【インタビュー】薫(DIR EN GREY)、「当たり前だったことを当たり前にできるのが、やっぱり一番幸せなんやと」

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◾️<PHALARIS -Vol.II->はライブ感を意識

──<PHALARIS -Vol.I->を2022年8月に終えたとき、次への課題なども見えていましたか?

薫:次のツアーはどうしようかな、ぐらいの感じでしたね。次への課題というか、次は結成25周年のツアー(<25th Anniversary TOUR22 FROM DEPRESSION TO ________>)が控えていたから。それをどう今の自分たちにするかのほうが、ちょっと問題があったような気がする(笑)。

──問題があったとは?

薫:このツアー楽しめるかな、って(笑)。観に来る人たちは楽しめると思うけど、昔の曲とか、どんな顔して弾いたらいいのかなっていうね(笑)。そんな感じですよ。

──無邪気にやれそうじゃないですか。

薫:いやいや、もうタイム感が昔の曲は違うから。弾いていてもシックリ来ねぇなって(笑)。そんな感じになると思っていたから、<PHALARIS -Vol.I->が終わったときは、その問題のほうに意識があったかもしれません。それで25周年ツアーのリハに入ったとき、「ちょろいな」と思ったんですよ。何回か音を合わせれば、身体が覚えているんで、意識しなくても弾ける曲ばっかりなわけです。「こんなんでいいの?」みたいな(笑)。

──ナメたこと言ってますね(笑)。

薫:そうそう(笑)。昔の曲やって盛り上げて、というのは、だいぶちょろいのかもなと。ところが実際にツアーが始まってみると、さっきもタイム感のことを言ったけど、どこに自分を置いていいのか分からないわけです。『PHALARIS』とか新しいアルバムを中心にしたツアーだと、少しずつ高みを目指していく感覚でいける。でも昔の曲が中心になると、最初からだいたい高みは決まっちゃっているんで。う〜ん、どうやって高めていけばいいんだろうって。徐々に上がっていくものじゃない気がしたから、その日、そのライブを楽しむというか。ライブをしていて当時の感覚を思い出すんですよ。身体が勝手にこの曲のこのタイミングで動こうとする、とか。そういうのが出てくると、なんかイヤやな〜、と。その瞬間、「そういうのじゃないねん、今は」みたいな(苦笑)。自分と闘いながら、その都度、今の自分ならこういう感じでいこう、とか。そういうのをライブのたびに試しながらやっていましたね。

写真◎尾形 隆夫

──ライブでやり倒してきた曲だから、25周年ツアーのほうが噛みしめるものが多いだろう、と勝手に想像していました。実際は違ったんですね。

薫:全然そんなんじゃないですね(笑)。「今この曲たちでどうやって楽しむか」と思ってやっていました。おもしろかったですけどね。

──観に行くほうも相当おもしろかったです。

薫:まあ、そのためのツアーだったんでね。

──25周年ツアーのラストである2022年12月16日の新宿BLAZEでは、ようやく声出し解禁ライブになりました。

薫:やってみるか、ちょっと踏み出してみるか、という感じでしたけどね。当時の状況だと、Zeppではキャパ半分なら声出していいルールだったんですよ。でもフルキャパのライブじゃないとイヤやったんで、フルで声出しできる会場ってことで探したら、BLAZEさんが「うちだったらできます」と言ってくれたんです。

──2023年4月からは<PHALARIS -Vol.II->もスタートさせましたが、第二弾だからこそ掲げたテーマもありましたか?

薫:ここ最近の流れとはちょっと変えてみた、という感じにしようと。最初はもうちょっと本編が重い雰囲気やったけど、Vol.Iの流れに似通っちゃうんで、「朧」は外してみて、もうちょっとライブ感を意識した本編にしてみようって感じでした。

──セットリストを考えている時期に、各ライブ会場のレギュレーションが緩和されていったんですか?

薫:いや、最初は今も言ったような重い感じのセットリストにしていて、一度、メンバーにも出して、これでいこうみたいな感じやったんです。でもリハに入る直前ぐらいに、もう一度見直してみようと。そのときにセットリストをガラッと変えて、<PHALARIS -Vol.II->の感じにしてみた。

──緩和とは関係なく? じっくりと聴かせる第一弾に対して、第二弾はその真逆で解放感に溢れた感じになっていたかと。

薫:そうです。

──WOWOWでは2023年5月22日のZepp Haneda (TOKYO)の模様が放送されます。あのライブは、第二弾ツアーの前半とはまた違う感じだったんですか?

薫:やっぱ東京のライブって感じがしました。開演して頭からガツンと来てた感じっすよね。地方がダメとか、そういうことではなくてね。

──バンドとしても仕上がっているライブでしたよ。演奏、アレンジ、出音、ライブ中のオーディエンスとのやり合い。第一弾ツアーと同じバンドとは思えなかったぐらいのライブパフォームとプレイで、ようやく戻ってきた、おかえりなさいって感じでした。

薫:そうでしたね。だいぶ熱かった。

──お客さんも歓声を好きなだけ出せる状況でした。ステージをやっていてもテンション変わりますか?

薫:ここ最近はなかったですからね。なかったものが戻ってきたから、やっぱり嬉しいなとは思いますね。歓声がなかったらないで、それはそれでおもしろみもありますけど。規制というものがあると、やっぱりおもしろくはないんで。もちろんルールはあるんですけど、歓声を自由に出せるってのが自然のライブでしょっていう感じで。

──「オマエらが歌うんだ」って京さんの煽り文句を聴いたのは初めてに近かったです。

薫:そうですね、そういうふうに言うこともあまりなかったし、そういうアレンジもしないですから。

──DIR EN GREYのナマ演奏をまるでカラオケのようにしてオーディエンスは歌いまくっていました。メンバーもステージの最前にベタ付きで煽りながら演奏していて、オーディエンスとガッチリ呼吸していました。

薫:確かにそうだったかもしれません。

──ああいう瞬間は、ライブしていて相当熱くなるものですか?

薫:ダイレクトに入ってくるんで、やっぱり盛り上がりますよね。さっきも言ったように、ここ3年なかったものだったんで、やっぱり噛みしめるものがあったかなと思いますね。当たり前だったものが、当たり前じゃなくなったこの数年間だったんで。当たり前のようにできるのが、やっぱり一番幸せなんや、と思いましたね。

──WOWOWで撮影したライブ映像はまだ見返していないと思うんですが、どんなところが注目のしどころになりそうですか?

薫:ステージ最前のところにトラスみたいなのが置いてあるんですよ、<PHALARIS -Vol.II->では。そのトラスの部分からスモークを出したりとか、そういう仕掛けになっているんです。そのトラスがちょっとした台になっているんですよね。いつもだったらステージの最前で煽るとき、ほんとに最前に立つんですが、今回はトラスの台があるんでそこに足をちょっと掛けて、前傾姿勢になって煽ることができたわけです。だから、ステージから上半身がはみ出ているみたいな体勢もできるんで、カメラ的においしいんじゃないかって思うんですね。メンバーが乗り出してる感じとか、挑みかかってくるような映像を撮影できていると思うんで。Zeppぐらいでも、ちょっと小さいライブハウスでやっているような映像や雰囲気を撮れたんじゃないかなって。分かんないけどね、まだ観ていないから(笑)。

──あのライブではいい感じのカオスがずっと生まれていましたからね。観に行った後、生き返ったという感想をこぼしているオーディエンスが多かったですから。個人的なアンケート調査によると。

薫:個人的なアンケートってなに(笑)?

──ライブ後、ロビーにいるといろんな声が入ってくるんですよ。

薫:ああ(笑)。まあ、マスクをしていたほうが安心して来れるっていう方も多いんで、マスクはまだしておいてもらいましょうってことでしたけど。今後マスクが取れれば、汗まみれの汚い顔が見れると思うんで(笑)、楽しみでしょうがない。

写真◎尾形 隆夫

──このインタビューは<PHALARIS -Vol.II->が終わってから公開されるので、次のツアーもすでに発表されているはずなんです。次に向けて、いろいろ考えていることもあると思うんですが?

薫:『PHALARIS』でまだライブでやっていない曲があるからね(笑)。それが出てくるんじゃないですかね。一番大変そうな曲がやって来るんじゃないですか(笑)。それは確実だと思いますよ。

──『PHALARIS』のライブでの完成形を見せる感じになるんですか?

薫:どうですかね。<PHALARIS -Vol.II->で「カムイ」はやってないですけど、それ以外にも「朧」や「落ちた事のある空」もやっていないんで。次のツアーで『PHALARIS』から全曲やるか、まだ分からないけど。まあ、どうなるのかってことですね(笑)。全曲をやってもいいんですけど、どういう見せ方ができるか、によりますね。

取材・文◎長谷川幸信

番組情報

【DIR EN GREY 7〜9月WOWOWスペシャル】
■DIR EN GREY Member's Interview
2023年7月1日(土)より配信[WOWOWオンデマンド]
7月1日(土)Shinya ver.
7月8日(土)Toshiya ver.
7月15日(土)薫 ver.
7月22日(土)Die ver.
7月29日(土)京 ver.

DIR EN GREYのインタビュー番組からメンバー個別版をWOWOWオンデマンド限定で配信する。7月1日(土)より毎週土曜に、「Shinya ver.」「Toshiya ver.」「薫 ver.」「Die ver.」「京 ver.」を順に公開。個性あふれるメンバーひとりひとりをフィーチャーする。

■DIR EN GREY TOUR23 PHALARIS -Vol.II-
2023年8月11日(金・祝)午後5:15 放送・配信[WOWOWライブ][WOWOWオンデマンド]
(※放送終了後~1カ月間アーカイブ配信あり)

タイトルに“Vol.II”とある通り、今回はアルバム発売直後の2022年6月から行なわれた全国ツアー“Vol.I”の続編となる。2022年10月からは、アルバムツアーとは別に25周年記念ツアー<DIR EN GREY 25th Anniversary “TOUR22 FROM DEPRESSION TO ________”>を開催し、初期楽曲を多数披露した。一貫して“痛み”と向き合い、“死”も芸術表現として昇華させてきた彼らのパフォーマンスは、コロナ禍を経てよりタフさを増し、強い“生”の輝きを放っていた。“Vol.I”から1年がたち『PHALARIS』の表現にはどのような変化が生まれるのか?変幻自在な音楽性と衝撃のライブパフォーマンスで世界をとりこにしてきた彼らの最新の姿を目撃してほしい。

収録日:2023年5月22日(月)
収録場所:東京・Zepp Haneda

■DIR EN GREY Interview Special
2023年9月放送・配信予定

2022年6月に3年9カ月ぶりに11枚目のオリジナルアルバム『PHALARIS』をリリースすると、アルバム名を冠した全国ツアーを2022年と2023年に二段構えで決行。さらに2022年10月から25周年記念全国ツアーも行うなど、精力的に活動を続けている彼らの、撮り下ろしインタビュー&ドキュメンタリー特番をお送りする。

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