ラップ/ロックをまたぐアーチストたちのスモーキーな祭典

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ラップ/ロックをまたぐアーチストたちのスモーキーな祭典

 

今年で3回目となったCypress HillのSmoke Outツアーで、明け方のメインステージに真打ちとして登場するスーパースターのセットを間近に見ようとした観客は、「地獄の黙示録」でマーティン・シーンがマーロン・ブランドを見つけようとしたときの気分を味わったに違いない。もちろん、実際にはラップ/ロックのメガスターである彼らが不吉なヒット曲「How I Could Just Kill A Man」を演奏したとしても、悪魔が姿を表すようなことはなかったかもしれない。だが、会場のNational Orange Show Fairgroundは何千人ものキッズ、マリファナの雲のような煙、食料やビールにTシャツを売るスタンド10数カ所、14時間連続で次々とアーティストが登場する4つの回転ステージなどでごったがえしており、ここを通り抜けて行けば確かに神に見捨てられた荒野をよろめきながら進んでいく感覚にとらわれるだろう。そして、長旅の終着点にはCypress Hillが立っているのだ。

Cypress Hillはヘッドライナーの地位にまで登りつめ、数多くのヒップホップのヒットで観客(非常に遅い時間だったにもかかわらず大勢残っていた)を揺さぶった。そして、ギアをチェンジした。いつもならフィナーレとなる「Kill A Man」の後で、彼らはフル編成のロックバンドをバックに演奏したのだ。過去にも彼らのライヴショウではコンガとティンバレスに生身のミュージシャンを使っていたが、今度のロック部隊はFear FactoryThe Deftones、Drunken With Powerのメンバーから構成されており、新曲の伴奏を務めただけでなく、「Lick A Shot」「Cock The Hammer」といったCypress Hillの古い曲にもロックのフレイヴァーを加えたのである。

しかし、Cypressにとっては新しい試みでも、他の連中にしてみれば目新しいものではない。数年前にIce-TBody Countを結成して以来、多くのラッパーがラップとロックの融合を試みており、最近ではMos Def(まもなくロックバンドのプロジェクトJack Johnsonが始動する)とSubset(Sir Mix-A-LotとPresidents Of The United States Of Americaのメンバーから成る集団)などの動きがある。だが、こうした試みの成功度から判断すると、オーディンエンスはロックを取り入れたラッパーよりも、最初から混血種としてスタートしたグループ(例えばLimp Bizkit)のほうを受け入れる傾向にあるようだ。

ラップとロックというCypressの二面性は、当日のアーティストのラインアップにも反映されていた。ラップはGang StarrRedman、Erick Sermonといったアーティストの強力なセットで組まれており、一方ではLimp Bizkitや311といったロック/ラップのスターも出演した。ファンは両方に満足していたが、Limp Bizkitはちょっと盛り下がった。とくに彼らがNine Inch Nailsの「Closer」を“You want to f--k me like an animal”と変えて、ぎこちなくパロディ風にカヴァーした試みには引いてしまったようだ。

Smoke Outのメインステージ周辺以外では、モダンなダンス/クラブミュージックの肥大化したファミリーの、ほとんどすべての子供たちを見ることができた。レイヴカルチャーは4つのステージのうちの2つを支配し、テクノとジャングルが絶え間なくプレイされていた。DJ RapとZebraheadが恐ろしく暴力的な分厚いトラックを聞かせる一方で、AK 1200はジャングルのビートにのせてハイスピードのラップを披露した。アンダーグラウンドのヒップホップ・シーンにも光があてられており、L.A.インナーシティの悪童、Freestyle Fellowshipが巨大で不気味な納屋の内部にあるセカンドステージを震え上がらせていた。彼らは完璧なユニゾンで長いラップを決め、どのグループよりもワイルドなスタイルを次々と繰り出して、優れたショウマンシップを示していた。

Lollapaloozaがメインステージ、セカンドステージ、売店といった現代的なフォーマットを確立して以来、音楽フェスティバルは大きく様変わりした。Lollapaloozaがより統一されたオーディエンス経験(イヴェントを少なくしてより多くの人が同じアーティストを見るようにする)を提供しているのに対して、Smoke OutはもっとInternetに近く、観客のすべてがより多くの小さなイヴェントを見るようになっている。バンド用の4ステージのほかに6カ所のブースがあって、DJとブレイクダンサーが観客の注目を集めようと競い合うのだ。結局のところ、立ち上がって次々と様々なアーティストを渡り歩くことができるという点に奇妙な一体感があって、Cypressの新曲と古い曲のように融合とコントラストが一度に楽しめる。全プログラムが終わって、もし来場者のアタマが文字どおりスモークでブッ飛んでいないとしたら、きっと音楽の煙の中をもうろうとさまよっていたことであろう。

 

 

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