【BARKS編集部レビュー】Sensaphonics 2XSを知らずして、カスタムIEMを語るなかれ

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「Sensaphonicsを知らずして、カスタムを語るなかれ」。そんなセリフを先人の教えとして聞いたわけではないけれど、1985年の設立以降、一貫してアーティストの聴力を守るオーディオロジストの立場からカスタムIEMを作り続けている孤高の存在であり、カスタムIEMの歴史を牽引してきた老舗ブランド「Sensaphonics(センサフォニクス)」を避けて通るわけにも行かないだろう。1995年、アレックス・ヴァン・ヘイレンのために作られたカスタムIEMがアーティストのイヤモニの歴史のスタートであり、カスタムIEMの雄Ultimate Earsの誕生であるのは有名な話だが、そのカスタムIEMを制作したジェリー・ハービー自身が、その時点でSensaphonicsのカスタムIEMユーザーであったことは意外と知られていないエピソードだ。

◆Sensaphonics 2XS画像

▲Sensaphonicsの製作ラボ。もちろんすべてハンドメイド。

▲フルシリコンのため、通常のカスタムIEMとは随分と趣が違う。マーブル模様もオーダーできる。

▲Sensaphonics 2xsの試聴機は存在しないが、カナル型イヤホンのj-phonic k2が全く同じ内部構造を持っており、Sensaphonics 2xsの試聴機として程近いサウンドが体感できる。Sensaphonics 2MAXのサウンドはj-phonic m2で確かめられる。

▲フルシリコンのため通常はフェイスプレートがないが、その曲線に合わせてこのような宝飾をあしらうことも可能。青天井の価格となるが、完全にジュエリーの世界に突入する。

長い歴史を誇るSensaphonicsだが、“Save the Ear アーティストの聴力を守る”という一貫した理念に根ざし、それを具現化させたラインアップとして誕生した2ドライバーのベーシックモデル2XSが、20年もの長きにわたって現場の最前線で活躍している。いたずらにドライバー数を増やすこともなく、確実に安全にアーティストのモニタリングを助けるためだけに、今もなおその姿勢は変わらない。派手さこそないものの質実剛健で実用に適った2XSは世界中のトップアーティストに高く支持されており、グラミー賞受賞アーティストのなんと6割がSensaphonicsの愛用者だ。レディー・ガガもエミネムもコールドプレイもイーグルスも、オジー…きりがない。

Sensaphonicsの最大の特徴は、全てソフトシリコンでできているところにある。当初はアクリルシェルで制作をスタートさせたものの、歌い踊り激しく身体を動かすアーティストにとって、外耳道の動きにアクリルでは追従できず、遮音性やサウンドの品質担保に問題があることを認識、そこからシリコンシェルへの開発をスタートさせたという経緯がある。宇宙飛行士用のイヤーモニター材としてNASAと共同開発した特殊シリコンは、適正な応力を持ちストレスのない装着感とともに、こもり感や内部反響のない再生音を出力するものだ。

結果、アクリルに比べ加工が難しくコストもかかるものの、Sensaphonicsはフルシリコンにこだわり、完璧な遮音性と抜群のフィット感を獲得した。ホスピタルグレードのシリコンが使用されているが、ソフトシリコンとスーパーソフトシリコンの混合で製作されており、耳への負担を最小限に抑えながら耐久性も確保した独自の製法が確立されている。シェルもマーブルカラーがオーダーできるが、合わせる色に制約があるのは、硬さの違うシリコンを混合する必要があるからだ。

シリコンシェルの制作ノウハウはSensaphonicsの独壇場だが、制作ラボは米シカゴだけではない。実は山梨県…そう、SensaphonicsのカスタムIEMをハンドメイドで制作するもうひとつのラボは、なんと日本国内にあるのだ。山梨県甲府市のラボでは日本のトップアーティストのカスタムIEMはもちろん、世界中のオーダーを受けて製作ラインが動いている。何を隠そうビヨンセやアッシャーのイヤモニを制作しているのは、ここ日本のラボなのである。

▲Sensaphonics 2XS。左はクリア、右はクリアとブルーのマーブルカラー。

▲柔らかいシリコン製のため、慣れるまでは通常のアクリル製よりも装着が難しい。フィットした後の安定感はシリコンならではの快適さだ。

▲リケーブルのオプションを選択するとSHUREと同等のケーブルが付属する。分岐部分にはSensaphonicsのロゴが刻印されている。

▲ケーブルのコネクタ自体が半分近くまでシリコンシェルの中に突き刺さった状態となる。不用意な回転もせず使い勝手は上々だ。

▲左がSensaphonics 2XS、右がACS T1 Live!。どちらもフルシリコン製だが、形状が全く違って見える。

▲付属品は、大きめのペリカンケース、クリーニングツール、シャツクリップ、取扱説明書。

2XSのサウンドは、想像していたより音がどっしりと安定していて、その上ですっきりと抜けていく高域のクリアさもあり、モニタリングというよりもむしろリスニング機としてとても聴き心地が良いのが、嬉しい誤算だった。バランスは見通しのいいフラットで、無理の無いトーンには気になるような癖が全くない。この素直な音質が、トップ・アーティストの支持されている最大の理由なのだろう。リファレンスとして信頼出来る安定感があり、長時間のリスニングにも全く負担を感じない。非常に高いレベルでの“変哲のない普通のサウンド”なのだ。曇り感もなく抜けるサウンドだが、だからといって抜け過ぎて聴き疲れしてしまうようなヒステリックさもなくきっちり制御できている。解像度も必要にして十分なもので、2ドライバーの利点を知り尽くしての設計であろうことが伺えるような完成度だ。

ドライバーには大きめの低域用ドライバーと、キビキビとした小型の高域用ドライバーが各1発ずつ搭載されており、構成としては変哲のない2ドライバー仕様に見えるが、シリコンの中に完全に埋没している様子は、普通のアクリル製カスタムIEMとは全く趣を異にするもの。配線含め完全に固定されているため、接触不良や内部断線などの可能性は限りなくゼロであろうことが見て取れる。これまではケーブルも固定だったため、ケーブル断線の場合は修理扱いとなっていたが、近年MMCXコネクタを使用した着脱可能なオプションも選択できるようになり、実用性もぐっと上がっている。

着脱対応のケーブルはSHUREとの共同開発によって製作させたもので、分岐部分にSensaphonicsのロゴこそ刻印されているものの、ケーブル自体はSHUREのSEシリーズのものと全く同様のものだ。SHUREのイヤホンと同様に、様々な市販の交換用ケーブルを楽しむこともできるわけだが、端子部分は内部深くに埋め込まれておりコネクタ自体も半分ほどシリコンのシェル内に埋め込まれる形となるため、その形状によってははまらないこともあるだろう。耐久性はあるものの柔らかでデリケートなシリコンゆえに、リケーブルには十分な注意を払ったほうがよさそうだ。ちなみに純正ケーブルはみっちりとジャストフィットしているのでMMCXといえどもくるくる回ってしまうようなことはない。当然ガタツキもなく、汗やホコリが入り込む余地もなく、不用意な物理的衝撃からも守られているため、着脱部分を原因としたトラブルはまず起こらないであろう確かな安心感がある。

実際の装着感だが、シリコンシェルの使い心地はアクリルとは別次元のものだ。そもそも柔らかい人体に対して、同様に柔らかいシリコンがその形にピッタリと沿ってフィットするわけだから、装着感はパーフェクト。当然それはそのまま遮音性能に直結するわけだが、口を開けようとまゆを上げようと、横を向こうが下を向こうが、その遮音性は全く落ちることがない。世界中で多くのアーティストが2XSを手放せなくなってしまうのも当然のことと思うが、我々オーディエンスにとっても音楽再生時のこの安定感は何より快適で魅力的だ。

今も第一線で活躍する世界中のアーティスト達から高評価を得ているのは、姿を変えずシンプルな2ドライバーで構成された2XSである。ワイヤレス使用に特化したローインピーダンス仕様の2MAX、大音量に対応した3ドライバーの3MAXというバリエーションも用意されているが、Sensaphonicsは未だ自社フラッグシップモデルは2XSであると断言する。

過当なスペック競争には一切足を踏み入れず、理念に沿って実直な製品作りを重ねた結果、2XSは世界中からのトップアーティストからの絶えまない賞賛を手にすることとなった。もちろん邦楽アーティストでも、aiko、安室奈美恵、椎名林檎、小田和正、DREAMS COME TRUE、西野カナ、松本孝弘、長渕剛、May'n、YUI、ゆず、コブクロ、Revo、Taka(ONE OK ROCK)…と、Sensaphonicsユーザーは非常に多い。

聴覚を守りながら妥協なき音質を楽しみたいという願いは、2XSがいとも簡単に応えてくれる。我々オーディエンスに対しても全く同様に応えてくれるものだ。特殊な素材ゆえ、初めてのカスタムIEMとして手にするには敷居が高いかも知れないが、すでに複数のカスタムIEMを所有しているようなジャンキーな殿方であれば、ここは是非ともアタックいただきたいところ。

世界に誇るSensaphonics 2XSだが、その存在は意外にも身近なところにあった。国内生産ゆえに納期も早く、当然ながら全て日本語でオーダーできるし、ね。

text by BARKS編集長 烏丸哲也

Sensaphonics 2XS
・周波数特性:20~16,000Hz
・インピーダンス:27Ω
・感度 109dB / 1mW
・重量:約30g
・イヤーモールド:ソフトシリコン
・シリコン素材の遮音性:約30db
・ケーブル(首上):約40cm
・ケーブル(首下):約95cm
・コネクター:ステレオミニピン(L型成型)
・付属品:ペリカンケース、シャツクリップ、クリーニングツール、取扱説明書(1年保証書)
※リケーブル加工+MMCXケーブル1本:12,600円(税込)

販売店
・Sensaphonicsオフィシャルサイト
・eイヤホン
・フジヤエービック

◆Sensaphonicsオフィシャルサイト
◆j-phonicオフィシャルサイト
◆BARKSヘッドホン・チャンネル
◆カスタムIEM専門チャンネル

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
■Earsonics SM64(2013-09-23)
◆LIVEZONER41 LZ12(2013-09-15)
◆Ultimate Ears カスタムIEM全7機種(2013-09-08)
◆null audio Elpis(2013-09-03)

■FitEar Parterre(2013-08-25)
◆カナルワークスCW-L12(2013-08-17)
◆Livezoner41 LZ 4(2013-08-06)
■SHURE SE846(2013-08-02)
■オーリソニックスASG-2 with BassPort(2013-07-28)

■Hippo ProOne(2013-07-21)
◆カナルワークス CW-L51a(2013-07-13)
■EXS X10(2013-06-24)
■音茶楽Flat4シリーズ粋、楓、玄(2013-06-17)
◆LEAR LCM-1F(2013-06-10)

◇Ultimate Ears UEブーム(2013-05-28)
◇Stage93 93PC(2013-05-20)
●Meze Headphones(2013-05-08)
●Fischer Audio Jubilate(2013-04-29)
◇ORB JADE casa(2013-04-21)

◆lime ears LE3(2013-04-14)
◇雑誌「DigiFi 第10号」付録(2013-04-06)
●Ultimate Ears UE 9000、UE 6000、UE 4000(2013-04-01)
■開放型インナーイヤーイヤホンおススメ5モデル(2013-03-19)
◆LEAR LCM-5(2013-03-16)

●フィリップスFidelio L1(2013-02-25)
○スマホが与えた音楽リスニングのモラル変革(2013-02-17)
■Klipsch Image X7i(2013-02-04)
◆LEAR(2013-01-27)
◆カナルワークスCW-L05QD(2013-01-13)

◆earmo(2013-01-02)
◆Westone AC2(2012-12-25)
◇Stage93 93SPEC(2012-12-16)
●California Headphone Silverado、Laredo(2012-12-09)
■音茶楽Flat4-楓(2012-12-03)

◆Stage93 Stage 6(2012-11-26)
●GRADO SR60i(2012-11-19)
◇Astell&Kern AK100-32GB-BLK(2012-11-15)
●オーディオテクニカ ATH-WS99(2012-11-10)
■アトミック フロイドPowerJax+Remote(2012-10-29)

◇VORZUGE VorzAMPduo(2012-10-26)
●ファイナルオーディオデザイン heaven VI(2012-10-16)
●beyerdynamic T 90(2012-10-08)
●GRADO GS1000i(2012-09-30)
●SENNHEISER HD 700(2012-09-16)

◆ACS T1 Live!(2012-09-11)
●オーディオテクニカ ATH-AD2000 ATH-AD1000(2012-09-03)
●GRADO RS1i、SR325is、PS500(2012-08-20)
◆FitEar MH335DW(2012-08-15)
●DIESEL VEKTR(2012-08-07)

◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)

●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
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■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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