【インタビュー】キズ、来夢「僕が死にました」(前編)

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「一年前の僕が死にました。だからファンに話しておきたいことがあるんです」

キズのボーカリストで作詞作曲を手掛ける来夢が、また物騒なことを言い始めた。一年半前も「誤解を解く」と宣言し、言葉を尽くして8つの誤解を解消したばかりにも関わらず、だ。(【インタビュー】キズ、来夢を苦しめる8つの誤解(前編)(後編)

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あれからバンドの成長スピードはさらに増し、前回のインタビューから5カ月後にZepp Tokyoで4thワンマンライブ<さよなら>を実施した。勢いは止まらぬまま、10月29日には9作目のシングル「黒い雨」をリリースするし、11月にはワンマンツアー<消滅>も始まる。キズのバンド活動は二年半程度であるが、順調と言えるであろう。

それにも関わらず、なぜまた来夢は「僕が死にました」と胸がざわつく言葉を選ぶのか。しかもこの日取材中の来夢 は「どうでもいい」と連呼した。それはインタビューの前編でも後編でも一貫している。

しかし、一見投げやりな「どうでもいい」という言葉の裏には、ところどころに暖かいものを感じた。メンバーやファンについての言葉が多かったからかもしれない。「自然体で感じてくれればなんでもいい」と話す来夢の意図通り、ありのままに来夢の本音を感じて欲しい。

  ◆  ◆  ◆

■「おしまい」を超えられていないことは、ファンも分かっていたはず

来夢:今日は何を話すんでしたっけ?

──今日はありがとうございました(笑)。

来夢:ははは(笑)。

──一年ぶりですね。あの「誤解を解く」ロングインタビューから。あれは「傷痕」をリリースした頃でしたね。

来夢:あれからまだ一年しか経ってないのか。十年前くらいな気がする。ちらっとそのインタビューを読み直しましたけど、尖がってましたね。 賛否両論あるわけだわ。

──あのインタビューから「黒い雨」に至るまでの一年で、来夢さんの中で変化があったと聞いています。今日はその変化と、最新の来夢さんとキズについて聞かせてください。

来夢:そもそも変わってなかったらおかしくないですか? 何も変わっていない人間は僕にとって逆に怖い。いい言葉に変えるとブレてないとか芯があるとかいいますけど、何も考えてないだけだと思いますよ。

──「傷痕」をリリースした頃には、1stシングルの「おしまい」の「この手でお前を救うことはできない」の歌詞は歌わないことにしていると言ってましたね。10カ月で大きな変化があったのですね。

来夢:言ってましたね!今もまだあの部分に入る一文が見つからないんですよ。無理に見つけるものでもないのかな。この思いは一年前と変わってないですね。バンドの終わりと共に見つかる答えかと思っています。

──直近でいうと、10月11日に恵比寿LIQUIDROOMで行われた白服限定ライブも変化のきっかけになったのでは?

来夢:そうですね。あの日で数年間を共にした僕の中にいる誰かが死にました。前のインタビューの時もそうですけど、「期待しないでくれ」と言いながらファンやメンバーからの期待を勝手に背負ったり、プレッシャーと戦いながら頑張っていたんですよ。でも、今はもうそんな僕はいない。

──何を背負っていたんですか?

来夢:守るものってあるじゃないですか。自分の中のプライドだったり。「俺は何も背負うものなんてない」とか言いつつ、ついこの間までの僕にはあったんですよね。でも最近どうでもよくなりましたね。自然な自分ではないもう一人の「不自然な自分」が死んだんです。

──本来の来夢さんとは違う「別の人格」がいなくなったということですか?

来夢:ですね。確かに自分の人格が複数あるとは感じてはいたんですよ。冗談抜きで多重人格かと思う時もありました(笑)。本当はZepp Tokyoの<さよなら>ライブで「不自然で必要のない今の自分にさよならしよう」と思っていたんですけど、あんまり“さよなら”できなかったんですよね。ようやく白服限定GIGで“さよなら”できました。

──完全に「さよなら」するまで、約一年かかったんですね。

来夢:ですね。あの頃は、「重かった」というよりも、もう一人の自分がいないと支えられないくらい辛かったんですよ。キズが予想以上に苦しいものになっていました。追い込まれていたんです。でも、外からは分かんないですよね。

──勢いを感じていました。

来夢:最初のシングルの「おしまい」の時点で空っぽになってたんですから。「キズは完成した。もう終わった。」と思っていましたよ。それから、「傷痕」3枚目でしたっけ。もうその頃には空の空ですよ。何もないのに次を期待されているこの状況、やばくないですか?

──「何をすれば良いんだ?」と迷いますね。

来夢:そう。今までの自分の人生を詰め込んだものが「おしまい」なんですけど、最初から詰め込まなければ良かったと後悔しましたね(笑)。

──最初で出し切ったんですね(笑)。

来夢:そうですね。「おしまい」が「人生を詰め込んだ曲だな」ということは、ファンも分かってるんじゃないですか? それに、みんなは「この曲が好き」とか「あの曲が好き」とか言ってくれていますけど、「おしまい」を超えられていない」ということも分かってると思います。だって、作った本人が超えられていないと思っているんですから。音楽は「超えている。いや超えられてない」とかで測るものではないんです。でも、対等に並べられる曲がないということが僕の中での悩みでしたね。

──「超える」の基準は何かあるのでしょうか?

来夢:「自分の人生を塗り替えられているかどうか」じゃないですかね。一人の人間として、自分の中の人生観を超えられていなかった。「おしまい」とは違った良さを他の曲では出してはいますけど、「黒い雨」までは人生を塗り替えられるほどの曲は作れませんでした。でも、今ならこうして正直に「おしまい」を超えられていなかったと言える強さがあるんですよ。これは変化の一つかな。

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