【インタビュー】FINLANDS、メジャー1st EP『新迷宮』に「変わらないように変わってみるということ」

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■迷わなくてもいいことで迷うことに
■生きていると感じるんです


──今回の4曲は力強いという言葉じゃ足りないくらい、誰かを愛する強烈な気持ちが共通しているように感じましたが。

塩入:それが美しいものかどうかはさておき、FINLANDSは題材として、ずっと愛情というものを歌い続けているとは思うんですけど、「スーパーサイキック」は『天国大魔境』を読んで、自分が衝撃を受けたことを、自分なりに理解しようと思いながら、曲に落とし込んだものだし、表題曲になっている「新迷宮」はFINLANDSらしいめんどくさい女のことを歌っていると思いますし。「HACK」は…世の中のことに対して、私はSNSで発信するってことはしないんですけど、それはSNSでそれを発信することに、そんなに意味を感じないからで、世の中のことに興味がないとか、考えてないとかということではないんです。だって、自分が生きている世界ですし、自分の子供が育っていく中で、これから世の中がどうなっていくかわからないということに対して、何も悲観していないわけでも、考えていないわけでもなくて。だからこそ、きちんと歌を歌うことで発信するべきなんじゃないかって思っているんです。ただ、私の場合、それが平和を訴えるとか、誰かを励ますとかではなくて、私は多くの人のことを救えないけど、少なくとも近くにいる人のことはきちんと大切にすることができる人間でありたいっていう。「HACK」は、その意思表明みたいな曲だと思います。「ひみつのみらい」は男性の目線で初めて作った曲だとお話しましたけど、別れた恋人同士がいたとして、私が考えたシチュエーションの中で、何を後悔して、何を悲しむんだろうということを考えながら作りました。すごく愛されていたし、自分ももちろん愛していたけど、その愛情を伝えなかったことによって訪れなかった未来を…一緒に関係を築いていけないんだったら、その未来って見えないわけじゃないですか。だから、「ひみつのみらい」っていうタイトルなんです。なので、1つの作品として一貫性があると言うよりも、それぞれに、ある事情を歌っているんだと思います。


──「スーパーサイキック」は7〜8年前からメロディーがあったとおっしゃっていましたが、他の3曲は今回、EPをリリースするということで作ったものなんですか?

塩入:「新迷宮」と「HACK」は、曲のかけらみたいなものがありました。「ひみつのみらい」は、今回、急に作ったものです。

──「新迷宮」はストレートなギターロック・ナンバーという意味で、とてもインパクトがありますが、「新迷宮」を作るとき、変わらないように変わってみるということを実践するためにやったことはありましたか?

塩入:「新迷宮」は、何もなかったですね。

──では、従来のFINLANDSらしさを追求した、と?

塩入:そうですね。FINLANDSらしさというか、FINLANDSはキャッチーでありたいって私はずっと思っているんですけど、「新迷宮」を作ったとき、歌謡曲をすごく聴いていたんです。歌謡曲ってすごくキャッチーだと私は思うことが多くて、そういう自分がこういうふうにしてみたいと考えているものを、どれだけ具現化できるかってところに焦点を置いていたので、変わってみるっていうよりも、新しい実験をしてみるっていう感覚でしたね。

──「新迷宮」は、めんどくさい女のことを歌っているとおっしゃっていましたが、聴きながら、この“わたし”は“あなた”と表現されている男性よりも一枚上手なのかと思いましたけど。

塩入:「新迷宮」のタイトルの元になっている迷宮って、元々は一本道だったそうです。それがその後、迷路とか複雑な道とかという意味で使われるようになったんですけど、私はその一本道で迷わなくてもいいところとか、選択肢を別に考えなくてもいいところとかで迷ったり、思いあぐねたりすることが好きなんだと思うんですね。悩んだり、迷ったり、本当にこれでいいんだろうかと考えたりしているほうが、自分がきちんと進んでいるとか、自分の頭を使って、自分で選んでいるとか感じられるから、迷わなくてもいいことで迷うことに生きていると感じるんですよ。でも、今、世の中的には、ありのままの自分を受け止めて、肯定することが大切とされている。それ自体は本当に素晴らしいことだと思うんですけど、私にはそれが合わなくて。私は自分がダメだとか、至らないとか、自分の欠点とかに苛まれているほうがいいんです。「新迷宮」の“わたしがあなたを愛してる それだけでいいと言え”っていう歌詞は、そういうふうに全然思ってないわけではないけど、そんなふうに言える自分を私は選ばないというか、だから強烈な皮肉と言うか、私はそんなふうに歌っているけど、“わたしがあなたを愛してる”だけでいいわけないと根底では思っているというか。私自身、生きていてめんどうだなと思いますし、相手もめんどうだと思うだろうなという気持ちがずっとあるんですよね。それは今回の作品だけに限らず、FINLANDSがこれまで作ってきた作品においても一貫していると思います。


──迷宮は元々、一本道だった。それが迷路と混同されたっていうお話、とても興味深いと思いながら、ふと気づいたんですけど、2023年10月にリリースした配信シングル『東京エレキテル/クレア』のジャケットって迷路でしたよね?

塩入:そうですね。迷わなくてもいい迷路でした、絶対。

──あのジャケットは、そこで迷っている塩入さんを表現していたわけですね。そこから今回の『新迷宮』に繋がっているんだと考えると、とても興味深いです。さて、「HACK」では変わるために実践したことはありましたか?

塩入:「HACK」も2〜3年前に作って、ずっと悩んでいて。デモをサポートメンバーに聴いてもらうとき、ドラムとギターと歌を入れるんですけど、この曲のドラムを自分が思っているとおりに打ち込むことが全然できなくて、“これ何ビート⁉”みたいなぐちゃぐちゃなドラムのまま、「でも、どうしても作りたいから、どうにかしてほしいんだけど」って送ったんですよ。結果、1人で考えていてもどうにもならないとか、口で説明するのめんどくさいとか、そういうことも、とりあえずデモを1回送って、スタジオでドンって合わせたら、全部うまくいくというか、全部が好転していくっていう感覚を久しぶりに味わえたんですよね。2019年に『UTOPIA』っていうEPを出したとき、私、EPっていう概念に囚われすぎて、曲が全然作れなくて、初めて「納得できる曲ができない」ってことをサポートメンバーに相談したんです。その時、「どっちにしろ、スタジオでやってみたら悪くなることは絶対ない。好転することしかないから、とりあえずギターと歌だけのボイスメモでもいいから送ってみなよ」って言ってくれて、それで出来上がったのが「UTOPIA」って曲だったんです。なんだかその時と「HACK」ってすごい似ていて。それは変わっていくってことじゃないですけど、ずっと一緒にやってきてくれたサポートメンバーの力量というか、FINLANDSに対する理解度を信頼したほうがいいんだっていうことを、改めて感じられたので。もちろん、こういうふうにしてほしいってことは言いますけど、それぞれが伸び伸びとできる楽曲になったと思います。

──おっしゃるとおり、手数の多いドラムは「HACK」の聴きどころだと思います。4曲目の「ひみつのみらい」は最後に作ったそうですが、収録曲のバランスを考えて、バラードが欲しいということになったんでしょうか?

塩入:いえ、EPを作るって決まるちょっと前に、こういう題材で曲を作りたいと思っていたんです。男性目線っていうのは、その時はまだふわりとしていたんですけど、自分じゃない人の目線で恋愛を歌ってみたいっていうところで、“愛されない理由なら”っていう最初の4行だけ、もう決まっていて、それを基に曲を作りたいなと思いながら、ギターを弾いていたら、ピンと来るフレーズが出来上がって、そこからもう1日足らずでできました。その時点で、EP云々は関係なく、誰に何と言われても次のレコーディングで、絶対録ろうと思っていました。

──この曲はギター2本のアンサンブルも聴きどころですね。

塩入:そうですね。久しぶりにレコーディングでアコギも使いました。この楽曲に似合う音っていうのを、曲作りの段階からすごく模索して。この曲は思い描いていた理想像がはっきりしていたんですよ。だから、音作りとか、構成とかに関しては、最後の最後まで、レコーディングスタジオでも詰めましたね。

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