【インタビュー】-真天地開闢集団-ジグザグ、音源集『慈愚挫愚 四 -最高-』に人間性「武装が剥がれたありのままの自分が出た」

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■バンドの規模感が大きくなったらこの曲を
■ようやくその時期がきたという


──では、龍矢さんの印象の強い曲を挙げるとしたら?

龍矢:収録曲はどれも気に入っていますけど、強いて挙げるなら「生きて」です。僕は毎回、音源集が完成すると散歩しながら聴くようにしていて、「生きて」は今回すごく感動しましたね。ベースレコーディングの時はまだ歌詞が乗ってなかったのでわからなかったんですけど、散歩しながら聴いた時“なんていい歌詞なんだ!”って。

──引っかかったのは歌詞なんですね。

龍矢:“生きていて欲しいよ”ってずっと歌っているんですけど、最後のサビで“生きてきて良かった”という言葉に変わるじゃないですか。歌詞が100%作詞者の想いを反映したものとは限らないけど、少なからずそういう気持ちがあるから歌詞に書くのかなとは思っていて。もし命さんが今、“生きてきて良かった”と思ってくれていて、そんな命さんと一緒にバンドができているなら、こんなに良いことはないなって、ひとり泣きそうになりながら歩いていました。

影丸:わかる。


▲龍矢(B)

命:もともとは猫をテーマにした仮歌が乗っていたんです。といっても、かわいい歌詞ではなくて。主人公は捨て猫で、残念な境遇に生まれたけど、がんばって強く生きていくって内容だったんです。でも、テーマを人間に変えたのは、最近は芸能人とか著名人が自ら命を絶ってしまうような悲しいニュースが多くて、すごくつらくて。だから猫ではなくて、もっとリアルでストレートにわかりやすい歌詞にしたいという思考に変わったからなんです。

──そういう歌詞を、明るいことを歌っていそうなファストチューンに乗せたことで、より深く染みる1曲になったと思います。

命:映画とかでもそうですけど、“全米が泣いた!”みたいに予告編からしてドーンとこられるのは、僕はあまり好きではなくて。どちらかというと『クレヨンしんちゃん』みたいにコメディー要素が強いけど、最後にめっちゃ泣ける映画…一見バカっぽくて楽しい感じなのに、蓋を開けてみたらグッとくる作品がめっちゃ好きなんです。そういうところが曲に出ているのかな。

──命さん、特に印象の強い曲を挙げていただけますか。

命:数あるデモのストックの中から選りすぐったので、本当に全部気に入っているんですよ。申し訳ないけど、1曲だけ挙げるのは無理です。



──では、大きく成長したバンドサウンドや作詞作曲の話を具体的に訊かせてください。たとえば「Dazzling Secret」はこれまでの-真天地開闢集団-ジグザグにあまりなかったスタイリッシュで大人な雰囲気のナンバーですね。

命:これも大好きな曲です。そんなに古い曲ではなくて、わりと最近、バンドの規模も大きくなってきて、いわゆるライブハウスから抜け出たタイミングで作りました。僕は禊(ライブ)の情景を頭に描きながら曲を書くことが多いんですけど、ここにきてフェス出演も増えていることが影響して、スケールが大きい曲になった気がします。

──たしかに、<ROCK IN JAPAN FESTIVAL>や<メトロック>、<イナズマロック フェス>、<MONSTER baSH>をはじめ、大型フェス出演が増えてますね。昨年の<KNOCK OUT MONKEY presents 『猿爆祭 2022』>はラウドロックからパンク、アイドルまで様々なジャンルのアーティストが出演しましたが、アウェイどころか会場をホームにしてしまうほどのステージパフォーマンスでした。もはやジャンルを超越してるというか。

命:もともとジャンルに縛られるのもどうかと思ってますし、フェス出演によってその意識は強くなったかもしれないですね。そういう意味でも「Dazzling Secret」は今までになかった曲だし。

影丸:「Dazzling Secret」は最高です。最初に聴いた時、1拍目でキタッ!と思いましたから。ハネたリズムで4つ打ちだからお客さんもノレて、ブラックミュージックっぽいフィーリングもある。僕は内心、ずっとこういう曲を求めていたので、“さすが命さん!”と思いました(笑)。

龍矢:2023年第一弾シングルの選曲会の時からあった曲で、めちゃくちゃカッコいいし、フェスとかの大きな会場で絶対に映えるやろうなと思ってました。初めて聴いたときから“早くやりたい”という気持ちがずっとあって、今回やっとリリースすることができたという。

──「Dazzling Secret」の歌詞は“夢を忘れるな 追いかけろ”というような内容をストレートに歌っていますね。

命:一見するとそうですけど、実は二重構造なんです。ライトな部分もありつつ、深読みしてほしい部分もある…という歌詞になっています。AメロとBメロの辺りとかがそうですね。


──えっ!そうだったんですか。ストレートと言ってしまって申し訳ありません。もう一度しっかり歌詞を読ませていただきます。続いて、繊細かつドリーミーな世界観の「Sha. La. La.」も新境地です。

命:相当昔から存在している曲ですね。もう10年以上前、本格的にバンドを始める前に作ったんですけど、“いい曲ができた。でも今出す曲ではない”と思ったんです。その時は、いわゆるヴィジュアル系らしいロックな曲を求めていたので、この曲は一度封印して。“いつかバンドがいろんな方々に聴いてもらえる規模感になったら出したい”とずっと思っていたんです。ようやくその時期がきたという。

影丸:リズムセクションは打ち込みなので、「おっかちゃん」と同じように、龍矢と僕はマスタリングの時に初めて聴いたんです(笑)。

龍矢:マスタリング済みの全収録曲を聴いた時に、幾つか知らん曲があって、“知らん曲やけど、めっちゃいいやん!”みたいな(笑)。今までのロックバラードとは違う、新しい-真天地開闢集団-ジグザグのバラードができた感じですね。

影丸:たしかにドリーミーで、なんかいいですよね。「Dazzling Secret」もそうですけど、なんかいいって感覚的な曲が大好きで。「おっかちゃん」を除けば、今回の完全音源集の中で「Sha. La. La.」が一番好きかもしれない。

──いずれもご自身のドラムが入っていない曲ですけど、それを好きだと言えるのはすごく素敵ですね。「Sha. La. La.」の歌詞についてもうかがいますが、失恋曲ですよね。“まだ知らない君に逢いたい”という言葉が切ないです。

命:敢えてそう聞こえるような言い回しにしてるんですけど、でも本当のテーマは、夢を見ることをあきらめてしまった人の歌なんですね。

──失礼しました…。

命:いつかの自分へのメッセージでもあって、“君”というのは“自分”でもある。鏡に映る自分に向けたような。そして、聴いてくれている人に対する“君”でもある。そういう歌詞になっています。

──耳障りの良さに加え、その裏側にネガティヴもポジティヴも伴う深い思想やメッセージがあることで、より多くのリスナーを魅了するという。良質のポップスとかロックとは本来そういうものなのかもしれないですね。

命:それは意識しています。特に最近は、ぱっと聴いた瞬間の伝わりやすさ、耳への心地よさを重視しているけど、それだけではクリエイターとしてつまらないわけですよ。だから、深層を作っておく。今は、世の中を見てもそういったものが多い感じがします。たとえば、ゲームも昔よりも取っつきやすくなっていると思うんです。ただ、導入部分で“昔のゲームに比べて簡単過ぎじゃねえ?”って感じたとしても、それだけではない。掘り下げようと思ったら、実は玄人好みな深い要素を持っていてやり込み甲斐がある。そういうものが多い。いきなり難解なものより、とっつきやすさがネット時代には重要なのかなと思います。



──時代感はもちろん、命さん自身がそういうものに惹かれるタイプなんでしょうね。再びサウンドの話に戻りますが、第四完全音源集『慈愚挫愚 四 -最高-』は煌びやかな雰囲気ながら「Drip」「Cry Out -victims-」といったシリアスなロックチューンが入っていることも注目です。

命:別になにも狙ってないんですよ。全部そう。こういう曲がほしいと思って入れただけで、ロックも純粋に好きだから。僕は偏るのがあまり好きじゃないので、やっぱりいろいろ入れたくて、自分で選曲した感じです。

──「Cry Out -victims-」は、洋楽っぽさに溢れていますね。

命:まあ、歌詞も英語ばかりですから(笑)。

──いやいや、メロディーや楽曲のテクスチャーなども含めて洋楽っぽいです。

命:英語が合うと思ったというのはありましたね、曲を客観的な耳で聴いて。英語詞の曲も、ずっとやりたかったので、僕の中では、遂にという印象です。

影丸:「Drip」と「Cry Out -victims-」は命さんの声の強みがガッツリ出ていて、めちゃめちゃカッコいいな、こういう路線も好きだなって。

龍矢:今回の完全音源集は“最高”というタイトルだけど、こういうテイストの曲が入ることで、“最高”という言葉から抱く一般的なイメージとは違うものになったのかなって気がするんですよ。たとえば、自分がしんどい時に明るい曲を聴いても明るくなれないじゃないですか。しんどい時にはしんどい曲を聴きたい。それを一旦経過しないと、楽しい曲は聴けないような、そんな時があるような気がしていて。「Drip」「Cry Out -victims-」はそういう時に聴ける曲だし、“最高”になるために、『慈愚挫愚 四 -最高-』には絶対にこの2曲が必要やったんやなと思います。

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