【インタビュー】松浦航大、ものまねの応用から極めた“声”の研究。「いろんな人のものまねをしたら、自分らしいものが絶対に出てくる」

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複数のシンガーのものまねを駆使した斬新な動画をYouTubeやSNSに投稿して、幅広い層からの圧倒的な支持を確立している松浦航大。ものまねを独自の表現へと昇華する彼の活動が、今年に入ってからひときわ加速している。10月6日に配信リリースされた「アホウドリ」は、そういう姿をまさしく体感させてくれる曲だ。SNSなどを通じて拡散される情報を鵜呑みにすることへの違和感を描いたのはなぜなのか? ものまねの新世界を切り拓くことへの情熱にも満ちている彼に、じっくりと語ってもらった。

   ◆   ◆   ◆


■「発信されていることが全てではない」
■と、今一度考えた方がいいんじゃないかなと


──「アホウドリ」は、YouTubeの企画でやった「米津玄師の新曲だと言ったら 信じるか信じないか」の時に作ったフレーズがもとになっていますよね?

松浦:はい。米津さんのものまねで勝手に新曲を作ってみて、街の人に聴かせたら全員信じた企画です。そのフレーズをもとに作ったら予想以上に良い曲ができたんですよね。自分の曲にすることになったので、歌詞にメッセージがある必要があるなと。「SNS、噂、いろんな情報を鵜吞みにせず、自分の目で真実を確かめないといけないんじゃないの?」っていうメッセージ性を持たせることができたと思います。

──ご自身の体験も反映されているんじゃないですか?

松浦:そうですね。発信された情報を真正面から受け止めるというのは仕方のないことではありつつ、「発信されていることが全てではないんだよ」と今一度考えた方がいいんじゃないかなと。そういうことも含めてみんなに考えてもらうきっかけというか。そんな曲になったらいいなと思っています。

──情報に対しても読み解く力、リテラシー的なことが必要ですし、何も考えずに鵜呑みにしたり、拡散したりすると、間違った方向に行ってしまいますからね。

松浦:新しい情報メディアとかだと特にそうなりますよね。「あなたも情報の発信者の1人として慎重に情報を取り扱わなければいけないんじゃない?」っていうのを伝えたいです。嘘の情報であっても面白がって拡散されてしまうことがありますから。

──例えば松浦さんのようにYouTubeのチャンネル登録者数がたくさんいる立場だと、そういうことの恐ろしさを知る機会は度々あるはずです。

松浦:フォロワーさん、ファンのみなさんが増えれば増えるほど、そういうことは起こるようになっていきますね。僕みたいな活動をしているからこそ起こる副作用じゃないですけど。

──こういうメッセージを「アホウドリ」というモチーフを通じて、キャッチーなテイストで表現しているのも、この曲の味わい深さです。

松浦:ここまで毒を吐くというか、攻撃的な歌詞を書いたことは今まであんまりなかったから、キャッチーさと遊び心は忘れずに入れたいと思っていました。アホウドリとか鳥が出てくるってかわいいですし。

──ツイッターのマークも鳥ですし、それとも絡めていますよね?

松浦:はい。だから鳥を彷彿とさせる表現をいろいろ歌詞に盛り込んでいます。あと、歌詞を書いていた当時、『進撃の巨人』にはまっていたので、《奇行種》という言葉を入れてみたり(笑)。遊び心を忘れないで楽しみながら歌詞を書くようにしました。

▲松浦航大/「アホウドリ」

──歌声で遊んでいるのも、この曲の絶妙なアクセントです。

松浦:ビブラートやフェイクとかで鳥をイメージしました。米津さんのものまねに聞こえないように自分の声で録る意識もありましたね。僕のファンのみなさんの多くはものまねを求めているので、違和感なく聴いてもらうための自然なプロセスみたいなものも踏まえるようにしました。僕の米津さんのものまねって、実はカラスの声のまねの応用だったりするんです。

──そうだったんですか⁉

松浦:はい。高音を出す時にカラスのものまねをする感じで喉の奥に音を当てると、米津さんが「あ」って発声する時っぽくなるんですよ。そういう繋がりがこの曲に盛り込まれているのも、面白さになっているかもしれないですね。

──TikTokで150万回再生だとお聞きしています。大反響ですね。

松浦:YouTubeの企画でも「いいね」をたくさんいただきましたし、「これは時間がかかったとしても、たくさんの人に愛してもらえる曲になるんじゃないかな?」っていう予感があります。

──今まで様々な企画でバズってきましたけど、投稿に対する反応は気になります?

松浦:めちゃくちゃ気になります。数字を気にしないクリエイターはいないんじゃないですかね。僕も反応次第でその日のテンションが決まりますから。投稿直後の反応の数字のチェックは、株をやっている人みたいですよ(笑)。「伸びろ! 伸びろ!」って。

──反応は、投稿する前からある程度予想できるんですか?

松浦:結構予想できます。確信があるものは大体数字が伸びますね。たまに予想が外れる時もありますけど。

──作るのが大変だったからといって数字が伸びるわけではないんでしょうね。

松浦:そうなんです。でも、「アホウドリ」はYouTubeの企画自体が跳ねたんで、あとは純粋に良い曲を作って、みなさんに注目していただけるように試行錯誤していきました。

──先日のライブでも歌いましたが、どのような手応えを感じていますか?

松浦:めちゃくちゃライブ映えしますね。照明と共に聴いていただけると迫力もあるし、ムードが出ていて、すごく良いと思っています。


──YouTubeでの活動を精力的にしていらっしゃいますが、やはりライブにもかけがえのない魅力があると感じています?

松浦:はい。やっぱりライブをしないとだめです。この前のライブの後も「この日のために動画の投稿を積み重ねてきた」って思いましたから。今までずっとライブがなかったから自分の中でフラストレーションが溜まっていたんです。ファンのみなさんに生で聴いていただくからこその達成感がありました。ライブができないというのは、音楽業界全体にも大きな影響がありますよね。例えばカラオケに行けなくなると歌う機会も減るから、曲を覚える機会も減るじゃないですか? 

──おっしゃる通りです。

松浦:だからヒット曲が生まれにくくなっているというのもあったと思います。これからカラオケにも行けるようになって、ライブもできるようになることによって音楽に触れる機会も増えて、音楽業界全体が盛り上がるようになっていって欲しいです。

──音楽って、1人で聴くだけで完結するとは限らないですよね?

松浦:そうなんですよね。深みが変わるというか、自粛生活で聴くと味気ない気がします。カラオケに行ったり、ライブで聴いたりすると、1曲に触れる際の深みが違う気がします。曲の中にあるストーリーを感じて好きになるとカラオケでも歌うし、ライブに行って心を動かされて曲を広めたくなったりもしますから。


──松浦さんも、カラオケに通いながら歌声の表現を磨いた時期があるんですか?

松浦:僕にとってカラオケは、めちゃくちゃでかいですよ。高校生の時とかもカラオケに行っていましたし、今でも1人で練習する時はカラオケです。カラオケの採点番組にもたくさん出させていただいているので、その練習もカラオケですからね。

──高校生の頃もカラオケでものまねをしていたんですか?

松浦:その頃は、平井堅さんのものまねをしていたくらいですけど。あと、学校の先生のものまねはいつもやっていました。先生の言わなそうなことをものまねで言うんですよ。

──平井堅さんのものまねをする際は必ず掌を頭上に掲げますけど、あれもパフォーマンスに欠かせない要素ですよね?

松浦:はい。あれは平井さんの歌の工夫、技術でもあるんだと思います。あれによって通りの良い声になるように感じるので。

──歌声って、喉だけじゃなくて身体の使い方、姿勢も重要だと、よく聞きます。

松浦:そうなんです。身体の使い方によって全然変わりますから。

──松浦さんが声に関して積み重ねてきた研究は、ものすごいでしょうね。

松浦:いずれ本とかにまとめたりしたいし、「〇〇さんのように歌いたい」っていうのを実現するボーカル教室みたいなことができたらいいなあって考えたりしています。それが未来のものまね、シンガーを育てることにも繋がりますし、そういう興味もあるので。

──例えば「〇〇さんみたいにギターを弾きたい」というニーズに応えた教則本みたいなものもありますし、ボーカリストでそういうものを提供するのは、たしかにありかも。

松浦:そうなんですよ。歌を歌いたい人って世の中にたくさんいるし、プロアマ問わず誰かの技術を吸収するっていうのは、すごく上達に繋がるんです。歌に限らず、スポーツとかもそうですけど、「まねから始める」というのは上達のための近道なんだと思います。

──今おっしゃったことは6月にリリースした「オリジナリティ」で歌ったことにも繋がりますね。

松浦:まさにそうですね。例えば平井堅さんのものまねをだけをする人だったら、二番煎じで終わってしまうのかもしれないです。でも、平井堅さんがやらないようなことを自分なりの形で発信すると、そこから自分らしい表現が生まれるんだと思います。いろんな人のものまねをしたら、自分らしいものが絶対に出てくるんですよ。「ものまね」って言っていないシンガーも、そういうのは絶対に通っている道ですから。よっぽどの天才でない限り、最初からオリジナルっていう人はいないんですよね。

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