元祖“ボス”スプリングスティーンがツアー再開

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元祖“ボス”スプリングスティーンがツアー再開

 昨年秋Bruce Springsteenとthe E Street Bandが数年ぶりにツアーを行なうと決めたとき、私たちは若干、あるいはそれ以上に警戒せざるをえなかった。なにしろ彼らはそのユニットでは、'90年代なかばからツアーをしていないし、この16年ほどのあいだにレコーディングした曲は、まずまずのレヴェルのものが2曲のみである。

アメリカを代表するロッカーSpringsteenは、『Born In The USA』以後の状況に向かって、そしてアメリカ合衆国そのものに向かって、ロックする力をすっかり失っているのではないか。歌手として最近の彼は、以前の枯れたときの声しか出ないのではないか。

それに高齢ミュージシャンが、栄光の時代の充実感、高揚感、燃焼感を味わいたいがために活動を再開するという例が、これまでたくさんあったのである。新しいことに価値など存在しないかのように。そうなるおそれはあったし、そうなるのが最も犯罪的だった。

このツアーは本当に、Fleetwood Macthe Eaglesの再結成ツアーみたいになるのだろうか。団塊の世代に高い特製チケットを買わせ(Bruceの場合オヤジ1枚67ドル50セント)彼らが年に1夜だけコンサートで燃え上がれるようなノスタルジーを商売にするのだろうか。

けれど、こう考えるのはどうだろう:タデ食う虫も好き好きである。

見たい人にコンサートを見せてどこが悪い。Bruceファンが「Promised Land」や「Born To Run」など絶頂の日々の思い出に浸るのは、そんなにいけないことだろうか。もしノスタルジーが好ましく思える場合があるとすれば、カリフォルニア州アナハイムのアローヘッドポンドに出かけてBruce Springsteen & the E Street Bandの2日間のコンサートのうち初日を見ること以外に、なにがあるのか。

その昔レーガン大統領のころ、彼らのツアーは、ロックンロールの壮大さを示していた。彼らと並ぶ者などいなかった。いまでは多くのファンが、あの強烈なツアーを、個人史に影響を与えた大事件だったと考えている。その時期を振り返るのが、アーティストにとって、ファンにとって罪悪だと本当に言えるのか。

ところが、2000年のSpringsteenは、あなたが選んだ新車のランナバウトで思い出の道路をぶっ飛ばすという枠組みには収まりきらなかった。これくらいキャリアの長いアーティストになると、歌の攻撃力はどうしても衰えてくるものだ。それに、この日の選曲にも一因があった。たとえばthe Rolling Stonesならば、いつかだれかが可哀想に思って彼らの生活基盤のプラグを抜いてやらないかぎり、かつての名曲/もはやくたびれた「Brown Sugar」や「(I Can't Get No) Satisfaction」をずっと歌っているだろう。

しかしこの日Springsteenは、かつてのヒットシングルをほとんど歌わなかった。「Hungry Heart」も「Pink Cadillac」もナシ、「Dancing In The Dark」も「Glory Days」もナシ。『Born In The USA』は彼の人気を決定付けたアルバムだが、その収録曲で取り上げられたのは、なんとタイトルチューン1曲のみだった。しかもその「Born In The USA」を、Springsteenはソロで12弦ギターをスライド演奏しながら歌った。メロディーは抑揚を失い、しばしば誤解されてきた虚勢はついに姿を消して、そのおかげでこの歌のやるせないドラマが浮かび上がった。

「Born In The USA」は、この日のステージの求心力となった。CDでは地味なアコースティックだった「Mansion On The Hill」や「Ghost Of Tom Joad」「Youngstown」を、フルバンドの印象的なアレンジで演奏したのも同様である(彼がそんな曲を歌っている間、一部の観客はビール売場の行列に並んだりトイレに行ったりしていたが)。Springsteenは、たんに再結成企画に乗って歌っているのではなかった。ツアーは昔を懐かしんで終わるのではないかという疑問は、そういう演奏のおかげで解消したのである。たしかに彼は中年になり、金持ちになり、幸せになったが、いまでもアーティストとして挑戦を続けているのだ。

そういった曲はまた、Springsteenの攻撃的な曲と、いい意味で好対照をなしていた。スケールが大きくて爽快な、映画のような一群の曲…「Backstreets」「Thunder Road」「Darkness On The Edge Of Town」「Out In The Streets」…は、イカダから落ちて激流を下る木の葉のようだった。勝ち目のない人間をテーマにしたこれらの曲が言っているのは、各人の人生の元となっている物事を好きになるのはまちがっていないということである。一方、さっきの「The Ghost Of Tom Joad」や「Born In The USA」は、インターネット経済が発達しても地球上のだれもが豊かになっているわけではないことを観客に思い出させた(“それじゃウォルト・ディズニーと同じ/共和党と同じ/後悔しなくていいのか”と彼はラップで言ったが、この日の会場がカリフォルニア州でもっとも保守的な地域にあることを当然彼は意識していたはずである)。

すでに何回もコンサートを見た人々にとっては…Springsteenの場合どの会場にも多くいる…たびたび挿入される演出のいくつかは退屈だったかもしれない。ソウルレヴュー形式のバンド紹介では、「Tenth Avenue Freeze-Out」がAllman Brothers『Live At Filmore East』の収録曲に匹敵するくらい延々と続いた。Springsteenは、妻兼ギタリスト兼ヴォーカリストのPatti Scialfaと仲良く骨盤を突っつきあったりしていた。

しかし、ときには演出を超える瞬間が現れたのである。たとえば、優しい「If I Should Fall Behind」では、観客がこの歌を合唱しだした。この歌は、今回のツアーの究極のテーマである「家族」を歌っている。2回目、3回目、4回目の人々も、Springsteenと彼の仲間たちが、今回この歌を以前より力強く、華麗に、確信を持って演奏していることにきっと気づいただろう。

ホッケー場として建設された小屋で、こういうコンサートが成功したのは壮観だった。はたして成功するのかという疑いをこの日のステージが吹き消してくれたことも、見た甲斐があった理由に少しだけ加えていいだろう。

この日私たちは、Springsteenについてまさにデビュー以来広く言われてきたことを再確認した:ライヴに関して、彼に追いつける者などいない、と。

彼のカリスマ性、いまだ衰えぬエネルギー、壮大な曲と心に残る小品。3時間以上のステージで、電球はタイミングのいいところで客席用のものが2、3回切れただけで、それ以外の出力異常は起こらなかった。そういったすべてのおかげで、小屋のなかは居心地のいいバーのようだった。

by Neal Weiss

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