事にしたいですから。

RYUICHI:イヤモニだと吠えないよね。ライヴだとどこかで吠えてるというか、超える瞬間があるから。

DAISHI:はい。ブチッ!とスイッチが入る感じがイヤモニだとなかなか出にくいんですよね。


▲DAISHI (Vo / Psycho le Cému)

──RYUICHIさんは近年、「レコーディング時もライヴのような心構えを大事にしている」とお話されていますが、つまりはライヴ感を重視されているということですか?

RYUICHI:レコーディングの話は、また別の要素があって。完璧な歌を記録しようと思うと、修正していかなければいけないんですよ。ある箇所を歌い直すとか、もう一回歌ってみるとか。でも、そういうことを繰り返すんじゃなくて、“これは生放送だ”と思って歌うということ。例えば、目の前にファンがいたとしたらやっぱり“自分の気持ちを伝えること”が一番重要じゃないですか。その次に、音程やリズムを当てにいくというか、正解を求めることが大事になってくる。レコーディングも一番大事なものを届けるために、やり直しはきかないと思って歌わないとね。まぁ、僕はレコーディングで3本も4本も歌うのが嫌だから、できたら1本歌って、ちょっと直して終わりにしたいみたいな(笑)。

DAISHI:1回でもやってみたいですよ、それ。憧れっす!

RYUICHI:あくまでも、“そういう気持ちで”という話ですけどね。DAISHIも絶対できると思うよ。可能ならリハーサルの日をつくって、レコーディング当日は、“今日は生配信だ”ぐらいのつもりで歌ってみるといい。ダメなところだけパンチインするぐらいのつもりでやれば、それが一番勢いのある歌になるはずから。

DAISHI:美空ひばりさんがそういう感じで録っていたという話を聞いたことがあります。けど、僕は楽器チーム以上に、一番歌録りの時間をもらってます(笑)。

RYUICHI:僕も美空さんのディレクターにディレクションしてもらったことがあって、いろいろな話をお聞きしたんだけど、やっぱり重要なのは「どこを切り取ってどこを出すか?」というジャッジなんですよ。神様みたいに“いつでも完璧に歌える”なんて人はいないわけだから。レコーディングとか収録となると、「もう一回ここだけやり直していいですか?」というのが当然ある。長く歌えばいいってわけでもないし、短ければいいってものでもない。何度も歌うにつれて声も変わっていくしね。

DAISHI:はい、変わりますね。

RYUICHI:1曲を3〜4本と歌っていくと、だんだん1本目と4〜5本目の声が違ってくるんですよ。そうすると繋がらないので、「違う日に歌い直しましょうか」となる。だから、数本で録り終えるという方向に、最終的にはいかざるを得ないんだよね。「MOON」(アルバム『LUNA SEA』収録曲/1991年発表)のレコーディングなんて、僕は8〜10時間だったかな? ずっと歌ってましたからね(笑)。アナログレコーディング時代だからパンチインもできなくて、もうずっとやり直してるみたいな(笑)。歌い直していくと、1stテイクからどんどん声が変わっていっちゃうでしょ。夜中まで歌録りを繰り返して本当に声が変わっちゃって、さすがに「やめよう」と言われて帰った記憶があります。録り終わったものをエンジニアさんが誤って全部消しちゃって、「また明日お願いします」となったときは……もう血の味がしました(笑)。そういう時代もありましたから。

DAISHI:僕、3枚目のシングルで米米CLUBの「浪漫飛行」をカバーさせていただいたんですけど、何本か歌ってレコーディングを終えた帰り道、むちゃくちゃ電話が鳴って。何だろうと思ったら「すみません……音が全部消えちゃったんです」というのが1回だけあったんですよ。レコーディングが終わったから、ちょっと飲んでたんですけど、酒の味がしなかったですね(笑)。その日は声がもう大変だったので帰りましたけど(笑)。

RYUICHI:それはキツいよね~。でもね、それが起こる世界なんですよ。LUNA SEAもヴォーカル以外でも、「ここのフレーズだけ消えちゃった」とかあるもん。

──ちなみに、DAISHIさんの最長ヴォーカルレコーディング記録は何時間ですか?

DAISHI:僕はそんなに長くはないですね。4時間ぐらい。僕らがデビューした時は、事務所の社長がOKのジャッジをしてまして。デビュー曲で「うん、うまいこと歌えた。いいよ! いいけど、もっといいのできるかもしれへんから」って3テイクぐらい録ったという。で、結局使ったのは1テイク目だったりするんですけどね(笑)。

RYUICHI:そうなんだよね(笑)。1日で、最高何曲録ったことある?

DAISHI:3曲です。

RYUICHI:俺はコーラスまで5曲録ったことがある。しかも歌詞を書きながら(笑)。ソロの時なんだけど、朝9時から夕方5時ぐらいまでに5曲書いて録りました。

──耐久レースみたいな過酷さですね。

RYUICHI:この話ってとにかく、ヴォーカリストは“どこを届けるか?”ということがすごく大事で。たとえば、配信にしてもライヴにしても、開演時間というスタートタイムが決まっていて、ドラムカウントと共に1曲目が始まるわけじゃないですか? それはもう誰にも操作できない。たとえ調子が悪くてもその第一声が全て届くわけですよね。一方で、毎日のようにツアーをしていても、「2日目がすごかった」ということって必ず生まれる。すべての日程を精一杯やっても、やっぱり声は生き物だし、歌ってそういうところがあるから。だからこそ、どうやってどこを届けるかっていうことをヴォーカリストはいつも意識していると思います。


▲Psycho le Cému

──お2人は声を届けるマイクにもこだわりがありますか?

DAISHI:一時期、自分でワイヤレスマイクを買って使ってみたんですけど、“やっぱりワイヤードのほうが音がいいな”と思ったり。ただ、Psycho le Cémuは踊ったりお芝居もするので、ワイヤードは不向きなんですよ。そのせめぎ合いがあって難しいなと。

RYUICHI:分かる。ケーブルの長さの問題もあるし、絡むし。

DAISHI:はい。音響の方といろいろ話して、やっぱりワイヤレスマイクで、その中でもプロ仕様の高価なマイクが一番良かったので、今はそれにしています。

──RYUICHIさんは最もスタンダードなシュアー58を愛用されていますよね。どんな理由があるのでしょうか?

RYUICHI:一番ベタなマイクですよね。今、DAISHIが言ったように、俺もやっぱりワイヤードが一番いいと思っているんです。LUNA SEAのライヴではほとんど動き回らずにセンターにいるんですけど、実はこれにも理由があってね。LUNA SEAのライヴは曲中に、例えば上手のSUGIZO(G)、下手のJ(B)とINORAN(G)が、左右に行き交って翼のように広がるわけですよ。そこで僕が一緒に動くと、たまたま下手に4人が集まってしまったりする。そういうアンバランスな構図が生まれるときもあって。そうすると真ちゃん(真矢/Dr)だけがセンターに残ったような、変な画になってしまうんですよ。でも、僕がセンターのモニター周りにいれば、真ちゃんと僕が真ん中にいるから、みんなが左右に動いても画的にいいっていう。そんな話が当時、ビデオクルーとの会話で出たんです。で、“センターからほぼ動かないのであれば、音的にもワイヤードのほうがいい”と思ったんですよね。だから、さっきのDAISHIの話とは真逆。マイクはワイヤードだしモニターは転がしだから、センターから動かないというのはベストで。ただ、東京ドームのような会場で出ベソ(※アリーナから客席にせり出したサブステージ)へ行く時だけはワイヤレスで歌おうとか。

DAISHI:なるほど。

RYUICHI:シュアー58をなぜ愛用しているか?というところに話を戻すと、もちろん性能とかいろいろあるけど、やっぱり一番は慣れてるからで。14〜15歳の頃から、ライヴハウスに行こうが貸しスタジオに行こうが、シュアー58って必ず置いてあるんですよ。一口にシュアー58と言っても、メイド・イン・USA、メイド・イン・メキシコ、そして今はメイド・イン・チャイナと年代によって製造国が異なるんです。同じ年代でも個体差による音の違いもある。だから、10数本買って、“LUNA SEAではこれ” “ソロのショウの時には甘い感じのこれ”とか、それぞれ個体差とか、その特性に合わせて使い分けているんです。

DAISHI:音的にはどんな特性が好みなんですか?

RYUICHI:近接効果がすごく面白いと僕は思っていて。マイクに口を近付けた時、ちょうど100Hzぐらいの周波数帯が増えるんですよ。例えば“♪エッエッエッ(※喉を閉めたような歌唱)”って硬く歌っても、“♪ヘッヘッヘッ(※まろやかな感じで)”って柔らかく歌っても下のほうの声が太く聴こえるんだよね。「ROSIER」の平歌の歌い出しの時はマイクを近付けて歌うんだけど、そうすることであまり呼吸を使わなくてもラクに歌えるっていうのかな。あくまでも僕の場合ですけどね。ゼンハイザーとかテレフンケンとかノイマンとか、いろいろなマイクを使ったけど、ライヴでは上手くそれを使いきれなかった。シュアー58は、近づける/離すというマイクコントロールの時に、外す場所によって声がどう響くか、“このぐらいの角度でマイクを外して、芯をぶらすとこう聴こえる”とか、声を張った時にどうなるかを身体が覚えているんですよ。僕の声とシュアー58なら“ここのHzが邪魔”ということも経験的に分かっているから、結局は戻っちゃうんですよね。

DAISHI:僕はメンバーと闘ってワイヤードのシュアー58を使用してた時期もあったんですよ。転がしから聞こえる声がワイヤレスマイクではチープに感じるというか。

RYUICHI:ペラッとしてるよね。ワイヤードのほうがムチッとしてる。今、こうしてDAISHIがしゃべっている生の声を聴いているわけだけど、マイクを通すと、その先にあるヘッドアンプ、コンプ、そのEQ(イコライザー)が掛かるわけで、それらも重要なんです。僕はレコーディングでもLUNA SEAのツアーでも、1970年代のテルフンケン製ヘッドアンプとコンプを持ち歩いているんですよ。エンジニアさんによっては「イヤだ」という人もいるんですけどね。

DAISHI:ビンテージがイヤだということですか?

RYUICHI:やっぱりSN(※シグナルノイズ/音声信号に対するノイズ比率)が悪いと感じる人もいて。実際、SNはデジタルのほうがいいですよね。だけど声さえ張れれば、SNが悪いという聞こえ方にはライヴでも絶対にならないので。その機材を歌番組とかに持って行くと、「これ、シャーシャー言っていて使えない」って先方のエンジニアさんが言うことがあるんですよ。だけど、うちのエンジニアが「RYUICHIはこのゲインで行きますから。大丈夫ですから、リハーサルをやってみてください」と言うと、「えっ!? このゲインで本当に声が届くんですか?」って驚くんです。結局、「大丈夫でした」っていうことになるんですけど、そういうやり取りをいつもしているみたいですよ。

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