【インタビュー】ボカロPのn-bunaが語るメジャー1stアルバム『花と水飴、最終電車』のギター&VOCALOIDのサウンドメイク Vol.2

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VOCALOIDによるボーカルを歪んだギターサウンドに乗せ、ロックからバラードまで情景描写と心理描写が交じり合った独特の世界観を描き出す。ニコニコ動画への投稿作品で10代を中心に圧倒的な支持を集めるボカロP、n-buna(ナブナ)が、待望のメジャー1stアルバム『花と水飴、最終電車』を7月22日にリリースした。作詞・作曲からギターの演奏、バックトラックまで楽曲制作を1人でこなすn-bnunaのパーソナル、制作環境に迫るインタビュー。第2回ではギター、VOCALOIDのサウンドメイクについて聞いた。

■ギターはバッキングもアルペジオも歪んだサウンドで
■音作りのポイント


──鍵盤の使い方が印象的です。ゴリゴリのギターが中心だと思ったら、ピアノとかもすごいしっとりした曲があったりとか。これまでのボカロックとは一線を画した曲がけっこうあるのがすごい。でも、曲作りを始めた時から、音の方向性って今の「花と水飴、最終電車」みたいな感じなんですか?

n-buna:そうですね……。目指してたものとしてはそこが大きくて……。作曲を始めた頃はギターの音もぜんぜんうまく作れなくて、最近になってようやくちゃんと自分の好きな方向性の音が作れてきたな、って思いますね。

──バッキングのギターのちょっと歪んだ音がナブナサウンドの共通項なのかな?と思ったんですよ。

n-buna:そうですね。歪んだ音……。やっぱ昔からいろいろなジャンルを聴いてて、その中でSlipknotとかが好きだったので。「ギターは歪むもの」みたいな、そんなイメージがあったんですね。

──n-bunaさんの曲ってアルペジオを多用するじゃないですか? アルペジオの歪みと、コードを弾いてるバッキングの歪みを、うまくバランスを変えてて……。ありがちなアルペジオはクリーンで、というのではなく、どっちも歪んでるんだけどケンカしてない。

n-buna:曲の中での雰囲気を統一するために、同じアンプと同じエフェクターで、ギター本体のボリュームを絞ったり、ピックアップのセレクターでフロントにしたりリアにしたりで変えています。。それでクリーンっぽい歪みでアルペジオをするみたいなことをよくやってるので、そういうことじゃないですかね。

──けっこう高等テクニックですよね。アルペジオはクリーン、バッキングは歪む、そっちの方が王道ですからね。そのへんはセンスなんですよね、きっと。

n-buna:いい感じだな、と思ったものをがんばって時間をかけて作ります。

──ギターの音はシミュレーター?

n-buna:そうですね。Line 6 POD HD PROです。

──DAW上じゃなくて?

n-buna:そうですね、前がけで。僕、前がけでギターの音を作るタイプなので、コンパクトエフェクターがあって、コンパクトからPODのシミュレーターに行って、PODからアウトした音をインターフェイスに入れています。

──前がけがメインだからDIにAVALON DESIGN U5を使ってるんですね?

n-buna:そうです。AVALONを通して、トーンとかを調整したり。AVALONはベース用のDIとして知られていますけど、ギターを通してもいろいろとおもしろいことができるんで、よくやったりしてますね。


▲POD HD PRO(左)は2011年発売のLine 6のラックマウント・エフェクト・プロセッサー。22種類のHDアンプ・モデルと、100種類以上のモダン&ビンテージ・エフェクト、充実したデジタル&アナログI/Oを搭載。現行モデルはPOD HD PRO X。U5はAVALON DESIGNのDIプリアンプ。Hi-Z対応の入力を備え、アコースティックギターから高出力のアクティブベースやキーボードまでさまざまな信号、楽器に対応する。

──やっぱかけ録りですよね。

n-buna:あとから音をあまりいじらないことを前提としてやってるので、前がけです。やっぱギター弾いて、聴いた音をそのままDAWに入れてやりたいな、曲を作りたいな、ってのがあるので。イメージが最初からあるならそっちの方がいいかな、と。

──曲を作る時に同時に頭の中で「この曲にはギターの音はこんな感じだな」ってのが出てくるものですか。

n-buna:そうですね。最初に曲を作ってる時に、「だいたいこの音かな」っていうイメージがあって、で、曲を作ってる最中に「この音に変えよう」っていろいろ頭のなかで想像して。で、テレキャスでやってみるか、レスポールで弾いたらまた違う感じが出てこの方向性でいくか、とかいろいろ試しています。

■作曲時に頭で鳴ってるのはラリー・カールトン
■影響を受けたのはAMAZARASHI


──いろんな楽曲があるじゃないですか。作り方としては詞が先、曲が先どちらですか? 詞先なのかな? って感じたんですが。

n-buna:僕、だいたい曲先なんですよ。でも最近詞先もやるようになりましたが、アルバムの中でも曲先が6割で残り4割が詞先です。今まではやらなかったものをがんばった感じはありますけど。

──ギタリストのアルバムとしては、ポップでもないしゴリゴリのロックでもないし、それが独特だなあ、と。

n-buna:今まで聴いてきたジャンルがロックからメタルから、テクノだったり、EDM系からバラード系もJ-POPもいろいろ聴いてたので、いろんなものが混ざってるんじゃないかなあ、と思います。曲の世界観みたいな、今まで養ってきたものがそこにあるんじゃないかなと。

変なところでいくとラリー・カールトンなんかも好きですし。ギター・ソロを考える時にまずカールトンが弾いてるとこを想像しちゃうんですよね。自分の曲をカールトンは絶対弾かないですけど(笑)。「こんな曲絶対ないな」と思うんですけど、フレーズだけでも。すごい僕が好きなギタリスト達がこれをどんな風にやるか想像してテンション上げたりしてます。

──カールトンはどのへんを?

n-buna:やっぱあれですかね。最初の頃とか「Room 335」もすごい好きで。「Sleepwalk」とかそこらへんのアルバムの時の……。

──古い!(笑) でも、ラリー・カールトンが頭で鳴っているというのはおもしろいですね。他に影響を受けたのは?

n-buna:えーと……、バンド系……。自分が好きな曲達はバンド系が多いので。だいたい邦楽ですけど。最近で一番影響を受けたのってAMAZARASHIだと思います。

特に好きなのは詞ですね。詞の世界観にハマって。あとはボーカル。メロディとか曲の方向性とか、初期からこの方向性を目指してるんだなあ、ってのがわかって。決まった感じのものがあるじゃないですか? 持ってるものが。それがずっとブレないのがすごく好きで。あの感じが好きだったので、今でもずっと変わらずにAMAZARASHIの新作が出るたびに喜んでいます。

■自分の曲に合う声を探しだして行き着いた
■VOCALOIDの声


──VOCALOIDを使って曲を作りたいという人はたくさんいると思うんですが……。n-bunaさんは初音ミクが多いんですか?

n-buna:そうですね。

──でも声は初音ミクっぽくないですよね?

n-buna:ふふっ(笑)。


▲「初音ミク・アペンド」は初音ミクの拡張音源で6種のライブラリを収録。初音ミクV3にはORIGINALのほか4種を収録、追加ライブラリとしてLIGHT、VIVIDも発売された。

──拡張音源の「初音ミク・アペンド」を使ってるってのも大きいんですかね?

n-buna:アペンドを使って、さらにいろいろ……。初音ミクの声質のパラメーターがいろいろあるんですけど、それをいろいろめちゃくちゃいじって、他にはない声にしようと思って。で、一番自分の曲に合う声を探して、今の声に行き着いたっていう感じですね。

──今回のアルバムは15曲中2曲がインストで、ボーカル曲は13曲。ボカロ曲を作る人は異なるVOCALOIDを立てて、曲のキャラを変えるじゃないですか? でもそうではない。たとえば、「花と水飴」はものすごく舌っ足らずな感じ、かわいらしい感じですよね。そういう音作りも初音ミクで?

n-buna:そうです。初音ミクです。

──ミク以外には使っているのは?

n-buna:mikiだったり、GUMI(Megpoid)だったり、いろいろ……。

──Sachikoはやらないんですか?(笑)

n-buna:Sachiko! あれおもしろいですよね(笑)。なんか、(小林)幸子さんの歌声を真似た機能が……。最初、ネタ系なのかなと思ったら……。

──けっこうマジなんですよね。

n-buna:機能とかもそうですし、けっこうガチな感じの方向に行っていてびっくりしましたね。


▲フルカワミキの声を元に作られた「SF-A2 開発コード miki」(AHS)、中島愛の声を元に作られた「Megpoid」(インターネット)はVOCALOID2エンジンで登場し、現在は「VOCALOID4 miki ナチュラル」「VOCALOID3 Megpoid」が発売されている。小林幸子による「VOCALOID4 Library Sachiko」はこの夏発売されたばかり。

──VOCALOIDパートの調声はどのようにやってるんですか?

n-buna:調声は、一番最初にVOCALOID上のパラメーターをいじってから書き出して、それに対してSONARでエフェクトをかけて、声、歌を作っていくってことをします。よく使うのはWavesのR-Comp。ボーカルのレベルを揃えたり、アタック感を出したり……。Wavesはすごい使いやすいので、Q10 Equalizerとかを挿して声質を自分の曲に合うようにしてみたり。


▲R-Comp(Renaissance Compressor)、Q10 Equalizerはプロ御用達のエフェクトプラグインを多数リリースしているWavesの製品。R-Compはわかりやすいインターフェイスとウォームなサウンドを持つコンプレッサー、Q10は最大10バンドのパワフルなイコライザー。どちらもGold Bundles(写真右)などのバンドル製品にも収録。

──コンプのかけ方は?

n-buna:基本的にVOCALOIDにかけるときは、レシオ4:1でスレッショルドは深めに。コンプも音作りの一環だと思ってるので、わりとはっきり変化を付けたくて-20ぐらいまでやって、アタックをちょっと遅めぐらいで。で、抑揚を付けるようにしますね。

──VOCALOID Editorで書き出したWAVファイルをSONARに貼り付けた後で、気に入らない場合はもう一度VOCALOID Editorに戻って編集することはありますか?

n-buna:音が気に入らなかったらDAWの方で全部いじってがんばって直すので、大丈夫なんですけど。歌い方で気に入らないところがあったら、やっぱりEditorに戻って直しますね。

──コンプの他にEQにコツはあったりしますか? 同じミクでもぜんぜん声色が違ったりしますが。

n-buna:僕がいつも使っているのはミク・アペンドなんですけど、ウィスパー系の音源ってローが出すぎている感じがするんですよね。ミッドローあたり、250(Hz)とか。ギターとけっこうかぶるので、そこらへんを思いっきり切って、ギターのためにスペースを空けるとか……。あと、ウィスパー系の音源で「ここは人間にはないな」って思うのが、ハイがけっこうザラザラした部分が出てるんですよね。その気になるところを毎回削ります。そこはシンバル系ともかぶるし、耳にもよくないし。ボーカルはなんというか……。VOCALOIDって普通のボーカリストが歌うのとは違うところ、人にはないところが魅力だと思うんですけど。でもそこで『人ではないからこそのデメリット』もあって。それをうまく生かしてあげるのも……、削ったりして正しい方向に戻してあげるのも大事だな、と思って。

──VOCALOIDの調整にはV-Vocalを使ったりしますか?(V-Vocal:SONAR X2まで搭載されていたボーカルエディット機能。ピッチ、タイミングの編集が可能)

n-buna:使ってないですね。僕、VOCALOIDでよくやってるのはボリュームエンベロープ。ボカロって音量差がないんですよね。普通に歌ってて、Aメロを小さくBメロを大きく、ってVOCALOID Editorでもできるんですけど、そのへん、(SONARのトラックを)大きく拡大して。Editorは拡大される範囲が決まってますし。SONARでは拡大してなめらかにエンベロープを細かく書けるっていう点で。グリッドへのスナップを外して。部分部分で言葉の切れ端ごとに音量を調整したい時とか。オートメーションを書きやすいのもすごいSONARのいいところだと思います。オートメーション(の操作)も直感的にわかりましたし。

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