'90年代という時代の理想的な象徴“グランド・ロイヤル”を紐解く

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'90年代という時代の理想的な象徴“グランド・ロイヤル”を紐解く


グランド・ロイヤル10年の軌跡 

レーベル・コンピレーションアルバム

『MIXED DRINK NO.3
~THE BEST OF GRAND ROYAL~』


東芝EMI 2001年12月6日発売
TOCP-65931 ¥2,548(Tax in)

1.ドウターズ・オブ・ザ・カオス /ルシャス・ジャクソン
2.フォー・フライ・ガイズ /ハリケーン
3.ヒア(Squiremel Mix) /ルシャス・ジャクソン
4.ポップ・クイーン /ベン・リー
5.レッド・アンブレラ /コースターズ
6.アイ・ウィッシュ・アイ・ワズ・ヒム /ノイズ・アディクト
7.バター・オブ・シクスティ・ナイン /バター08
8.グッド・モーニング・アメリカ /モイストボーイズ
9.Mr.B・ゴウズ・サーフィン
10.グレート・ファイヴ・レイクス /バッファロー・ドーター 11.バディ / BS 2000
12.ウィ・ラヴ・アウア・ロイヤーズ /チボ・マット
13.ハーフウィット /サクパッチ


グランド・ロイヤルオフィシャルサイト
http://www.grandroyal.com


'90年代という時代。それは世界の音楽業界にとって“価値観の倒錯”をズバリ意味した。

'80年代まで大衆相手の約束事に縛られることなく、“音楽的な表現の自由”をフルにいかした活動をしてきたインディ・レーベルのロック“オルタナティヴ・ロック”が、ガッチガチのがんじがらめで型にハマりすぎていた派手な髪型や衣装のケバケバしいヘヴィ・メタルや、無機質で陳腐で使い捨てで終わりのダンス・ミュージックにとって変わったのだ。

こうした“オルタナ革命”を演出したのは、ニルヴァーナを筆頭とした様々なバンドそのものももちろん挙げられるのだが、そうしたバンド群を次々と産み落としたインディ・レーベルの存在はやはり見逃せない。ニルヴァーナやサウンドガーデンを生んだシアトルの『サブ・ポップ』をはじめ、『K』、『SST』、『タッチ&ゴー』、『マタドール』、そしてパンク系の『ルックアウト!』や『エピタフ』など、こうしたインディ・レーベルから次々と'90年代の中核を担うアーティストたちが続々と登場。


▲The Beastie Boys
彼らはインディ時代に培った自由なスピリットを世の流れに迎合することなく展開し、ロックの存在意義を世に改めて問いただしたが、そんな中でももっともブッ飛んだ活動を展開したのがビースティ・ボーイズであり、彼らが経営したインディ・レーベル、『グランド・ロイヤル』であった。

このグランド・ロイヤルというレーベルは、1991年、ビースティの面々がホームタウンのニューヨークからLAに拠点を移して3年目のときに設立された。この当時のビースティは、デビュー当時の“白人の悪ガキによるロック混じりのヒップホップ”のイメージを払拭しようと、彼らが元来属していたはずのアンダーグラウンドのパンク・シーンの自由なスピリットを取り戻すべく、より知的なアプローチから、ヒップホップ、パンクロック、ジャズ・ファンク、レゲエなど、全くもってルール無用の自由な音楽活動を展開しようとしていた頃。

彼らが自身のこの無手勝流なサウンドをこの自主レーベルで展開しようと試みたところ、“変革”を望む当時の音楽シーンの状況下に好意的に受け入れられた。

そしてここで調子を掴んだビースティーズの活動には加速がつき、彼らは次第に音楽をも遥かに超越した奔放な活動を、“ストリート・カルチャー”の一環として、グランド・ロイヤルの名の元に展開していくこととなる。それはカルチャー・マガジンの発行や自主ブランドの制作及びファッション・ショーの開催など……、とどまるところを知らなかったが、そんな中でも、もっとも独創的だったのはやはり、レーベルのA&Rとして超個性派の曲者揃いのアーティストたちを次々と輩出し続けたこと、やはりこれにつきる。ビースティーズの音楽性同様、このレーベルに所属したアーティストたちには音楽ジャンルの壁は一切なく、パンクもヒップホップもクラブ・ミュージックも一口で飲み込んだ強者たちばかり。

しかも、アメリカの都市部のみならず、イギリス、オーストラリア、そして日本と、連中たちは国籍を超えて存在。男女比もほぼ平等で、思想的にもリベラルでDIY精神に満ちた人たち揃いで、このグランド・ロイヤル・ファミリーを中心としたチャリティ・フェスティバル“チベタン・フリーダム・コンサート”も大成功。一切の商業的な約束事から解放され、自身の音楽活動に対し一切の妥協もしない。グランド・ロイヤルというレーベルのそうしたポジティヴで自由な姿勢は、'90年代という時代の理想的な象徴だった。

しかし、良い時間というものは、いつの時代もそんなに長くは続かない。その華々しい活動が遂に10周年を迎えたこの2001年、グランド・ロイヤルは遂にその歴史に幕を閉じることとなった。

▲AT THE DRIVE-IN
確かに'90年代末期から、再び時代は変節を迎えた。アメリカの景気は大幅な回復。絶望的な不景気だった'90年代初頭に蔓延したグランジ的な沈みこんだ雰囲気は次の世代から“暗い”と一蹴され、音楽シーンではパーティ感覚のマッチョなラップ・メタルや健康的で明るいティーン・アイドルがもてはやされるようになるなど一気に保守化。そしてインディ・ロックのシーンも、ここ10年近くに渡るメジャーによる搾取にも近い青田刈りや、かつて先鋭的だったサウンドの急激な一般化などにより、新鮮なサウンドや才能を持った存在が急激に激減。この“インディ側からのテンション・ダウン”も、時代の保守化に輪をかけた。そんな時代の中、グランド・ロイヤルもアット・ザ・ドライヴ・インを輩出するなどして最後の最後まで奮闘したが、経営の悪化はどうすることも出来ず、遂に閉幕することとなってしまった。

ひとつの時代は終わった。しかし、グランド・ロイヤルという無頼漢のような小さなレーベルが'90年代という激動の時代にもっとも輝いていたレーベルであったということ。このことだけはこの先もずっと語り続けていくはずだ。そして、前置きが随分と長くなってしまったが、その偉大なるグランド・ロイヤルの10年の軌跡をコンパイルしたレーベル・ベスト盤がこの『MIXED DRINK NO.3~THE BEST OF GRAND ROYAL~』なのである。

ビースティのかつてのメンバーでもあったケイト・シュレンバックがドラマーをつとめるヒップホップ・テイストの女性4人組ロックバンドのルシャス・ジャクソンをはじめ、わが日本のバッファロー・ドーターチボ・マット、そのチボ・マットとジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョンのメンバーの合成チームであるバター08、オーストラリアの天才ロウ・ファイ少年ベン・リー、そして彼の率いたバンド、ノイズ・アディクト…。いずれもスターダムにこそのしあがるような“記録”こそ残していないものの、いずれも人々の“記憶”に残る曲者たちばかり。彼らがここに残した楽曲たちは、'90年代という一つ過去の時代の断面ではあるが、ここに内在するエネルギーは世代を経て誰かに受継がれることで大爆発するようなそんな気が僕にはしてならないのだが…。

しかしそれにしても、今回のグランド・ロイヤル解散は、昨年の(オアシスプライマル・スクリームを生んだ)クリエーション・レーベルの閉鎖に並んで、'90年代ロックを愛する人間にとっての大打撃であること、それだけは間違いない。だが、ビースティーズ自身も、ここに収められているアーティストも、そしてきっとどこかでグランド・ロイヤルに感化されたであろうアーティストがこの世から絶滅したわけではない。むしろこのベスト盤から何かがはじまらないか。そんな楽観的な気分で今は待っていることにしよう。

文●沢田太陽

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