【鼎談】TAKU INOUE&Carpainter&KO3 、安斉かれんパラレルリリースから見えたもの

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世界最大の音楽フェスティバル<Coachella>のラインナップを見ても、昨今の音楽界はずいぶんとグローバル化が進んでいるのが分かる。"ガラパゴス”と揶揄されてきたJ-POPも、そのガラパゴス性でもって求心力を拡大しつつあるだろう(今年の<Coachella>には初音ミクときゃりーぱみゅぱみゅが参加予定)。

◆MV・インタビュー画像

そこで今回、TAKU INOUE、Carpainter、KO3の、日本を代表するトラックメイカー3名に集まってもらい、話を聞いた。彼らはいずれも、avex所属の新鋭シンガー、安斉かれんが昨年リリースしたシングルのリプロデュースを手掛けている。「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた(KO3)」、「誰かの来世の夢でもいい(Carpainter)」、「人生は戦場だ (TAKU INOUE)」が昨年から今年にかけてリリースされているが、3曲すべて各々の作家性が反映され、実にバラエティに富んだ内容となっている。彼らが語る、J-POPの現在地とは? そして、“リプロデュース”という方法論の可能性とは?

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──日本の音楽シーンを海外と相対化して語るとき、文化的な違いが挙げられるように感じます。実際のところ、プロデューサー側から見るとどうですか?

TAKU INOUE(以下、INOUE):やっぱり日本は歌モノが強いですよね。逆説的に言えば、歌さえあれば日本の音楽シーンでも攻めたアプローチは出来ると思います。最近はリスナーのリテラシーも相当上がってきてる印象がありますし。まぁでも"マスに向けて”って考えると、リズムで戦う難しさは今でもあると思いますね。その点では2人のほうが難しさを感じてるんじゃないかな。どう?

Carpainter:アメリカツアーに行ったときに思ったんですけど、向こうはポップスですらもクラブでかけられること前提で作られているんですね。J-POPって基本的にはリスニングミュージックなので、日本で同じことをやるのはちょっとまだ厳しいかなと。今回のRemixもそこをどう乗り越えるかを考えて作りました。


──なるほど。程度の差はあるにしろ、J-POPと普遍的なクラブミュージックの間には差があるわけですね。KO3さんも、その違いについては意識されてますか?

KO3:実は僕あまり国内の音楽を聴いてこなかったんです。ずっとクラブミュージックばかり追いかけてました。国内の音楽をちゃんと聴こうと思ったのはつい最近で、J-POPを意識的に聴こうとしたのも同じぐらいの時期ですね。

──日本語とクラブミュージックと相性も課題のひとつかと思うんですけど、どうでしょう?今回のリプロデュースでは、まさしく日本語をトラップやツーステップに乗せてますが、言語的な難しさはありましたか?

Carpainter:そこはあまり感じなかったですね。というのも、僕は今回のリプロデュースでは主にJpopの2stepをリファレンスに作ったので、日本語とクラブミュージックの組み合わせ方についてはリファレンスがあったんです。その点ではKO3君のほうが苦労があったんじゃないかなと。

KO3:やっぱりルーツになかったので難しかったですね。ただ、ものすごく良い経験になりました。いつもは英語ヴォーカルを使って曲を作るので、日本語を使用したときのやり方を今回習得できた気がします。その意味では、今回ジャンルも少し変えてて。僕のことを知ってくれている人は、僕に対して"速い曲を作る人”ってイメージがあると思うんですけど、「ダンスミュージックにも色々あるんだぞ!」ってことも表明したくて(笑)。ガラージやハウスの認知度も上げていきたい思いはあります。


INOUE:KO3君、ハウス作っても上手いもんね。僕は2人ほど折衷的なイメージは持ってなかったです。僕のフィールドが2人とは少し違うってことも影響してるんでしょうけど、日本語をダンスミュージックに乗せる苦労もあまりなかったですね。


──そうなんですか! 今回のリプロデュースはトラップがモチーフですけども、昨年リリースされたセイレーンの「Polaris」ではドラムンベースを下敷きに日本語を乗せてますよね。あの曲を聴いた時は「天才だ…!」と思ったものですが、こちらも難しくはない……?

INOUE:ジャンルによって話は変わってきますが、ドラムンベースの場合は結構感覚がロックに近いんですよ。僕が中学生ぐらいの時に初めてドラムンベースに触れた際、「ロックじゃん」と思ったんです。ちなみに、それまではLUNA SEAとかを聴いてました。日本の音楽シーンを見渡すと、BPM170くらいのロックが他の国よりも多いような感覚が何となくあり、そう考えると、おなじBPM帯であるドラムンベースって意外と日本語に馴染みやすいんじゃないかなと。だから、僕はあまり日本語とダンスミュージックの間に垣根を感じたことがないんです。


Carpainter:The QemistsとかPendulumとか、日本に入ってきた当時は「踊れるロック」とか言われてましたよね。

INOUE:そうそう!The Qemistsとか完全にロックだった。

Carpainter:彼らの受容のされ方を見ていて、「ダンスミュージックにもこんなアプローチがあるのか」って思いました。アリーナではモッシュがおきて、お客さんのファッションもロックっぽくて……。僕はダンスミュージックとして彼らの音楽を解釈してましたけど、彼らのライブは明らかにロック層にも刺さってましたね。

──確かに。海外のトレンドに関係なく、日本の音楽シーンではロックが優勢な気がします。そのような日本の独自性を考えると、アニメの存在も挙げられませんか? 皆さんは全員、秋葉原のクラブ「MOGRA」に出演された経験があります。あの注目度を考えると、アニメとダンスミュージックの関係性はもはや無視できないような……。


Carpainter:数ある日本のポップカルチャーの中でも、アニメって相当強いですよね。海外の若いアーティストも当然のようにアニメ文化を通ってるんですけど、彼らにとってアニメは"既にあったもの”なんですよね。僕らと同世代か年下の人たちは、海外に住んでてもほとんどリアルタイムで同じ作品を見られるんです。だから15年ぐらい前まであったような、海外の人が日本のカルチャーに持つ"何だこれは感”が今はない。

KO3:僕もアメリカのレーベルからリリースしてるんですけど、コンピレーション・アルバムにはアニメ方面から参加する人もいるんです。そういう時にもアニメの影響って感じますね。アートワークとか見ても、確実にオタクカルチャー通ってるのが分かることがあります。

INOUE:アリアナ・グランデもイーブイのタトゥー入れてるもんね。


KO3:そのレーベルづてでアメリカにもツアーに行かせてもらったんですが、その時に<アニメコン>というイベントに出まして。それはもう、アメリカ版のコミケみたいな雰囲気で、めちゃくちゃ規模がデカいんです。人種とか属性に関係なく、ためらうことなしにアニメに向かって来てる気はします。

Carpainter:ただ、アニメをJ-POPに置き換えた時に同じことが言えるかは分からないですね。MOGRAはオタク文化とダンスミュージックを掛け合わせることで成功しましたけど、あのカルチャーはMOGRAがイチから作ってきたものだと思うんです。あそこはある種DIY的なイメージというか、どこにもジャンル分けできないハコってイメージがあって。だからこそ強固で、なおかつ国境を越えても多くに人を惹きつけるんじゃないかと。

INOUE:確かにMOGRAのコミュニティからは強さを感じるよね。僕も海外でDJをやらせてもらう時に、各会場で絶対に会うのがMOGRAファンなんです。少し話変わるんですが、この状況って、僕ら日本人の側の変化も影響しているような気がしていて。ネットで曲を作って、海外に向けて発表していた若い層が、今になって実権を握り始めてる部分があると思うんです。今回のリプロデュースも、24歳のディレクターから話をもらったんです。彼のような存在が現れ始めたのって、本当にここ数年の間のような気がしてるんですね。それこそ彼もMOGRAカルチャー通ってますし。実際僕も、アニソン系の案件としてダンスミュージックアプローチのリミックスを依頼されることが増えてきてるんです。


──具体的に世代間で違いを感じることはあるんですか?

INOUE:やっぱり2人は物心つく頃にはネットに触れてた世代なんですよ。周りにある音源しかチョイスできなかった僕らとは大きく違う部分を持ってると思います。物理的な距離も精神的な距離もないんです。今って、やろうと思えば海外のプロデューサーと共作もできるし、ジャンルの縛りからも自由になって制作できる。その自由を感覚として持っている世代のアーティストを見ているとすごく刺激をもらえます。

Carpainter:ダンスミュージックに関しては、EDM以降でまた話が変わってくるようにも思いますね。EDMを通してダンスミュージックを知った層って、基準が4つ打ちじゃなくなってるんです。ネットによって音源の検索からDJ鑑賞まで一本化されているので、音のイメージも完結してるんです。で、そこではベースミュージックが主たるダンスミュージックなので、4つ打ちがそもそもサウンドとして想像できない場合があるんですよ。…だから、僕は今25歳なんですが、僕から見ても"聴き方が違うな”って層が出てきますね。


──EDMもずいぶん多様化しましたよね。もはや何をEDMと呼んでいいのかすら分からない状況が今というか。

KO3:それは今回のリプロデュースにも反映されている気がしますね。EDM的な匂いを残しつつ、全員ドカドカ系じゃないっていう。その手のサウンドが、僕としてももう行き渡った気がしてるので、今はみんなそれぞれ違う価値観で曲を作ってるような印象があります。

INOUE:自分のフィールドに戻って行ったよね。今は、あの巨大な流れの中で得たものを持って、自分のやりたいことをやるってフェーズかなと思います。

KO3:"流行ってる音”って言われても、特定のスタイルを思い付かないですよね。

INOUE:そう、だから今「変なこと」をやりやすい状況なんだと思います。それで言うと、僕は今"ちょっと面白いポップス”を作るのが好きで。特定のジャンルというよりは、むしろ僕はそのネクストレベルをぼんやり目指して行きたい。


──そこを目指す上では、まさに今回のような王道のポップスをリプロデュースすることもひとつ突破口になりそうですね。

Carpainter:それと、ポップスのリプロデュースはプロデューサーが名を上げる手段にもなり得ると思うんです。USヒップホップを見てると、ラッパーが有名になるのは前提としてあるにしても、プロデューサーの名前も同時に売れてゆくって現象が起きてて。日本にはプロデューサーがスターになるって例がほとんどないんですよね。音楽オタクがプロデューサーの名前に反応することはあっても、なかなかマスには届かない。でもリプロデュースって形になると、リミキサーの名前が目立つところに出るじゃないですか。その部分には期待してます。

INOUE:その名前を辿ってゆくと他の曲も聴けるしね。確かにそうなれば、みんなハッピーになれそうだ。大手レーベルでもこういう例が出てきたので、今後も色んな戦い方が出来るようになるんじゃないでしょうか。

取材・文◎川崎ゆうき
写真◎釘野 孝宏

パラレル・リリース情報

第一弾
「人生は戦場だ (Prod.by TAKU INOUE) 」
https://avex.lnk.to/anzaikaren_jinsei_TAKUINOUE

第二弾
「誰かの来世の夢でもいい (Prod.by Carpainter) 」
https://avex.lnk.to/anzaikaren_dareyume_carpainter

第三弾
「世界の全て敵に感じて孤独さえ愛していた (Prod.by KO3)」
https://avex.lnk.to/sekai_ProdbyKO3
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