【ライブレポート】マドンナ<マダムXツアー>、エイジングは老いではなく進化

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11月13日(火)、マドンナが<マダムXツアー>の10日間に渡るロサンゼルス公演をスタートさせた。これまでは約18,000人収容のステイプルズ・センターかザ・フォーラムが彼女のハコであったが、今回は約10分の1の収容人数の劇場。近年ラスベガスで盛り上がりをみせているレジデンシー公演をツアーで実現してしまうという画期的な試みである。

彼女のショーが遅く始まるのは恒例なのだが、今回は特に遅い。チケットに8時半開演と書かれているにも関わらず、11時近くまで始まらない。それに激怒した観客がマドンナを訴えるという事件が起こり、主催者ライブ・ネーションは、ネット上で開演時間を10時半に変更した。また、携帯電話の使用が一切禁止で、入り口でロックがつけられる特殊ケースにサイレントモードにした携帯をしまうことが義務付けられていた。どちらも前代未聞だが、ここに集まった20代~60代のファンにとって、これらは何も問題ではないように見受けられた。

マドンナは、革新的で、進歩的で、野心的なポップの女王であり続けるための挑戦を果敢に続けている。それは彼女が何よりも重視する「自由」のための戦いでもある。そして、新作でマダムXという新たなペルソナを獲得した61歳の彼女にとって、エイジングは老いではなく進化でしかない。この夜、マドンナはそのことを改めて我々に知らしめた。

10時50分頃、「X」の文字がライトで映し出されていた幕が開くと、白いスクリーンが現れた。右手にタイプライターを打つ女性の影が映し出され、左手にはスーツ姿の男性が立っている。彼女がタイプする度に銃声のようなドラム音が響き、男性は銃撃によって倒れる。スクリーンに書かれた米国の作家ジェイムズ・ボールドウィンの文の最後は、「アーティストは、平和を乱すためにここにいる」と締めくくられていた。この言葉はマドンナによってショーの最中に叫ばれただけでなく、アンコールの前にも再びスクリーン上に現れた。

この翌日、ロサンゼルス郊外のサンタクラリタの高校で16歳の少年による銃撃事件が起こり、2名が死亡したニュースを見ることになるとは夢にも思わなかったが、一向に解決に向かわない米国の銃問題に切り込む演出に続いて「ゴッド・コントロール」のイントロが流れ、ステージが露わになった。

左目に黒い眼帯をしたマドンナは白い膝丈ドレスの上に黒のジャケットを羽織り、黒の二角帽を被っている。両脇が階段になった台形のセット上でダンサー達が鮮やかに踊り、マドンナは階段を登って頂点に立ち、「私はデモクラシー!」と叫んだ。大歓声が巻き起こる。

それからガスマスクを被ったピアニストと修道女姿のチェリストのサウンドに合わせてマドンナが歌う「ダーク・バレエ」を挟み、「ヒューマン・ネイチャー」へ。場内は総立ちにになって、踊り始めた。

台形のセットには直径2mほどの円形の空洞が空いていて、その中に入ったマドンナは逆立ちをした上に開脚。ステージ上に彼女とトランペッターしかいないシンプルな演出だったが、今なお艶のあるヴォーカルの素晴らしさが際立っていた。クライマックスではダンサー達とマドンナの幼い子供達3人とがステージ中央に集結し、マドンナが子供に「#タイムズ・アップ!」と叫ばせるMCを挟んで、「エクスプレス・ユアセルフ」のサビを全員がアカペラで熱唱、客席も大合唱に。

続いて下の部分が空いている衝立の背後の椅子に開脚して座ったマドンナは、ヘアと衣装をチェンジする間にその空間から股間を見せつけつつ、携帯を禁止したことについて「顔が見えるって素晴らしいわ! この親密さを楽しみましょう。長い間、これを望んでたの。アイコンタクトは大事だから」と語った。そしてクラシックのBGMに合わせて「これが私のアソコからモーツアルトが流れる様よ!」と彼女らしいジョークを飛ばす。

親密さを求める彼女は過去最高に饒舌で、政治的事柄について雄弁に語るだけでなく、冗談も連発。日本ツアーが実現するとしたら同時通訳をつける必要性を感じたほどMCの比重が大きい。現在問題になっている妊娠中絶の禁止に関しては、「私達が男達にその身体をどうこうしろって言う? 私達は特別な権利を求めてるんじゃない、人権を求めてるのよ」。

また、ポラロイドカメラを取り出してセルフィーを撮影し、「大金持ってる人はここに来なさい」とポラを売ったり、いきなり客席に降りてきて観客の隣に座って会話をしたりと、普段のツアーでは不可能な親密なやり取りが繰り返された。

それから彼女は、今回のツアーメンバーの70%が2年前に移住したポルトガルとカーボベルデ共和国で出会った人達によって構成されていることを観客に知らせた。新作『マダムX』自体が、新天地で遭遇したファド(民族歌謡)を始めとする新サウンドにインスパイアされている。その意味でハイライトになったのは「バトゥーカ」だ。イントロでこの曲のMVに登場するバトゥーカデーラ・オーケストラの女性達が客席通路を通ってステージに登場し、紺のシースルーの衣装に着替えたマドンナを囲んで座り、彼女と共に素晴らしいパフォーマンスを披露。また、カーボベルデ出身のセザリア・エヴォラの「ソダーデ」のカヴァーも見事だった。


従来のツアー通り、新作からの曲がメインの挑戦的な構成ではあったが、その間に織り込まれる往年のヒット曲は、その度に場内の熱狂を煽った。中でも「フローズン」は、ダンサーもバンドも従えずにマドンナがエモーショナルな歌声を響かせ、背後のスクリーンで彼女の娘ルルドが踊る映像が流れるという素敵なコラボレーションを実現。そして本編最後の壮大な「ライク・ア・プレイヤー」では、大合唱が巻き起こった。

アンコールは『マダムX』の「アイ・ライズ」。背後のスクリーンではデモの様子や紛争の中で立ち上がる人々の映像が流れ、後半でそれがレインボーフラッグに。マドンナのショーでは常に沢山いるLGBTQの人達を含めた全観客が、彼女に合わせて一斉に拳を挙げた光景は圧巻であった。マドンナはそこでショーを終えず、客席に降り、ダンサー達を従えて歌いながら通路を進み、大熱狂するファンとアイコンタクトを交わしつつ去っていった。

「マダムXは、母で、子供で、ボスで、教師で、修道女で、売女で、聖人で、スパイなの」と彼女がコメントした通り、その全ての面を表現するべく、衣装、ダンス、プロジェクションマッピングを駆使した演出が次々に披露された濃密で親密で豪華な2時間半。最後に間近で見られたマダムXの笑顔は、とても凛としていて眩しかった。

撮影:Stufish
文:鈴木美穂

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※日本盤ボーナス・トラック1曲収録
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