【Blur Special】『the best of』にみるイギリスロック文化

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■『the best of』にみるイギリスロック文化



1st.『Leisure』



2nd.『Modern life Is Rubish』



3rd.『Parklife』



4th.『The Great Escape』



5th.『Blur』



6th.『13』


▲『the best of』
'00年10月27日
日本先行発売
この20世紀も終わりに差し掛かろうとしているこのちょうどいいタイミングに、ブラーから待望のベスト盤が届けられることと相成ったが、いやいや、これには実に大きな意味がある。

勿論、“ヒットメイカーとしてのブラー”に一区切りをつけるという点でも充分にこれは意味を持つものではある。

これまで6枚のアルバムのうち全英アルバムチャートナンバーワンを記録したもの4枚、そして14曲ものトップ20シングル(うち2曲がナンバーワン)。

これは'90年代のUKロックではオアシスと並ぶ実績だし、スパイス・ガールズなども含めた'90年代のUKポップス全体を見回しても指折りのヒットメイカーであることも間違いないだろう。

しかし、そうした数字的なものもさることながら、ブラーという存在自体が'90年代のUKロックの姿を常に映し続けていたこと、これこそが大いに語られてしかるべきである。

ブラーがデビューを飾ったのは'90年代のまさに幕開けの1990年。

ストーン・ローゼズハッピー・マンデーズなどのいわゆるマンチェ・ビートやマイ・ブラディ・バレンタインに代表される“シューゲイザー”と呼ばれる恍惚の大音量ギターバンドのブームの時代、ブラーは後進組としてマッシュルーム・カットにボーダー・シャツの出で立ちでトリップしながら歌っていたものだ。

ブラーはそのルックスによるアイドル的な人気と楽曲の良さで幸いにしてそれなりに注目度の高いデビューを飾る事が出来たが、その評価は「時代の徒花登場」といったネガティヴなものが大勢を占めていたものだ。まあ、ある意味で「時流に乗っていた」とも言えなくもないのだが、彼らが周囲のバンドに引っ張られていたのは'90年代でもそのとき限り。これから先は、ブラーの織りなす音楽性や行動そのものが、'90年代UKロックの雛形になっていくのであった。

'92年に嘘のように終わったマッドチェスターやシューゲイザーといったムーヴメント。ドラッグなどの恍惚感による享楽的で逃避的な快楽から一転、そこに残ったのは空虚な現実。

そんな現実にシンクロするように経験したブラーの全米ツアーで受けたアメリカ文化やアメリカ人に対しての嫌悪感。これがイギリス人としての自分のアイデンティティに立ち返るキッカケを与え、これまで過去を振り返らずに進んできたUKロック自体にも過去の音楽遺産を見直す機会をも生み出すこととなった。

イギリス人としての皮肉めいたユーモア、そしてキンクスをはじめとするモッズを筆頭とする'60~'70年代のUKロックを再検証すること。こうしたブラーの試みは次第に実を結び始め、'93年セカンド『モダン・ライフ・イズ・ラビッシュ』がロック不調の中、次に期待を繋げるヒットと好評を獲得し、翌'94年シングル「ガールズ&ボーイズ」、アルバム『パークライフ』で大ブレイク。主役不在のUKロック界でブラーは一躍ナンバーワンの座に躍り出る。そしてオアシスやパルプ、元祖ネオ・モッズのポール・ウェラー、デーモンの当時の彼女のジャスティーン率いるエラスティカなどのUKロック・ルネサンス的な勢力を多数生み出し、無数の若者たちが再びギターを手に取りバンドを始めることとなる(それは日本においても同様だった)。

そしてこうしたムーヴメントは“ブリットポップ”と呼ばれるようになり、'95~'96年頃まで一斉を風靡することとなる。当然ブラーの'95年作『ザ・グレイト・エスケイプ』も大ヒットは記録した。

しかし、ブラーはあえてそのブームに自ら終止符を打った。

楽天的で浅はかなバンドブーム・バブルと周囲の狂騒に疲れ果てた結果あえてNOを示し、ブリット・ポップ期の華やかな作風と訣別し、内省的で実験的な作風へと転じた。

'97年の『ブラー』や'99年の『13』はそれまでのファンを大きく裏切りつつも大きな人気を獲得。そればかりかその支持をイギリスを超えてアメリカにまで伸ばすことにもなった。

そして折しもブリット・ポップは終焉し、UKロックはレディオヘッドに象徴されるダークで混沌としたものとなっていった。そんな中ブラーはもはやアイドルなんて次元を大幅に超越して、様々な先進的な音楽クリエイターたちからもリスペクトを受ける存在となってきた。

これがブラーの10年間の大体の軌跡だが、彼らがいかに'90年代において重要な存在だったかはこれで充分にわかっていただけただろう。時代順全く関係なく並べられたこのベスト盤、心地良いヒット曲集としても勿論充分に素晴らしいのだが、デーモン・アルバーン、グレアム・コクソン、アレックス・ジェイムス、デイヴ・ロゥントゥリーの4人の男たちがこの激動の音楽界を生き抜いて来たかを脳裏に巡らせて聴けば、その面白さは更に倍増となること間違いなしだ。

そして何年たってもこのアルバムを聴き返す度に思い返すことだろう。

“90年代のイギリスはブラーの時代だった”と。

文●太澤 陽(00/10/24)


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