【インタビュー】諭吉佳作/men、クリスマスがテーマのEP発表「いろんな人が挑んできた大きなことに立ち向かいたかった」

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諭吉佳作/menから、デジタルEP『With Regard to Christmas』が届けられた。その名が示すように、「クリスマス」というテーマをもとに作られた全5曲(ダウンロード版にはボーナストラックが1曲追加)を収録した、コンセプチュアルな作品である。以下にお送りする諭吉佳作/menへのインタビューで本人も語っているように、「クリスマス」という普遍的なテーマを「縛り」として自身の作品に設けたことは、結果として、様々な変化を諭吉の作品にもたらしたようだ。「縛る」ことがむしろ自由を与えるというのは不思議なものだとも思うが、そもそも人間という生きものは自分の身体やいろんな物事に縛られながら生きているのだから、そこに目を向けることで開かれるものがあるというのは、とても納得させられることでもある。

新作『With Regard to Christmas』は、前作『からだポータブル』に比べても、聴き手とのコミュニケーションの在りようが大きく変化した作品である。まるで赤子が言葉を喋り出すように、出会うたびに生き物のように姿を変えていく諭吉佳作/menの音楽。その現在地に迫るべく話を聞いた。諭吉佳作/menは今、ホラーに興味があるという。

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■クリスマスの曲を作らなそうな人間だと思われている(笑)

── 新作『With Regard to Christmas』は、その名の通り「クリスマス」をテーマにしたコンセプトEPということですが、アイディアはどういったところから出てきたのでしょうか?

諭吉佳作/men:そもそも、私はクリスマスの曲を作らなそうな人間だと思われていると思うんですけど(笑)、でも、クリスマスっていうテーマはいろんな人たちが挑んできたものじゃないですか。そういう、みんながやっている大きなことに敢えて立ち向かいたかったんですよね。作品を作るときって、テーマを変わったものにするか、普遍的なテーマを設定して人とは違う着眼点を持つかだと思うんですけど、クリスマスの場合は後者。クリスマスソングって、人を元気づけたり、応援したり、訴えるというのとはまた別のところで独立しているジャンルだと思うんですけど、だからこそ、クリスマスのことを曲にして歌おうと思うと、歌っている人の人間性……それは「いい人」とか「悪い人」っていう意味ではなく、キャラクター性みたいなもの。そういうものが重要になってくるんじゃないかと思うんですよね。

── 普遍的なテーマだからこそ、作り手の「人間」が立ち昇ってくる。

諭吉:そう、「人間として勝負する」という側面が、クリスマスソングを作ることにはあるような気がして。私も、自分自身の人間性とかキャラクター性に立ち向かいたくなったんだと思います。今回、曲ができた順番に収録しているんですけど、1曲目の「CHRISTMAS AFTERNOON」と2曲目の「GOOD JOb」を作ってみて、スタッフの方に「クリスマスの曲を2曲作りました」と送って。そこで、「あと3曲くらい作ろうと思うので、クリスマスの時期にリリースできないですか?」と自分から相談しました。私自身、クリスマスが好きかというと別にそういうわけでもないし……まぁ、嫌いでもないですけど(笑)。特別な思い出があるわけでもなくて。ただ、自分が「やらなそう」と思われていて、でも、みんながやっていることを敢えてやってみたかった。その上で、5曲もクリスマスの曲を作る人ってあまりいないと思うので、ちょっと大袈裟に立ち向かいたかったのかもしれないです。最近の私の作曲のテーマが、「大袈裟」とか「やりすぎ」なので。

── 「大袈裟」や「やりすぎ」というのは、どういったところから出てきたんですか?



諭吉:「嘘をつきたい」というのが根本にあって。日常生活であまりにも嘘をつきすぎたら害が多くてマズいけど(笑)、作品の中だったら嘘をついてもいいじゃないですか。それが「嘘」と呼ばれるかどうかはわからないけど、事実でないことを言ってもいい。事実じゃないくらい言い過ぎたいし、強い言葉を使いたいっていう気持ちがあったんです。本当に思っていようが思ってなかろうが、「そこまで言わなくてもいいでしょ」っていうくらい歌詞の中で大袈裟なことを言いたいんですよね。例えば、2曲目の「GOOD JOb」は、サンタを職業でやっている人がプレゼントを置こうとした家の人に遭遇してしまって、「言うなよ」って脅す話なんですけど、この曲は「人に怒りたいな」と思ったんですよね。人を強い言葉を使って責めたいなって、ちょっと思っちゃって(笑)。

── なるほど(笑)。

諭吉:こういうことは実際の人間関係では起こってほしくないじゃないですか。現実では人を責めたくないし、責めたくなるようなことをしてほしくもないんですよ。でも、曲の中だったら面白い嘘の話としてできる。この感覚は、3カ月連続配信リリースの最後に出した「unbirthday」から繋がっていることのような気もします。

── たしかに、「unbirthday」を最初に聴いたとき、今までの諭吉さんの歌詞表現とは質感がかなり違うものだと思ったので、驚きました。あの曲は「心配ないよ/嘘じゃない」と歌っていましたけど、でも実際のところ、嘘か本当かは重要じゃないというか……。

諭吉:むしろ、嘘ついているときのほうが重要かもしれないです。本当のことをあんまり言いたくないのかもしれない。もし土台にあるものが本当だったとしても、言い過ぎたら嘘になることだってあるし。そもそも、歌にしたり言葉にしたりしている時点で嘘になっちゃうことはあるから。私は、本当のことはあまり信用していないのかもしれないです。嘘のほうが本当だと思う。……ややこしいこと言っちゃったけど(笑)。

── 去年、『からだポーダブル』が出たときにも、諭吉さんは「嘘が好き」というお話はされていましたけど、そういう部分がより如実に歌詞表現として出てきているということですよね、きっと。

諭吉:『からだポータブル』のときは、歌詞を個々の言葉として扱っていて。その個々の言葉がくっついて音楽に乗っているから、なんとなく文章として聞けるけど、「これは本当に文章なのか、言葉なのか、音なのか、よくわからないよね」みたいな曲の作り方をしていたんです。自分でも何を言っているのかわからないし、何かを明確に伝えようとしているわけでもなかった。そういう方法を取ることはこれからもあると思うけど、今回は「クリスマス」という縛りがあることによって逆に広がりが出たというか。曲調の面でもいろんなことができたと思うし、単純に、クリスマスの曲を5曲作るとなったら、同じことを違うメロディに乗せて5回言っても仕方がないので、別のことを歌詞にすることになるんですよね。そうなると、ちゃんとストーリーや軸を決めて歌詞を書くことに自ずと向き合うことになっていって。そこをじっくり考えることは今まであまりやってことなかったので、意外と面白いんだなと思いました。

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