【D.W.ニコルズ・健太の『だからオリ盤が好き!』】 第23回「レイドバック・クラプトン」

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重度の麻薬中毒に陥り再起不能とも言われたクラプトンですが、ピート・タウンゼントら、彼を敬愛する友人ミュージシャンたちの助けにより音楽シーンに復帰します。そして1974年、本格的な復帰作となるスタジオアルバム『461 Ocean Boullevard』を発表、この作品から彼の作風はまたガラっと変わります。

米国南部を強く意識した土臭いサウンドではありますが、「LAYLA」のスリリングなそれとは違い、そこに流れるのはのんびりとリラックスした空気でした。また、それまでと比べてギターソロを抑えてヴォーカルをフィーチャーした作風は、Cream時代のようなギンギンのギターサウンドを期待する古くからのクラプトンファンからは酷評もされたようですが、レゲエ調を取り入れた「I Shot The Sheriff」(ボブ・マーリーのカヴァー)のヒットもあり、アルバムは全米1位というセールスを記録、見事にカムバックを果たします。このリラックスした雰囲気のサウンドは“レイドバック・サウンド”と呼ばれ、“レイドバック”という言葉は流行語にもなりました。

翌年1975年にリリースされた次作『There's One In Every Crowd 』では、さらにレゲエ色、ブルース色を強め、よりリラックスした雰囲気を出していきます。

そして1976年に『No Reason To Cry』をリリースします。多数のゲストミュージシャンがクレジットされていますが、中でも特に目を引くのはThe Bandのメンバーたち。クラプトンは、ソロとしてのキャリアをスタートさせた頃から、The Bandに強い憧れを抱いていたといいます。「The Bandに入れて欲しい」と言ったクラプトンに、ロビー・ロバートソンが「The Bandのギタリストはひとりでいい」と言って断ったという逸話もあります。

まさにクラプトンが追い求めていたような米国南部の音楽を奏でるThe Bandのメンバーをはじめ、ジェシ・エド・デイヴィス、ボブ・ディラン、ビリー・プレストン、ロニー・ウッドらをゲストに迎え、プロデュースはカール・レイドル、ロブ・フラボニとの共同プロデュース。和気あいあいとリラックスし、好きな音楽を好きな人たちとともに自由にやっている雰囲気に満ちたこの作品は、クラプトンのキャリアの中で最も米国南部の臭いが濃く、その米国南部の音楽を追い続けて辿り着いた境地とも言える作品だと思います。

またクラプトンは、この作品を作ることで自分の南部志向にひとつのけじめをつけたように思えます。そして次の作品『Slowhand』で、レイドバック感は残しつつもポップさをぐっと押し出した、次の新たな一歩へと進んでいるのです。

“レイドバック”=“Laid Back”という言葉には、“くつろいだ、のんびりした”という意味があります。僕は初めてこの時期のクラプトンの作品をCD聴いたとき、まさにその通りだとは思いましたが、それだけではなくさらに“軽い”印象を受けました。

米国南部の音楽には確かに、くつろいでのんびりしたような雰囲気はありますが、それとともにどっしりとした雰囲気と粘りがあるのも確かです。なので、確かにこの時期の彼の作品は南部志向ではありますが、あくまで“志向”であり、到達するには程遠いものという印象も受けたのです。

しかし、その印象はオリジナル盤で聴くことで覆されました。そこには米国南部独特の、土臭く泥臭い空気が流れていたのです。そしてリズム隊はもちろん、ギターの音まで太く、粘っています。

『461 Ocean Boullevard』にはまだそこまで南部どっぷりな雰囲気は感じないような気もしますが、ただリラックスしているという印象とはまるで違い、新しいことへ向かっていく勢いが感じられる攻めの作品だという印象を受けました。そして『No Reason To Cry』でクラプトンが奏でる音楽は、もはや“南部志向”どころではなく、正真正銘の米国南部の音楽。彼はついにそこへ到達していたのです。

僕は、この作品をクラプトンの最高傑作のひとつだと思っています。

CDで聴いていた頃から、すでにこの時期のクラプトンも好きでしたが、オリジナル盤で聴いて初めて、クラプトンの本当のすごさ、音楽性の深さを理解することができました。そして今となってはこの時期のレイドバックしたクラプトンが、僕の最も好きなクラプトンなのです。

また、音楽用語として使う“レイドバック”という言葉の指す意味を改めなければならないとも思いました。単に、リラックスした緩い雰囲気の米国的なものというだけではなく、“米国南部の土臭い風景”が見えるものこそが“レイドバック”なのだと思うのです。

そしてその“レイドバック”という言葉に対する僕の憧れは一層強くなったのでした。

オリ盤探求の旅はまだまだ続くのであります。


text by 鈴木健太(D.W.ニコルズ)

◆連載『だからオリ盤が好き!』まとめページ

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「イイ曲しか作らない」をモットーに、きちんと届く歌を奏で様々な「愛」が溢れる名曲を日々作成中のD.W.ニコルズ。
2005年9月に、わたなべだいすけ(Vo&Ag)、千葉真奈美(Ba&Cho)が中心となり結成。
その後、鈴木健太(Eg&Cho)、岡田梨沙(Drs&Cho)が加わり、2007年3月より現在の4人編成に。
一瞬聞き返してしまいそうな…聞いた事がある様な…バンド名は、「自然を愛する」という理由から、D.W. =だいすけわたなべが命名。(※C.W.ニコル氏公認)

2ndアルバム『ニューレコード』
2011年1月26日リリース
曲目:01.バンドマンのうた 02.あの街この街 03.一秒でもはやく 04.チャールストンのグッドライフ 05.大船 06.風の駅 07.HAVE A NICE DAY! 08.2つの言葉 09.レム 10.Ah!Ah!Ah! 11.beautiful sunset

【CD+DVD】
価格:3,000円
品番:AVCH-78025/B
【DVD収録内容】“2 MUSIC SHOW! & 2 MUSIC VIDEO”

【CD only】
価格:2,500円
品番:AVCH-78026
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