【インタビュー】川崎鷹也、日常のふとした風景から愛情や思いを切り取るデジタルシングル「愛の灯」

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2020年のブレイク以降、様々なフィールドで音楽活躍を続けるシンガーソングライター川崎鷹也。彼が2022年5月に、デジタルシングル「愛の灯(あいのひ)」をリリースした。「愛の灯」はパナソニックIHクッキングヒーターのwebムービー『魔法のレシピ』の挿入歌として書き下ろされた楽曲。妻に先立たれ、男手ひとつで子育てをしてきた父親と、その娘の最後の食卓を描いた『魔法のレシピ』の世界を優しく彩っている。さらには日常のふとした風景から愛情や思いを切り取る川崎のコアとも言えるソングライティングを、じっくりと味わえる楽曲に仕上がった。今回のインタビューでは、最近の彼の活動を振り返りながら「愛の灯」に言及。彼の音楽活動のスタンス、ひとりの人間としてのポリシー、ミュージシャンを志す前のパーソナルな話題、“家族”に対する考え方など、彼の知られざる面を垣間見られる内容となった。

■「愛の灯」は家の中の2人の間に浮かぶ“愛の灯”が描きたかった
■家の窓から差し込む“光”と掛けて朝陽と夕日と夕陽を使い分けている


――川崎さんの存在や音楽が、TikTokをきっかけに10代の若者から広まって2年弱経ちました。現在は同世代アーティストだけでなく大御所の方々とも肩を並べ、スポーツスタジアムや中高生の学校行事といった音楽以外の現場でライブをなさるなど、活動のフィールドの広さに感心するばかりです。

川崎鷹也:いろいろな現場に立てることも、全世代の方々にリーチできているのもありがたいですね。僕の楽曲スタイルが年齢を選ばないところもあって、レジェンドの方々も気に掛けてくださっているんだと思います。皆さんレジェンドすぎて、“小さい頃から知っているアーティストさんだ!”みたいな現実味が逆にないんですよ(笑)。あとは潜在的に、そういう意識を持つべきではないと思っているのもあるのかも。

――と言いますと?

川崎鷹也:ミュージシャンの川崎鷹也として呼ばれた場所は、プロのミュージシャンとしての立ち回りをするべきだと思っているんです。僕は人見知りなので、普通のリスナーになったら何も話せなくなっちゃう(笑)。だから先輩方と肩を並べる時は、変な意地とプライドをわざと出しているかも。同じ目線、同じミュージシャンとしていられるように気持ちを持っています。レジェンドの皆さんも、僕みたいな若造にもすごくフラットに接してくださるんです。キャリア関係なくいい音楽を作るためにディスカッションできるのは、音楽の特権かなと思っていますね。

――同世代アーティストへ楽曲提供ができるのも、とても充実していると思います。松浦航大さんの「カメレオンヒーロー」も、作曲を担当なさったSETAさんの「30歳までひとりだったら」も、川崎さん個人では生まれなかった楽曲だろうなと。

川崎鷹也:そうですね。SETAさんの歌詞があった状態で作曲をするという初挑戦でした。歌詞の世界観が僕の引き出しにないものだからすごく新鮮だし、やっていて楽しかったです。あと航大くんの楽曲提供は、実は立候補だったんですよ(笑)。

――そうだったんですか。

川崎鷹也:プライベートで一緒にカレー屋さんに行ったら音楽の話で盛り上がって、シラフでお互いの夢を語り合って(笑)。自分と通ずる部分もたくさんあったし、航大くんの悩みや苦しさ、熱い思いを受け取っているうちに、ありのままの航大くんを見てもらいたいな、好きになってもらいたいなと思ったんですよね。それで“俺が曲を書くよ”と。

――多忙なスケジュールの中でも、それを実行に移すところがミュージシャン川崎鷹也なんだろうなと。

川崎鷹也:いやいや(笑)。曲を書くことも、リスペクトする人と一緒にひとつのことをやることも好きなんです。海外のミュージシャンが事務所やレーベルの壁を越えて自由にタッグを組んでいるのが、すごくいいなと思うんですよね。あと、今の日本で新しい行動を起こせるのは僕らの世代だとも思う。だから僕に出来る範囲でそういう壁を取り払えたら、次の世代のミュージシャンにもその文化が継承できるんじゃないかなとも思っています。やっぱりいろいろな人と関われるのは、シンプルに楽しいですしね。

――そしてリアレンジ版「Answer」に続いてリリースされたのが「愛の灯」。パナソニックIHクッキングヒーターのwebムービー『手書きのレシピ』への書き下ろし楽曲です。

川崎鷹也:絵コンテからしっかり見させていただいて書きました。お父さんと娘さんの物語と、当たり前の日々――僕がいつも歌っている歌と重なる部分も多いだけでなく、僕も栃木から出てきて、親との別れを経験した人間なので、いろいろな具体性を込めつつ書いた曲ですね。


――“いつもの日を愛(I)の日(H)に”というキャッチフレーズが最後に出てきますが、あれありきでお書きになった曲でもあるのでしょうか?

川崎鷹也:いや、あれは楽曲からつけていただいたキャッチフレーズなんです。

――そうだったんですか。どんなことがきっかけで生まれてきた言葉なのでしょう?

川崎鷹也:んー……どうだったかな。『手書きのレシピ』の物語ありきの楽曲ではあるんですけど、いつもの即興スタイルで書いてるんですよね。去年の年末、番組の本番と本番の間の空き時間に、ギターを抱えて絵コンテを見ながら頭の中で映像を思い浮かべて、そこに合うBGMはどんなものだろう……? とギターを弾きながら歌っていって。そのなかでポンと出てきたのが“愛の灯”という言葉だったんです。

――それが偶然にも“IH”と引っ掛けられる言葉だった、と。

川崎鷹也:そうそう、そうなんですよ(笑)。ものすごい偶然です。

――『手書きのレシピ』とものすごくマッチしている楽曲だと感じましたが、その背景にはそんな縁があったんですね。

川崎鷹也:僕はタイアップ曲を書き下ろす時、どういう思いで作った作品なのか、どういう理由でオファーをしてくださったのか、ちゃんと聞いて理解しないと書き下ろしができないタイプで。だからちょっとした打ち合わせでも参加するんです。パナソニックさんは“その人と仕事をすること”をすごく大事にしていて、信念を持ってお仕事に取り組んでらっしゃるなと感じたんです。

――川崎さんの大事にしてきたものと通ずるのではないでしょうか。

川崎鷹也:そうなんです。人と人のつながり、人のぬくもり――僕はそういう考え方がすごく好きで。だから僕も真面目に向き合うことができました。IHクッキングヒーターは火を使わない調理器具だから、“灯”という言葉を使うのは難しいかな……と恐る恐る提出したら、パナソニックの方々が“すごく良いです。むしろこれは変えたくない”と言ってくださって、『手書きのレシピ』にも“いつもの日を愛の日に”というキャッチフレーズをつけてくださったんです。



――人の思いが根幹にあって生まれたものばかり。「愛の灯」が川崎さんのカラーが出た楽曲になったのにも納得です。

川崎鷹也:『手書きのレシピ』では弾き語りを使いたいともおっしゃってくださったんですよ。アレンジの素晴らしさももちろんあるけれど、弾き語りを求めてもらえるのは弾き語りミュージシャンとしてすごくうれしいことなんです。CMありきで生まれた曲でありながらオーナーシップを持てているのは、いま話したそういう背景があるからだと思います。5年後10年後も歌い続けたい曲が作れました。

――川崎さんは「愛の灯」について“東京に旅立った時の気持ちや、家族と離れた時の思いを込めた”とツイートなさっていましたが、webムービーの登場人物だけでなく、ご自身の経験も反映されているということでしょうか?

川崎鷹也:1番は『手書きのレシピ』内で使われる部分なので、登場人物のお父さんと娘さんの風景を描いてますね。2番は僕の思いや、上京する時の母親の表情、兄貴のリアクションを思い浮かべながら書きました。……過去に「拝啓、ひまわり」という曲を書いたんですけど、あれは上京直後に感じた家族への思いを率直に書いたものなんですよね。「愛の灯」はもっと“当時のことを振り返っている”というしみじみとした雰囲気を書き起こしている感覚があります。2曲とも親について歌っているけれど、時期や捉え方が違うんですよね。

――その結果、許容範囲の広い曲になりましたよね。

川崎鷹也:そうなんですよね……書いた後に気付きました(笑)。「拝啓、ひまわり」を書いた頃――それこそ「魔法の絨毯」もそうですけど、当時の僕は歌詞をその人に向けた作文のように書いているんです。「カレンダー」や「愛の灯」のような最近の曲は、1歩引いて客観的に見たり、いろんな目線からアプローチするようになりました。どちらが優れているというわけではなく、当時とは違う歌詞の書き方ができるようになってきたんだなと思います。

――そうですね。『手書きのレシピ』の世界を感じさせつつ、鷹也少年の姿も浮かび上がってきます。特に最後のサビの前にある《どんなに帰りが遅い日も》からの描写は。

川崎鷹也:これは俺でしょうねえ……。中高生の頃は親の言うことを聞かずに遊んでいたので(笑)。家に帰らなかったり、夜中に帰ったりしてました。それでも母親は起きて待っていてくれたんですよね。でも当時の僕はその母の思いに気付けていなくて――というよりは気付こうとしていなかった。それは自分に自信がなくて、どうしたらいいのかわからなかったんだと思うんです。だから自分に向けられた思いにも、そのありがたみにも気付けなかった。自分が親になって気付いたことでもありますね。

――“2人”という言葉も印象的な楽曲でした。『手書きのレシピ』の登場人物のおふたりから来ているものだとは思うのですが、「愛の灯」においてこの“2人”はどんな意味があるのでしょう?

川崎鷹也:まずあるのは『手書きのレシピ』の“2人”ですね。妻に先立たれたお父さんと娘さん。でもこの曲には自分のエピソードも書いているので、僕の母親と僕の“2人”のことでもあります。父は行動力のかたまりのような人で、何よりも仕事を優先していたからあまり家に帰ってこなかったんです。だから僕の家での思い出は母との風景になるんですよね。……家族や親子って、その“ふたり”にしかわからないことってあるじゃないですか。


――そうですね。

川崎鷹也:家族の間、もっと言えば母と子、父と子、きょうだい同士には、ほかの人からは理解できない独特の関係性があると思うんです。「愛の灯」の“2人”にはそういうものも含まれているんじゃないかな。そのふたりで生まれる色やストーリーがある。そういうことも曲に織り込めればと思ったんですよね。だから抽象的な“2人”という言葉を使ったところはあるのかな。

――いろいろな家族のかたちがあるので、“2人”という言葉はとても優しいと思います。血のつながりはなくとも生活を共にして思い合っていれば家族ですし、離れ離れになっても家族であることには変わりはないですし。

川崎鷹也:まさに! それが言いたかった(笑)。だから「愛の灯」も食卓にフォーカスするというよりは、“2人”の作る空間や世界を描きたかったんです。家の中の、ふたりの間に浮かぶ“愛の灯”が描きたかった。それが陽だまりのように感じるから、家の窓から差し込む“光”と掛けて、“朝陽”と“夕日”と“夕陽”を使い分けているんですよね。そのふたりが離れた場所でそれぞれ“愛の灯”を作っていって、広がっていって、照らしていって――そういう連なりを“光”を使って書いたところはありますね。

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