【BARKS編集部レビュー】モバイルのお供に“フィリップス Fidelio M1”のワケ

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今回はモバイル用ヘッドホンとしてお薦めしたいフィリップスのヘッドホン、Fidelio M1のレビューである。フラッグシップのFidelio X1の登場に沸くタイミングで末っ子M1を紹介するというのは、私が天邪鬼だからなのではなく、X1の評判の影に隠れることなくM1も一緒にスポットを浴びて欲しいと思ったからだ。

◆フィリップス Fidelio M1画像

▲Fidelio M1。発売から1年ほど経過するモデルだが、新たにカラーバリエーションも発表された。こちらは最もオーソドックスなブラック。

▲シンプルで堅牢性も高く、ポータブル用途として非常によく練りこまれている。耳のせタイプだが、適度な遮音性も確保される。音漏れも心配ないレベル。

▲左が半開放型のL1、右が密閉型のM1。価格も大きさも差があるが、基本的なサウンドの方向性は全く同じ。自宅用のL1、外出用のM1という使い分けが理想的な使い方と思われる。

▲比較してみた中低域の表現力を得意とする密閉型ポータブル機群。左からフィリップスFidelio M1、オーディオテクニカATH-OX7AMP、Klipsch Image ONE II、Pioneer SE-MJ591。

▲ボックスの中には取説、巾着袋が付属する。

素晴らしい製品や優れたアイテムにも関わらず、華やかなスポットに恵まれず不遇な評価を受けている名機というのは意外にたくさん存在する。「もっと人気が出てもいいだろ」と思うヘッドホンといえば、Fischer Audio FA-002WやPHONON SMB-02などがまず思い浮かぶ。イヤホンにだってBauXar EarPhone Mのようなその実力が世に全く伝わっていないと思しきモデルも少なくない。

2013年春先には新色のバリエーションも誕生し、存在感を少しずつ発揮しているFidelio M1だが、Fidelioというフィリップスの高級ラインナップながらも、X1~L1~M1とシリーズの最も下位にあたる微妙な立ち位置がちょっぴりやるせない。出来の良い兄に囲まれ「X1の方がいいよね」「L1のほうが好き」…と、スペックや価格だけからバッサリと却下され、正当な評価が得られるまえに興味対象から外されがちだったりもする。ノーノーノー、M1にも光を!

「音の“良し悪し”を左右するのはスペックに非ず。実は単なる“好き嫌い”」だったりするのが現実だったりするのだけれど、それでも時にスペックに一喜一憂したりする自分もいる。情けない話だが、「スペック値の落ちた下位モデルは上位モデルよりも落ちる音質」という先入観というか固定観念に未だとらわれがちで、L1を手にした時点で、下位モデルのM1には用はナシという認識に陥る。これぞまさにスペックに踊らされた典型で、開眼のチャンスをみすみす失うアホの落とし穴だ。

振り返れば、Philipsから上級オーディオブランドFidelioの名を掲げて登場した初のヘッドホンが半開放型のL1で、M1はポータブルでの使用に特化させた密閉型として登場した。使用環境の違いが設計コンセプトの違いで、L1とM1は上下関係ではなく横並びに位置するラインナップと捉えるほうが誤解がない。

M1もL1と同様、ぶっとく存在感のあるサウンドを叩き出す。使い込むにつれて次第に音は鮮やかになり、高域もヌケ低域もタイトながらしっかりとからみつくように鳴ってくるのも、両者の共通点だ。L1の図太さとなまめかしさをそのまま継承し、きっちりした装着感による優れた遮音性を確保した密閉型のモバイル・ヘッドホンがM1であり、L1を使い慣れた耳にとってモバイルでのM1の使い心地は至福の安定感がある。

一方で、ショップでの店頭試聴や知人から借りての第一印象では、濃厚な低域の量感が特筆され、その上で実のところ高域も綺麗に伸びている点に着目を受けて一定の評価を得る、というのが一般的なM1に対する認識ではないかと思う。私自身が同様の評価のもとで愛用していたのだけれど、長期にわたって使い続けて今思うのは、M1の最も優秀なポイントは、実は中域の表現力の素晴らしさにあるようだ。

音楽のジャンルにもよるけれど、一般的なPOPS/ROCK系のアンサンブルで言えば、音楽を構成する音数が最も混み入っている帯域は圧倒的に中域であり、リズム楽器の生々しさやバックを構成する各楽器の位置、そしてボーカル自体の瑞々しさなど、中域をどれだけ余裕を持って無理なく自然にリアルに鳴らせるかが、音楽再生機器として問われる重要な基礎体力となる。M1のずっしりと腰の座った中域の芳醇さは、2~3万円というミドルクラスの密閉型商品群のなかにおいて別格の充実ぶりをみせる。頭を揺らすような低域に惑わされず中域の丁寧な再生のきめ細やかさと、音数が増えてもひとつひとつを丁寧に描きだす、余裕の鳴りっぷりをぜひ評価して欲しいところだ。

サウンド以外の完成度にも隙はない。世の中には数多くのモバイル用ヘッドホンが発売されているけれど、M1のアドバンテージは、軽さと丈夫さ、そして上質な質感という3大要素がしっかりとクリアされているところにある。L1のサウンドと一貫したトーンを持ちながら、重量はL1が364gであるのに対し、M1は205gという3分の2以下の軽量化が図られている。低価格化とともに軽量化・コンパクト化が施されると、往々にして強度が落ちたり質感が伴わなず「ま、仕方ないか…」と目をつぶるわけだが、M1にはそういう妥協で萎える要素がまるでない。堅牢性もしっかり確保され、L1の持つ質感に何ら劣ることもない。むしろコンパクトに設計されたムダのない造形は、シンプルな機能美を新たにまとっているくらいだ。折りたたみこそ出来ないが、ハウジングは90度に回転するスイーベル機構を有しているので、持ち運びに不便はないだろう。

私が所有するポータブル用オンイヤータイプでは、最も近いニュアンスを持ったサウンドを出すモデルはオーディオテクニカの最新モデルATH-OX7AMPで、Klipsch Image ONE IIはさらに100Hz以下を大量にまぶしたワイルドなサウンドを持っている。Pioneer SE-MJ591は、バランスは似ているが高品位でクリアさが増し、フラット気味なトーンバランスも手伝って暑苦しさのない都会的なニュアンスが乗る感じだ。洗練されたニュートラルなバランスが欲しければPioneer SE-MJ591を、暴力的なほどの厚みと重みが欲しければKlipsch Image ONE IIを、ヌケの良さとバッテリー駆動の機動性に魅力を感じればATH-OX7AMPを、そしてシンプルに外の雑踏ノイズにも負けないタイトな重厚さを楽しむのであれば、M1を選択すれば間違いなさそうだ。

text by BARKS編集長 烏丸哲也

●PHILIPS Fidelio M1
・オープン価格(市場平均価格24,000円前後)
・タイプ:オンイヤーオーバーヘッド、密閉ダイナミック型
・再生周波数帯域:15-24,000Hz
・インビーダンス:16Ω
・感度:106dB
・スピーカー径:40mm
・最大入力:150mW
・ケーブル長:1.1m
・接続端子:3.5mmステレオ
・コネクタ仕上げ:金メッキ
・本体質量:205

◆PHILIPS Fidelio M1オフィシャルサイト
◆BARKSヘッドホン・チャンネル
◆BARKS カスタムIEM専門チャンネル

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
◆earmo Tune4(2013-10-12)
◆Ultimate Ears Personal Reference Monitors(2013-10-05)

◆Sensaphonics 2XS(2013-09-30)
■Earsonics SM64(2013-09-23)
◆LIVEZONER41 LZ12(2013-09-15)
◆Ultimate Ears カスタムIEM全7機種(2013-09-08)
◆null audio Elpis(2013-09-03)

■FitEar Parterre(2013-08-25)
◆カナルワークスCW-L12(2013-08-17)
◆Livezoner41 LZ 4(2013-08-06)
■SHURE SE846(2013-08-02)
■オーリソニックスASG-2 with BassPort(2013-07-28)

■Hippo ProOne(2013-07-21)
◆カナルワークス CW-L51a(2013-07-13)
■EXS X10(2013-06-24)
■音茶楽Flat4シリーズ粋、楓、玄(2013-06-17)
◆LEAR LCM-1F(2013-06-10)

◇Ultimate Ears UEブーム(2013-05-28)
◇Stage93 93PC(2013-05-20)
●Meze Headphones(2013-05-08)
●Fischer Audio Jubilate(2013-04-29)
◇ORB JADE casa(2013-04-21)

◆lime ears LE3(2013-04-14)
◇雑誌「DigiFi 第10号」付録(2013-04-06)
●Ultimate Ears UE 9000、UE 6000、UE 4000(2013-04-01)
■開放型インナーイヤーイヤホンおススメ5モデル(2013-03-19)
◆LEAR LCM-5(2013-03-16)

●フィリップスFidelio L1(2013-02-25)
○スマホが与えた音楽リスニングのモラル変革(2013-02-17)
■Klipsch Image X7i(2013-02-04)
◆LEAR(2013-01-27)
◆カナルワークスCW-L05QD(2013-01-13)

◆earmo(2013-01-02)
◆Westone AC2(2012-12-25)
◇Stage93 93SPEC(2012-12-16)
●California Headphone Silverado、Laredo(2012-12-09)
■音茶楽Flat4-楓(2012-12-03)

◆Stage93 Stage 6(2012-11-26)
●GRADO SR60i(2012-11-19)
◇Astell&Kern AK100-32GB-BLK(2012-11-15)
●オーディオテクニカ ATH-WS99(2012-11-10)
■アトミック フロイドPowerJax+Remote(2012-10-29)

◇VORZUGE VorzAMPduo(2012-10-26)
●ファイナルオーディオデザイン heaven VI(2012-10-16)
●beyerdynamic T 90(2012-10-08)
●GRADO GS1000i(2012-09-30)
●SENNHEISER HD 700(2012-09-16)

◆ACS T1 Live!(2012-09-11)
●オーディオテクニカ ATH-AD2000 ATH-AD1000(2012-09-03)
●GRADO RS1i、SR325is、PS500(2012-08-20)
◆FitEar MH335DW(2012-08-15)
●DIESEL VEKTR(2012-08-07)

◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
●Pioneer SE-MJ591(2012-07-16)
■GRADO iGi(2012-07-12)
●HiFiMAN HM-400(2012-06-26)

●Klipsch Reference One(2012-06-17)
●GRADO PS1000(2012-06-09)
●ULTRASONE edition 8(2012-06-02)
●PHONON SMB-02(2012-05-28)
■音茶楽Flat4-粋(SUI)(2012-05-20)

●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
■フィッシャー・オーディオ Jazz (2012-04-22)
●SHURE SRH1840 & SRH1440(2012-04-16)

■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
■ファイナルオーディオデザイン Adagio(2011-12-31)

◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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