【プロミュージシャンのスペシャル楽器が見たい】Unlucky Morpheus 小川洋行、あんきもの音楽のために選択した見た目も音も力強いESPの5弦ベース

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超絶技巧集団のUnlucky Morpheus(あんきも)にあって、テクニカルなフレーズを聴かせつつも、どっしりと楽曲のボトムを支えているのがベーシストの小川洋行だ。見た目も音も重厚な5弦ベースを使う小川洋行だが、実はビリー・シーンの大ファンで、本来はプレシジョンベースが大好きなのだという。ではなぜ彼がこのベースを選んだのか、そしてどんな音を出そうとしているのか。小川洋行に語ってもらった。


――小川さんの現在のメインベースは、ESPの5弦ベースですね。

小川洋行(以下、小川):はい。E-IIの5弦で、ライブではほとんどこのベースを使っています。普通の4弦の下にローBの5弦を足した普通の5弦ベースのチューニングで、ファンフレット。フレットは24まであります。



――使い始めたきっかけは?

小川:あんきもでは前から5弦ベースを使う曲はあったんですが、僕は5弦ベースを持っていなくて借りて弾いていたんです。それで、3年くらい前にESPの方に相談したんです。僕は正直言って、ほかのみんなのように楽器にそんなにこだわりがあるほうではないので、なにか良い5弦ベースありませんか、って(笑)。それで提供していただいたのがこれです。

――こういうベースでなければ、という強い気持ちがあったわけではないんですね。

小川:そうですね。というか、そもそも僕はスピードメタルとか、あんきものようなジャンルの音楽をあまり聴いてこなかったんです。だからメタル向きのベースも持っていなかった。それでそのころ出たばかりの新製品を薦めていただいたんですが、試奏してみたらよかったので決めました。


――とくに気に入ったところは?

小川:見た目のカッコよさもありますけど、軽さも決め手になりました。こういう5弦ベースにしては軽いほうだと思います。ボディはトップはコアですが、バックがスワンプアッシュなので軽いんだと思います。


――ファンフレットはこれ以前にも使っていたんですか?

小川:いや、それまで使ったことがなかったので、最初は違和感がありました。ネックの真ん中あたりはまだいいんですけど、低いほうになると角度が違ってかなり広がる感じになるので、とくに1~2フレットあたりのフレーズはちょっと難しかったです。でも意外に早く慣れました。今はファンフレットも普通のベースも、どちらも違和感なく普通に弾けますね。

――ところで、さっきの話が気になってしまったのでいったん楽器の話から外れますが、メタルではなくどんな音楽を聴いてきたんですか?

小川:メタルでもハードロック寄りなら聴いていましたが、ANGRAみたいな王道的なものとかヨーロッパのメタルはほとんど聴かなかったんです。そもそも僕がベースを始めたきっかけはLUNA SEAなんです。僕の兄がLUNA SEAのCDをたくさん持っていて、隣の部屋でガンガン爆音で聴いていたんです。だからベースの音がよく聴こえてきて、ベースってメチャメチャカッコいいなって思ったんです。よく聴くとベースってすごく重要なことをやっているし、LUNA SEAはギターとベースが同じような動き方をすることがあまりない。ギターがカッティングとアルペジオで、ベースがゴリゴリ弾くみたいな。そういうのがカッコいいなって。その後は、Mr.BIGが好きになって、ビリー・シーンに憧れました。そこからポール・ギルバート関連でレーサーXとか。


――テクニカルなロックはかなり聴いていた?

小川:そうですね。だからビリー・シーンになりたいと思って、3フィンガーとか色々なワザを独学でやってきました。

――ビリー・シーンみたいなワザを独学で?

小川:ちゃんとできていたかどうかはわからないですけど、独学といっても教則ビデオとかもありましたから。でも、初心者のうちにビリー・シーンに出会ってしまったので、ベースってこういうものなんだと思っちゃったんですね。指でベースを弾く人はみんなあんな感じで弾いているものだと思っちゃった(笑)。その後東京に出て、音楽学校に入ったら紫煉に出会ったんです。でも音楽学校に入ってからはハードロック系もほとんど聴かなくなってしまって、ジャズとかファンクとかばっかり聴いていました。


――今も指弾きが中心ですか?

小川:ですね。7~8割は指です。とくにどちらにしようと考えていたわけではなくて、ジャズの人もファンクの人もほとんど指弾きなので、みんな指で弾くんだなあって思っていただけなんですけど(笑)。でも見た目はピックのほうが好きなんです。LUNA SEAのJさんのピック弾きが最高にカッコいいと思っているので、ある時期はスタイルもその影響を受けて、ベースの位置を低くして弾いていたこともありましたね。

――では話を戻しましょう。5弦ベースを導入するにあたって、どんなベースがいいと思っていましたか?

小川:5弦ベースって、フュージョンっぽいイメージがありますよね。でもあんきもの音楽はメタルというジャンルなので、見た目も音も、フュージョンっぽいきれいな感じではなくて、メタルっぽいゴリゴリした音が出るベースがいいなと思っていました。


――よく聴いていた音楽とは違う方向の楽器を選んだわけですね。

小川:そういうことになりますね。力強い音が大事なんだろうと思いました。でも最初は戸惑いましたね。鳴らし方が難しかった。ラウド感とか力強さって、強く弾かないと出ないのかな、僕はピッキングが弱いのかなと思いました。それで弦を細くしたほうがいいかなとか、色々考えましたね。

――今はどんな弦を使っているんですか?

小川:わりと細めの弦を使っています。でも、もっと細くしたほうがいいのかなと思ったこともありました。張りがゆるくなるように限界まで細くしようかな、って。ライブで2時間くらい弾いていると疲れちゃうんですよ(笑)。ギタリストって躊躇なく細い弦を使いますけど、ベーシストはそれをやっちゃダメみたいな風潮があるんです。細くするのは“逃げ”だって(笑)。実際にそこまで細くしたことはまだないんですが、知り合いにすごく細い弦を使っている人がいて、弾かせてもらったことはありますね。むちゃくちゃ弾きやすかったんです。

――では今後はもっと細い弦を使う?

小川:でもそこが難しいところで。このベースはファンフレットでスケールが長いんです。エクストラロングというスケールなので、なかなか細い弦が入手できないんです。そのぶん音は良いんですよ。ハイエンドでない5弦ベースも使ったことがありますが、5弦がダフダフしているだけでちゃんと鳴らないのが多かったんです。でもこれは張りのある低音が出せる。


――たしかに難しいところですね。

小川:そうなんですよ。でもライブで疲れるのはなんとかしたいですから(笑)。

――3~4年使いこんできた今は、このベースのどんなところがお気に入りですか?

小川:ルックスも音も、どちらも力強いところですね。それと、やはり軽さ。以前は肩が痛くなったこともありましたが、このベースにしてからは問題ないです。ボディは軽いけどバランスも良いので、ヘッド落ちもしないです。


――ピックアップは何がついているんですか?

小川:両方ともEMGのアクティブタイプのハムバッカーです。でも違うタイプのEMGにしようかなと考えているところです。もうちょっとビリー・シーンのプレベみたいな音を出したいなと思うので(笑)。今のピックアップに不満があるわけではないんですけど、もしそうできるなら変えてみたいなと。

――今の音を表現するとしたらどんな音?

小川:トレブルは抜けが良くてアタッキーな音ですね。ただローのサスティンはプレベのほうがいい。プレベって弾いていて心地よい音というか、後ろから包まれるような特有の音が出せる。メタル以外の現場では僕もプレベを使っているんですけど、それはあの音が好きだからなんですよね。歪ませてもロックな音がするし。70年代のレコードのプレベのちょっと歪んだ音って、ロックを感じてすごく好きなんです。ただその音を出せたとしても、それをあんきもにどう合わせていくかは考える必要がありそうですけど(笑)。

――そこからすると、今のベースはややハイファイな音という感じですか?

小川:そうです。ハイファイだし、トレブリーな感じですね。今のところはそれがあんきもに合っている音なんだと思いますが、今まで自分が弾いてきたベースは包まれる系の音だったので、ちょっと違うんです。僕、ローミッドの音がすごく好きなんですよ。ベースはローミッドが命だと思っているので、そこをもっとおいしい音にできたらいいなと思っています。


――プレベがホントに好きなんですね。

小川:そうですね。プレベの音って、不器用というか(笑)。ジャズベみたいなちょっと器用な感じではないところが“かわいいなコイツ”、みたいな感じで好きなんです(笑)。

――だったら5弦仕様のプレベを使う手もありそうですが。

小川:でも、ライブで使う楽器として僕が重要視しているのは重さなんです。プレベってやはり重いし、ネックもちょっと太い。さらに5弦になるとちょっと使いにくいですね。その点では、今使っているベースは申し分ないんです。それに、完全にプレベの音になってしまったらあんきもに合うかどうかわからない。だからこのベースで、音がもう少しだけプレベ寄りになったらいいなと。


――ほかに変えたいところってありますか?

小川:すでにフレットを大きくしました。最初はミディアムジャンボくらいだったんですけど、エクストラジャンボに変えました。それで弾くのも少し楽になりました。8ビートだけの曲だったらどんなベースでも大丈夫なんですけど、あんきもの曲はめっちゃ速いフレーズも多いので、力が入っちゃうんです。QUADRATUMとかもやってるんで技巧派みたいに思われてますけど、ホントは8ビートだけ弾き続けたいんです(笑)。



――ではもう1本のベースを。これはどんなときに使うベースですか?

小川:これはレコーディングで使っているベースで、ESPのLTDの5弦ベースです。これもファンフレットだし、そのほかの仕様もさっきのライブ用とかなり似たモデルですね。使い勝手とか弾き心地をあまり違うものにしたくなかったんです。音はこっちのほうがゴリゴリでカッコいい、メタルっぽい音ですね。

――こちらはいつごろから使っているんですか?

小川:2年くらい前からですね。ツアーファイナルでブルーレイ収録をすることになったときに、ライブ用のベースのサブとしてESPさんから借りたのがこのモデル。それで音を出してみたら、こっちのほうが良い音がするなと。



――レコーディング専用なんですか?

小川:こちらのほうが音は良いと思っているんですけど、重いんです。重くて肩が痛くなってしまうので、ライブではちょっと。だからレコーディングとか配信をするときに使っています。

――ではその他の機材についても教えてください。まずライブで使うアンプは?

小川:以前は自分のAGUILARのTone Hammer 500というアンプを使っていました。このアンプはミッドがきれいな音ですね。でも最近は使っていません。今は自分で決まったアンプを持って行くということはあまりないです。


――では音作りに最近使っているものは?

小川:必ず使っているのはISPのDECIMATORというエフェクターです。これは一定以下の音量になると音をすべてカットするノイズリダクションです。これはつねにオンにして使っています。キメとかブレイクでバッと音を止めたいときに、自分では音を止めたと思っても、実際は少し余韻が残ることがあるんですが、これを使うと余韻をまったく残さず、ビシッと音をカットできるんです。もちろん弾いていないときのノイズもカットしてくれるんですけど、このベースはもう不安になるくらいノイズがないので(笑)。


――紫のエフェクターはオーバードライブですね?

小川:そうです。以前はツアーでよく使っていた、EBSのビリー・シーンモデルのオーバードライブです。コンプレッサーも入っているので、これを使えばビリー・シーンになれる(笑)。ビリー・シーンの音ってコンプがかかっているのが特徴だし、ミッドがよく出るので、ピッキングが楽になるし、弾き心地がすごくいいんです。力強く弾かなくてもサスティンが伸びてくれる。ただ、重低音とかドンシャリのベース音を求めるメタルにはあまり合わないかもしれない。そう思ったので最近はあまり使っていないんですが、僕が本来好きなのはこういう音なんです。


――MXRのグラフィックイコライザーはどんな設定で?

小川:これはソロのときに使います。設定は、下を削って真ん中をちょっと上げる、山なりな感じでミッドを上げています。それこそビリー・シーンみたいな音でソロを弾くために使っています(笑)。


――プリアンプもありますね。

小川:最近導入したんですが、RadialのBASSBONE ODというプリアンプで、基本的な音をこれで作ります。豊洲PITのライブでも使いました。AとBの2系統の音作りができて、フットスイッチで切り替えられるのと、さらにオーバードライブも入っているので色々便利なんです。INPUTも2つあって、豊洲PITのときはE-IIとプレベをつないで使っていました。それぞれのセッティングをスイッチで切り替えれば、つなぎ換えなくてもすみますから。

――ベースアンプではなくここで音を作るんですね?

小川:これを使っているのは、もちろん音が良かったというのもありますが、ここで基本的な音を作って、それをそのままDI出力からPAに送れるというのが大きいですね。大きな会場だと、自分のアンプが鳴っている音はお客さんに直接届くわけではないので、それよりDIからPAに送っている、みんなが聴く音のほうが大事だと思っているんです。だからステージ上のアンプで音作りをするのではなくて、DIから送るほうの音をきちんと作りたい。それでプリアンプで音を作っています。

――ライブではベースを持ち替えることもありますか?

小川:ライブでは基本的にE-IIだけですね。ただ、最近はアコースティックの曲のときに、フラット弦を張ったプレベを使うこともあります。フラット弦のプレベはやはり弾いていて気持ちいいですね。包まれ感のある音だし、ベースを弾いている、という実感があります。


――小川さんがあんきもでベースを演奏するうえで心がけていることは?

小川:僕は、自分ではメタルベーシストではないと思っているんです。でも、だからこそ生まれるグルーヴがあると思います。メタルを聴く人はやはり超絶技巧を楽しみにしていることが多いと思いますし、僕もMr.Bigを聴いているころはそうでした。でもそこから色々なジャンルを経験してきて、グルーヴを大事にしたい、グルーヴを聴いてほしいという気持ちが大きくなってきました。メタルだからグルーヴはあまり大事ではない、ということはないと思いますし、僕はそれを頑張って出している。そしてそこにはちょっと自信があります。ライブでお客さんの身体が無意識に動いているのを見ると、それが伝わっているんだなと思います。

――ギターもバイオリンも超絶技巧だしドラムも手数が多い、そんなあんきものサウンドの中で、どんな立ち位置でベースを弾いていますか?

小川:それは8割以上、ドラムですね。ドラムに寄り添う、ドラムに合わせる感じで、とくにバスドラムをすごくよく聴いて演奏するようにしています。ベースの音がバスドラムとぴったり合うと、すごく前に出てくるんです。いつもそれを目指して演奏しています。

取材・文●田澤仁


▲Unlucky Morpheus(写真左より:仁耶、小川洋行、Fuki、紫煉、FUMIYA、Jill

リリース情報


『evolution』
価格:2,800円(税抜)
品番:ANKM-0041
01. evolution
02. “M”Anthem
03. アマリリス
04. Welcome to Valhalla
05. 誰が為に
06. Wer ist Faust?
07. The Black Death Mansion Murders
08. Serene Evil
09. “M”Revolution
10. 夢幻


『“XIII”Live at Toyosu PIT Blu-ray』
価格:5,000円(税抜)
品番:ANKM-0038
01. Unfinished
02. Unending Sorceress
03. Near The End
04. 籠の鳥
05. Salome
06. Make your choice
07. Top of the“M”
08. Dogura Magura
―Violin Solo―
09. Carry on singing to the sky
10. “M”Revolution
―Bass Solo―
11. Spartan Army
12. Wings(acoustic)
13. 願いの箱舟(acoustic)
14. Vampir
15. Opfer
16. La voix du sang
17. Phantom Blood
18. Angreifer
19. Change of Generation
20. Knight of Sword
―Drum Solo―
21. Black Pentagram
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