【BARKS編集部レビュー】音茶楽Donguri-欅(KEYAKI)、大暴れのこけし風味に大変貌

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音茶楽(おちゃらく)からDonguri-欅(KEYAKI)と名付けられたイヤホンが11月23日に発売となる。価格は45,150円(税込)と高額なハイエンドモデルだが、Donguri-欅(KEYAKI)へ注がれる視線は熱い。なぜなら、斬新な発想をもって極上な雲上サウンドを叩きだすFlat4シリーズを生み出した音茶楽による、完全新設計のニューモデルだからだ。10月26日(土)&27日(日)に開催された<秋のヘッドフォン祭2013>でも多くの注目を集めていたアイテムのひとつだった。

◆音茶楽Donguri-欅(KEYAKI)画像

▲音茶楽Donguri-欅(KEYAKI)。ハウジングはけやき材を削りだしたオイル仕上げ。音の伝達スピードが早いケヤキは音響機材に適した特性を有している。製作したオークヴィレッジいわく「極小の和太鼓のようなもの」。

▲ご覧の通り、まさに形状はドングリ。自然が生み出す形状には音響的にも優れた黄金比が隠されているのかも。ハウジングには小さな穴が開いているが、Flat4よりも遮音性が上がっている。音漏れはほとんど気にならない。ケーブル接合部の赤と青のカラーリングが、左右を見分けるのにとてもわかりやすい。

▲今回比較したモデル。左がDonguri-欅(KEYAKI)、右がFlat4-楓。

▲形状は全く違うものの大きさはほぼほぼ同じくらい。デフォルトで付属するイヤーチップもコンプライT-200が使用されている。

カナル型イヤホンが抱える閉管共鳴という物理現象によるサウンドの悪影響に対し、抜本的な対策を講じている点が音茶楽製イヤホンの最大の特徴だが、Donguri-欅(KEYAKI)とFlat4ではその手法が大きく異なっている。Flat4では、同一ドライバーを背面で2発鳴らし、両ドライバーの位相差をコントロールすることで閉管共鳴を抑えこんでいたが、Donguri-欅(KEYAKI)では途中で分岐し回り道させた音を最後に合流させることで、6kHzあたりの強烈な歯擦音を相殺する構造を有している。

詳細はオフィシャルサイトでご確認いただくとして、ここで重要なのは、歯擦音を抑えるため通常のイヤホンに使用される音響抵抗が、Donguri-欅(KEYAKI)では一切使われていない点にある。一般的に音響抵抗で特定の周波数帯のみをピンポイントにカットすることは難しく、関係のない帯域まで一緒にカットされてしまう弊害がある。本当はもっとヌケるような伸びやかな高域が出ているドライバーにも関わらず、音響抵抗によって高域去勢を受け、伸びの足らない抜け切らないトーンが耳に届いてしまうという残念な状況に陥っているのだ。Flat4と同様、Donguri-欅(KEYAKI)が非常に自然なトーンのままワイドレンジなのは、ユニークな設計が勝ち得た、圧倒的な優位ポイントのひとつだ。

Donguri-欅(KEYAKI)に興味を示す人の多くは、Flat4との違いが気になるところだろう。長時間にわたるエージングも必要なようだが、当初は非常に引き締まった硬質な音質で、よどみがなく爽快なサウンドを聞かせてくれる。メリハリが効いており、昨今のEDMには最高の相性をみせてくれるようなクリアなサウンドで、基本的にはFlat4同様の高品質ワイドレンジなハイファイトーンである。サウンドクオリティは掛け値なしにトップクラスだ。

今回どちらも飛騨高山のオークヴィレッジが削りだした天然木材をハウジングに使用しているという点でFlat4-楓との比較を試みたが、サウンドに関してはFlat4-楓の方が重心が低く低域の重みが上質に聞こえ、一方のDonguri-欅(KEYAKI)の方が若干高域寄りのバランスに聞こえる。空間表現はFlat4-楓の方が一枚上手で、その異様なほどの音場の広さはまさに独壇場といったところ。逆に、重心が高い割にはDonguri-欅(KEYAKI)の方が押しの強さを感じさせてくれる。

もう少し丁寧に深堀りしてみると、私の耳にはFlat4-楓の方がハイもローもくっきりとハイファイに聞こえる。ただしDonguri-欅(KEYAKI)はハイミッドに密度があり、そのせいか音像にまとまりがある。押しの強さを感じさせてくれるのもこの帯域の効能と思われる。ハイやローの各帯域での綺麗にバランスのとれたトーンはどちらもイーブンの実力だ。

ジャンルを問わない広帯域にわたる美しいバランスはFlat4-楓に分があるが、ボーカル域を鮮やかに聞かせてくれる素養があるのはDonguri-欅(KEYAKI)の方ではないかと思う。であれば、幅の広い周波数帯域を有している実力を武器に、薄まることのない派手なバックを鳴らしながら、ボーカル域を生々しくリアルに奏でてくれるバランスは、イヤーチップのセレクトによってコントロールできるはずであると、右往左往の試行錯誤を探ってみた。

結論から言えば、俯瞰で見てバランスが最も優れているのは、やはり標準で付属されているデフォルトのコンプライだ。けれども、アトミックフロイドのイヤーチップが、どえらいハイテンションなサウンドを放つキャラに一変させることも突き止めることができた。私にとってはこれが大発見で、持ち得るサウンドを全て投げ出し、遠慮なく全体域をドカドカ鳴らしまくる最強のイケイケアイテムに大変貌するという、究極のドーピングアイテムが手に入ったと思っている。

デュアルインジェクションで整形されたアトミックフロイドのイヤーチップをつけると、Donguri-欅(KEYAKI)のサウンドは、全域のクリアさが異常に際立ち、高域から低域まで全帯域で“うるさい!”と怒られそうなほど、前のめりなサウンドとなる。こんな派手なサウンドはなかなか手に入るものではないので、ド派手サウンドを代表する記念碑的究極の完成形のひとつとして、殿堂入りさせたいほどの素晴らしいサウンドだ。

▲イヤーチップを、コンプライからアトミックフロイドのデュアルインジェクション整形イヤーチップに替えると、見た目はこけしに早変わり。サウンドは大暴れのハイテンションモードとなる。

▲ジャック部分、分岐部分の質感の高さは、Flat4同様とても高いもの。

▲パッケージの中には、美しい天然木によるマスに収められている。付属はサイズ違いのイヤーチップ、取説&保証書。

そもそもは、Donguri-欅(KEYAKI)のサウンドが非常に礼儀正しいというか、隙を見せない品行方正なサウンドに聞こえたことに、なにか腑に落ちない感覚を覚えたのがきっかけだった。「実に良いサウンドだ。バランスも申し分ない。遮音性もFlat4より格段に上がった」…のだが、どこかよそよそしいような何か猫をかぶっているような吹っ切れないもどかしさのような感覚が拭えなかったのだ。「Donguri-欅(KEYAKI)ってどう?」と聞かれると「普通に良いですよ、すごく」と正直に答え、そこで会話が終わるという、妙なすきま風が吹く感じ。間違いなくとてもいいサウンドなのに、会話が弾まないのはなぜなんだ?

そんな時に、ふと「コンプライがお行儀よく矯正させているのではないか」と、イヤーチップを変えることで想像以上にキャラクターが変貌することが確認でき、全てのモヤモヤが一掃された。「こいつは、調教次第でどうにでもなるドエライ潜在能力の持ち主」という点が、Donguri-欅(KEYAKI)とFlat4との決定的な相違点だったのだ。コンプライを付けたデフォルト状態では、スーツに身をまとったキレ者といった感じだが、シリコン系チップでは非常にスポーティーでワイルドでギラギラしたキャラとなる。是非ともお手持ちのチップでいろいろお試しいただきたいところだ。ちなみにFlat4ではこうは行かない。もちろんチップによるトーンの変化は得られるものの、キャラ自体の変貌は見受けられないからだ。

もちろん私のイチオシはアトミック・フロイドのイヤーチップだ。タガが外れてエネルギー全開の鬱陶しいほどお馬鹿なサウンドに変貌する。ただしルックスは「ドングリ」というよりも「こけし風味」が出てくる感じで、見た目はちょっとビミョー。まあ、チップ部分は見えるところではないのでどうでもいいけれど。

ちなみに、ハウジングがケヤキ材をそのままオイルフィニッシュで仕上げたもののため、肌の色と溶け込みがいいようで、普通に耳にはめていると、家人から「耳から肉球が飛び出している!」とディスられた。もともと「耳にドングリを突っ込んでいるような…」というコンセプトなので、肉球は心外である。

話がとっちらかってしまったが、Donguri-欅(KEYAKI)は非常に高い素養を持ち、自在に変化するサウンドコントロールの面白さも含め、Flat4オーナーでも高い満足を与えてくれることと思う。イヤーチップによるサウンドの変化も、外耳道の形状による個人差が大きく、人それぞれにベストと思しきチップは全く違うものなので、各々で存分に楽しんでいただきたい。もちろん音茶楽初体験の人でも、閉塞感のないクリアで広がるサウンドは、ちょっとしたカルチャーショックを受けるレベルのはずだ。是非チェックいただき、新たな音茶楽サウンドの真髄を堪能できれば、これまでになかった充足感が得られることだろう。

text by BARKS編集長 烏丸哲也

●音茶楽 Donguri-欅(KEYAKI)
2013年11月23日発売 45,150円(税込)
・エレメント:010e003 新開発 アコースティック・ターボ回路内臓
・Φ10mmダイナミック型×1(片ch当たり)
・音響方式:トルネード・ターボ方式 密閉型
・出力音圧レベル:106dBSPL/mW
・周波数特性:5~30kHz
・最大入力:200mW
・インピーダンス:18Ω
・質量:約21g
・プラグ:Φ3.5mm 金メッキステレオミニプラグ
・コード長:1.2m(Y型)
・付属品:コンプライ フォーム イヤチップ T-200 Mサイズ、Ts-200Mサイズ
・木製収納トレイ、取扱説明書兼保証書
※フジヤエービック、オークヴィレッジ、音茶楽Sound Customize店舗にて発売


◆音茶楽 Donguri-欅(KEYAKI)オフィシャルサイト
◆BARKSヘッドホン・チャンネル
◆BARKS カスタムIEM専門チャンネル

BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
■オーディオテクニカ ATH-IM01~04(2013-10-27)
◇Astell&Kern AK10(2013-10-25)
●フィリップス Fidelio M1(2013-10-22)
◆earmo Tune4(2013-10-12)
◆Ultimate Ears Personal Reference Monitors(2013-10-05)

◆Sensaphonics 2XS(2013-09-30)
■Earsonics SM64(2013-09-23)
◆LIVEZONER41 LZ12(2013-09-15)
◆Ultimate Ears カスタムIEM全7機種(2013-09-08)
◆null audio Elpis(2013-09-03)

■FitEar Parterre(2013-08-25)
◆カナルワークスCW-L12(2013-08-17)
◆Livezoner41 LZ 4(2013-08-06)
■SHURE SE846(2013-08-02)
■オーリソニックスASG-2 with BassPort(2013-07-28)

■Hippo ProOne(2013-07-21)
◆カナルワークス CW-L51a(2013-07-13)
■EXS X10(2013-06-24)
■音茶楽Flat4シリーズ粋、楓、玄(2013-06-17)
◆LEAR LCM-1F(2013-06-10)

◇Ultimate Ears UEブーム(2013-05-28)
◇Stage93 93PC(2013-05-20)
●Meze Headphones(2013-05-08)
●Fischer Audio Jubilate(2013-04-29)
◇ORB JADE casa(2013-04-21)

◆lime ears LE3(2013-04-14)
◇雑誌「DigiFi 第10号」付録(2013-04-06)
●Ultimate Ears UE 9000、UE 6000、UE 4000(2013-04-01)
■開放型インナーイヤーイヤホンおススメ5モデル(2013-03-19)
◆LEAR LCM-5(2013-03-16)

●フィリップスFidelio L1(2013-02-25)
○スマホが与えた音楽リスニングのモラル変革(2013-02-17)
■Klipsch Image X7i(2013-02-04)
◆LEAR(2013-01-27)
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◆earmo(2013-01-02)
◆Westone AC2(2012-12-25)
◇Stage93 93SPEC(2012-12-16)
●California Headphone Silverado、Laredo(2012-12-09)
■音茶楽Flat4-楓(2012-12-03)

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●GRADO RS1i、SR325is、PS500(2012-08-20)
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◆カナルワークスCW-L51 PSTS(2012-07-30)
●Fischer Audio FA-002W(2012-07-25)
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●<春のヘッドフォン祭2012>、Fischer Audio FA-004(2012-05-13)
◇Hippo Cricri、Go Vibe Martini+、VestAmp+(2012-05-04)
■ファイナルオーディオデザインheaven IV(2012-04-28)
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■FitEar TO GO! 334(2012-04-08)
◆Unique Melody Mage(2012-03-26)
●Takstar PRO 80、HI 2050、TS-671(2012-03-20)
●klipsch Mode M40(2012-03-15)
■Fischer Audio DBA-02 Mk2(2012-03-07)

◆AURISONICS AS-1b(2012-02-27)
■UBIQUO UBQ-ES503、UBQ-ES505、UBQ-ES703(2012-02-21)
◆Heir Audio Heir 3.A(2012-02-15)
■moshi audio Clarus(2012-02-12)
◆Thousand Sound TS842(2012-02-08)

◆Heir Audio Heir 8.A(2012-02-01)
■CRESYN(2012-01-17)
◆Unique Melody Merlin(2012-01-08)
◆カナルワークスCW-L01P(2012-01-03)
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◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
●SOUL by Ludacris SL100、150、300(2011-12-23)
●AKG K550(2011-12-20)
■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
■DUNU(2011-12-14)

◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
■ファイナルオーディオデザインAdagio III(2011-11-26)

◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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