【インタビュー】SABER TIGER、最強セルフ・カヴァー作品『PARAGRAPH V』をリリース

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近年は海外でのライヴを含む精力的な活動を行ってきた“北の凶獣”こと札幌のSABER TIGERが、アルバム『PARAGRAPH V』を1月20日にリリースした。“PARAGRAPH”シリーズと言えば、過去の名曲群をリレコーディングする企画盤としてファンにはお馴染みだが、多くのミュージシャンから一目を置かれる高いプレイアビリティを有するバンドゆえの圧巻たる演奏を通して、往時のマテリアルがより躍動的に甦っている。世界にも類を見ない革新的パワー・メタルを生んだ長きに亘る彼らの歴史にも触れながら、本作の制作裏舞台を、下山武徳(vo)と“MACHINE”こと田中康治(g)に話を訊いた。

■現在のSABER TIGERにつながる
■プログレッシヴな名曲群


――アルバム『OBSCURE DIVERSITY』(2018年)に伴う活動は、ドキュメンタリー映像『DEVASTATION TRAIL: The Documentary』も制作された北欧・東欧・ロシアでのライヴを含め、精力的にツアーを行いつつ、ライヴDVD『Live: OBSCURE DIVERSITY』(2020年)のリリースに至るまで長期に及んだ印象もありますが、次の一手となるこのタイミングで『PARAGRAPH V』を制作することになったのは、どんな経緯があったんですか?

下山武徳(以下、下山):大した経緯はないんだけど、“PARAGRAPH”のシリーズは、その時々のメンバーで1枚ずつぐらい出してきたでしょ。hibiki(b)が入ってからもう5年ぐらい経つから、そろそろ頃合いもよかろうと思ってね。そのうちに新型コロナウイルスの問題が出てきたんだけど、制作すること自体は前々から決まっていた話でね。

――どこから出たアイディアだったんですか?

下山:俺かなぁ……。

田中康治(以下、田中):最初は次のフル・アルバムを作る前にやっておこうかみたいな話でしたっけ?

下山:そうだね。『OBSCURE DIVERSITY』であれだけ大々的にツアーをやったり、DVDを発売したり、いろんなことをやったから、オリジナルのフル・アルバムを出す前にワンクッション欲しいなと思ったんだよね。そこで『PARAGRAPH V』を出すタイミングとしてもよかろうと。そういうことを考えたのも、すごく昔のような気がして、あまり覚えてないんだけど(笑)、そんな話をメンバーにしてみたら、みんなOKで、まずはやりたい曲をそれぞれ2~3曲挙げようと。それで(2020年)2~3月のツアーのときに、収録する曲を決めたんだよね。


――3月1日の東京公演直後のミーティングで、そういう話をしてましたね。

下山:うん、それは覚えてるな。

田中:確かあのときに挙がった曲で全部が決まったんだよね。

下山:そうだね。あの頃はコロナの影響がこんなに長引くと思ってなかったもんな。でも、実際にレコーディング時期がずれて、結果的に発売日が2021年1月になるというから、じゃあ結成40周年記念にしようと決めた感じだね。

――結成40周年とはいえ、当時のメンバーは木下昭仁さん(g)しかいませんからね。

下山:だから、あまりピンとこないんだけどね。俺もMACHINEも80年代のSABER TIGERには在籍していなかったからさ(笑)。

――重なるものもあったと思いますが、お二人はそれぞれどの曲を候補に挙げたんですか?

田中:「Revenged On You」と「Motive Of The Lie」と「Back To The Wall」かな。

下山:俺は「Motive Of The Lie」と「Because Of My Tears」だったと思うんだけどね。「Eternal Loop」もそうだけど、これに関しては、みんなやりたいと思ってて、<Red><Blue><Clear>の3章をコンパクトにしたものにしようと。水野(泰宏/ds)が「屈辱」と「Into My Brain」かな。

田中:hibikiが「Mr. Confusion」と「Jealousy」。木下さんは「Sleep With Pain」と「Believe In Yourself」だよね。

――MACHINEさんはどういった観点で選んだんですか? これまでの“PARAGRAPH”シリーズで採り上げていない曲という前提もあるわけですが。

田中:そう。僕が選んだのは自分がかつて在籍していたときに書いた、久保田陽子さんがヴォーカルを務めていた時代の曲なんですよ。当時の3枚のアルバム『INVASION』(1992年)、『AGITATION』(1994年)、『TIMYSTERY』(1995年)から1曲ずつ。これをアニキ(下山)に歌って欲しい、それを聴いてみたいという思いがあったかな。特に3曲目の「Motive Of The Lie」に関しては、陽子さんっぽいというと変だけど、女性が歌う感じに慣れちゃってる曲でもあるので、これをあえてアニキ流にパワー・アップした感じで、一緒にやってみたいなという思いもあったし。

下山:「Motive Of The Lie」はライヴでもたまにやってたからね。


▲田中康治(g)

――「Revenged On You」は意外な気もしましたね。アルバムの1曲目に置かれたという意味でも。

田中:選曲自体が意外だったということ? 僕の中では、すごく思い入れのある曲なんです。『TIMYSTERY』の6曲目に入っているんですけど、正直、その当時、僕の中では、これをタイトル曲にしたかったんですよ。そのぐらい気合を入れて作って、レコーディングしたんだけど、仕上がりのクオリティとか、ちょっと無念だった思いがあるんですよ。だから、今回の曲順を決めるときに、アニキが1曲目は「Revenged On You」か「Motive Of The Lie」のどっちかがいいと思うと言ってくれたんだけど、そういう経緯があったから、「Revenged On You」にしてくれると嬉しいと言って。結構難解なプログレッシヴ寄りな曲だし、もともとアルバムの6曲目に入ってたぐらいだから、代表曲のように思われるものでもなかったんだけどね。それから『TIMYSTERY』をリリースした後は、1ツアーでバンドが解体しているので、ライヴの数もやってないんですよ。その意味でも、また表に出て欲しい曲でもありましたね。

――曲を書いた当時のことも覚えてます?

田中:すごく覚えてます。めちゃくちゃ我武者羅にやってた頃なんですよ。今みたいにみんなでバンドをどう転がそうかなんて考えてなくてね。若造だったから、バンド運営のことなんて頼まれてもいなかったし。それでもSABER TIGERに入って4~5年も経っていた時期で、「これから行くぞ!」というピークのときだったから、気持ちも昂ぶってたんですよ。ちょうどこのアルバムから全編を英詞にすることにもなっていたんですよね。海外に打って出ようという意味で。だから、モチベーションも高かったんだよね。『INVASION』も『AGITATION』も、1曲目は木下さんの曲で、2曲目が僕の曲だったから、一回そこも逆転してみたいなって若いながらに思っていたんですよ。『AGITATION』ぐらいから、バンドの音楽性もだいぶプログレ寄りになってきたタイミングだったんですよね。そこで“ド”プログレな曲を書いたんですよ。

――当時、バンド内でプログレ的なアプローチをしようという話になっていたんですか?

田中:いや、なっていないと思います。

――ただ、MACHINEさんが入って以降は、明らかにそういった要素は増えていきましたよね。

田中:確かに。でも、僕はそれまでWHITESNAKEみたいな音楽をやってたわけだから、全然プログレはなかったんだけどね。何でこうなったのか……だから、やっている間にそっちが好きになったとしか言いようがない。もともと木下さんも、全然プログレの人じゃなかったし、僕が入ってギタリストが二人になったら、お互いに相乗効果でそっちのほうに進んでいったということだと思うんですよ。『TIMYSTERY』の時代は、特にプログレ色が強い。「Revenged On You」はその中で一番プログレっぽい曲でもあるし。

――その後のSABER TIGERが紹介されるときに、テクニカルという言葉が恒常的に冠されるようになったのも、このアルバムがあるゆえだと思うんですよ。

田中:そうかもしれないですね。ちょうど世の中的にもDREAM THEATERとかが台頭してきて、プログレッシヴ・メタルというところにSABER TIGERも入った時代ですね。僕は個人的には、脂が乗ってたというか(笑)、一番イケイケだった頃なので、思い入れはすごくあるんですよね。


▲下山武徳(vo)

――「Revenged On You」か「Motive Of The Lie」を1曲目にしてはどうかというアイディアには、どんな理由があったんですか?

下山:曲順を決めたのは録る前なんだけど、「Revenged On You」はあまりライヴでもやったことないし、その意味では新鮮だと思うんだよね。俺の声というか、こういうアプローチで歌っていけば、きっとカッコよくなるだろうなという自信があったから。それとね、そもそも収録されているアルバムで1曲目をやってる曲は、1曲目にしないという変なルールがあって。そうなると、「屈辱」も「Into My Brain」も候補から外れるわけですよ。そんな中からあの2曲に絞られていくんだけど、どっちもインパクトがあると思ったんだよね。

――その2曲を歌ってみてどうでした?

下山:「Revenged On You」はね、こんな曲をよく作るなぁと思った(笑)。構成力といい、リフのカッコよさといい……サビ中の変拍子はやめてくれやって思ったけど(笑)。

田中:サビで変拍子を使うという(笑)。

下山:しかも、コーラスが主メロに対してのハモりじゃないからね(笑)。変拍子の上にコーラスはコーラスで主メロとはまた別のメロディを乗せていかなきゃいけない。やってみたら、意外とすんなりできたんだけど、この曲に関しては練習した(笑)。練習というか、体に入れる作業だよね。歌詞の意味もきちんと伝えないといけないので、自分なりに咀嚼して、ちゃんと腹に入れないと、いい感じで歌えないんだよね。「Motive Of The Lie」はライヴでもやってたし、人気の高い曲だし、名曲だと思ってたけど、メロディの難易度が高い。ヴォーカリストとしてのスキルがすごく要求されるんですよ、久保田陽子さんの歌って。その意味で、すごく楽しかった、レヴェルが高くてね。

■オリジナルに対するリスペクト
■久保田陽子のアーティスト性


――MACHINEさんが「Back To The Wall」を挙げた理由は何だったんですか?

田中:これね、多分、バンドに入ってすぐ、2~3曲目に作った曲なんですよ。パワー・バラードというカテゴリーになるのかな。21歳の小僧が作るにしては、まぁまぁ大人っぽい曲を作れたなと思って。曲的にもすごく好きなんですよ。ただ、やっぱり、まだ若かったし、録ったときのサウンドも含めて、自分自身ももう一回録り直したいと前から思ってたところもあるんですよね。

――近年はMACHINEさんが書かないようなタイプの曲ですよね。

田中:書かないよねぇ。だから、当時はきっと素直だったんですよ、心が(笑)。ホント、その後の数年間で……「Revenged On You」ぐらいまでいっちゃうと、ひねくれ度が結構いくじゃない?(笑) 「Motive Of The Lie」はその中間ですよね。まさに若いときは成長が早いっていうけど、ちょっと初心に返って弾こうと思いましたね。「Back To The Wall」が収録されていた『INVASION』は、SABER TIGERにとっても初のCDだったんですよね。その頃から、ツアーとかもまともにできるようになって。


――純粋にいい曲ですよね。「Back To The Wall」は下山加入後のSABER TIGERのライヴでやったこともありましたっけ?

下山:やったことないんだよ。だから、女性が歌っていたキーでもあるし、どう表現するかというのは、ちょっと楽しみだったよね。一つ一つの言葉にしても、ただメロディをなぞるだけではなくて、歌詞を書いた陽子さんの心情を……もちろん想像するしかないんだけど、それをより考えながら、すごく丁寧に歌ったつもりですけどね。今回、陽子さんの歌を歌うときに、あまりにも(原曲と)かけ離れすぎないようにしようと思ってたんですよ。できるだけ陽子さんの歌を意識しながら自分の歌を歌いたいなと。

――なぜそう思ったんですか?

下山:オリジナルに対するリスペクトですよ。セルフ・カヴァーであっても、オリジナルを超えることは絶対にないんだよ。だから、たとえば「全然違うことをやってやろう」とかって臨むタイプのカヴァーをやるミュージシャンは嫌いなんだよね。何をやったって超えないのに、自分のものにしようとする行為が、すごくあざといものに思えてね。だったら、モノマネのほうがまだいい。まぁ、モノマネすることはできないし、もともと女性が歌っているものだからカラーも違うんだけど、たくさん出てくる細かい技とか歌い回しの感じとかを、俺はちゃんと踏襲しているつもりではいるんだよね。わかる人にはわかると思うんだけど、できるだけ久保田陽子さんへのリスペクトを感じられるように……具体的にどこがどうと言うのは難しいんだけど、その意識を持つようには心掛けました。

――だからかどうかわかりませんが、面白いもので、下山武徳が歌っているのに、同時に久保田陽子の声が聞こえてくるような印象があるんですよ。

下山:あぁ、それは一番嬉しい。俺が陽子さんに寄っていったのか、陽子さんがもともとおっさんに寄っていたのか(笑)。

田中:それはないでしょ(笑)。

――久保田陽子流の歌詞の書き方も見えてきたりするわけでしょう?

下山:うん。もう素晴らしいよ。天才としか言いようがない。言葉の選び方もセンスがいいし。女性が書く歌詞って、女性ならではの表現があったりとかってよく言われたりするけど、陽子さんの場合はそういう類のものではなくて、すごく文学的だし、歌っていても、気持ちが入るよね。女性、男性関係なく、世の中にはしょうもない歌詞とかあるからさ。そういうものは、歌っていてもまったく気持ちが入らないからね。

――その時代ごとの特性などもあるでしょうけどね。

下山:その時代だから許されたというものもあるだろうね。何でこの展開で悪魔が出てくるんだとか(笑)。そこでいうと、久保田さんの歌詞は素晴らしいですよ。今聴いても全然古くないし。

田中:でも、やっぱり陽子さんも男の中でやっているし、特に今みたいに女性メタル・アーティストが多い時代ではなかったから、女性だからという見られ方に対して悔しさを感じてたり、そう口にも出してたんですよ。かといって、男の真似をするというのはただの負け惜しみでしょ。でも、そういう部分じゃなくて、あの頃から、陽子さんはちゃんとアーティストとしての自分を確立できてたんですよ。だから、実際の年齢差より、もっと上の先輩に感じてましたね。表面上はおちゃらけたキャラなんだけど(笑)、仕事はすごくハイレヴェルでしたよね。若いときに、そういう人たちのそばで活動できたのは、ホントに幸せだったなと思います。

――とはいえ、陽子さんもFAST DRAW時代に書いてた歌詞とはまったく違うんですよ。その後のPROVIDENCEでも、基本的に塚田円さんから渡された歌詞を陽子さんがアレンジするようなやり方だったそうですし。

田中:もしかしたらSABER TIGERで久保田陽子ができ上がったのかもしれないですね、タイミング的に。

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