【インタビュー】下山武徳(SABER TIGER)、吟遊詩人としての自身を映し出したアコースティック・アルバムをリリース

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情感溢れる歌唱と巧みな話術で堪能させるアコースティック・ライヴ“下山武徳的夜会”を、日本各地で十余年に渡って行っている下山武徳。札幌を拠点とするヘヴィ・メタル・バンド、SABER TIGERのシンガーとしても知られている彼が、ソロ作品としては約10年ぶりとなるアルバム『WAY OF LIFE』を11月13日にリリースした。書き下ろしの新曲はもちろん、過去の自身のマテリアルのセルフ・カヴァーやライヴのレパートリーとなっている名曲など、表現者としての様々な側面を伝える本作は、本人にとっても意味深い仕上がりとなったようだ。

――“下山武徳的夜会”の歴史も長くなりましたし、弾き語りで聴かせるスタイルも、今や下山さんの定番になっていますよね。

下山:そもそも、最初は俺は弾き語りでステージで歌ってたんですよ。そしたら、それを観たANDROGENUSというバンドのメンバーが、「このヴォーカルは使えるな」ということで声をかけてきてね。それがキッカケでヘヴィ・メタルをやるようになり、その後にSABER TIGERに入ってデビューして。一時期は当時所属していた事務所の方針で基本的に(弾き語り公演を)止められてたんだけど、バンドが独立してから“夜会”を始めてね。だから、もう14~15年になるのかな。一人で車を運転して、全国のいろんな街へ、ギター1本持って。これはホントに自分の原点なので、今も続けているということですね。

――弾き語りを始める以前は、バンド活動はしていなかったんですか? 本格的に音楽活動をしようと上京したときに、たまたまアルバイト先で歌わされたのが、歌い始めるキッカケだったそうですが。

下山:そう、もともとギターはやっていて、プロを目指そうと思って上京してね。7年ほど東京に住んでたんだけど、なかなかチャンスもなくてね。それで札幌に戻って、ライヴをやりたいなとギターを持って歌うようになったんだけど、当時はヴォーカリストとして云々ということは考えてなくて……でも、引き抜かれたってことは、結構、よかったんだろうね。もちろん、作品も出してないし、ホントに趣味というか、それしかできないからそれをやってただけで。バンド自体は、学生の頃は仲間同士でBOWWOWのコピーとかをやったりはしてたけどね。最近は山本恭司さん(vo&g/BOWWOW)と二人でツアーを廻ったりもしているんだから、不思議だよね。

――札幌で弾き語りを始めたときも、何か突き動かされるものもあったわけでしょう?

下山:何かしっくりきた感はあったんだよ、初めて歌ったとき。その後、マイクを握って、ヴォーカルというものに専念したときは、これが自分の居場所なのかもと思ったかなぁ。もちろん、ヘヴィ・メタルは好きで聴いてたけど、ヘヴィ・メタルをやることに関して、そんなに情熱を持ってたタイプでもなかったんですよ。活動していく中で、メタルのシンガーとしての資質が出来上がっていったんじゃないかな。


――もともとあった資質が、いろんな局面で引き出されていったということでしょうね。

下山:まぁ、引き出されたという言い方になっちゃうんだろうな。自分ではそんな引き出しがあるとは思ってなかったからね、歌に関しては。SABER TIGERに鍛えられたのは大きいんじゃないかなと思うよ。

――“夜会”では様々なレパートリーが披露されますが、歌のルーツはどこにあると思いますか? もちろん、下山さんの場合は家庭環境も大きく影響していると思いますが。

下山:そうね。うちは親父が民謡の家元で、民謡酒場をやってたから、おじさんたちが夜な夜な喜んで手を叩いて歌ってたりするのを聴きながら育ったんですよ。だから、やっぱり民謡もそうだし、昭和の歌謡曲や演歌やフォークだよね。だけど、どういうわけか、小学校5年生ぐらいのときに、友達のお姉さんがKISS、QUEEN、AEROSMITHの御三家が大好きで、そいつの家でそれを聴き漁る日々があったんですよ。それでハード・ロックに目覚めてね。当時、学校から帰ったら、すぐにラジオにリクエストをして、自分の好きな曲が流れたりするのが楽しかったな。でも、番組では中島みゆきさんとか矢沢永吉さんとか、日本のアーティストの曲も同じように流れてたから、耳に自然に入ってくる。自分では洋楽派とか言いながらも、やっぱ歌謡曲もいいなぁとか、その時代の音楽は、洋邦問わず、毎日聴いてたんだよね。だから、ルーツというと、そこにあるんじゃないかな。音楽番組っていう音楽番組を全部聴いてたからさ。

――なるほど。弾き語り自体は長く続けていながら、ソロ作品は10年近くもリリースされていなかったのが不思議ですね。

下山:うん。SABER TIGERも一所懸命にやっていて忙しかったというのもあるんだけど、アコースティックってさ、歌っていると、その時々で景色が変わっていくわけ。ずっと歌ってる曲も全然違う景色になっていくんだよ。もちろん、メロディも歌詞も決まってるんだけど、表現は無限にあるから、毎回違うんだよ。そういう意味では、10年なんて、あっという間だったね。別に歌ってて飽きないから、新曲を作ろうとも思わない。カヴァー曲にしても、ジャンルを問わず何でも歌うでしょ。

――つまり、創作という面ではなく、むしろ表現というほうに関心が向かっていたと。

下山:そうだね。この10年はそういう説明しかできないかな。本来、創作というのは、内面から衝動的に湧き上がるものであるべきだと思うしね。それを待ってたら時間が経っちゃったということかな。かといって、何もしてないわけじゃない。SABER TIGERとか、他のことで創作的な仕事はしてたからね。もちろん、いつかはまたソロ作品を出そうとは、ずっと頭の中にはあって。次の機会には、“夜会”でやっているカヴァーの部分を盤にしたいなとは漠然と思ってたんだよね。

――その中から、スタンダードとして知られる「Autumn Leaves(枯葉)」と「Hallelujah」が、今回の『WAY OF LIFE』には収録されていますね。

下山:この2曲は結構前からやってるんだけど、いろんな方がいろんなアレンジでやっているのを耳にして、自分もやってみようと思ったのが最初でね。歌い手というのは、人の歌でも、当然、自分の歌のつもりで歌うからさ。それは残しておきたいなぁって思ったんだよね。

――3つのセルフ・カヴァーもありますね。まずはファースト・アルバム『ACOUSTIC~always live on』(2000年)に入っていた「Always」。

下山:もともとは「ALWAYS LIVE ON」というタイトルだったけど、今回は歌詞も変えて。持論として、カヴァーって、絶対にオリジナルを超えないんだよね。ただ、自分の生き様を表現する曲だし、最初のソロ・アルバムの中でも代表曲だと思っていたので、あれから20年を経て、今の自分の目線で、どんな景色が見えて、どう歌うのかというのもやってみたくてね。オリジナルではブルース・ハープが全編に入ってたけど、今回は山本恭司さんという、ガキの頃から憧れてたロック・スターが参加してくれたのも、すごく感慨深くてね。


――歌にも引き込まれますが、この恭司さんのギターが息を呑むほど極上なんですよね。

下山:そうだね。この曲のMVには恭司さんだけではなく、今回のジャケを描いてくれた画家の吉川龍さんにも登場してもらってて。彼もまた感性がすごいアーティストで、その部分でシンパシーを感じる方なんだけど、シンガーと画家という、生き方の違う二人のコラボみたいな感じで、MVは基本的に構成されててね。僕が歌っている後ろで絵を描いていたり、その逆だったり。これはぜひ観て欲しいですね。

――アートワークが完成していく様子も興味深いですね。そして、梶山章さんとのプロジェクトで発表した「Mother」が新たに「母へ」と生まれ変わっています。

下山:あの当時、プリプロをやっていたときは歌詞は日本語だったんですよ。でも、CDにするときに英語にすることになってね。ただ、やっぱり日本語のほうも盤に残しておきたい気持ちはずっとあって。だから、歌詞はその頃のままだね。

――母親に捧げる意味合いの内容ですが、どのような思いで書かれていたんですか?

下山:亡くなった母に贈る言葉というか……母親はまだ生きてるんだけど、若い頃、親に迷惑をかけないロック・ミュージシャンっていないでしょ? 歳をとって、親に対する感謝の気持ちを曲に残しておきたいなと、そういう偽善的なことを思うわけですよ(笑)。この曲では、お母さんは他界したというストーリーとして書いてるんだけどね。

――SIXRIDEの「Dec.」も雰囲気が変わりましたね。

下山:「Dec.」は人気もすごく高い曲だし、さっきも言ったように、どんな形であれオリジナルは超えないんだけど、そこは青柳慎太郎(g/SIXRIDE)も苦労しながら、スパニッシュなテイストのアレンジにしてくれてね。まぁ、こういう解釈ということで聴いてもらえると。

――青柳慎太郎くん作曲の「手のひらの蝶」という曲も今回は収録されていますね。

下山:そう。これはSIXRIDEが再始動したときに作った曲なんだけど、今回は慎太郎が今やっている別のバンドの仲間がベースとカホーンで参加してくれて。SIXRIDEの歌詞を書くときって、自分の弱さとか醜さ、絶望感というところから這い上がろうというコンセプトなんですよ、基本的に。強い人なんて基本的にいないから。強くあろうとする人がいるだけであって。その強くあろうという部分をどう表現するか。手のひらで弱っている蝶というのは自分自身の象徴だったり……弱さと向き合わないと強くなれないし、そういう中でちょっとずつ強くなれる。根底はそこなんだよね。

――「The Face In The Mirror」は曲名からも察することができますが、こういったテーマは、かねてからよく取り上げていますよね。

下山:世の中、偽者が多いからね。ちゃんとやらないくせに偉そうにしてたり、明らかにその土俵にいないのに、肩を並べてこようとしてきたり。特定の誰かをイメージして書いたわけじゃないけどね。俺の駆け出しの頃のSABER TIGERの曲には、そういう歌詞は多かったよね。でも、年齡に関係なく、こういう歌詞を書こうという衝動って、今も俺自身にあるんだなって。

――田中“MACHINE”康治さん(g/SABER TIGER)が書いた「Sorrow, Duty」もまた変わった曲ですね。

下山:これをライヴでやるのかと思うと、ザワッとする(笑)。サビのアプローチはちょっと新しくて、主旋律に対してのハモりじゃなくて、二人で歌ってる感じ。俺はクリスタル・キングをイメージしててね。ライヴでどう再現するのかというのもあるけど(笑)。歌詞の内容は「母へ」の父親版みたいな。MACHINEの曲を聴いてイメージしたのが、父親の背中というかね。俺もついこの間、父親を亡くしかけてね。奇跡的に持ち直して今も生きてるんだけど、MACHINEも最近、お父さんを亡くされて、木下(昭仁)くんもお母さんを亡くされたり、そういう悲しみは絶対に誰もが、税金のように必ず払わなければいけないというか、自分の中の責任としてある。そういった意味でのタイトルなんだけどね。

――木下さんが書いた「あなたと出会えて幸せだった猫の詩」も独特の雰囲気を持つ曲ですね。

下山:まさか木下くんがこういう曲調でくるとは思ってなかったんで、オケを聴いたときはびっくりしたんだけど、本人は「いつかはこういう曲をやりたかった」って言ってたね。この曲では、何をどう表現するか、しばらく悩んだけど、俺、16年飼ってた猫がいたんですよ。まだ目も開いていないような生まれたばかりの状態で拾ったんだけど、誰も貰い手がいなくて。結局、1週間も家にいると愛着が湧くもので、そのまま16年。俺がプロになる前のことだから、激動の俺の人生の16年間を知っているわけですよ。その猫の目線で俺を見た、そんな歌にしてみようと思ったんだよね。ホントにかわいがってたから、ペットロスもあったんだけど……思い出の曲ができてよかったなと。

――下山武徳の意外な一面を知ることができる曲かもしれないですね。

下山:世間の奴らは、俺に対する認識が間違ってるからな(笑)。でも、やっぱ、悲しいけど、それを何倍も上回る幸せをもらえるというかね……ペットって、ものすごく大きな存在だと思うね。

――そうですね。最後の「確かな真実」は、どんなことを思い浮かべて書いたものだったんですか?

下山:俺は実体験で書くことはほとんどなくて、たいていは自分の中でストーリーを作るんだけど、これは自分の人生譚というか、結構、思い出のページを挟み込んだ曲だね。こういう生き方をしていたら、ある程度、わがままを通す力って必要じゃない? そうすると必ず傷つく人が出てくる。人を傷つけながら、自分のやりたい道に進む。客観的に見たら華々しい世界にいるけどさ……そういう人生なんで、ずっと。

――ある種、そういった人たちへの感謝のようなものでもあるんでしょうね。

下山:まぁ、それもあるね。今でこそ、親の面倒見なきゃ、守らなきゃって部分が出てきているけど、もともとあまり守るものがなくて、ただ自分の衝動のままにステージで歌い続けているだけの男じゃない? そういうのもしょうもないんだよなっていう。しょうもなくないように頑張ってるけど、しょうもない部分もあるんだよっていう。

――「しょうもない」とは、どういうことなんですか?

下山:そうだなぁ……脆さかな。そんなのは普段は出せないじゃん。歌でしか出せないからさ。下山武徳らしい曲になったと思うし、アルバムの最後の曲としてもしっくり来たんだよね。

――さて、2020年1月18日には、東京・南青山マンダラで発売記念のライヴがあります。アルバムに客演した4人のギタリストも参加するとのことで、見どころが多そうですね。

下山:うん。このレコ発のライヴとしては、言うことないよね。特に恭司さんはホントに忙しい人でしょ。年間100本以上、俺と同じぐらいライヴをやってるので声もかけてなかったんだけど、「出るよ」って言ってくれて。今回は東京だけですけど、“夜会”はまた全国でやっていきますので、アルバムを聴いて、ぜひ楽しみに来て欲しいですね。ただ黙って生きているだけでも大変な世の中ですけど、座っている状態から立ち上がる、僕の歌はそういうものでありたいと思ってるんですよ。

取材・文◎土屋京輔


リリース情報

■アルバム『WAY OF LIFE』
2019年11月13日発売
WLKR-0041 ¥3,800+税【DELUXE EDITION】
WLKR-0041 ¥3,000+税【通常盤】
01. Always
02. The Face In The Mirror
03. Autumn Leaves
04. 手のひらの蝶
05. 母へ
06. Sorrow, Duty
07. あなたと出会えて幸せだった猫の詩
08. Halleljah
09. Dec.
10. 確かな真実

ライブ・イベント情報

■ライヴ情報
公演名:ニューアルバム発売記念ライヴ『WAY OF LIFE』
日程: 2020年1月18日(土)
会場: 南青山MANDALA
時間: 開場 18:30/開演 19:30
料金: 前売 ¥4,000/当日 ¥4,500(全席自由/1D別)
出演: 下山武徳(vo & g)
ゲスト: 山本恭司(g)/木下昭仁(g)/田中康治(g)/青柳慎太郎(g)
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