若者の気持ちを代弁し、熱狂させる音楽がロックからヒップホップやダンス・ミュージックへ移行してしまった現在、ロックが持っていた求心力は薄れつつある。変化を避け、懐古主義へと移りゆくロックバンドが多いなか、アーケード・ファイアは自らのサウンドを刷新し続ける希有なロック・バンドだ。

◆アーケイド・ファイア 画像&映像

■僕たちの作品のなかでも
■一番まとまりがあるんじゃないかな

カナダはモントリオール出身の6人組バンドとしてデビューした彼らは、もともとはモデスト・マウスやフリート・フォクシーズといったUSインディに共通するエモーショナルでアコースティックなサウンドで知名度を上げ、2010年リリースの『ザ・サバーブス』で提示した洗練されたサウンドで見事グラミーを獲得。だが、2013年にリリースされた前作『リフレクター』では、プロデューサーにLCDサウンドシステムのジェームス・マーフィーを起用し、これまでとはガラりと変わった実験的なインディー・ディスコ・サウンドを披露し、話題を集めた。そんな彼らにとって4年振りとなる最新アルバム『エヴリシング・ナウ』が7月28日にリリースされた。

新作への序章は今年の5月には彼らがヘッドライナーを務めたバルセロナで開催されたフェスPrimaveraの直前からはじまった。新曲の情報をリークっぽく流しフェス前に突如設置された特設サイトhttp://www.everythingnow.com/ではシングル「エヴリシング・ナウ」を始めて披露したり、新作にまつわる情報をあえて雑多に垂れ流したりと、彼ららしい一筋縄にいかないプロモーションを展開している。ニュー・アルバムの第一弾シングルとしてすでに発売されている「エヴリシング・ナウ」はまるでABBAなどを彷彿とさせる壮大なダンス・ポップだが、随所に彼ららしい躍動感溢れるアレンジが光り、アルバムへの期待が高まる楽曲だ。このトラックに関してメンバーのウィン・バトラーはこう語っている。


「この曲はロンドンのレコード屋さんで見つけたFrancis Bebeyの「The Coffee Cola Song」が好きになって、リミックスを作ろうと思ったところから偶然できた曲だよ。作曲には長い時間をかけて取り組んできたけど、いつの間にか生まれていた曲のひとつなんだ。アレンジは半年以上かけてしっくりくるバランスを求めて、いろんなバージョンを試したから、150種類くらいのデモがあると思う。それに歌詞も1時間分くらいあるよ。それを精製して、今の形にした。これは時間がかかりすぎてしまった曲のひとつだね」

楽曲の多くはニューオーリンズで録音されており、プロデューサーにダフト・パンクのトーマ・バンガルデル、ポーティス・ヘッドのジェフ・バーロウに加え、過去の3作にも関わるマーカス・ドラヴスを起用するほか、セルフ・プロデュースによる楽曲もある。数人のプロデューサーを起用することで、サウンド面においても俯瞰的なダンス・ミュージックへと進化しているほか、以前までの彼らのアコースティックなサウンドもあり、彼らの集大成的なものになった。

「僕たちの作品のなかでも一番まとまりがあるんじゃないかな。曲の大半が互いに関係しあっているし、1つからもう1つへと移行していくような感じだね」

アルバム冒頭を飾るタイトル曲「エヴリシング・ナウ」に続き、シンプルなベースとストリングスのアレンジが印象に残るディスコ・ナンバー「サインズ・オブ・ライフ」、実験的なシンセサイザーに加えて彼ららしい壮大なアレンジがブレンドされた「クリーチャー・コンフォート」と、パワーのあるシングル曲を立て続けに収録する、出し惜しみのない曲順も痛快だ。



シンセとレゲエをミックスしたニューウェイヴ風の「ピーター・パン」「ケミストリー」に加えて、同じ曲名(単語を繋ぐ記号が“・”と“_”で違いはあるが)でファスト・パンクとアコースティックというふたつのアレンジを収録した「インフィニット・コンテント」、シンセ・ポップな「エレクトリック・ブルー」から、ザ・クラッシュ的な雰囲気もある「グッド・ゴッド・ダム」など、基本的にはダンサブルな曲でありながらも、ニューウェイヴのようにジャンルレスなサウンドが溢れている。以下で引用したウィンの言葉は、変化し続けるアーケード・ファイアの本質を捉えている。

「曲を世に出す過程は、僕にとっては楽しくて嬉しいことなんだ。『リフレクター』を出した頃に高校に入ったキッズなら、すでに学校を卒業してしまうくらい長い時間が経っていて、何にせよファンが待っていてくれる。でも、みんなが今も僕たちに夢中になってくれることを当たり前だとは思っていないよ。だからアルバムを作ることは、毎回新しいファンを探しに行くような感じなんだ。毎回新しいバンドを始めるようなね」

■すべて今、起こっていることに繋がっているし
■僕らも繋がり続けようとしている



このように変化を続けるサウンドとは対照的に、彼らが歌う詞は一貫して、社会批判性を持っている。特に今作で歌われている内容は、その壮大でポップなサウンドとは真逆とも言える、悲しくも絶望的な世界の現状だ。SNSやニュースがもたらしている過度な情報社会、さらにはドラッグや自殺、ティーンネイジャーな問題などを真っ正面から取り上げ、今を生きるというリアリティを提示している。そのなかで、アメリカ社会を痛快に批判できるのも、彼らがカナダ出身という出自による部分も大きいのかもしれない。いずれにせよ『エヴリシング・ナウ』が、現代を生きる人々が共感できるメッセージとサウンドを持った“ロック・アルバム然とした作品”として、大きな話題と評価を集めることに間違いはないだろう。本作を聴けば、改めてアーケード・ファイアというバンドの力強さ、そして大胆さを感じ取ることができるはずだ。最後にウィンが『エヴリシング・ナウ』という言葉に込めたメッセージを紹介しよう。

「“すべてを今”という感覚。今の世界で起こっていることは、すべてのゴミやフェイクなもの、リアルなもの、真実といったあらゆるものに囲まれている。自分では存在するものを輝かせる衣装みたいなものだと思っているけど、他の人にとっては違うことを意味するかもしれない。いずれにせよ僕たちは純粋にアーティストで、アートが大好きで、このアルバムの曲やダンスに何らかの価値があると考えている。それに批判的な思考を持ちながら楽しむことができているんだ。これはすべて今、起こっていることに繋がっているし、僕らも繋がり続けようとしている」

文:伊藤大輔



『エヴリシング・ナウ』

7月28日(水)リリース
SICP5572 2400円+税
国内盤 紙ジャケット
初回生産限定:透明プラスティック・スリーブ
解説・歌詞・対訳付き

■収録曲
1 Everything_Now (continued) エヴリシング_ナウ(コンティニュード)
2 Everything Now エヴリシング・ナウ
3 Signs of Life サインズ・オブ・ライフ
4 Creature Comfort クリーチャー・コンフォート
5 Peter Pan ピーター・パン
6 Chemistry ケミストリー
7 Infinite Content インフィニット・コンテント
8 Infinite_Content インフィニット_コンテント
9 Electric Blue エレクトリック・ブルー
10 Good God Damn グッド・ゴッド・ダム
11 Put Your Money on Me プット・ユア・マネー・オン・ミー
12 We Don't Deserve Love ウィ・ドント・ディザーヴ・ラヴ
13 Everything Now (continued) エヴリシング・ナウ

◆「エヴリシング・ナウ」 特設サイト(英語)
◆アーケイド・ファイア オフィシャルサイト(ソニーミュージック)