【プロミュージシャンのスペシャル楽器が見たい】Unlucky Morpheus 紫煉、自分の身体のための唯一の選択肢はstrandbergの軽いヘッドレスギター

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スピード感あふれるテクニカルな演奏で注目を集めているビジュアル系メタルバンドの“あんきも”ことUnlucky Morpheus。そのギタリストで全楽曲の作曲やアレンジも手がけている紫煉。彼のメインギターはstrandbergの7弦ギターだが、数年前に手を傷めたことが理由でこのギターを選び、同時にチューニングから曲の作り方などさまざまなことを変えてきたのだという。その詳しい経緯や、ユニークなヘッドレスギターの使い心地など、紫煉に大いに語ってもらった。


――紫煉さんのメインギターはユニークなモデルですね。

紫煉:strandbergというメーカーのもので、ヘッドレスで7弦ギターです。2021年の夏ごろに買って、それから今まで半年ちょっとくらい、メインで使っています。



――どんなきっかけでこのギターを入手したんですか?

紫煉:豊洲PITでライブをやることになったときに、そこで新しいギターを使いたいと思って買いました。その前に使っていたのもstrandbergのギターなんですが、数年使い込んだので、まあほんのちょっとですけどガタつきが出てきそうな感じだったんです。それで、ここで1本新しいギターを持っておこうかなと。前のモデルはピックアップがアクティブだったんですが、今度はパッシブピックアップのモデルにしました。パッシブを試してみたいというのもあったし、パッシブのギターを追加しておけば、場面に応じてアクティブとパッシブを使い分けられるだろうと思ったので。


――これはなんというモデルなんですか?

紫煉:srandbergのBODENというシリーズの7弦で、普通に市販されているモデル。型番はなんだったかな。オレ、実は型番とか仕様とか細かいところはあまり気にしないタイプで、弾いてみて良ければそれでいい、という感じで使っているので。だから買う前には必ず試奏します。

――試奏して気に入ったところは?

紫煉:音の反応というか、パッと弾いてみたときの、“お、良い鳴りだな”って感じられるところですね。前のモデルと比べるとパキッとした感じの音なので、バッキングにはこっちのほうが向いているかなと感じました。やはりパッシブなので、前のモデルのアクティブに比べて輪郭がはっきりしていて、アタック感、スピード感がある。それがバッキング向きかなと。ガリガリっと力強くバッキングができると思いました。


――指板にはユニークなデザインのポジションマークがついていますね。

紫煉:これは自分で貼ったものです。普通に売っているポジションマーク用のシールです。最近のギターってポジションマークがないことも多いですけど、マークはあったほうが弾きやすいに決まっているじゃないですか(笑)。このstrandbergもハイポジションは1弦側、ローポジションのほうは7弦側に小さい丸いマークがあるだけなので、弾いているとたまに“アレ?”ってなっちゃう(笑)。だから毎回こういう目立つものを貼っています。


――ネックの形状もユニークですね。裏側が直線的にカットされている。

紫煉:この台形のネックというのもstrandbergの特徴の一つですね。しかも非対称になっていて、中央の一番厚みのあるところが、ハイポジションに行くにしたがって低音弦側から高音弦側にずれていくという特殊な形になっています。

――普通のネックと比べて弾きやすさはどうですか?

紫煉:慣れれば普通に弾きやすいですね。普通のネックもいいし、これもいい、という感じで、変わった形だからとくに弾きやすい、弾きにくいということはないです。だからとくにこの形じゃなきゃイヤだということもないですが、strandbergは全部この形なので。


――どんなピックアップがついているんですか?

紫煉:これはstrandbergのギターによくついているもので、詳しいことはよく知らないんです(笑)。音については、パッシブですけどパワーがあって、メタルに向いた音が出せますね。しっかり歪みも乗ってくれます。

――コントロール類はどんな構成ですか?

紫煉:3ポジションのピックアップセレクターと、ボリュームとトーンのつまみがついていますね。ボリュームのつまみはこう、パチンと引き上げられるようになっているんですけど、なにがどうなっているのかはわからない(笑)。普通に考えればコイルタップだと思いますけど、あまり使わないです。ギタリストって、すごく仕様にこだわったり改造したりする人もいますけど、オレはあまり機材とか細かいところに興味がないんですよ。小学生のときにミニ四駆でけっこう改造もしていたので、なにかの改造というのはそのときにもう一生分やりつくしたという感じです(笑)。


――セレクターはどんなポジションにして弾くことが多いですか?

紫煉:基本的にはいつもリアのハムバッカーで弾いています。フロントはソロのときにたまに使うくらいですね。レコーディングだとテイクごとにピックアップを変えて試すこともありますけど、ライブではあまりピックアップを切り替えるのに興味がないんです。音が少し丸くなった、だからなに? みたいに思うこともあるし(笑)。基本はリアのハムバッカーでいつも良い音になるようにセッティングしておいて、ここだけはどうしても音を変えたいというときに切り替えるくらいです。ライブでは音の微妙な違いよりも、ミスをしないことが大事だと思っているんです。もちろんセッティングの切り替えも演奏も、色々なことがすべて完璧にできるのがベストですけど、そういうことに気を取られてミスが起きるほうがよくない。なにより自分の演奏中に迷いを作らないことが重要ですから。



――ブリッジも独特の形状ですね。

紫煉:ブリッジは弦ごとに独立した筒形になっていて、こちら側に弦のポールエンドを通すようになっています。この筒の先端が回るようになっていて、これでチューニングします。ヘッドレスなのでこれがペグになっているんですね。アームもないのでチューニングは安定しています。

――他のギターでアームを使うことはあるんですか?

紫煉:今はほとんど使わないです。以前、ESPのE-IIを使っていたときはアームも好きだったんですけど、strandbergは特殊な構造なので、アームの反応とか柔らかさとかが普通のアームとはちょっと違うんです。だからとくにこの曲はアームが必須、という場合だけ、アームのあるギターを使うことにしています。


――このギターをメインで使う理由は?

紫煉:実は数年前に腱鞘炎になって、それ以来重いギターでは弾くのが難しくなってしまったんです。それで軽いギターを探していてstrandbergを見つけました。それがこれの前に使っていたモデルです。重いギターだと肩にかけて弾くのが負担になるので、ギタースタンドを使って演奏していたこともあるんですが、これは確か2.5kgくらい、とても軽いので、肩にかけて弾くことも多くなりました。

――軽いギターであることが大事だったんですね。

紫煉:そうなんです。そう言ってしまうとstrandbergの方にはちょっと申し訳ない気もしますが(笑)。もちろんすごく良いギターだと思いますが、音が好きだとか弾きやすいとか、そういうことの前に、まず軽いからというのが正直なところです。とにかくこれだけ軽いというのは、今の自分の身体の状態にとってすごく大事なことなんです。こういうギターを作ってくれてホントにありがたいと思っています。


――軽さを重視してギターを選んだとなると、それまでのギターとはかなり音も違ったのでは?

紫煉:そうですね。以前使っていたE-IIは気に入っていたんですが、それとはサウンドキャラクターはかなり違いますね。E-IIのほうがメタルっぽい音で、strandbergは少しフュージョンっぽいというか、きれいな音ですね。ただ、軽いギターって音の密度みたいなところが課題だと思うんです。バッキングの時のサウンドで言うと、理想はやはりE-IIやジャクソンみたいな、いかにもメタルギターの音が良いなというのは正直なところです。でも今の自分の身体の状態を考えると、市販されているギターの中ではstrandbergしか選択肢がないんです。

――その音の違いはどのように乗り越えたんですか? エフェクターやアンプのセッティングで解決した?

紫煉:そういうことになりますね。ギターが絶対にこういう音でなければ、みたいなのがオレはあまりないんです。それよりも、このギターのサウンドキャラクターがこうだから、それに合わせて自分のプレイをどうしようとか、アンプはどんなものを使おうかと考えるんです。とくに軽いギターとなるとほかの選択肢がないので、このギターに合うように、そのほかの部分をどうしていくかを考えましたね。だから、よく聴いたらstrandbergを使い始めてから音が変わっているのかもしれないけど、そういうところもあっていいと思っています。



――軽いギターにしてから演奏面でなにか変わったことはありますか?

紫煉:ギターが変わったからというより、そもそも手の負担を軽くすることが目的だったので、そういう意味で演奏は変わりましたね。とくに変わったのは小指を使わないようにしたことです。小指ってやはり弱いので、無理して弾くと負担が大きいんです。ここだけはしかたない、というところで小指を使うこともありますが、なるべく小指を使わないように考えて曲を作るようにしました。あとチューニングも変わりました。以前は普通のレギュラーチューニングだったんですが、今は6弦だけ1音下げています。いわゆるドロップDチューニングの下に7弦がついているという。これならパワーコードを弾くときにも小指を使わなくてすむんです。小指を使わないことで手の負担が減らせることに気づいてからは、すべてこの変則チューニングです。


――そのチューニングにしてみたら手の負担が減ったと?

紫煉:いや、逆です。手の負担を減らすためにどうするかを考えて、このチューニングにたどり着いたんです。

――ところで弦はどんなものを?

紫煉:エリクサーです。コーティング弦が気に入って使っています。ゲージは.009~.052です。仁耶と同じですけど、彼はレコーディングのときに.010を使うこともあるみたいですね。


――では以前のメインギターも見せてください。赤のstrandbergですね。

紫煉:はい。違いはピックアップがアクティブであることくらい、そのほかはほとんど同じですね。アクティブだから、今のメインギターに比べて少しマイルドな音がします。ネックはどちらもメイプルだと思うんですけど、見た目の色合いがちょっと違うので、ひょっとしたらそれによる音の違いもあるかもしれないですね。でも材質とかそういうのもオレはあまり興味がなくて(笑)。ただ、指板はメイプルだとアタックがパリッとして好きな音が出るような気がするので、そこは意識して選んでいます。




――先ほど、アクティブとパッシブの使い分けも考えていたということでしたが、実際にはどう使い分けていますか?

紫煉:今はレコーディングでもライブでも、このメインのほうだけです。最初は曲ごとに使い分けるというのもアリだと思っていましたが、やはり新しいほうを弾きたいし(笑)。


――そしてもう1本は同じstrandbergの8弦ギターですね。全体が暗い青で、明るい青が杢目に沿って入っていてカッコいいです。

紫煉:この色がすごく気に入っています。strandbergの8弦の中で圧倒的に見た目が良かったのでこれを選びました。音はちょっと暗めなので、ほかのギターから持ち替えるときには、エンジニアさんに頼んで少し音を明るく調整してもらっています。


――フレットが直線ではなくてうねっていますね?

紫煉:あまり詳しいことはわからないんですけど(笑)、True Temperamentといって、チューニングの精度を追求したもので、複雑なコードでも濁らないらしいです。フレットはまっすぐではないんですがチョーキングも問題なくできますよ。そのへんもちゃんと計算されて作られているんですね。


――このギターはいつ頃から使っているんですか?

紫煉:以前は仁耶と同じE-IIの8弦を使っていたんですが、あれはメチャメチャ重いんです。それで8弦を使う曲はライブであまりやっていなかったんですけど、去年の夏ごろ、久しぶりにやりたいなあと思って、その曲用に軽いstrandbergの8弦を使うことにしました。

――普通のギターから2本も低音弦が増えますが、弾き心地は?

紫煉:7弦ギターは、6弦のギターにちょっと1本付け足しただけの感覚ですけど、8弦はもっと違う感覚になりますね。ただ低いほうの7弦と8弦は、あまり普通にコードを弾くときには使うことはなくて、パワーコードとか単音のリフとかで使うくらいなので、そんなに違和感はないです。



――アンプやエフェクターはどんなものを使っていますか?

紫煉:ライブでいつも使っているのは、仁耶と同じFractalのAX8です。HELIXのSTOMPをときどき使ったこともありますが、今は配信専用になっていますね。アンプは、レコーディングではPEAVEYの5150を使っています。

――バンドには紫煉さんと仁耶さん、二人のギタリストがいますが、役割分担はどのようにしていますか?

紫煉:手を傷める前までは、レコーディングでは以前はオレがほとんど弾いて仁耶は曲によってたまに弾く、という感じだったんですが、今はバッキングが仁耶、ソロはオレを中心に、という感じになっています。自分がギターを弾く量を少なくするために変えたんです。


――ギタリストなのに、ギターを弾く量を減らすというのはつらいですね。

紫煉:まあ、なってしまったことはしかたがないので、その中で最大限できることをやろうと。それで楽器やチューニング、作曲の方法も色々と考えてきたんです。以前はほかのプロジェクトを色々とやるのも好きだったんですけど、今はやめました。自分の身体の現実に向き合うとなると、あんきもに専念してしっかりと曲を作ってライブをやってというのがベストなんだろうと。

――身体のために色々考えて、今の状態にたどり着いたわけですね。では今後についてはなにか考えていることはありますか?

紫煉:ほかのメーカーでもっと軽いギターが出たら乗り換えるかも(笑)。もしESPがこれくらい軽いギターを作ってくれたら、またぜひ使いたいと思ってはいるんです。オレはMIという音楽学校に行っていたし、E-IIもモニターとして使わせてもらったりと、ESPとは色々と関わりがあるもので。ただ軽さという意味ではやはりヘッドレスになると思うので、それならやはりstrandbergの技術が優れていると思うんですよね。それと、strandbergはこのボディの形もいいんですよ。ボトム側がカットされているので、ギターを斜めに立てて足に乗せることもできるんです。この部分、すごく気に入ってますね。

――ではこれからもヘッドレスギターを使い続けていくんですね。

紫煉:だと思います。もともと、以前からヘッドレスギターって面白いなと思っていたんです。アラン・ホールズワースとかが使っているのを見て、その変わった見た目とかも好きでした。今はテクニカル系のメタルギタリストも使うようになってきましたけど、まだ珍しい楽器ですよね。だから今自分が使い続けることで、ヘッドレスギターを世の中により広められたらいいなと思うし、アラン・ホールズワースのように、ヘッドレスといえば紫煉、みたいなイメージに将来的になっていったらいいなと思っています。


――ところで、今日はギター以外にトランペットも持ってきていただいたんですね。

紫煉:ライブ中盤でアコースティックコーナーをやることがあって、そのときに使っているトランペットです。トランペットは、中学校のときに吹奏楽部でやっていました。今はとくに練習しているわけではないので達者なトランぺッターではないんですが、最低限の音は出せますよ、といった程度なんですが。

――なぜアコースティックコーナーでトランペットを?

紫煉:いや、なんとなく面白いかなと(笑)。ライブでアコースティックコーナーというのはよくあると思うんですけど、そこでギタリストがトランペットを吹き始めるというのはあまりないだろうと。

――このトランペットは中学生のころから使っているものですか?

紫煉:いや、それは弟にあげちゃいました。これはアコースティックコーナーをやることになった2~3年前に買いました。セルマーのトランペットなんです。中学のときは国産を使っていたんですけど、お金持ちのヤツはセルマーを使っていて(笑)、憧れだったんです。それを、大人になってようやく手に入れたという。中古だったんですけど、けっこう年代物らしくて、吹き手はイマイチでも良い音がしていますよ(笑)。

――アコースティックコーナーでは、トランペット以外の楽器も演奏するんですか?

紫煉:アコースティックコーナーって、ライブの途中でほかのことをやることで、ギターを弾くための筋肉を休ませる、みたいな目的もあるんです。それで、ピアノを弾いたりパーカッションをやったりしていますが、最近はピアノの登場が多くなっていますね。だから、もうちょっとピアノも上手くなりてぇな、とか思ったりしています(笑)。


取材・文●田澤仁


▲Unlucky Morpheus(写真左より:仁耶、小川洋行、Fuki、紫煉、FUMIYA、Jill

リリース情報


『evolution』
価格:2,800円(税抜)
品番:ANKM-0041
01. evolution
02. “M”Anthem
03. アマリリス
04. Welcome to Valhalla
05. 誰が為に
06. Wer ist Faust?
07. The Black Death Mansion Murders
08. Serene Evil
09. “M”Revolution
10. 夢幻


『“XIII”Live at Toyosu PIT Blu-ray』
価格:5,000円(税抜)
品番:ANKM-0038
01. Unfinished
02. Unending Sorceress
03. Near The End
04. 籠の鳥
05. Salome
06. Make your choice
07. Top of the“M”
08. Dogura Magura
―Violin Solo―
09. Carry on singing to the sky
10. “M”Revolution
―Bass Solo―
11. Spartan Army
12. Wings(acoustic)
13. 願いの箱舟(acoustic)
14. Vampir
15. Opfer
16. La voix du sang
17. Phantom Blood
18. Angreifer
19. Change of Generation
20. Knight of Sword
―Drum Solo―
21. Black Pentagram
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