【BARKS編集部レビュー】シンガポールが生んだ奇跡の暴れん坊カスタムIEM、null audio Elpis見参

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またひとつ、非常に魅力的なカスタムIEMが登場したのでご紹介したい。強烈な低域と突き抜ける高域、やばいほどに中毒性の高い大暴れサウンドをぶち放つハイブリッド・カスタムだ。しかも激安ときた。

◆null audio Elpis画像

こいつの名前はElpis、メーカーはnull audio、正式名称はちょいと長いがnull audio Elpis Dual Driver Hybrid Custom In-Ear Monitorという。ギリシャ語で「希望」という意味を持つElpis(エルピス)は、ROOTH(ルース)との共同開発でnull audio(ヌル・オーディオ)が発表した自社ブランド初のカスタムIEMだ。null audioはイヤホンの交換ケーブルの専門ブランドとして名を馳せたシンガポールのブランドで、リケーブル・ブームの立役者でもある。そんな彼らが、2013年4月に突如発表したのがこのElpisだった。

▲null audioからリリースされたElpisという名のカスタムIEM。正式名称はnull audio Elpis Dual Driver Hybrid Custom In-Ear Monitor。ハイブリッドという特性が持つ攻撃性を全面に出したアグレッシブなサウンドが非常に魅力的。

▲低域用にダイナミック・ドライバーが1発、中高域用にバランスド・アーマチュア・ドライバーが1発搭載されている。フェイスプレートにはベント孔が開けられている。猛烈な低域としっかりと主張する高域が共存する、最高に楽しいカスタムIEMだ。

▲左からAtomic Floyd スーパーダーツ、SOUL by Ludacris SL99、SONOCORE COA-803、ファイナルオーディオデザイン Adagio III。すべて市販されているイヤホンだが、これらのサウンドが好きな人にはElpisのサウンドは直球でビンゴするはずだ。

▲ハイブリッドのカスタムIEM。左からUnique Melody Merlin、Thousand Sound TS842、そしてnull audio Elpis。Merlinは5ドライバーだが、TS842とElpisは、ダイナミック×1、BA×1という同じスペック。最もやんちゃなサウンドがElpisだ。

▲付属品は大きめのハードケース、キャリングポーチ、クリーニングツール、カード。

ダイナミック・ドライバーとBAドライバーを1つずつ搭載する設計だが、ハイブリッド自体は今となっては珍しいものでもなく、2ドライバーという構成も見劣りしてしまうスペックのため、あまり注目されることもなく現在に至っている。4月の発表とともに販売は始まっていたが、細かいブラッシュアップが終わらず、その後もしばらくの間何度も設計が見直され、サウンドのチューニングが繰り返されてきた経緯があり、8月にやっと完成を見せたモデルだ。

さて、ポイントはまさにそのサウンドだが、簡単に行ってしまえば、ぶん殴られるような低域を耳孔に遠慮なく叩きこむ、迷いなきドンシャリ・サウンドである。これほどまでに屈託なく無礼講に鼓膜を揺らすカスタムIEMを、私は見たことがない。優等生のように無難にまとめようともせず、人の顔色を見ながらチューニングするようなすり寄ったニュアンスは皆無で、レッドゾーンに振り切れた激烈な低域を良しとするサウンドデザインには、感動というよりも感銘を受ける。振り切れるならここまで行かないとつまらない。

私は大変気に入ったものの、とは言え、誰にでも歓迎されるものでもないだろう。まず、低音フェチの自覚を持ち合わせていない人は避けた方が賢明だ。耳孔が震える感触が気持ち悪い人には苦痛でしかないだろうし、ロックコンサートの会場で耳を覆い顔をしかめるような人には到底お薦めはできない。Atomic Floydのスーパーダーツ、SOUL by Ludacris SL99、SONOCORE COA-803、ファイナルオーディオデザイン Adagio IIIといったイヤホンの出音にシンパシーを感じる人であれば、是非とも手に入れてほしいと願うモデルだ。

ドライバーはシンプルに2つで、低域用にはダイナミックドライバーが、中高域用にはSonionの定番ドライバー2389が使用されている。正直言って解像度は決して高いほうではないし、低域は多少もさっとしている部分もある。が、この音圧の迫力にはひれ伏すばかりであるし、2ドライバーだからこその心地良いタイトさも確保されている。中域のヌケの悪さは歴然と存在するものの、逆にこの中域特性こそがElpisの過激なサウンドメイクを完成させるに必要なチューニングなのだなとも思う。常識の臨界点を一歩踏み込んだ暴力的な低域の暴れっぷりは、「ハイブリッドかくあるべし」的な、純朴な初心のワクワクを再認識させる説得力がある。

私が所有するハイブリッドのカスタムIEMは、Unique Melody MerlinとThousand Sound TS842だが、Elpisを前にしては、完全に影が薄くなる。これらも魅力的なモデルだが、Elpisを前にすると、なんとMerlinもTS842もかまぼこ系の垢抜けないサウンドに聞こえてしまうのである。冷静に考えると、いかに常識的なバランスで作られているかを再認識するわけだけど、それほどにElpisはやんちゃなサウンドなのだ。

現在私は、米国やアジアに限らずヨーロッパの新興ブランドも含め、複数のカスタムIEMを製作し並行して試聴と使用を重ねている状況なのだけど、カスタムIEMに関してもサウンドクオリティはここに来て確実に向上していることを実感している。1年前にベストと惚れたサウンドも過去のものとなりつつあり、最新モデルの最新鋭サウンドからは、次なる時代への幕開けを占う心地よい刺激を受ける。ただ一方で、どのブランドも理想の素晴らしいサウンドを求めるがゆえに目指すサウンドがどうやら同方向になってしまうようで、各社のフラッグシップ・サウンドが似通ってくる傾向も肌で感じるところだ。6ドライバー・モデルのサウンドは、どこも「フラット/高解像度/広帯域/実在感のある十分な低域/刺さらぬ一歩前のクリアな高域」という共通の修飾語がそのまま通用してしまう。

そんな状況下であるからこそ、Elpisの孤高の立ち位置は輝いて見えるし、この時代にあってこの設計というセンスに惜しみない拍手を送りたいのだ。

なお、ケーブルはケブラー系の布製でカスタムIEMとしては珍しいものだが、もともとリケーブル用のケーブルブランドとして名を馳せたnull audioだけに、個性的ながら品質に不安要素も不満要素もない。耳に沿わせる部分には形状記憶のワイヤーも入っていないが、しなやかで非常に柔らかいため自然に耳介にフィットし使い心地は素晴らしい。ケーブルのタッチノイズも気にならず、満足度は高いものだ。

なお装着/フィット感は完璧で、長時間での使い心地も全く問題ないが、シェル自体は透明感に乏しく綺麗なわけではない。蛍光灯やLED電球などの下では無色透明だが、太陽光の下では蛍光ブルーに変わるフォトクロミック分子を含む素材となっている。紫外線照射で色が変わるシェルは他のカスタムでは見たことがないけれど、これは3Dプリンターを使用して製作されているためだ。当然ながらこれまでのトラディショナルな製法でよりクリアなシェルを製作することも可能とのことだが、3Dプリンターを使用することによってコストが圧縮できるのみならず、なにより高い精度と確実なフィット感が得られるという。なお、フェイスプレートにはダイナミック・ドライバーを十分に鳴らすためのベント孔が開けられているが、音漏れや遮音性への悪影響は感じられない。

「綺麗にまとまったサウンドばかりでつまらない」「どうにもパンチが足りない」「刺激が欲しい」…と、優等生なカスタムIEMにお嘆きの貴兄へ、男っぷりを見せるシンガポールの快挙、299シンガポールドル≒23,000円という奇跡の暴れん坊、Elpisを是非ご賞味いただきたい。…というか、ここは攻略必須のツボどころです。

text by BARKS編集長 烏丸哲也

●null audio Elpis Dual Driver Hybrid Custom In-Ear Monitor
299シンガポールドル(≒23,000円)
・低域ドライバー:1×ダイナミック・ドライバー
・中高域ドライバー:1×バランスド・アーマチュア・ドライバー
・感度(at 1kHz):104dB spl (1mW)
・再生周波数:18Hz~18000Hz
・インピーダンス:24ohm
・遮音性:-26dB
・付属品:ケーブル、ハードケース、キャリングポーチ、クリーニングツール
・保証:1年、リフィット30日

◆null audio Elpisオフィシャルサイト
◆BARKSヘッドホン・チャンネル
◆BARKS カスタムIEM専門チャンネル


BARKS編集長 烏丸レビュー(■イヤホン ●ヘッドホン ◆カスタムIEM ◇他)
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■オーリソニックスASG-2 with BassPort(2013-07-28)

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■音茶楽Flat4シリーズ粋、楓、玄(2013-06-17)
◆LEAR LCM-1F(2013-06-10)

◇Ultimate Ears UEブーム(2013-05-28)
◇Stage93 93PC(2013-05-20)
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●Fischer Audio Jubilate(2013-04-29)
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◆lime ears LE3(2013-04-14)
◇雑誌「DigiFi 第10号」付録(2013-04-06)
●Ultimate Ears UE 9000、UE 6000、UE 4000(2013-04-01)
■開放型インナーイヤーイヤホンおススメ5モデル(2013-03-19)
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●フィリップスFidelio L1(2013-02-25)
○スマホが与えた音楽リスニングのモラル変革(2013-02-17)
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◆カナルワークスCW-L05QD(2013-01-13)

◆earmo(2013-01-02)
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■音茶楽Flat4-楓(2012-12-03)

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◆LEAR LCM-2B(2011-12-26)
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■SENNHEISER IE80 & IE60(2011-12-16)
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◆カナルワークスCW-L10(2011-12-12)
■オーディオテクニカ ATH-CK90PROMK2(2011-12-09)
◆Ultimate Ears UE 5 Pro(2011-12-06)
■REALM IEM856(2011-12-02)
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◇Ultimate Ears用交換ケーブルFiiO RC-UE1&オヤイデ電気HPC-UE(2011-11-25)
●Reloop RHP-20(2011-11-22)
■オーディオテクニカ ATH-CK100PRO(2011-11-14)
■SOUL by Ludacris SL99(2011-11-04)
■Fischer Audio Ceramique(2011-10-25)

■SHURE SE535 Special Edition(2011-10-21)
■JVCケンウッドHA-FX40(2011-10-16)
■BauXar EarPhone M(2011-10-10)
■SONOCORE COA-803(2011-10-02)
◆TripleFi 10 ROOTHリモールド(2011-09-25)

■AKG K3003(2011-09-18)
■Atomic Floyd SuperDarts+Remote(2011-09-11)
■Bowers & Wilkins C5(2011-09-06)
■Westone3(2011-09-02)
◆カナルワークスCW-L31(2011-08-26)

◇ORB JADE to go(2011-08-22)
■YAMAHA EPH-100(2011-08-14)
■NW-STUDIO(2011-08-09)
■NW-STUDIO PRO(2011-08-02)
◆FitEar MH334(2011-07-29)

◆ROOTH SE530×8(2011-07-26)
■Westone ES5(2011-07-21)
●SHURE SRH940(2011-07-17)
◆Ultimate Ears 18 Pro(2011-07-15)
■クリエイティブAurvana In-Ear3(2011-07-06)

◆カナルワークス CW-L01(2011-07-01)
■GRADO GR10&GR8(2011-06-25)
◇SAEC(サエク)SHURE SE用ケーブル(2011-06-21)
■フィアトンPS 20&PS 210(2011-06-17)
■ZERO AUDIO ZH-BX500&ZH-BX300(2011-06-11)

■フィリップスSHE8000&SHE9000(2011-06-03)
■アトミック フロイド(2011-05-26)
■モンスター・マイルス・デイビス・トリビュート(2011-05-20)
■SHURE SE215(2011-05-13)
■ファイナルオーディオデザインPiano Forte IX(2011-05-06)

■ラディウス・ドブルベ/ドブルベ・ヌメロドゥ(2011-05-01)
■ローランドRH-PM5(2011-04-23)
■フィリップスSHE9900(2011-04-15)
■JAYS q-JAYS(2011-04-08)
◇フォステクスHP-P1(2011-03-29)

■Klipsch Image X10/X5(2011-03-23)
■ファイナルオーディオデザインheaven(2011-03-11)
■Ultimate Ears TripleFi 10(2011-03-04)
■Westone4(2011-02-24)
■Etymotic Research ER-4S(2011-02-17)

■KOTORI 101(2011-02-04)
■ゼンハイザーIE8(2011-01-31)
■ソニーMDR-EX1000(2011-01-17)
■SHURE SE535(2011-01-13)
■ビクターHA-FXC51(2011-01-12)
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