【インタビュー】LUNA SEA、RYUICHIが語る『MOTHER』『STYLE』と30年「何を失って何を得たのか」

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■何を失って、何を得たんだろう?
■と思いながら歌に向き合っていた


──セルフカバーアルバムは、オリジナルの良さが尊重されていると感じました。原型を大幅に崩さないアレンジの方向性は、迷いのないものだったのですか?

RYUICHI:比較的そうですね。オーバーダビングしたコーラスをはじめ、いろいろなところで新しいLUNA SEAの世界を演出できていると思うんですけど、 それは全体の10%とか15%ぐらい。ほぼ昔の譜面のままやっています、というアルバムになっていますね。

──ヴォーカリストとしては?

RYUICHI:レコーディングは今年7月とか8月ぐらいだったんですけど、“何を失って、何を得たんだろう?”と思いながら、歌に向き合っていたんですよね。30年間ずっと歌い続けている曲だし、“どのぐらい、どう変わってるんだろう?”と。でもね、やっぱり失うものよりも得たもののほうが大きい。そういう実感があったのもうれしかった。レコーディング作業自体は大変ではありましたけど、乗り越えられるというご褒美がいっぱい待っていました。


▲<LUNA SEA DUAL ARENA TOUR 2023>10月7日@横浜公演

──完成したセルフカバーアルバムを聴いたときはいかがでしたか?

RYUICHI:スティーヴ(・リリーホワイト)がミックスした音を最終的に聴いて、“ここまでロックになるんだ!”って思いましたね。音像としては昔よりも遙かにロックになっている。オリジナルを聴いてからセルフカバーアルバムを聴くと、後者のほうが立体的で低音もいい意味でより暴れていて。そこにパンクやロックを感じる瞬間がすごく多かったです。その一方で、「ROSIER」もあれば「TRUE BLUE」もある。みんなが思い描くLUNA SEAのメロディアスな部分も当時既に完成していて、それが充分に詰まったアルバムなので。

──前衛的でありながらキャッチー。その二極を兼備しているすごさを改めて感じます。

RYUICHI:そこがたぶん唯一無二の部分なんじゃないかな、LUNA SEAの。今回のセルフカバーでもそういう気がしましたね。

──先ほどおっしゃったように音像が立体的で、まるで自分が音が鳴らされてる現場にいるかのような没入感がありました。

RYUICHI:VR的な音像世界ですよね。遠いはずの音も含め、全ての音が目の前にくる。

──それは、ミックスを担当したスティーヴの手腕によるところが大きいのでしょうか?

RYUICHI:ミックスに関してはほぼ100%そうだと思います。何て言ったらいいのかな…見ている景色が違うんですよ。日本で生まれたLUNA SEAというインディペンデントなヴィジュアル系バンドが、昔の作品を焼き直した。でも、僕ら自身は焼き直した感覚よりも新しく生み出している感覚がすごくあって、“なんで30年経っても俺たちのアルバムって古くならないんだろう?”みたいな実感もありつつ向き合っている。それをスティーヴがそのまま受け止めて、“世界では、この音楽はこうやって聴くんだよ。欧米では、この録音だったらこういう音像で表現するね”と言ってくれたみたいな、そんなミックスなんです。ミックスを聴いて5人でブッ飛びましたから。


▲<LUNA SEA DUAL ARENA TOUR 2023>10月7日@横浜公演

──アルバム『CROSS』の時はスティーヴを共同プロデューサーに迎えたわけですが、二度目のタッグということで、LUNA SEAへの理解がより深まっていた上での今回、というところはありましたか?

RYUICHI:それはあると思います。スティーヴ自身は、まだそんなお歳ではないけど、人生であと何枚アルバムつくろうかな?とか考えながらやっているんじゃないかな。だいぶ関わるアーティスト数を絞っていると思うので。ただ、過密スケジュールなので、レコーディング中も「これからU2の現場に行かなきゃいけないから、〇日までしかできないよ」とか、そういうやり取りもあって。今回は、日本にお招きしようと思っていた日程がスティーブのスケジュール的に難しかったことに加えて、 僕らもうかがうことができなかったので、何度かリモート会議をしながら進めた感じですね。スティーヴは『CROSS』のレコーディング以降も<復活祭>とかを観てくれてて、そのやり取りの中で「RYUICHIは絶対に復活する」という言葉を掛けてもらっていました。

──メンバーの皆さんから、ミックスに関するリクエストはなさったんですか?

RYUICHI:「できるだけスティーヴのファーストテイクを選びたいね」という話はしましたね。スティーヴは、僕らが送ったレコーディングデータを全て立ち上げて作業したと思うんですけど、“この音はそんなに要らないな”とか、逆に“この音をエンディングに足しちゃおう”とか、スティーヴ自身の解釈でミックスしてテイクを作っていくわけですよね。その最後に何かが変わるんですよ。というのは、LUNA SEAのメンバーがU2を好きになったアルバムをスティーヴが手掛けていて。他にもローリング・ストーンズをはじめ、たくさんのアーティストの作品を手掛けて、グラミー賞を何度も獲っている。そんな彼に対するリスペクトが、僕らには入り口の部分から既にあるわけで、“この神の手がやってくれるんだ”という信頼も持っている。

──1970年代から活躍している世界的な音楽プロデューサーですから。

RYUICHI:僕ら5人のリクエストがあった上で、スティーヴがバランスを取ったミックスをしてしまうと、「5人でミックスしているのと変わらなくなっちゃうよね」って。つまり、5人のスタンダードとか日本のスタンダードではなくて、スティーヴが思うこの2枚のワールドワイドスタンダードを尊重したかったし、それをミックスで表現してほしかったんです。それでも原曲提供者やアレンジに深く携わっているメンバーにとって、「ここの音はもうちょっと大きくしたい」とか意見があれば、その都度伝えながらやっていましたね。

──紆余曲折が一番あった曲を挙げていただくとすると、どの曲ですか?

RYUICHI:結局、スティーヴのファーストテイクに近いものばかりが採用されたんじゃないかな。メンバー間で何度もミーティングをしながら、“あ、僕はもうリクエストは言わないでおこう。スティーヴに全てお任せしてみよう”と思ったんですよ。たとえば、自分のヴォーカリゼーションにおけるリバーブやディレイの作り方については、スティーヴは当然、『MOTHER』や『STYLE』のオリジナル盤も聴いてくれているし、『CROSS』の時からLUNA SEAを深く知ってくれている。そういう意味では、イコライジングや空間系エフェクト的なものも、スティーヴが“LUNA SEAをこう聴きたい” “RYUICHIの歌をこう聴きたい”というものに委ねようと。そうすることで、U2やストーンズの現場でも起こってきたマジックが生まれるのであれば、“そのマジックをLUNA SEAでも聴いてみたい”という気持ちがすごくありましたから。「これはしょっぱいね」「これは甘いね」とかみんなで言うと、結果、平均的なものになりやすいし、だったら、“言わない人間が増えたほうがいいんじゃないかな”と僕は思ったので。


──アルバム『CROSS』レコーディング中のインタビュー時、「スティーヴの共同プロデュース参加によって、LUNA SEAにロックキッズのようなマインドが戻ってきている」とメンバーの方々がおっしゃってました。そのようなバンド内の活性化は今回も起きたのでしょうか?

RYUICHI:スティーヴ自身が本当に音楽好きなキッズみたいな方だから、LUNA SEAから上がってくる音に対してもそういう反応なんですよ。「この曲はこうだった。あの曲はこうだった」ってコメントをくれるんです。

──そのコメント、気になります。

RYUICHI:印象に残っているのだと、「GENESIS OF MIND〜夢の彼方へ」には“シリアスでマーヴェラスで、もうこれ以上のものはない”みたいなことを言っていましたね。歌い出しの低音のヴォーカリゼーションは、たぶん30年前の自分には歌い切れていなかったと思います。今のほうが100Hzぐらいの息の要素とかもすごく多く出るから、まるで洋楽で聴いてきたような耳触りをもって歌えた気がしていて。バラード系は『STYLE』の「FOREVER&EVER」もそうですけど、いかに隙間をつくりながら歌うかがすごく大切だと思っていて。やっぱり当時は、5人が誰かのフレーズを聴くよりも、“俺の歌を聴け” “俺のギターを聴け” “俺のベースを聴け” “俺のドラムを聴け”っていう気持ちが強かったと思うし、精一杯だったので。

──そのせめぎ合いが生む緊張感と熱量も、間違いなく魅力になっていましたよね。

RYUICHI:そうかもしれないですね。しかも『MOTHER』をリリースした1994年ぐらいって、まだギリギリ、アナログレコーダーを使っていたので、今みたいに簡単に編集できてしまうデジタルの世界とは違って、細かな修正が効かなかったんですよ。ライヴテイクに近いというか。修正するにしても8小節とか16小節単位で録る感じだった。だから、当時できることは、限界まで全てやり尽くした音源が『MOTHER』と『STYLE』なんです。夜中…もっと言うと朝までレコーディングが掛かって、2時間しか寝てないみたいな状態でみんなが再びスタジオに集まって。アシスタントの人も倒れそうな中で、時間を費やして作ったんです。そういう熱量もこもっているかもしれないですね。今は、それぞれが自分のスタジオで録っているというのもあるけど、 限られた時間の中ではあるものの、好きな時間にベストを尽くしながら録っていて。自分の歌以外の部分…たとえば歌い終わった後に「この2小節をビブラートで伸ばすよりも、ヴォーカルがすっと消えることで、ギターのオブリが引き立つじゃん?」とか見極めながら録ることができているんです。

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